美大受験生の疑問にお答えする「#美大受験2020」シリーズをお送りしてます。
#美大受験 では、ムサビ、または関東美大の一般受験入試(AOや推薦入試じゃない)を具体例で使ってますが、基本的にはどの美大受験にも参考になるはず。
これまでの話はこちら。
■東京五美大2020一般入試スケジュールからわかる2つのアドバイス
■交通に関する8つのアドバイス
■美大入試で必要な持ち物に関する4つのアドバイス【カルトンと食パン】
■美大実技試験に関するたった1つのアドバイス
■東京4美大2020年度一般入試志願者数(確定版)から言える1つのアドバイス
■美大の学科試験に関するたった1つのアドバイス
■大学職員っぽい人の勧誘と裏ルートとお守り
■「倍率」は全然参考にならないって話1
■「倍率」は全然参考にならないって話2
■「倍率」は全然参考にならないって話 3
■気になる今年の国公立芸術系大学の志願者数【東京藝大は?京都市芸は?】
■ムサビとタマビの合格発表について【受験番号がわからない】
■美大に合格した人へ その1
■美大に合格した人へ その2【現役でもついていけるか?】
■補欠は例年何番まで繰り上がるのか?
■美大に合格した人へ その3【学費は?】
■美大に合格した人へ その4【データで見る地方と東京】
■美大に合格した人へ その5【データではない地方と東京の比較】
■4つの美術予備校の合格実績を比較してみた
■残念ながら不合格だった人へ。その1【第2志望か浪人か】
*間違った情報を書いている可能性もあるので、募集要項等大学公式情報で必ずご確認ください。
「第2志望の学科(大学)にいくか、浪人して来年第1志望を目指すか?」な悩みに、「美大卒業生」としての手羽のかなり個人的な意見を書いています。
浪人して合格した人に聞くと、ほとんどの人が「浪人時代が絵の描き方を一番真剣に学び、研究した時間だった」 「一度は浪人した方がいいよ」と答えます。
やっぱり1年以上デッサンなりをみっちり勉強をしてきた人の絵は明らかに違う。
また、「浪人」って響きも少しかっこいいし、予備校の浪人生を見てるとアウトローぽくてイメージしてた美大生って感じだし、なんか大人みたいだし、憧れの存在。
美大希望者なら・・お金が許すのであれば一浪ぐらいは人生経験として悪くないとは手羽も思ってます。
でも、「美術予備校」というかなり特殊な世界ではなく、ちょっとでも早く世間(に近い環境)に出れるのなら・・つまり、大学に合格してるのなら、そっちを選ぶのも将来的にはいいことかもしれません。
今の美術予備校は入試用デッサンや平面デザインの勉強だけじゃなく、外とつながる活動もされてますが、キャリア教育・グローバル・大型施設やダイナミックな産学・大人数での地域連携活動等は大学じゃないとできません。
例えば、
■森林の環境問題をテーマに、学生がデザインした「美作材」の家具を東急ハンズ新宿店で販売!
タマビのPBL(Project Based Learning: 所属学科や学年の枠を超えて横断的研究や社会的課題に取り組むプロジェクト型授業)では、岡山県津山市のつやま産業支援センターとの産学官共同研究で制作した家具製品の展示販売を、東急ハンズ新宿店で3月11日(水)~17日(火)の期間限定でやってます。どの美大も産学連携・社会連携には力を入れていて、こういうのは美術予備校・浪人ではちと無理。
「君は一浪すれば東京藝大にいける!タマビなんか行かずに一浪しろ!」と言ってくれる、今あなたがネ申のように慕っている予備校講師がいたとします。多くの場合は真剣にあなたの将来を考えてくれてる人のはずです。
でも、一方で
「浪人生がいないと安定した収入源が減る」
「推薦入試枠増加や美大の倍率が下がってる影響で受講生自体が激減してる」
「次年度広報のために『藝大合格者』の数が欲しい」
という考えの画塾・講師も少なからずあるし、 浪人して次の年に希望大学へ行けなくても、その不安だった1年間と予備校費用をその人が清算してくれるわけではありません。
「君は一浪すれば藝大にいけるはず!」と言ってくれる人と「浪人せずに現役で入った方がいい」と言ってくれる人。どちらを信用するかは・・・最後はその人との信頼関係かな。
藝大志望者・多浪生は石膏や自分の手をうまくデッサンできることがゴールと勘違い、さらにそれを引きずってしまう傾向にあるんですよ。
そりゃうまく描けた方がいいに決まってるし、大手プロダクト企業さんから「『デザイン思考学びました』な口だけのやつや『オペレータ』ははいて捨てるほどいる。むしろ今欲しいのはちゃんと絵が描ける人」と言われたこともあります。
ただ、
■日立GLS×多摩美術大学】日立グローバルライフソリューションズとの産学共同研究で「信頼」をテーマに注目のサービスデザインを展開
同じ年齢の人が既にサービスデザインに関する授業を受け、日立グローバルライフソリューションズ株式会社の社員さんの前でプレゼンをやって揉まれてる現実もある。
どの選択が正しいのか、それは誰にもわかりません。
ご家庭の都合で浪人できないために他大学進学を選択するケースもあるかと思います。でも、あなたが気がついていない何かのきっかけを神様が作って待っているのかもしれない。
「私を落とした大学の先生め!私の実力を見るがいいわ!」ぐらいの気持ちの方が人生楽しいはずだし、たまたまあなたの絵にその時にいた先生が興味を持たなかった、ただそれだけのこと。 「あそこの先生は見る目がない」でとりあえずはいいと思います。
どうしてもその大学に行きたいのなら「編入」「大学院」という手もありますしね。
どんな結果でもポジティブに捉えた方がうまくいくし、そうしないと気持ちとしてモチベーションが入らず、どの選択でも不満足な結果になりやすい。
今は自分の運と縁を信じましょ。
どの選択が正しいかわからないけど、「最後は運と縁」というアドバイスは多分間違いじゃない。
最後に手羽の話を。
親に連れられて初めて画塾へ行った日。まだ通うかどうか決めてない時です。
恩師である阿部先生にこう言われたんです。
「東京に行きたいなら彫刻学科を受けろ」と。
ほんと衝撃でした。
「はい?ち、彫刻?!人の話聞いてました?彫刻なんて全然興味も関心もないんですけど・・むしろ立体って苦手な部類なんですけど・・てか彫刻なんて普通に考えて就職先ないでしょ・・ただ東京にいってオシャレな人間になりたいと・」と思ってるところに先生はこう続けたのです。
「油絵やデザイン、イラストは極端な話、家でも描けるし他で勉強できる。でも彫刻は家では作れない。『大学を利用する』ということでは一番意味があるのが彫刻学科とも言える。そしてこれからは平面も立体的な解釈が必須になっていくから、立体・空間の勉強をしておくことは将来的に絵画の方向へ進んでも絶対に役に立つ」
ま、これはきれいごとの表向きの理由で(笑)、ここからが先生の本音。
「工芸を学びたいなら地方の選択肢もある。でも最新の美術やデザインを勉強したいなら、なんだかんだ東京でしか学べないことは多い。田舎にずっといちゃダメだ。どの大学でもどの学科でもいいから田舎を抜け出して東京の美大へ一刻も早く行くことが大事。そして多浪して藝大入るのもいいけど、若く早い時期に東京へ行くことに価値があるんだ。卒業して田舎に戻ればいいだけ。そこで何を学ぶかはあとは本人次第で、学科の括りや大学なんて関係ない。だから一番倍率の低い彫刻学科を受けて現役で入れ」
地方創生推進派から絶対に怒られるセリフだし(笑)、これについてはいろいろ意見があると思います。でも当時の高校生の手羽はこの考えにすごく共感したんですね。
田舎から出たかったのもあるけど、当時のグラフィック系は倍率30倍ぐらい、藝大は現役で受けようと思うこと自体おこがましい状態。でも彫刻学科は9倍とかなりリアルな倍率で、「あ。そういう考え方もあるんだな」と。
もう洗脳に近く、すぐに入塾を決め、「自分は東京に行くんだ」と信じ、油絵学科と(とりあえずの)彫刻学科を受けて、油絵は落ちたので迷うことなく彫刻に入った・・というわけ。「彫刻を学びたい!」という強い意志は全くなく、唯一あったのが「東京に早く出たい」と「ムサビへのあこがれ」だけ。
でもこの選択は間違ってないと今でも思ってるし、その先生に出会えたことを今でも感謝してるし、その先生に出会えた運と縁に感謝してます。
というわけで、#美大受験2020シリーズはこれにて終了。
【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。