【 #美大受験 2020】美大実技試験に関するたった1つのアドバイス

2020年2月5日(火)

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美大受験生の疑問にお答えする「#美大受験2020」シリーズをお送りしてます。

#美大受験 では、ムサビ、または関東美大の一般受験入試(AOや推薦入試じゃない)を具体例で使うことになりますが、基本的にはどの美大受験にも参考になるはず。
これまでの話はこちら。
東京五美大2020一般入試スケジュールからわかる2つのアドバイス
交通に関する8つのアドバイス
美大入試で必要な持ち物に関する4つのアドバイス【カルトンと食パン】
*間違った情報を書いている可能性もあるので、募集要項等大学公式情報で必ずご確認ください。


今日のムサビは油絵学科と視デの実技試験日で実技試験では一番受験者数が多い日だから、美大入試の最大の特徴である「実技試験」について書きます。

「イーゼルの場所は先着順ではなくくじ引きで決まるから、ドアの前で早く待つ必要はない」とか細かいアドバイスもいろいろありますが、たったひとつだけと言われたら、迷わずこれです。

問題文をちゃんと読もう。

はい、終了。おつかれさまです。


・・え?「それって学科試験のアドバイスじゃないの?!」ですって?
とんでもない。これほど実技試験で超実用的で、即効力があり、簡単に得点を稼げる方法は他にないっすよ。

これには2つの意味があります。

一つ目はそのまま、「よく読んで条件をちゃんと踏まえないとダメ」という意味。
例年、視覚伝達デザイン学科や基礎デザイン学科、デザイン情報学科等の試験は問題文に「条件」「設定」が多く書かれてます。これをよく読まないと出題意図とは全然違うものになってしまうことがあるんです。

去年のデ情・造形表現テストの問題文を引用します。

=====
与えられたモチーフからどのような音が聞こえてくるか、 自由に想像し描きなさい。
======


プロダクトの形や質感などの描写力と「音」という見えないものを表現する力が求められるいい試験。パッと思いつくのはヘッドホンから音符が流れてる図だけど、参作見ると1人も音符を描いてる人がいない。手羽は不合格だな(笑)

で、ここで条件を見てください。
[条件]
1. モチーフは必ず描くこと。
2. 答案用紙の印刷されたマス目に、タイトルを書くこと (20字以内)。
3. 着彩の程度は自由とする。
4. 答案用紙は縦長使用とする。
5. ヘッドホンの本体以外はモチーフではない

気になるのは5の「ヘッドホンの本体以外はモチーフではない」
「本体以外」ということはケーブルがモチーフに含まれるのか、それともケーブルも「本体」に入るのか、ここがすごく悩むんです。どっちなんだろ。
でも「モチーフの全体を入れるように」とは書かれてないってことは、どこかのパーツだけでもOKということだから、手羽だったら悩んだ末ケーブルが見えないような構図にしちゃうかな。

ちなみにムサビ実技試験でよくあるのが条件に「裏面に画面の上を示す矢印を描きなさい」と書いてあるケース。

備考ではなく「出題条件」にある以上、天地矢印を書いてなかったら減点対象になる可能性があります。あ、課題違反の場合、よほど悪質なものじゃない限りは0点になるわけではなく減点・・と思われます(こればかりは採点者に聞かないとわかりません)

机上静物モチーフだと天地矢印はいらないんじゃないかと個人的には思ったりもしますが、「条件」に書かれてあれば出題の一つと捉えるべきで、「問題文の『条件』をよく読む」とはそういうこと。

 

ふたつめは・・の前に、この単語を解説しないといけませんね。

「モチーフ」という言葉がありますが、美大受験用語としての「モチーフ」は主に2つの意味があって、1つ目は「絵や彫刻で再現される対象」
イコールではありませんが、他の日本語だと「対象」「静物」が一番近いかな?
だいたいの場合は、布・ガラス・鉄・植物・プラスチックなど異なる質感・色・形態のものをモチーフにし、布は布らしく、ガラス瓶はガラス瓶らしく「質感・量感を描き分けできるか?」「画面にバランスよく納めているか」「形がちゃんと取れているか」「調子・陰影を把握してるか」等を見る試験。

例えば去年だと、ムサビ彫刻学科「デッサンB」がそれかも。


問題文には
===========
モチーフをデッサンしなさい。
===========

とだけ書かれてます。

恐らく空間の距離感と構築性、 調子、石膏像等の量感・質感の描写レベルが問われてるはずで、見せ場は馬頭のボリューム感と馬頭がウレタンマットを押し歪む部分と思われ。
描くのめんどくさくて、手羽はこのモチーフ嫌い(笑)

「目の前にあるものをじっくり観察してそのままを描く」(ほんとは違うけど)オーソドックスな問題で、多くの方になじみのある、すぐに想像できる美大入試らしい「モチーフ」はこれの意味じゃないかと。

そして2つ目は、「題材や動機」という意味。
違う単語だと「テーマ」「きっかけ」「イメージ」あたり。
あくまでもそこに存在するのは「きっかけ」であり、そこからどう発想を展開させたかを見るものです。

去年だと油絵学科油絵専攻の油絵がそれだと思います。
問題文にはこう書かれてます。


=====
机上のモチーフを自由に描きなさい。
=====

この「自由に」が超クセモノで。
目の前にモチーフが組まれてるのでつい 「見たまま」を描いてしまいそうですが、「自由に」から「そのままを描くのではなく、現象や印象を自分なりに整理し解釈し発展させ、それを自分なりに構成して自由に表現しなさい」と言われてるんですね。

参作をみてもらうと意味がわかるはずで、よくもまあ、同じモチーフであれだけのアイデアが思いつくもんですよ。
この「自由に」を読み飛ばしてしまうと、たったそれだけなのに出題意図から離れてしまい点数が下がる、と。
というわけで、「問題文をちゃんと読もう」の2つめの意味は「問題文に隠されたヒントを探し、そこから自分なりに発想を広げよう。」

言い換えると、一つ目は「趣旨から離れないため」であり、二つ目は「どこまで離れられるかを探るため」
逆にどうにでも取れる問題文はどう解釈してもいいはず。
「配布したモチーフを加工するな」と書いてなければ、折ろうが曲げようが自由で、むしろ出題者の想定を超える作品を作ってほしい、という意図があるはずだから、そういう時はふりきっておもいっきりやっちゃってください。
・・責任は取りませんが(ぼそっ)


実技試験もいろいろトレンドがあって、自画像は作者が男性か女性かすぐにわかってしまうので最近はあまりやらなくなったし、油絵デッサンとかだと画面の中に「こびと」を描く人が増えたし、ストレートな石膏像描写も随分減りました。

これは去年の中国美術学院の入試風景で、(google翻訳によると)全体の倍率は45倍、「環境アート」はなんと120倍だそう。
20年前ぐらいの日本の美大も人気学科は倍率40倍以上ありました。当時は大量の受験生を手っ取り早く絞るために「いかに石膏像をうまく描けるか」「短い時間で手をそっくりに描けるか」等がポイントにありましたが、今はそれとは違った能力も見る方向になってきてます。

典型例が工芸工業デザイン学科の「構想力テスト」ですね。
なんせ去年の出題は、
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「上と下」をテーマに物をデザインし、提案してください。
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で、採点基準が「考察力・新規性・論理性・デザイン性・表現力」と一昔前の工デでは考えられないUIに関係してる出題。「今の時代、プロダクトデザイナーはかっこいいデザインを考えるだけじゃなく、UIセンスがないとダメ」と言われてる気がします。


そう、今の実技入試はこう考えた方がいいです。

「最初の課題」
「教員からのメッセージ」


「この出題をあなたはどう解釈し、表現しますか? → 私たちはそれを理解できる(超える)人材が欲しいんです → そういう人のためのカリキュラムを用意してますよ」なメッセージが込められ、そのまま3つのポリシー(アドミッション・カリキュラム・ディプロマ)になってて、どういうことを大事にしてる学科なのか一番手っ取りばやくわかるのが実技試験なんです。
大学関係者にわかりやすく書くならば、学校会計的にオープンキャンパスなどの経費は管理経費だけど、入試のモチーフ購入費は教育研究経費で処理されます(笑)

美大・・特に東京の美大実技試験では、読解力、発想力、観察力、描写力、表現力、瞬発力、持続力、価値創造力、ストレス耐性、課題発見・解決力、体力がそこで問われます。
某所では「これからの人材は思考力・判断力・表現力が必要で、入試は暗記型から多面的・総合的評価に変化するべきだっ!!」と騒がれてますが、とっくに美大では実技試験でそれをやってるし、それ以上のことをやってるんですよね。何を今更で「文科省の人は有名理工系大学じゃなくて、ムサビやタマビの入試を参考にすればいいのに」と本気で思ってます。


以上、入試業務助っ人は昨日で無事に終わった手羽がお送りいたしました。あとは試験監督だけ。
経理課長から「手羽さんがパーカー着て、生き生きしてる姿を久しぶりに見ました」と言われたけど、今の部署でそんなにつまらなそうな顔して仕事してたかな・・き、気を付けよう・・。

あ、新人スタッフに「食パンは第1食堂で売ってるからね」と伝えたら「なんで食パンなんですか?」と聞かれて「えーと・・後で教える」と答えて、まだ教えてなかった。
誰か教えてあげてください・・あとは版画と彫刻で必要なんで・・・。

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。