【 #美大受験 2020】美大に合格した人へ その5【データではない地方と東京の比較】

2020年3月8日(日)

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美大受験生の疑問にお答えする「#美大受験2020」シリーズをお送りしてます。

#美大受験 では、ムサビ、または関東美大の一般受験入試(AOや推薦入試じゃない)を具体例で使ってますが、基本的にはどの美大受験にも参考になるはず。
これまでの話はこちら。
東京五美大2020一般入試スケジュールからわかる2つのアドバイス
交通に関する8つのアドバイス
美大入試で必要な持ち物に関する4つのアドバイス【カルトンと食パン】
美大実技試験に関するたった1つのアドバイス
東京4美大2020年度一般入試志願者数(確定版)から言える1つのアドバイス
美大の学科試験に関するたった1つのアドバイス
大学職員っぽい人の勧誘と裏ルートとお守り
「倍率」は全然参考にならないって話1
「倍率」は全然参考にならないって話2
「倍率」は全然参考にならないって話 3
気になる今年の国公立芸術系大学の志願者数【東京藝大は?京都市芸は?】

ムサビとタマビの合格発表について【受験番号がわからない】
美大に合格した人へ その1
美大に合格した人へ その2【現役でもついていけるか?】
補欠は例年何番まで繰り上がるのか?
美大に合格した人へ その3【学費は?】
美大に合格した人へ その4【データで見る地方と東京】

合格された方に多い
1.現役で受かったけど、ついていけるだろうか?
2.両方合格したけど、どっちに行こうか?
3.学科試験のみで合格したけど、実技についていけるか?
4.国公立と私立、どっちがいいのか?
5.東京と地方、どっちがいいのか?
6.そもそも美大って選択肢で良かったのか?

この6つの悩みに答えてます。

昨日の
■東京と地方、どっちがいいのか?
の続きですが、くどいけどこれに関してはかなり偏った考えを持ってるので、話半分ぐらいで読んでください。特に昨日はまだデータを使ったけど、今回は完全に手羽の経験値・印象値で書いてるので根拠はなく、さらに半分ぐらいで読んでもらえれば。 

「クリエイティブ・クラス」をご存知でしょうか。
10年前ぐらいに日本でも広がった社会経済学上の階級や都市論で、最初にこの話から入ります。

アメリカの都市経済学者リチャード・フロリダは、脱工業化した都市における経済成長の推進力を担うのは、「クリエイティブ・クラス(創造階級)」と呼ばれる人材だ、と指摘しました。
そのクリエイティブ・クラスはさらに2つに分類でき、
●スーパークリエイティブコア(SCC):価値を直接作り出す人
 科学者、詩人、芸術家、作家、音楽家、デザイナー、建築家、編集者、 シンクタンク研究員等
●クリエイティブプロフェッショナル:SCCと密接 な関係にあり、彼らを支える人たち
 ビジネス・IT・金融・医療・法律等の古典的な知識労働の専門家郡

世界経済はこれらの新しい価値観を共有する人材がリードする、クリエイティブ経済の段階に入ったと言ってます。

で、どんな要素を持つ都市がクリエイティブ・クラス層が魅力的に感じるのかというと、「3つのT」、すなわちTechnology(技術度)、 Talent(才能度)、Tolerance(寛容度)の高い都市で、これらの要素が高ければクリエイティブ・クラス人材を誘致でき、新たな産業を生み経済が発展する「成長可能性が高い都市」だ、と。
そして、この「3つのT」は
●Technology(技術):特許取得実績などで構成される「イノベーション指数」等
●Talent(才能):人口1000人当たりの大卒以上の学歴者比率等
●Tolerance(寛容):作家・ デザイナー・ミュージシャン・俳優・アーティスト等の比率を測る「ボ ヘミアン指数」、ゲイ人口比率である「ゲイ指数」、外国生まれ人口比率の「メルティング・ポット指数」等
な指数で計算することができます。
*参考:Works2011「クリエイティブ クラスとの新結合」より

ちなみに日本では野村総研が国内100都市を対象に産業創発力の現状及び将来のポテンシャルを評価した「成長可能性ランキング」を2017年に発表してて、それがこちら。


通常は、この「クリエイティブクラス」の考え方や上記ランキングから「もう東京の時代ではない。地方の時代だ!!」とつなげるわけですが、むしろ手羽は「自分が田舎から出たかった理由はこれだったんだな。括れる言葉って大事」と気が付いたのです。

まずデザイナーや芸術家などの「スーパークリエイティブコア」は東京が圧倒的に多い。
そして手羽のポイントは、田舎は都市発展可能性の要素になっている「よそ者を排除せず、多様な文化や価値観を受け入れる寛容性」が低いこと。

はい。ここから今日の本題に入ります(えっ)
 

「手羽は福岡県出身です」と説明すると、「福岡いいですよねー。魚もラーメンもうまいし、空港も近いし、起業家も外国人も増えてるし」と必ず言われます。
確かに上記ランキングでもポテンシャル・都市の魅力は1位、総合で2位。福岡は発展が注目されてる地方都市の一つと言っても過言ではありません。

でもそれは博多や天神、中洲がある「福岡市」のことなんすよ。「福岡県全体」ではない。

手羽の地元は福岡県の筑豊地区にある直方(のうがた)市という、昔は炭鉱で栄えたけどそれ以外はなんもない、北九州寄りのヤ●ザの多い田舎。
ちなみに「南九州」に対して「北九州」と九州を半分にした言葉がありますが、福岡人が使う「北九州」は「北九州市」の地域を表します。門司、小倉、若松、八幡などがある、いまいち盛り上がりにに欠け、産業も寂れ続け、「ヤンチャな人」が多い街(言葉濁してます)で、「発展してるオシャレな福岡市」と区別するために使うことがほとんどです。

どんだけ田舎かというと、直方市から福岡市まではディーゼルカーで1時間以上かかるんです。
おっと、東京の「電車で1時間」とは違うんですよ。本数が少ないし、家から駅に行くまではやはり本数が少ないバスで30分ぐらいかかるから、天神とかに行くには3時間近くかかる感覚です。それくらいの田舎。
去年撮影した直方市の駅前商店街、一番の繁華街の衝撃な写真をお見せしましょう。

これ、夏休み平日の夕方なんです。一番人がいなくちゃいけない時間帯なのに、完璧なシャッター商店街になってました。
当然家のトイレはボットン便所だし、親が上京して言った「東京は水道水がおいしい!」からわかるように、田舎は公共インフラにかけるお金がないから、いつのまにか水道水は東京の方がおいしくなってるんですね。といって、近くの国道に巨大イオンができたし、山奥の限界集落みたいな住みにくいところでもなく、すんごく中途半端な田舎。

ソーシャルな方は、田舎の駅前か山中の民家でコトを起こして「地域創生」と言ってたりしません?
この二つって田舎でも人がまだ来やすいか、もともとスペックが高いからイベント発生させたら来場者を0人から3人ぐらいに増やせる場所であって、手羽の実家がある、日本で一番多いであろう、その中間地点の地域、スペックがそんなに高くない普通のなんもない田舎町については、そもそもソーシャルな人が興味を持たないもんで。


で、田舎って「人がいない」と嘆いてるのに、よそ者や多様性を受け入れない傾向にあります。
「お金になるお客さん」ならあたりはいいのですが、「お金にならない」「お客さんでもなく地元の人間でもない」地域おこし協力隊だと、行政の運営・仕組みの問題の他によそ者に冷たい「地方の闇」もちょこちょこ聞きます。
また、東京の人はその言葉自体知らない人が多いと思いますが、田舎にはまだ「同和地区」の名残りがなんだかんだあるし、田舎の若い人の寛容性の低さは、身内にはすごく甘く、そうじゃない人間には厳しい昔のヤンキー文化がすっかり見えない形になって地域に浸透してるかも。


自分が地元が嫌だった理由は、「オシャレじゃないから」「アートやデザインがないから」「コトが起きないから」ではなく、そもそも「クリエイティブクラスを受け入れる土壌がない」→「寛容度が低いから」だったんだ、と長年モヤモヤしてたものがやっと言語化できました。
「田舎の人は東京の人より親切」と言われますが、田舎出身の人間からすると全然そう思わないし、むしろ東京の人の方が多様性という意味での親切心が高いです。

お金も人も仕事もない村社会で、アートやデザインを学ぶ意義がどれくらいあるのか自分にはわからくて。あ、東京の人が「地方でその文化を勉強したいから」ってのはわかるんだけども。
なので地方に残るか、東京に行くか、金銭的な比較でなければ「無理してでも若いうちに東京で勉強した方がいいよ」てのが手羽の答えです。
手羽が東京へ行くことに決めた最大のきっかけがあるんだけど、それはまた別の話に。


■そもそも美大って選択肢は正しいのか?
なんのために長々とクリエイティブクラスの話を書いたと思ってるんですか(笑)
美大を「絵の描き方を学ぶところ」ぐらいの知識であれば迷うのは当然ですが、「スーパークリエイティブコア(SCC):価値を直接作り出す人」はまさしく芸術系大学出身者。都市論的にもキーパーソンになってきてるんです。
その新しい価値にまずは自分、そして次に親や周りが気が付いてるかどうかだけで、むしろこれからは美大での学びの時代なんですよ。


以上、リンクロウが大分の大学に行くことを親に告げたら、「お金をかけてイチロウを東京人にしたのに、なんで子供をわざわざ九州に戻すんだ」と怒られた手羽がお送りいたしました。
東京の方が長くなったけど、
ご飯を盛り付けることなんて言う?→地域によってこんなにも違う!! | いいね!ニュース

「ご飯をつぐ」が少数派だと知ったのは1週間前だったりします・・・これ方言だったんだ・・。

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。