日本の美大生なんて死んだほうがいいー映画監督・木村太一インタビュー

東京のリアルな少年少女をとりまくブラックサイドを描写した映画「LOSTYOUTH」を公開したばかりの気鋭の映画監督、木村太一さん。映画監督に憧れ12歳で単身渡英、泣きながら自転車を漕いでイギリスでMVを作りまくった学生時代から1000万円かけて制作した映画を制作した今まで。取材時は日本プレミア試写直前。いまの気持ちを聞いてみた。

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▲公開された作品「LOST YOUTH」
 

 
僕、日本の美大ってあんま好きじゃないんですよ。
小学生の時に映画「ジュラシックパーク」を見て「恐竜生きてるみたいじゃん。」って衝撃を受けた。こんなことができるなら絶対映画を作ろうと思い、海外にいくことを決めたんだ。親に「映画監督になりたいからイギリス行きたい」って言ったら酢豚投げられたけどね。12歳の時かな。

僕が入ったのはイギリスにあるCentral Saint Martins College of Art and Design(セントマー
チンズ)っていう美大。この美大では最初にファンデーションコース(基礎コース)に入って、専攻外の芸術表現をいろいろ試せるんだけど。具体的にはそこで1年間絵を描いたり、造作したり、全然映画と関係ないこともした。この時表現の幅を広げられたのは良かった。

そのなかで一番僕が日本と違うと思ったのはそこにいるやつらのハングリー精神だったと思う。「俺がやりたいことやって何が悪い」「金がなくても、絶対やってやる」って考え方を持っていて、だからアートや音楽が育つんだというのを感じたんだ。

日本はやっぱり民族主義で、なんでも皆と同じが良い、と考えるところがあるでしょ。そんなとこで制作してもしょうがないじゃん。小さなコミュニティの中で制作してるなら一回死んだほうがいい。まあそれは言い過ぎかもしんないけど。



クラブの帰り道、泣きながら自転車をこいだことも

大学を出て、国境関係なく直感的な表現で勝負できるMV(ミュージックビデオ)に魅力を感じて、とにかくがむしゃらに作品を撮ろうとカメラ片手に毎晩クラブに通った。お金がないから自転車でクラブをまわって、タダでもいいって言ってMVを作りまくった。生活ももちろんきつかった。

ある日クラブの帰り道に重い機材背負って自転車こいでたら、だんだん涙がでてきて。雨も降ってて、なんか坂ばっかりで。こんなでかい男が泣いてるから心配したお巡りさんが声かけてきたりして。
「クソ今はこんなだけど、いつかやってやるからな。」
そんなこと思いながらとにかく自転車をこぎ続けたのを覚えてる。今でこそMV一本の予算は数百万円だけど、あの時はタダとか5万円とかだった。
 


▲MV作品「GRADES」のミュージックビデオ「KING」は小学生の天才ダンサー高巣来華氏、アニメーターのらっパル氏を迎えた話題作。
 

 

1000万はたいて作った、素の自分に一番近い作品
 

 
スキルも上がってきた実感があって、そろそろ自分のやりたいことをやってみようと思った。それですごく素の自分の考え方に近い映画に挑戦したのが今回の「LOST YOUTH」。僕にとってはコツコツ貯めた結婚資金をはたいて作った、人生をかけたギャンブルでもあるね。
 

日本のネオンサインなんかを描写した映像でリピートされている「いわゆる日本」って感じのステレオタイプな表現じゃなくてリアルな東京を描こうと、実際の事件や日本をとりまく状況をひたすら調べて作った。

作中に風俗店や弱者が受ける性的な仕打ちが出てきたりするんだけど、日本ではそれが当たり前になってしまっている。みんなが普通だと思っているものが狂っている、そんなストレスからくる闇を描いた作品。
 


  • ▲BOILERROOMで上映されようとする「LOSTYOUTH」。映画のストリーミングは本作が初めての試み。

 
でもこの映画も、日本で制作して日本で出したらきっとこんな風に話題にもなってないと思う。少なくとも自分には、ドラッグや若者の闇を描いたこの作品に日本の企業が乗っかってくれる実感はなかった。海外でまず「超クール、いいじゃん」って言ってくれた人がいて、その後日本に逆輸入して初めて評価してもらえてると思っている。
 


  • (photo by Jun yokoyama)

 
むかし、母親とテートモダン(イギリスのロンドンにある現代美術館)に行った時のこと。
ただ真っ青にキャンパスを塗りつぶしただけのドローイングを見て「こんなん、どこがええねん」って言ったら、母親が「この国のいいところは、この絵をいいっていうひとがちゃんといるところなのよ」って言ったのを今も覚えてる。

いいものを作る人はゴマンといる。だけど日本にはそれをいいって言ってくれる人が少なすぎる気がする。

いつだって、自分がいいなと思ったものにいいって言える人が一番偉くて、その「いいじゃん」て言葉でアートが育っていくんだと思う。
 


  • ▲「LOSTYOUTH」のプレミア試写が行われた渋谷のクラブCIRCUSのラウンジの様子。試写は大盛況だった。

 
僕はこうして大口叩いたみたりするけど、実はこれから始まる上映に吐きそうなほど緊張してて。
まずは自分で大口叩いて、「じゃぁお前やれんのかよ」って上げられたハードルを超えていく。そうやってこれからも映画を作っていくんだと思う。

 

 
木村太一|映像ディレクター:1987年東京生まれ。映画監督を目指し、12歳で単身渡英し映像制作を学ぶ。卒業後、音楽業界でライブ映像作家としてキャリアをスタートしThe Chemical Brothers、Knife Partyや Sub FocusなどのトップDJのツアードキュメンタリーやライブ映像を手掛ける。CHASE& STATUSの「International」やSECONDCITYの「What Can I Do」など多くの人気海外アーティストのMVを監督する。

 

(写真・聞き手 /出川 光)

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OTONA WRITER

出川 光 / Degawa Koh

現PARTNER編集長。2010年武蔵美卒。専攻は写真。新卒でリクルートに入社、営業・ディレクターを経て、クラウドファンディングCAMPFIREを立ち上げるため転職。5年間CAMPFIREでチーフキュレーターを務め2015年に独立。カメラマン、クラウドファンディングコンサルタントにを経て現職。