【ビダモン2018ラスト】残念ながら不合格だった人へ。

2018年3月14日(水)

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1月頭からお届けしてきた美大受験の疑問に答える「ビダモン」も2018年度版は今日が最後。
これまでの話はこちらをご覧ください。
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【ビダモン2018】美大に合格した人へ その2
【ビダモン2018】美大に合格した人へ その3
【ビダモン2018】美大に合格した人へ その4

昨日藝大美術学部の合格発表があり、入試の最終結果が見えてきてる時期だと思います。
ビダモン2018ラストは、残念ながら不合格だった方への話を。


「自分の実力不足だった」と理解されてる方には「もっと勉強して来年頑張ろう!」と応援するしかないです。でも、藝大なりムサビなりタマビなりを目指して一生懸命頑張った自信が自分にあるのなら、確実に将来を動かせる可能性があります。
「受験を死ぬ気で頑張れた」という気持ちが今後の自分に必ず何らかの形で役立つはず。

そして、この時期だと「第2志望の学科(大学)にいくか、浪人して来年第1志望を目指すか?」と悩んでる方も多いはず。
以下は「美大卒業生」としての手羽のかなり個人的な意見を書かせてもらいます。

それは2つ。
「選択肢が東京の私立美大であれば、浪人はせずに第2志望の学科(大学)に行くべき」
「最後は自分の運と縁を信じるしかない」
です。 

「自分が求めてるものは第1志望のあの学科しかありえない!」という方は頑張って来年チャレンジしましょう。そして「あの大学に行かないと絶対に後悔しそうだから」という強い意志があるのなら、そうするべきです。

でも、第1志望の選択理由が
「周りの人があっちの方がいいって言ってたから」
「友達があっちの学科を選んでるから」
「予備校の先生があの学科に行けと言ってた」
ぐらいであれば・・・実は浪人して来年受験するほどの価値はないのかもしれません。
第1志望に選んだ理由はなんでもよく、「通いやすいから」「フィーリング」で十分。でも「自分がそこに決めたんだ」という自分の気持ちとして説明できないのなら、あなたにとってそんなに違いはないかもしれません。

「●●美大だったら●●が学べるって噂だから」
「●●って著名人を輩出してるって相談会で聞いたから」
「広報の人が『うちの大学は自由です』と言ってた」
「就職率が高いってWEBに書いてあったから」
という理由だと、「それならムサビでもできるよ」「▲▲さんと■■さんって知ってる?知らないの?その人はムサビだよ。その人だけじゃないよ」「高校生じゃないんだから自由は責任の上で当然で、それより何ができるかじゃね?」「あのね、就職率ってね・・・」と手羽は数秒で言い返せるし、他美大広報の方もきっとそうです。そのレベルであればそんなに大きな違いはありませんから。
あ、「フィギュアだけ作りたい」「アニメしかやりたくない」と言われると「ごめん。藝大ムサタマでは無理。それしか学べない●●大学か専門学校に行った方がいいよ」と答えるしかないけどね。

条件に「選択肢が東京の私立美大であれば」とつけてるのは、東京の私立美大はどこもちゃんとしたポリシーと教育カリキュラムでやってるからです。「選択肢が地元の公立大」となると、やはり学費的に国公立大に通う利点があるので、こうは簡単に言えない・・。


浪人して合格した人に聞くと、ほとんどの人が「浪人時代が絵の描き方を一番真剣に学び、研究した時間だった」 「一度は浪人した方がいいよ」と答えます。
やっぱり1年以上みっちりデッサンを描いた人の絵は違うし、「浪人」って響きも少しかっこいいし、予備校の浪人生を見てるとアウトローぽくてイメージしてた美大生って感じだし、なんか大人みたいだし、憧れの存在。美大希望者なら、お金が許すのであれば一浪ぐらいは人生経験としても悪くないとは思ってます。
でも、「美術予備校」というかなり特殊な世界ではなく、ちょっとでも早く世間(に近い環境)に出れるのなら・・つまり、大学に合格してるのなら、そっちを選ぶのも将来的にはいいことかもしれません。今の美術予備校は入試用デッサンや平面デザインの勉強だけじゃなく、もっと深い部分も学べるようになっていますが、キャリア教育、大型施設やダイナミックな産学・地域連携活動等は大学じゃないとできないわけで。

「君は一浪すれば藝大にいける!ムサビなんか行かずに一浪しろ!」と言ってくれる、あなたがネ申のように慕っている予備校講師がいたとします。多くの場合は真剣にあなたの将来を考えてくれてる人のはず。
でも、一方で
「浪人生がいないと安定した収入源が減る」
「次年度広報のために『藝大合格者』の数が欲しい」
という考えの講師が少なからずいる事実もあるわけで、 浪人して次の年に希望大学へ行けなくても、その不安だった1年間と予備校費用をその人が清算してくれるわけではありません。
「君は一浪すれば藝大にいけるはず!」と言ってくれる人と「浪人せずに現役で入った方がいい」と言ってくれる人。どちらを信用するかは、最後はその人との信頼関係なんですよね。


ただ、第2志望進学を選択した場合は、
「あ~あ、本当は藝大タマムサに行ける実力を持ってる自分なのに、こんな大学なんて」
と口に出してたら、それで終わり。
ムサビにも 「本当は藝大に行ける実力を持ってたはずなのに。ムサビなんて」と人前で言ってる人が時々います。心で思ってこっそり仮面浪人すればいいのに、これは自分の弱さを露呈してるだけに過ぎず、そんな人がいい作品を作れるはずがなく、実際にあんまり良くないことが多いです。
「私を落とした大学の先生め!私の実力を見るがいいわ!」ぐらいの気持ちの方が人生楽しいんじゃないでしょうか。たまたまムサビやタマビの先生があなたの絵に興味を持たなかっただけで、それだけのこと。 「ムサタマの先生は見る目がない」で「とりあえずは」いいと思います。
また、どうしてもその大学に行きたいのなら「編入」という手もありますしね。

ちなみに東京の美術予備校の学費はこれくらい。(手羽調べなので間違ってたらご指摘お願いします)

美大学費の半分ぐらいの金額で、「半年分で1年勉強できる!」と考えるか「だったら・・」と考えるかは本人次第。 


ここで手羽の話を。
なんにもない田舎で一生暮らすのがほんとに嫌で嫌で、とにかく東京の美大に行きたかった。
んで、画塾に行った初日に先生から言われたのが「東京の美大に行きたいなら彫刻学科に行け!」という衝撃的な言葉でした。
「ち、彫刻?!全然興味も関心もないんですけど・・むしろ苦手な部類なんですけど・・てか彫刻なんて普通に考えて就職先ないんじゃ・・・」と思ってるところにこう続いたのです。

「油絵やデザインは家でも描ける。でも彫刻は家では作れない。『大学を利用する』ということでは一番意味があるのが彫刻学科。そしてこれからは平面も立体的な解釈がマストになっていくから、立体・空間の勉強をしておくことは将来的に絵画の方向に進んでも役に立つ」
「工芸を学びたいなら地方の選択肢もある。でも美術やデザインを勉強したいなら、それは東京しかない。どの大学でも学科でもいいから田舎を抜け出して東京の美大へ一刻も早く行くことが大事。浪人して藝大入るのもいいけど、若い時期に東京の大学にいることに価値があるんだ。なんだかんだ東京でしか学べないことは多い。卒業して田舎に戻ればいいだけ。そこで何を学ぶかはあとは本人次第で、学科の括りや大学なんて関係ない。とにかく田舎にずっといちゃダメだ。だから一番倍率の低い彫刻学科を受けて現役で入れ」
と。

地方創生推進派から怒られそうなセリフですが(笑)、当時の手羽はこの考えにすごく共感したんです。とにかく田舎から出たかったのもあるけど、当時の油絵学科やグラフィック系は入試倍率25倍ぐらい、藝大は現役で受けようと思うこと自体おこがましい倍率。でも彫刻学科は9倍とかなりリアルな倍率で、「あ。そういう手もあるんだな」と。
んで、第1志望の油絵学科と彫刻学科を受けて、油絵は落ちたので彫刻に入った・・というわけ。
「彫刻を学びたい!」という強い意志は全くなく、「東京へ出るための口実」だったんです。てへ。
でもこの選択は間違ってないと今でも思ってるし、その先生に出会えたことを今でも感謝してるし、その先生に出会えた運と縁に感謝してます。

そう、最後は運と縁なんです。

スタンフォード大学のジョン・D.・クランボルツ教授が提唱したキャリア論「計画的偶発性(プランドハップンスタンス)理論」というのをご存じですか?
インターンシップ演習で毎回やってる話で、 簡単に説明すると「キャリアの8割は予期しない偶然の出来事や出会いに対し、最善を尽くして形成される」というもの。つまり、「偶然をポジティブに捉えると成功しやすい」であり、言ってることは「運と縁が大事」(笑)
「運と縁」を感じてる人は美大生や卒業生はすごく多いんじゃないかな。「最初のオリエンで偶然横に座った」「体育が一緒だった」「産学連携でたまたま知り合った地域の方」とか。
手羽が美大職員になったのも、美大愛好家になったのも運と縁やいろいろなタイミングが重なったからだし、「5年後の進路を今から考えろ」と言ってる就職課スタッフも入職5年前に大学職員になろうと思ってた人は皆無だろうし。


そっちに落ちて、あっちに合格したのも何かの縁かもしれません。
ご家庭の都合で浪人できないために他大学進学を選択する場合もあるかと思います。でも、あなたが気がついていない何かのきっかけを神様が作って待っているのかもしれない。
なので「どれを選択すべきか」は、最後は自分の責任のもとで決めて欲しいと思ってます。
高校3年生にそれを求めるのは酷かもしれませんが、「お母さんやお父さんがそういったから」「先生が」で決めてしまっては 後で後悔するだろうし、気持ちとしてモチベーションが入らず、どの選択でも不満足な結果になるはず。
アドバイスはもらったとしても、最後に決めるのは自分であって欲しいのです。

手羽の知り合いで、高校の時に「藝大やムサビタマビの油絵に行きたい」と高校の進路の先生に相談したら、「美大の油絵なんて卒業して就職先がないだろ。どうしても美大系に行きたいなら日本大学芸術学部のプロダクトデザインにしろ。日芸も日本大学という総合大学の一つなんだから、そっちの方がいいに決まってる。デザインだし」と言われ、「そんなもんか・・・」とそのまま日芸プロダクトだけ受験し入学した人がいます。
でも結局自分がやりたいことと全然違ってて、ムサビ油絵に1年から入り直しました。

あ、ニチゲイさんがいけないってわけじゃなく(笑)、言いたいのは「進学校の進路の先生・・・普通の大人の知識なんてそんなもん」ということと「他の人の意見は参考にしてもいいけど、最後は自分が決めないと入学してから後悔するよ」ということ。今だと「東京の美大なんかに入れるより、地元の大学にいれた方が高校の評価ポイントが高い」てバカな話がありますし。

自分の意識次第で正解に近づけることができるだけで、どんな結果でもポジティブに捉えた方がうまくいくはずです。今は自分の運と縁を信じましょ。


以上、その他の「どこに住めばいいか」「入学式は何を着ればいいか」「友達はできるだろうか」「パソコンはどうしたらいいか」「何を買えばいいか」「田舎モンとバカにされないだろうか」な悩みは、美大入学者の質問に答える新シリーズ「ビダニュー」で説明しますな手羽がお送りいたしました。(えっ)

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。