【美大4年生必見】手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 会期中編2【完結編】

2023年1月8日(日)

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卒展出品経験と教務課時代の卒展担当経験、あちこちの美大卒展を見る趣味から、教育研究効果・美術的評価ではない視点の
「卒展ではこういう部分を気を付けるといいよ」
「卒業制作で陥りやすい点」

等テクニカルなアドバイスをまとめました。多分一番欲しているのは精神論ではなくこういう話なのかな、と。
ムサビ生向きな内容になってますが、他美大の方、また卒展以外でこれから展示を考えてる人、来年卒展の方にも参考になると思います。

これまでの話はこちら。
手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 準備編1「卒業制作展は卒業記念制作展ではない」
手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 準備編2「DMやチラシはよーく校正しよう」
手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 準備編3「先生や友達の意見を聞くかどうか」
手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 場所決め編1「共有スペースや屋外って難しい」
手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 場所決め編2「展示室以外の展示」
手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 制作編1「大きさ・長さ・広さ・高さ・風・時間の重さ」
手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 制作編2「小屋モノとボリュームもの」
手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 制作編3「道具と作業の法則」
手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 制作編4「作るということ」
手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 会場設営・準備編「ぐねぐねコードとコロナ対応」
手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 会期中編1「お客さんとの関係」

いよいよ最終回!!
 

 
いろんな人がくる
おかげさまでムサビ卒展はたくさんの来場がありますが、来場者が多いってことは「多様な人がやってくる」ってことでもあります。

「若者に説教を始める話の長いおじさま」なんてのはこの業界にいる以上あきらめるしかないのだけど、作品や機材、貴重品の管理はいつも以上にしっかりやった方がいいです。
盗難対策はもちろんですが、卒展では普段展覧会に行かない人もいっぱい来るので、「持っていっちゃいけないものかどうか」「触っちゃいけないものなのか」の判断ができません。「見本の紙冊子」「サンプルパッケージ」とかだと悪意なく持っていかれてしまうことがあります。

うちの子は小さい頃から展示に連れ回してるんで比較的展覧会慣れしてる子なんだけど、それでも小学校低学年の頃は、お皿とか小物だと平気で展示されてるものを手に取っちゃうんですよ。小さい子のデフォルトは「カバーがないのもは触っていい」なんですよね。
「作品に触っちゃダメだからね」と会場に入る前にいくら言っても、触りたくなったものは素直に触ってしまう。つい手に取りたくなるってのは作者からしても嬉しいことだし、その子供の純粋な気持ちは美術教育的には大事ではあるけども。
ちなみにタブレットサイズの画面があったら、今どきの小さい子は必ずスワイプかピンチします。むしろ「なんで触っても画面が動かないんだ?」という感じで。

そして個人情報管理も大事。
「興味のある方は連絡ください」と作品の横に電話番号やメアドを書いた名刺を置くのは悪いことではないけど、こういう時は捨てアド・捨てアカにしときましょ。特に女性は。ほんとに「いろんな人」がいらっしゃるので。

また最近は卒展に限らず、女性限定で住所を聞いてまわる人が出没します。「ギャラリーストーカー」ってやつです。
若い女性作家の弱み狙うギャラリーストーカー「作品購入して交際迫る」「大量のDM送り付け」|弁護士ドットコムニュース
受け流せそうだったら「小平市小川町1-736 武蔵野美子」とでも書いときましょ。
それでもしつこい時は教職員や研究室スタッフにすぐ報告を。
 

 
作品買取や展示依頼が舞い込んでも浮かれるな

卒展中に「作品を売ってほしい」「うちのギャラリーで展示を」と声をかけられるのも関東の美大なら普通によくある話で。作品売ってほしい話は前より増えたかも。
でも「画廊から声がかかった!」と喜んだら単なる貸しギャラリーの営業だった・・なんてこともあるのでちゃんと話は聞きましょう。
あ、ちなみに「なんでムサビ卒展は月曜日も開催するのか?日曜日まででよくね?」と言われたりもしますが、画廊や美術館は月曜休廊・休館が多いんで、ギャラリストやキュレーターさんが来やすいように月曜もやっています。
 
依頼系だと「うちの店の空間が空いてるから作品展示して(絵を描いて)」話もよくあります。
多くは「学生さんの発表する場を提供してあげたい」と善意の気持ちでおっしゃてくれてるんですが、「美術業界・美大生の常識」と「一般の方の常識」は違うし、美術制作依頼をしたことがない人がほとんど。

なので事前に下記の条件を確認した方がいいです。
1)壁に設置する方法がない(釘が打てなかったりピクチャーレールがない等)
2)スポットライトもなく薄暗い空間や従業員しか通らないスペースだったり、厨房のすぐ横で油がべったり
3)描いたばかりの油絵・できたばかりの彫刻は結構臭いことを知らない
4)恒久的に設置する彫刻はちゃんと固定しないと危ないことを知らない(むしろそっちにお金がかかる)
5)半屋外で雨風にあたる
6)作品の管理なんてやってくれない
7)夜中しか作業できない(お店だとこれは多い)
8)謝礼はもちろんのこと、交通費どころか運搬費や材料費もでない。むしろ備品準備を頼まれる
9)その場で「ついでにあそこも」と言われる
10)展示期間が決まってない
11)「美大生が展示してる」という表現を使いたいだけ
12)上司や展示場所と調整してなくて設営直前(or設営後)に揉める

等々。
特に(12)は大人の世界じゃまま起きるケースで、特に特に役所系は多いかも。
また有名な店舗から「この椅子素敵だからお店で使わせてほしい」と話があって喜んだら、PL法をクリアしたものしか使えなかった、なんてこともあります。「ちゃんとした店舗では学生さんが作った椅子は椅子として使えない」と思った方がいいです。個人カフェとかは別ですが。
繰り返しになりますが、多くは先方に悪意があるわけじゃないのが非常にやっかいなところで。
  
この手の話は「言った言わない」「聞いた聞いてない」に必ずなるんで、後でお互い嫌な気持ちにならないためにも、相手から口頭ではなく文字で条件をもらっときましょ。特にお金のことは言いにくくても必ず最初に確認するべきで、むしろその方が話が早いし、先方もそれを待ってるはず。

あ、ちなみに「卒展で作品を売ります」と宣伝してる美大が最近はあるんで、「本来はそうあるべきだ!そういうことをやらないから美大はダメなんだ」という声が出たりもしますが、現地に行ったら「学生さんが作ったハンカチや小物、小冊子をブースで売ってるだけ」だったりするんで、リリースを鵜呑みにせず、ちゃんと現地で確認してから反応した方がいいですよ。
 

 
片付けまでが卒展

これはそのままです。
ムサビはすぐに入試による入構禁止期間に入るから、「終わったー!」と浮かれてないで事前に片付けスケジュールを把握して手順を決めておきましょ。
準備はバラバラだけど、片付けは全4年生が一斉に動くので、台車や脚立などの備品を使うタイミングが重なっちゃうのね。手際よく決めてないと思ってたようなスケジュールでは動けないはず。また、片付け日までに「残った備品や道具の貰い手を探しておく」のも大事な作業。
ずっと見てきた限りだと、いい作品は撤去も早いです。
 

最後は間違いなくこれ。
何はともあれ体調管理が大事

制作中もそうだし、講評の時もそうだし、展覧会中も片付け期間も結局はこれなんですよね。元気だったら最後はどうにでもなるわけで。
講評が終わった直後に気が抜けて体調を崩す学生さんも多いです。
家に作品を持って帰るまでが卒(くどいので略)



というわけで、卒展アドバイス36か条シリーズはこれにて終了。お付き合いありがとうございました。
次からはムサビ卒展シリーズに突入します(笑)


以上、・・・・・ヒー、フー、ミー・・・・あ、36か条といいながら38あるなあ・・ま、いいか、の手羽がお送りいたしました。

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。