卒展出品経験と教務課時代の卒展担当経験、あちこちの美大卒展を見る趣味から、教育研究効果・美術的評価ではない視点の
「卒展ではこういう部分を気を付けるといいよ」
「卒業制作で陥りやすい点」
等テクニカルなアドバイスをまとめました。多分一番欲しているのは精神論ではなくこういう話なのかな、と。
ムサビ生向きな内容になってますが、他美大の方、また卒展以外でこれから展示を考えてる人、来年卒展の方にも参考になると思います。
これまでの話はこちら。
■手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 準備編1「卒業制作展は卒業記念制作展ではない」
■手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 準備編2「DMやチラシはよーく校正しよう」
■手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 準備編3「先生や友達の意見を聞くかどうか」
■手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 場所決め編1「共有スペースや屋外って難しい」
■手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 場所決め編2「展示室以外の展示」
■手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 制作編1「大きさ・長さ・広さ・高さ・風・時間の重さ」
■手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 制作編2「小屋モノとボリュームもの」
■手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 制作編3「道具と作業の法則」
■手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 制作編4「作るということ」
いよいよ展示準備編に突入。
27.作者に見えなくても、お客さんに見えるものがある
美術の世界には「作品以外は評価してはいけない」という心優しい習慣があります。
例えばツッカエ棒が横っちょから見えてても、「ここまでが作品です」「この方向から見てください」と作者から言われたら、その部分しか「見えてない」ことにするし、見てないフリをしてあげるもんなんです。
・・・とはいっても、ツッカエ棒はツッカエ棒。
構造の一部として処理されてればいいけど、「これ、もう少し隠すとかどうにかできなかったの?・・」と口にしないまでも思ってしまう。作品の前に工具や端材が置きっぱなしだったり、延長コードが作品の横にダラーンとぶら下がってたり、作品の前を延長コードがニュルニュルしてたら、「これは作品じゃありません」と言われても気にならない方がおかしい。
電気を使う作品が増えたせいか、延長コードの処理が適当なものが最近目立ちます。
あ、電工ドラムのコードは全部引っ張り出して使わないと溶けちゃうので(経験あり)、グネグネしてるのは「使い方」としては正解ではあるんだけど、「見せ方」としてはまずいので、適切な長さのコードを準備するのが大事なんです。
あとは私物かな。
展示場所が教室だから逃げ場がないことはわかってるし、机や椅子が教室隅にスタッキングされてても気にはならないんだけど、作品の近くに世界堂の袋が転がってると「ああ。世界堂で材料買ったのね・・・さっきまで作業してたのね・・」と急に現実に戻される感じになります。展示台の中に配布物とか荷物を隠せる構造を作っておくといいですよ。
「作品以外は評価するな」かもしれないけど、その前に「作品に対する愛情はないのか」なのです。
大学は「一般的に展示した場合の最低限必要な壁面は用意しましょ」なスタンスなので、それ以上のものを求める場合は自分でなんとかするしかありません。デ情は学生たちでお金を出し合って展示パネルにつける布をまとめて発注して統一感を出してたりします。
空間づくりにちゃんと目がいってる学科はそういうところまで気を使ってるってことですね。
28.コロナ対応を制す者は卒展を制す
この3年で必要になったのが「コロナ対応」。
「事前予約制」「体温を計ってくる」「マスクをする」などは大学側やお客さんがするものだけど、作者には「お客さんが触るもの」への対応がプラスで求められるようになりました。
上記写真のように「アンケートに答えてもらった使用済み鉛筆を分ける」もあるし、お客さんに手に取ってもらう作品は消毒液や使い捨て手袋を作品のそばに準備しないといけません。
これは桑沢デザイン研究所の卒展で見かけたものですが、「コロナ対応をいかにスタイリッシュにやれてるか」も今は見られるようになっています。
手羽が「これはうまいなー」と関心したのは、
2020年度タマビ版画の卒展で見かけたこちら。作品台にうまく設置してあったんです。
ごちゃごちゃした柄のビニール手袋の箱なんて作品台の上に置きたくないじゃないですか。やっぱり作品台には作品以外は置きたくない。
ガムテで張ってるだけだろうけど、ちょっとしたことから作者の気遣い、作品に対する配慮がすごく伝わってきました。
また、換気で窓やドアを定期的に開けることになるので、風で作品が飛ばされない仕組みも今は必要なんですね。
配布物がバラバラと飛んでいかないように重しを置くとか、ケースに入れるとか。これが意外と準備の段階では気が付かない点。
「今後はコロナ関係なく、こうなっていくんじゃね?」と思ったのが、
東京藝大卒展で見たデジタル芳名帳というやり方。
もともとは「鉛筆や紙を触らないための方法」として始まったと思うんですが、管理されてない卒展の芳名帳に住所や電話など個人情報書くのは結構勇気がいること。「他に誰が見に来たのかな?」と芳名帳を何枚か遡ってみる人は多いんじゃないかな。手羽も時々します(笑)
QRコードを使ったデジタル芳名帳なら作者しかわからないから、個人情報保護の観点からもこれいいな、と。そんな難しい仕組みでもないし、今後はこうなっていくのかもしれません。
29.このタイミングでケガしやすい
前も書きましたが、ムサビは何度か卒展準備・片付け期間に火事をやらかしてます。
火の扱いにはほんと気を付けてほしいのだけど、それよりもケガですね。
自分も同級生も準備期間は焦ってるし、片付け期間は気が抜けてるので、いつもなら「ちょっと危険だからやめるか」とストップがかかるのに「えい、勢いでやっちゃえ」と動いてしまい、ケガをしてしまうケースがあります。
普段の作業ではちゃんと手袋、ゴーグルをするのに、ついつけずにやってしまって・・とか。
ケガしてしまうと自分もそうだけど周りにも影響しちゃうので、この期間は「自分も他人もいつもとは違う精神状態だ」と認識し、「ちょっと待て。普段はそうしてる?」と一度考え直すことが大事。
以上、年内の卒展アドバイスシリーズは明日で一回終わりますが、年明けすぐから再開しますよ、の手羽がお送りいたしました。
あ、ブログの更新は予定では30日までやるつもりです・・。
【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。