【美大4年生必見】手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 準備編1「卒業制作展は卒業記念制作展ではない」

2022年12月14日(水)

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まず、「卒業制作、卒業制作展って何?」の話を。
美大では当然ながら「卒業論文」「卒業研究」をやる人もいますが、「卒業制作」(以下『卒制』)をおさめて卒業するケースが多く、それらを展示するのを「卒業制作展」(以下『卒展』)といいます。
ここでは「卒業論文」「卒業研究」「修了制作」等をひっくるめて「卒制」「卒展」と表現させてもらいます。


「卒展」と「芸術祭(学園祭)」の大きな違いは、基本的に卒展は1回しか経験しない(できない)ことです。
社会人や短大編入組、大学院生以外は誰も経験値がないんですね。みんな卒展初心者。
なおかつ引継ぎが無く前例が蓄積されないので、自主的に展示をやってきた人・いろんな展示を見てきた人とそうじゃない人の差が激しく出ちゃいます。
かくいう手羽も学生時代はグループ展を一度やったくらいで、ちゃんとした展示は卒展がほぼ初めてでした。だから「事前にそれを教えてくれてたら回避できたのに・・・」と今でも思い出すだけで「クーー!!(涙)」となることがあって・・。

というわけで、現在卒業制作を取り組んでる人、これから取り組む人のために、
「こういう部分を気を付けるといいよ」
「卒業制作で陥りやすい点」

なアドバイスまとめました。

教育研究効果・美術的評価は先生にまかせるとして、教務課時代に卒展担当を5年やり、毎年ムサビ含め他大学の卒展を見て回ってる手羽が精神論じゃないテクニカルな部分を書いていきます。
他大学含めジャンル関係なく、自腹(趣味)で卒展を見たボリュームは自負できます。


あ、ムサビ生向きな内容になってるけど、他美大の方、また卒展に関係なくこれから展示を考えてる人にも参考になると思います。手羽ブログを昔から読んでる人は「またこの話かよ・・」と思うかもしれませんが、少しづつバージョンを上げてますんで(笑)

 
ではいきます。名付けて、
「手羽の卒業制作36ヶ条」
まずは準備編。
 
 
1.卒業制作展は卒業記念制作展ではない。

結論はこれに尽きます。

ムサビの卒制展サイトや卒制DMには毎年こう書いてあります。
「制作研究の集大成ともいえる卒業制作・修了制作を・・・」
ここに最大のヒントが隠れているの、気がついてました?


「卒業制作」は「4年間、あなたは何をやってきましたか?その集大成を表現しなさい」という最後の授業なんです。 「基礎造形1」「絵画III」とか普段の授業と同じレベルに考えてちゃダメで、それに気がついてない人が意外と多いかもしれません。

また、卒業制作は「卒業記念制作ではありません」
小学校卒業の時にみんなでワイワイ作ったトーテムポールや中学校の時に造った巨大タイル壁画じゃないんです。 「記念になんか作りなよ」ではなく、「これまでの自分の集大成」を作るのが卒業制作なんですね。
「卒業制作なんで大きなものを初めて作ってみた」ではなく「4年間学んだことを進化(深化)させ、形的にも大きくさせる」が必要になってくる。
あ、「卒業制作で初めての素材やテーマに取り組む」なチャレンジ精神を否定してるわけでなく、それだったら試作やモックアップを何度も作って研究をたんまりやったものを発表しようね、ってことです。


そして極端な話、「あなたは22年間、何を感じ、考え、何に取り組みましたか?」と問われてるのが卒業制作でもあります。
「あなたの4年間は1日で考えて3日ぐらいで●●と●●を組み合わせただけのように見える作品と等価だったんですか? 」
「あなたの22年間は、試作品を作ってれば回避できたであろう、その自然とピローンと折れ曲がってしまった作品と同じなんですか?」
ということ。
この意識の違いは、作者に直接言わないだけで見てる側からするとはっきりわかっちゃうもので。

 
2.才能あるやつはある。自分と一緒にしない
芸術の世界の難しいところは、センスや才能のある人だとサクっといい作品が作れちゃう点です。そういう人がいるのも事実。
手羽が学生時代、ほとんど大学に来ない同級生が講評3日前に出てきてチャチャっと作った作品が、毎日夜10時まで作業してきた自分よりもセンスいい作品を作ってね。その時に「才能ってこういうことなんだなあ・・」と悟りました。
大学なので出席日数の方がポイント高いかもしれないけど、「あんたセンスないけど頑張ったからね」と憐れみを受けてる感覚が正直あったし、アウトプット勝負の世界で「あいつは学校に来てないんだから自分より点数が低いべきだ」なんて言えるわけがない。
そうなってくるとセンスのない自分は、作業量か切り口かでそういう人に勝負するしかなく、「才能がある人と無い自分を一緒にしちゃいけない」「同じところで勝負しても負ける」「才能は平等じゃない」ことを知るのも美大での体感的な学びと言えると思ってます。
 



3.やっぱりお金って大事

いやらしい話ですが、最後はこれになっちゃうんですよね・・・。

外の人から必ず驚かれるのが、「通常課題も卒制も材料費は学生持ち」ということ。
課題で材料が配られることもありますが、基本的に材料や素材、道具は学生さんが自費で購入します。

安価なペラペラなベニヤ板はやっぱり安価なペラペラなベニヤ板でしかなく、お金があれば迷わず分厚いコンパネを使える。性能が良くなってもカラープリンタはどうやってもカラープリンタ出力でしかなく、印刷所にお願いした方が確実にいいものができる。拾ってきたものはセンスのいい使い方しないとやっぱり拾ってきたものにしか見えない。
これはほんと「お金次第」になってしまうんです。

ちなみに手羽は小学校の頃から溜めてた「お年玉貯金」を卒制の材料費で全部使い切って(40万ぐらいだったかな?)、更に親に借金しました(卒業してすべて返済しました)
同級生は鉄加工を外注したから150万円かかってたっけ。それなりの大きさの彫刻というか立体はね・・・お金かかるんです・・・。

また、全展示者分のプロジェクターや大画面モニタが学内にはないので、基本的に映像機器類は自分で用意する覚悟をしといた方がいいです。
人が見られる状態にするまでが作者の役目で、例えるなら彫刻学科や油絵学科の学生さんが「イメージは頭の中にあります。実物はありません」と言いませんよね。そういうことです。「あなたの作品はUSBメモリやDVDメディアですか?」で。
でも映像機器って1週間とかリースすると結構するんですよ・・。

お金に関しては、こういう考え方もあります。

突然舞い込んだ展覧会と違って、卒業制作は入学した時、つまり4年前に必ず通る道だとわかってます。
ひと月1万ずつ卒展貯金をしてれば40万ぐらいは確保できるはずだし、それが厳しいのであれば夏休み、春休み2回がっつり長期バイトをすればそれなりの金額をためることができるはず。

ムサビだと4年生を対象とした校友会の「校友会奨学生」、いわゆる卒業制作援助制度ってものもあります(今年度の募集は終了してて受賞者を既に発表してます
ちなみに校友会の卒展援助受けた人は結果的に優秀賞を取ってることが多いです。
「早い段階で卒制資金をどうするか気が付き、アンテナを張り、自分で情報を調べる」「10月にプレゼンできる状態にある」「お金を獲得してでも作りたい強い意志を持ってる」人は、そういう人だってことかもしれません。

また、卒展資金確保のためにコンペに応募する手段だってあります。

例えば、工芸工業デザイン学科4年のツルタシュリさんはTOKYO MIDTOWN AWARD 2022 デザインコンペでグランプリを受賞しています。
ミッドタウンアワードは「ミラノサローネ国際家具見本市」「University of Hawaiʻiのアートプログラム」に参加できたり、ミッドタウンでの展示だったり、その後のサポートも手厚いんですが、なんとグランプリ賞金は100万円なんです。
 

つまり早めに「卒業制作」への意識が生まれていれば、「こんな感じのもの作りたいなー。それっていくらぐらいするんだろ?」と気が付いていれば、お金に関しては対策が取れるということ。
逆に4年の後期になって「卒業制作どうしよう」と考え出しても、取れる手段はかなり限られてきます・・・と現在卒制真っ最中の学生さんにこれを言っても「おせーよ!」と言われますね・・3年生以下の方へのメッセージってことで。
大学生の春休みは長いです。長期間実家に帰って田舎の友達と遊びまわるのもいいけど、卒制でベニヤ板じゃなく分厚いコンパネを使いたくないですか?

ちなみに安易に「クラウドファンディングでお金集めればいいじゃん」と言ってる人の言葉はあまり信用しないほうがいいですよ。手羽も時々支援してますが、見てる限り、描かれる夢や目標が共感できるものじゃないと、たんに「大きな作品作りたいんで」ぐらいじゃ不成立がほとんどです。
手段の一つとしてアリですが、言われてるほど簡単じゃないんですよね。



続く。



以上、ここから続くシリーズは偉そうな口調に聞こえるかもしれませんが、毎年ムサビの卒展を見ながら「今年もこの失敗をしてる学生さんがいるなあ・・」と思うことがしばしばあって、それをできるだけ減らしたいだけなんです、の手羽がお送りいたしました。

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。