シューズブランドの始め方と終わり方、 そして新たな始まりについて(後編)

「世の中を生き抜く術・勝ち残る術」をテーマに、建築界の異端児の異名をとる建築家松葉邦彦が 今話したい人物と対談、インタビューを行い、これからの世の中を生きて行く学生や若手に伝えたいメッセージを発信する。第26回はスニーカー、ブーツ、バッグを展開するシューズブランドRFW(アールエフダブリュー)デザイナーの鹿子木隆さんにお話を伺いました。

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  • © 広川智基

鹿子木 隆(かのこぎ たかし)
シューズブランドRFW代表兼デザイナー。1998年シューズブランドRHYTHMをスタート。2012年にRFWに改名。RFWはスニーカーを中心にサンダルやブーツを製作する。シンプルでベーシックでありながら、独自のカッティングが光るデザインワークが特徴。クッション性、ホールド性に優れ、履き心地の良さにも定評のあるシューズをユニセックスで展開している。WWW.RFWTOKYO.COM

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似合う・似合わないは失敗を重ねないとわからない

松葉:そういうものなのですね。ちなみにRFWはデザイン面と履き心地などの機能面、どちらも大事にされているのかなと思っていますがいかがでしょうか?

鹿子木:おっしゃる通りです。デザインはもちろん重要なのですが変わったことをやったために機能が下がってしまうのは避けるべきだと思っています。

松葉:デザインの方向性とかに変化はありましたが?

鹿子木:歳をとって経験を重ねると、どうしてもデザインがミニマルなものになっていく。どうしても攻めづらい。デビューしてから数年の頃って「何これ!?」みたいな面白いものを作っていましたからね。

松葉:そのお話しはよくわかります。僕も同級生と最近同じような話をしていました。「最初に設計したの(旧廣盛酒造)をどうしても越えられない」って。初期の頃に設計したものは、正直建築としては使いにくいけど、結構尖っていた笑。ただ経験を重ねていくと、自分がどうしたいよりクライアントがどうやったら喜ぶかを考えるようになるのですよね。もちろん正しい判断なのですが、出来上がったものをみてみると「昔の方が凄かったな」って笑。機能面や完成度は別としてですが。

広川:昔はとんがり君って呼ばれていたもんね笑。

松葉:そう、最近全然尖ってないよね。もう一児の父だし笑。だからHPだけは尖らせてみた笑。


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鹿子木:自分も若い頃同じようなこと考えていました。奇を衒うわけではないですが、どうやったら他と違うものを作れるかとか。

松葉:ものを本気でつくっていく人は、まずは他との差別化を真剣に考えるべきだと思います。同業のコミュニティとかでは皆と同じことやってお互いを評価しあってれば良いかもしれないですが、ビジネス的には他者(社)との差別化が無いと勝負の土俵に上がれないですからね。そういった意味では長年ブランドを続けられてきた鹿子木さんはその勝負に勝ち続けてきたのだと思いますが、ブランド立ち上げられて何年になりますか?

鹿子木:24年ですね。

松葉:それは凄いですね。けど20年以上も続けてこられると色々変化ってありますか?

鹿子木:世の中的にも、昔は「かっこいい靴って人に合わせないで足を合わせにいく」という感じでしたが、時代が進むに連れて足にフィットする靴が増えてきていますよね。かつては靴擦れをしながら耐えてやっと自分の靴になるという体験が実在していたのです。ただそれは刷り込みや思い込みで「これキツいだろっ!」という靴を履かされていたのかもしれないですけどね。


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松葉:中国の纏足みたいな話ですね笑。履きやすくてかっこいい靴が一番いいですよね。それこそRFWに出会うまではデザインが好きで買っても最初の1ヶ月とかは足が痛いみたいなことが多々ありました。New Balance以外は靴づれ覚悟して買うみたいな笑。

鹿子木:靴だけでなく洋服とかもですが、失敗を重ねないとわからないということは多かったですよね。似合う・似合わないとか体に合う・合わないとか。中高生ぐらいの頃は、似合わないけれど、それがわからなくて無理して好きな服着てみたけど、実際に着て初めてこれ違うなと気づくことが多々ありました。それを繰り返して今の自分があるのかと。高くても一回しか着なかった服とかあるじゃないですか笑。

松葉:中学生の頃、何故かリュックサックのショルダーストラップみたいなものが前面に付いたカットソーを買ったことがあります。同級生に背負われました笑。

鹿子木:今の時代って物に対する口コミが最初に出てきますよね。例えば「この靴は幅が狭いです」とかの情報があるので、あまり冒険しないですよね。僕らの時代はインターネットもなかったから、お店に行って、店員さんに「似合っています!」とか言われちゃうと買ってしまいましたから。

松葉:在庫が多くて売らないといけないサイズだったりするのでしょうね笑。

鹿子木:今考えるとそうかもしれないですね。店員さんの強い時代でした。今だと主張する店員さんも減ってきているし、お店で買ったことのない人も増えてきていますから。買い物の仕方が変化してきているように思います。

松葉:僕もハイブランド以外でしたらまずはZOZOを見ますからね。

鹿子木:返品交換も無料だったりするし、失敗もしにくいですよね。それに買いたいものの値段を比較するサイトもあるので。


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「終わり方」と新たな「始まり」

松葉:これからはどのようなことに取り組まれていきたいとお考えでしょうか?

鹿子木:2023年で25周年なのですが、ひとまずブランドを25年続けるというのが一つ目標でした。10年とか15年くらいであればどうにか頑張ればいけるかなと思うけど、ファッションの世界で25~30年続けられているブランドは少なくて。特に僕みたいな小さなブランドでそれをやるとなると大変かなと。あとは「どうやったら終われるか」ということを考えています。僕は次50歳なのですが、いつまでブランドを続けられるかなと。ブランドって2代3代って続くことはありますが、自分一人でずっと続けていくのは難しいなと。

松葉:今20年前の鹿子木さんのような人が目の前に現れて「RFWやりたいです!!」っていわれたらどうしますか?

鹿子木:もしそういう方がいたら引き継いでもらいたいなと思います。

松葉:Louis VuittonとかCHANELのようなハイブランドですと、創業デザイナーからクリエイティブディレクターやデザイナーが変わっていきますよね。もちろんビジネス的な規模があるからできるのでしょうが、凄いなと思っています。建築家の場合どうしてもクリエイティブを担保しつつ規模も維持するというのが難しいのかなと見ていて思います。その辺りは未だ職人気質なのでしょうね。僕は学生時代から安藤忠雄さんが好きだったので、2代目・安藤忠雄を襲名したいと昔から言っています笑。まあ、僕が適任かどうかは置いておいても、安藤さんのようなビッグネームが初代で途絶えてしまうのはもったいない。いい悪いは別として歌舞伎役者や落語家はずっとビッグネームを継ぎながらやっている。


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鹿子木:経営とデザイン両方をやっている立場なので思うのですが、デザイン的にやりたいことがあっても、経営的には出来ないと思うことが常々あります。それを解消する選択肢の一つとして、大きな資本の後ろ盾を得るということもありなのかなと。

松葉:確かにいろんな残り方がありますもんね。KENZOのデザイナーにNIGOさんが就任したというニュースを見て個人的には良いなと思いました。

鹿子木:あと僕らのように独立資本で生き残っているブランドは、今の時代セルフプロデュースが非常に大切だと感じでいます。誰でもできるのですが、一方でとても面倒ですよね。SNSの運用とか。僕もどうしていいのかわからなくて、色々試しながらチャレンジしています。いずれにしても、どういう形であれRFWの靴を買って履いてもらえたら嬉しいし、ブランドが続けていければ嬉しいですね。あとはこれまでの経験を生かして何かやれたらなと。

松葉:どんなことでしょうか?

鹿子木:車を改造して、全国回りながら靴を作って売るみたいなことしたいです。

松葉:キャンピングカー的なイメージですか?

鹿子木:そうですね。ワンボックスとかバンを改造して。飲食だと移動販売車があるじゃないですか。あんな感じで各地を巡って商売したいです。というのも「旅をしたい」というのが根底にあります。色々な場所に行って体験したいですし、色々な人に会って話をしてみたいです。そのなかで自分の靴を触ってもらって試してもらうみたいなことが出来たらよいなと。


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松葉:特に昨今のコロナ禍ですと、1箇所に止まる必要はないという考え方と親和性が高いですね。先日トレーラーハウスとか移動空間の研究の第一人者だという同級生と、これからの時代は移動しながら固定した場所ではないところで働く生活が一定根付くのではないかという話で盛り上がりました。昔は変なこと研究しているなと思っていましたが、今は時代の最先端の研究になっているという笑。

鹿子木:おっしゃる通りだと思います。もちろん靴の場合在庫を置いておく場所は必要ですが、それ以外は移動しながらでいいかなって。クリエイティブな仕事や物を売る仕事って、決まった場所で考える必要はないし、移動しながら考えるとか多いですからね。車を運転するのもすごく好きだし、一番リラックスできる。知らない道を走ったりとかするとアイデアも浮かびやすいし。特に今はコロナ禍で事務所に篭りがちなので、そこから抜け出したいという願望が強くなってきているんだと思います。

松葉:移動系の話は以前よりも可能性があるのかなと思います。移動販売も飲食だけじゃなくていろんなものを売っているし、決済など販売を支えるサービスも充実していますからね。

鹿子木:海外とかの事例を見ると、古いバスを買ってその中を好きに改造して自由空間にしてみたいなことをやっている人はたくさんいて。週末だけそこで遊んだり寝たり。数年前から趣味的に車中泊とかはしていたのですが、それが仕事につながるようになったらいいなと思い始めています。それにはまずはブランドをきちんと確立させる必要がありますよね。もしそれが出来れば今みたいに渋谷とかに店を構える必要もないですから。青梅とかちょっと山の方に行って、古民家を借りてお店としてやってもいいと思っています。もし本当にブランドを好きになってくれた人ならそこまできてくれると思うんですよね。今、都会・都心に出ることのステータスがかつてに比べて弱くなってきているように感じています。そうすると高い家賃を払っていくのももったいないという認識になりつつあるのかなと思います。


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撮影:広川智基
テキスト:藤沼拓巳

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OTONA WRITER

松葉邦彦 / KUNIHIKO MATSUBA

株式会社 TYRANT 代表取締役 / 一級建築士 ( 登録番号 第 327569 号 ) 1979年東京都生まれ。東京藝術大学大学院修了後、事務所勤務を経ることなく独立。人生で初めて設計した建物が公共の文化施設(旧廣盛酒造再生計画/群馬県中之条町)という異例な経歴を持つ。また、同プロジェクトで芦原義信賞優秀賞やJCD DESIGN AWARD新人賞などを受賞。