卒展出品経験と教務課時代の卒展担当経験、あちこちの美大卒展を見る趣味から、教育研究効果・美術的評価ではない視点の
「卒展ではこういう部分を気を付けるといいよ」
「卒業制作で陥りやすい点」
等テクニカルなアドバイスをまとめました。多分一番欲しているのは精神論ではなくこういう話なのかな、と。
ムサビ生向きな内容になってますが、他美大の方、また卒展以外でこれから展示を考えてる人、来年卒展の方にも参考になると思います。
これまでの話はこちら。
■手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 準備編1「卒業制作展は卒業記念制作展ではない」
■手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 準備編2「DMやチラシはよーく校正しよう」
■手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 準備編3「先生や友達の意見を聞くかどうか」
■手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 場所決め編1「共有スペースや屋外って難しい」
■手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 場所決め編2「展示室以外の展示」
■手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 制作編1「大きさ・長さ・広さ・高さ・風・時間の重さ」
制作編シリーズ。これが一番長いです。
18.小屋モノは内側と外側をしっかり作れ。いや、そもそもその小屋はいるのか?
手羽は「小屋モノ」と呼んでるんですが、「囲った壁や小屋(ようなもの)の中で作品を展示したり、その中で映像を見せたり、または穴から外界を見る」タイプの作品です。
これも室外展示が多かったり、自分の空間も作っちゃうムサビ卒展独特の作品かもしれません。
このタイプで一番陥りやすいのは、中のことばかり考えて外装、つまり「箱」の処理を手を抜いちゃうパターン。自分が見る側の立場だと、見た目の悪い作品の中に入ろうと思いませんよね? 中に入って見てもらいたい作品なら、中身を作る以上に「箱」制作に力とお金をかけるべきなんです。
んで。
「教室の中に自分が占有できる空間が必要=壁で作品を囲む」という展示も最近は多いけど、その小屋が浮いてたら見栄えがいいものではありません。「そもそも小屋状態にする必要があるのか?」なんです。
その壁に必然性があったり、外側から見て壁も作品の一つになってるならいいんだけど、「ダンボールパネルを立てただけですー。1人の空間が欲しかったんで囲みましたー」みたいな作者が、いい作品を作る気遣いがあるとは思えません。
なので手羽はそういう小屋の中には入らないようにしてます。これまでの経験上、いい作品だったことがなかったんで。
なんとなく、同じ立体を作るにしても彫刻や建築の学生さんは空間の外側からモノを考える意識、空デは内側から空間を考える意識が強いかな。言い方変えると、空デは舞台美術的な発想なので「内側がよければ外側はどうでもいい」的になりがちなんで気を付けた方がいいっす。
19.「ボリュームもの」は想定の2倍作れ
数や大きさなどボリュームで見せる作品があって、手羽は「ボリュームもの」と呼んでます。
手羽はボリュームものが大好きなんだけど、今までの経験からして、初めてボリュームものを作る人は「想定してる数・大きさの最低2倍は作らないとダメ。余ったら使わなければいい」ぐらいの気持ちで取り組んだ方がいいです。
50分の1の模型空間で「ま、これくらいあればいいっしょ」と思ったものを実空間に持ってくると、「ま、いいっしょ」の塊が50倍になるんで、密度がスッカスカになっちゃう。
ボリュームモノは「でも、この倍は数が欲しかったね・・」「コンセプト的に10倍は必要だったんじゃないの?」と言われたらおしまいなんですよね。
手羽の例だとこちら。
これは3年生の時に作った「うじゃうじゃてば」という作品。手羽のライフマスクがついてます。
これ、当初は40個ぐらいしか作らない予定だったんです。
でも展示1か月前ぐらいに20個ぐらいを試しに置いてみたら全然「うじゃうじゃ感」がなく、目標を100個に切り替えました。
買ってきたものを置くわけじゃなく、制作モノだと1個作る時間には限界があります。
ボリュームものは時間をうまく使うことが大事だし、計画的にやらないとさびしーー感じになるので気を付けてね。
ちなみに。
たまたま開いてた清掃さんの倉庫を覗いたら、
モップの先が保管されてたんだけど、数といい、整列の具合といい、適当に置かれた黄色と白、スコップの緑とタンクの赤とのバランスといい、モップのビラビラ具合といい、空間といい、すごくアートしてて。冨井大裕的なものを感じる。
最近は使ってない倉庫とかお店等での展示機会が増えてますが、そこに昔からさりげなく置かれてるコンテナや荷物、机とかの方が作品より面白かったりするんですよね。
コラージュもの・ボリュームもの・インスタものは「時間がたつうちに知らずに生まれたもの」や「場」に負けがちだから、かなり「センス・時間・経験」が問われます。その覚悟を。
20.制作場所と人は確保してる?
卒制では、気合入れて大きなものや上記ボリュームものを作りたくなるもの。
でも「それを作る場所があるのか」「人手があるか」「搬入出できる出入り口があるか」は事前に確認しましょ。
「これから展示だ!」と工房から作品を出そうとしたら、大きすぎてドアから出なかった後輩がいました。結局搬入日にグラインダーで作品を切ってドアから出したんだけど、ちゃんとドアの幅・高さ含めた搬出ルートを確認した上で制作しましょうね。
彫刻学科の場合は自分一人で動かせない作品を作ることが多いので、制作や搬入出では「ギブアンドテイク」が発生します。 「君のも手伝うから、僕のも手伝ってね」という暗黙の。工デのクラフト系も同じような感じかな?
私達の頃はどの順番で誰の作品を運ぶかタイムテーブルを作ってたくらいで、その間は自分の制作はストップしちゃうけど、ギブアンドテイクなので文句をいう人もいなかった・・というかそれが当然だと思ってました。彫刻学科の学生がおおざっぱなようでいて意外と時間に厳しいのは相手のため、というよりも自分のためでもあるんですね。
でも普段からそういう関係ができてないデザイン系の学生さんが、卒制で大きな作品を作りたい場合はどうしたらいいか。同級生はみんな同じようにせっぱつまってるので、場所の確保も大事だけど、「準備・撤収も含め人の確保をどうするか」という問題は早めにクリアしておきましょう。
少し話が変わりますが。
クリエイティブイノベーション学科(CI学科)の学生さんが3年必修授業「産学プロジェクト実践演習」で、1か月間北海道森町に滞在したら、北海道という場の魅力にひかれ、4年生で森町に移住し現地で卒業研究に取り組んでるんです。しかもなんと北海道で就職決めちゃった。
詳しくはこちらをご覧ください。
■学内プロジェクトがきっかけで、北海道へ就職。町の人との交流で気付いた、自らの未来と新しい土地への愛着 | 武蔵野美術大学 造形構想学部・大学院 造形構想研究科
今年10月に北海道知事へプレゼンをしたりしてます。
ほんと人生ってどうなるかわからない。
あ、大学に1年来ずに地方で卒業研究をやれるのはCI独自のカリキュラムの関係が大きく、それでもいろいろと学内調整をやった上で実現したので、他学科・他大学だとちょっと難しいかも。
でも、しっかり早い段階から教員と調整していけば他学科・他大学でもできる可能性はあり、大きい作品やボリュームものをやる時は学外に場所を借りて制作してる人もいるし、「卒業研究・制作の場」は学内だけではないってこと。
3年生以下へのアドバイスとして、研究テーマが決まれば「場や人手」「お金」をどうするかも自動的に考えることになり、それらを調整していく時間も生まれるから、ぼんやりとでもいいから4年生になる前に考え出した方がいいですよ。
準備編1でも書きましたが、4年後期に「さ。卒業制作に取り組むか」となってもやれる手は限られるので。
続くっ!!!
このままいくと卒展前までに終わりそうにないんで、年末もこのシリーズ更新します・・・。
【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。