【美大4年生必見】手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 制作編1「大きさ・長さ・広さ・高さ・風・時間の重さ」

2022年12月21日(水)

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卒展出品経験と教務課時代の卒展担当経験、あちこちの美大卒展を見る趣味から、教育研究効果・美術的評価ではない視点の
「卒展ではこういう部分を気を付けるといいよ」
「卒業制作で陥りやすい点」

等テクニカルなアドバイスをまとめました。多分一番欲しているのは精神論ではなくこういう話なのかな、と。
ムサビ生向きな内容になってますが、他美大の方、また卒展以外でこれから展示を考えてる人、来年卒展の方にも参考になると思います。

これまでの話はこちら。
手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 準備編1「卒業制作展は卒業記念制作展ではない」
手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 準備編2「DMやチラシはよーく校正しよう」
手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 準備編3「先生や友達の意見を聞くかどうか」
手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 場所決め編1「共有スペースや屋外って難しい」
手羽の卒業制作アドバイス36ヶ条 場所決め編2「展覧会は現場で起きている」

 
今日からいよいよ制作編。
より具体的な話に入っていきます。
 
15.大きさ・長さ・広さ・高さ・時間の「重さ」がある

小さいと気にならないけど、大きくなると気が付くもの。
それは大きさ・長さ・広さ・高さの「重さ」です。

例えば、
「布はでかくなると重くなる(大きさ・広さの重さ・空気の重さ)」
「鉄は長くなると予想以上にしなる(長さの重さ・鉄の柔らかさ)」
「紙を立方体にして積み上げたら潰れる(高さの重さ)」

など。
「あれ?鉄って長くなると結構曲がるのね」と気がついたのが講評前日だった日にゃ、「まあ・・しなってるのもアリってことにしよう。曲線を出したかったってことにしよう」とか自分の中で言い訳して乗り切るしかない。

これらは大きなものを作る時の素材や設置方法の知識・経験がないから起きることで、見る人間が見れば 「ああ。ほんとはビシっと直線にしたかったのに、直前にそっちゃうことがわかったんだろうなあ・・・」とすぐにわかっちゃいます。大きなものを作れば「重さ」、つまり重力の影響がどんどん出てくることを覚悟しときましょ。これも机上の計画ではわからないこと。


手羽の例を出します。


  • 撮影:中野正貴

これは4年の時に小平野外彫刻展に出した作品で、タイトルは「ぴよぴよてばちゃん」
手羽はずっとFRP(強化プラスチック)を素材にしてました。

設営1週間前ぐらいにだいたい本体ができたんで、実験で厚み7mm・長さ12mの鉄パイプにのせてみたら、持ち上げた瞬間にクネっと鉄パイプが曲がってね。
厚さ7mmパイプって作品で使うには肉厚の部類に入るんですよ。

「本体はFRPで中は空洞だし、厚み7㎜もある鉄パイプなんだから大丈夫だろ」が完全な机上の空論。「空っぽといっても本体は3m以上ある」「12mの長さ」、つまり大きさと長さの重さに見事にはまった例です。
 

どうしたかというと、鉄パイプの直径は太くしたくなかったから、無垢の鉄棒を急きょ購入して解決させました。無垢の鉄棒12mって重いし、これがまた高いのよ。この突然の出費がかなり痛かった(涙)
でも、「もし実験せずに現地で気が付いたら」と思うと、勉強代と思うしかない。

「B1プレゼンボードを壁に両面テープで貼り付けたら、翌日朝全部床に落ちてた」ってことはデザイン系の人なら一度は経験してるはず。これも「重さ」の一種であり、「時間の重さ」でもあります。
安易な解決策として次に取る手は「両面テープをもっといっぱい使う」「超強力両面テープを使う」なんだけど、これって剥がすのが大変なんですよね。せっかく作ったプレゼンボードが撤収の時に剥がす勢いで折れ曲がったり、壁の塗装がベリっとはがれたり・・これまたよくあるシーン(笑)

何故わざわざ虫ピンや展示フックを使うのか。
それは作品の保護でもあるし、壁の保護でもあるし、撤収時の簡単さだったりするんです。あえてその手段を取ってる蓄積された理由があるってこと。

 
16.吊りものは要注意

「上から作品を吊るす」って、美大生なら一度はやってみたい展示方法なんだけど、多くの人にとって経験が少なく机上の空論が一番出ちゃう展示方法でもあります。

まず当然ながら「天井からどうやって吊るすのか?」という問題が発生します。
天井に穴は開けられない。でもガムテープだと多分半日で落ちちゃう。うまい具合にひっかける場所があっても、長時間吊るすのが可能なのか怪しい。細い塩ビパイプなんてすぐ折れちゃう。

その前に「なぜ吊るのか?」をちゃんと検討したほうがいい。
恐らく「宙に浮いてるように見せたい」「中を歩くと大きな布がフワっとなってきれいだと思うから」等だと思うんだけど、実際にやってみたら
「吊ってるものはやっぱり吊ってるようにしか見えない」
「作業が大変な割には床から自立展示でやるのと効果があんまり変わらなかった」
「全然布が動かないor風の影響で布が常に動いちゃうorフワっじゃなくバサバサっとはためく」

になっちゃう作品も多いです。

特に屋外で大きな布やビニールを吊るしてテンションを張る作品は、かなりシミュレーションしないと思った通りにはいきません。「空間のものに上下左右テンションを張る」ことがどんだけ大変なことか・・・。
ぶら下げるだけであればすぐできるし、左右はどこかに紐をくくりつければテンション張れないまでも固定はできるけど、それだけではすごく揺れるんです。室内だとエアコンや人の動きぐらいで余計に動くし、屋外だと風でバタバタと。

それを固定するためには下方向への固定が必須。
地面にアンカーを打てればいいけど、だいたいは床穴あけ禁止なので重しを使うことになり、その重しをどう処理するか(隠すか)がポイントになります。恐らく思ってたよりも大きく多くの重しを使うことになるはずで、「フワっ」とした優しい軽い印象の作品を作りたかったのに足元にゴッツイ重しがゴロゴロして、重たーい印象の作品になったり。

 
また上述の「この時期の風の強さと寒さはハンパない」「大きさ・長さ・広さ・高さの『重さ』がある」とも関係しますが、普段は重さをあまり感じない布やビニールだけど、ある程度の大きさになるとその重量と風の力でハトメからビローンと延びてビリっと確実にいきます。布やビニールは意外と伸びるし、モロい。
吊るす紐も実験してちゃんと選定しないと、これがまた時間がたつと伸びるんですよ・・設営の時はビシっとテンション貼られてたのに翌日はベロンベロンになってるのもよくあること。

街の広告の大きな垂れ幕をよーく見ると、切れ目や穴が開いてるのに気が付くはずです。あれは破れたんじゃなく風を逃がすためにあえて開けてあるんですね。風が抜けるようにメッシュ素材にしたり、大きな吊りモノだといろんな工夫が必要になってきます。
あ、大量の吊りものだと脚立の上で手をずっと挙げた状態の作業になり、ミケランジェロ気分になることも覚悟しときましょ。
 

 
17.パッチワーク系も要注意

布に限らず板だったりモノだったり、いろんな素材や色をくっつけたり貼りあわせる、いわゆる「パッチワーク系」「コラージュ系」があります。広い意味ではインスタレーション系もこれに入るかな?

ただ、よほどセンスがよくないと作者がイメージしてる以上に
「ツギハギ?」
「粗大ゴミ置き場から拾ってきただけでしょ?」
「捨てようと思ってた雑誌から切り抜いただけ?」
「やるなら徹底的にやればいいのに、空間スカスカやん」

と思われてしまう傾向にあります。
普段は「色は2色しか使わない」と理性で抑制・コントロールできてても、パッチワーク系ってついその人の本当の色や空間のセンスが丸裸になっちゃうんですよね。


続くっ!!!
 

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。