卒展出品経験と教務課時代の卒展担当経験、あちこちの美大卒展を見る趣味から、教育研究効果・美術的評価ではない視点の
「卒展ではこういう部分を気を付けるといいよ」
「卒業制作で陥りやすい点」
等テクニカルなアドバイスを30ヶ条にしてまとめました。多分一番欲しているのは精神論ではなくこういう話なのかな、と。
ムサビ生向きな内容になってますが、他美大の方、また卒展以外でこれから展示を考えてる人にも参考になると思います。
これまでの話はこちら。
■【美大4年生必見】手羽の卒業制作30ヶ条 準備編1
■【美大4年生必見】手羽の卒業制作30ヶ条 準備編2
■【美大4年生必見】手羽の卒業制作30ヶ条 場所決め編
■【美大4年生必見】手羽の卒業制作30ヶ条 制作編1
■【美大4年生必見】手羽の卒業制作30ヶ条 制作編2
■【美大4年生必見】手羽の卒業制作30ヶ条 制作編3
■【美大4年生必見】手羽の卒業制作30ヶ条 展示編1
今日は展示編その2です。ピッチ上げないとムサビ卒展までに終わらないな・・。
26.意外と平面は平面じゃないし、垂直は垂直じゃない
これには2つ意味があります。
一つ目は、 「床はフラットではないし、微妙に膨らんでたりする」ということ。
屋外や階段は水がたまらないようにわざと微妙に傾斜が入ってたり、中央部分が盛り上がってたりします。
普段は全く気にならないんだけど、ある程度大きな作品を設置してみると、「ん?傾いてない?」「フラットじゃないなあ・・」と気が付くことがよく起きるんです。
なので早めに仮設置して、様子をみて修正する時間も計算しといた方がいい。
同じようなことは平面作品でも起きます。
レーザー水平器を使って完璧な水平垂直を出して作品を壁に掛けても、壁面の形状・模様・色味・周辺のモノで「・・・画面が傾いて見えるね・・」なんてことはしょっちゅう。建物自体がゆがんでる可能性もないことはない(ムサビの場合は可能性大・・・)
「水平器を使って水平に設置しているんです。傾いて見えるだけです!」と言い張るのは意味が無く、傾いて見えるんだったら、それは間違いなく「傾いてる作品」。最後はなんだかんだ目で確認するしかなく、微調整できる素材や道具、構造も考えて置いた方がいいです。
2つめは、「平面と思ってる素材はそんなに平面じゃない」ってこと。
一番多いのは「スチレンボード」と「ベニヤ板」。
スチレンボードはある程度厚みがないと、すぐにそっちゃう。プレゼンボードを壁に貼り付けたら真ん中が浮いちゃってるケース、よくありますよね(笑)
また、ベニヤ板は安いから芸祭とかで使うこと多いけど、卒展では使用しない方がいいです。ベコンベコンだから、きれいな平面は絶対に出せず、すごくチープな作品になっちゃう。特に囲み壁モノはベニア板だとほんと安っぽい作品になっちゃう。
広いしっかりした平面を作りたい場合は分厚いコンパネを使いましょ。それは展示壁もです。
ビニール素材も同じことがいえます。
展示編1で書いたとおり、テンションを全方向からビシっと出せればいいけど恐らくそれは無理で(強度的にも)、絶対にシワシワになっちゃう。広い透明な平面を出したい時にガラスや透明アクリルの代わりに透明ビニールを使うケースがありますが、透明ビニールはガラスや透明アクリルの代用品には絶対になりません。
加工や扱いが簡単だけど要注意な素材で、使い方を間違えると安っぽく見えるのも布やビニールなのです。特に「板と黒いペンキを買うお金がないから黒いビニール袋で壁作っちゃえ」的な発想は見た目にも強度的にも絶対にやめた方がいいですよ。
27.ワークショップ系は想像力で広がるし、小さくなる
「ワークショップのアイデアは想像力が必要!」という意味ではないし、「ワークショップはこうあるべきもの」という教育研究的な話ではありません。
最近ムサビの卒展で増えてきたワークショップ系作品。
みんなでワイワイ楽しんでるシーンは思い浮かべやすいけど、「それ以外のシーンをどれくらい想像できるか」がかなり鍵になります。多くは経験値によって学ぶものだけど。
例えば、「参加者と一緒に絵の具を使って壁に大きな絵を描くワークショップ」をやるとしましょう。
必要なものは・・・絵具と筆。これは当たり前(笑)
絵の具を出しておくパレットも必要ですね。これは紙皿で代用可能。おっと絵の具だと水がなくちゃ話にならない。そして筆を洗う用の水と筆洗缶も必要。これらはバケツでいきましょ。あとは古新聞紙とウエスぐらいかな。
・・と、ここまでは誰もが想定できます。
でも「汚れ対策」「水の確保」が意外と抜けてることが多いんです。
汚れ対策は「施設」と「人」のふたつがあります。
「壁に絵を描くんだから床は汚れない」と思ってたら大間違い。描いてる時に筆から落ちたり、紙皿パレットからこぼしちゃったり、絵の具をつけちゃいけない壁面に絵の具がついちゃったり。これは子供も大人も関係なく。で床に落ちた絵の具って、ふき取っても薄く広がるだけできれいに取れないんですよね(涙)
ただ、「施設」はしっかり養生すればかなりの部分はカバーはできます。
問題は「人についた汚れ」。
それを目的に来てて事前に「汚れてもいい恰好で」と告知されてればまだいいんだけど、だいたいはその場に通りかかった人。どんなに注意してても絶対に手や顔、髪に絵の具はついちゃいます。「絵の具が付いたのはあなたの責任」で帰らせるわけにはいかないので、ウェットティッシュ・タオル・ウエス・除光液などなどいろんなものを準備しなくちゃいけない。「んなもん自然と落ちますよ」とは一般の方には言えません。
洋服についた絵の具をどうするのか、これも面倒な話で美大生は汚れを気にしないけど、普通の人は気になるもんなんですよ。あ、子供ではなく親が、ですね。墨がついた洋服で帰ってきた日にゃ泣きます。後から親御さんからクレームが入る可能性があるんで、エプロンかビニールがっぱを着せるぐらいの準備は必要。
特に気が付かないのが「足元の汚れ」です。
壁画を一度でも描いたことがあれば経験値として気が付くのだけど、くどいようですが「床に絵の具は落ちるもの」なので、いつのまにか靴や靴裏にベットリついちゃうんです。これが机上では絶対にわからないこと。靴裏についた絵の具は気が付かないことが多く、養生していない部分にいつのまにか絵の具の足跡がついてしまったり・・・。
え?こういう使い捨て靴用ビニールカバーがあるじゃないかって?
そう、あるのはあるんですが、実際にやってみるとわかるけど、これ、すぐに破れちゃうんですよ。作業には全く向きません。
「そこまで気を回してますよ」のポーズとして使う・・・ぐらいに考えてた方がいいかな。
でもこういうグッズがあることを知っておく(調べておく)のはいいことだと思います。
そして「水をどこで確保し、どこで処理すればいいのか」問題。
会場内に水場があればいいけど、なければ遠くからエッチラホッチラ運ぶことになります。そして水性ペンキで汚れた水(廃液)をどこに捨てればいいのか。美大内だとあまり気にならない問題ですが、公共施設・商業施設でのワークショップだとこれがかなりやっかいな話で。
ミッドタウンでのキッズワークショップも、ワークショップ本体の内容より「どこで水を用意し廃棄するか」が毎回悩みどころでして。六本木のオサレなミッドタウンでは、トイレでお客さんの前でザバーと捨てるわけにはいかないんです(笑)
「そんなこと考え出したら何もできないやん!」ですよね。
わかります。すんごくわかるけど、この平成が終わろうとしてる時代、それらを踏まえてワークショップのコンテンツは考えなくちゃいけなくなっています。なので「想像力があればあるほどいろんな必要品が思いつく一方、内容の幅は小さくなる」で、リスク回避を考えていくと「既に切ってある紙をちょこっと色鉛筆で塗ってノリで張り付けてもらう」なものになりがちなんです。
というわけで、ワークショップ系は画材費用もそうですが、それ以外の部分での出費を想定しておきましょう。場合によってはそっちの方ががかかるかもしれません。
話は卒展からずれますが、大企業、市や自治体レベルから公共施設の壁に絵を描いてほしいと頼まれた場合、多分直前になって担当者から「脚立にのぼる時はヘルメット着用必須」「通行者の安全確保のためレッドコーンやトラバー設置」「通路の場合は誘導員を配置」「市民を参加させる場合は救急箱や保険士を準備」など、絵に直接関係しないところでいろいろ要求されるケースが出てくるはずです。
学生さんがそういう話を直接受ける時は事前に「私たちは業者さんじゃないんで準備できるのはここまです」ということと「それ以外は全部そっちで準備してくれますよね?」という確認の元了解しないと、直前に手配することになっちゃうんで気を付けてね。
さて、次はシリーズ最終回の会期中編です。お楽しみに!
【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。