【美大4年生必見】手羽の卒業制作30ヶ条 展示編1

2019年1月9日(水)

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卒展出品経験と教務課時代の卒展担当経験、あちこちの美大卒展を見る趣味から、教育研究効果・美術的評価ではない視点の
「卒展ではこういう部分を気を付けるといいよ」
「卒業制作で陥りやすい点」

等テクニカルなアドバイスを30ヶ条にしてまとめました。多分この時期に一番欲しているのは精神論ではなく、こういう話なのかな、と。
ムサビ生向きな内容になってますが、他美大の方、また卒展以外でこれから展示を考えてる人にも参考になると思います。

これまでの話はこちら。
【美大4年生必見】手羽の卒業制作30ヶ条 準備編1
【美大4年生必見】手羽の卒業制作30ヶ条 準備編2
【美大4年生必見】手羽の卒業制作30ヶ条 場所決め編
【美大4年生必見】手羽の卒業制作30ヶ条 制作編1
【美大4年生必見】手羽の卒業制作30ヶ条 制作編2
【美大4年生必見】手羽の卒業制作30ヶ条 制作編3


いよいよ展示編に突入。ムサビももう来週卒展ですしね。


23.電気を使う作品は電源入れて初めて成立する


  • 平成29年度ムサビ卒展風景

ビデオとかPCとか電気を使う作品はちゃんと展示の時は電源いれましょ、ってこと。
すんごく当たり前のこと言ってますが(笑)、それが展覧会でできてない作者も多く・・・。

展示室に入ると、明るい部屋に電源の入ってないプロジェクタとパソコンだけポツンと置かれてて、「???プロジェクターだけ置いたインスタレーション?」みたいな状態ほどみっともないものはなく。そういうメディア・発表方法を選んだ以上、「毎朝電源を入れてスタートボタンを押す」のも卒展なんですよね。
 
観客として理解できないのが、1部屋を複数人使ってて、1人だけ電源が入ってないケース。
監視の学生さんに「なんでアレは電源入ってないの?」と聞くと、「●●ちゃん、寝坊してて(笑)」と返ってくる。「電源入れてあげれば?」と聞くと「スタートの仕方がわからないんで」「壊したら怒られるんで」「それは作者の責任なんで」と。

確かに作品を見てもらえないのは作者の責任だけど、これまで書いてきたように隣接した作品の影響って大きく、部屋の中に一つでも電源がついてない作品があると、その部屋全体悪い印象になるんです。
きっとその子がいつも遅刻ばかりする子なんでしょうね。確かにいます。「作者の責任です」と周りが言いたくなる気持ちもわかるんだけど、繰り返しのメッセージになりますが「個の卒業制作」と「合同の卒業制作展」は違って、自分のためにも「教室でのグループ展」という意識でやった方がいいですよ。
ちなみに手羽は卒展で教室に1,2個電気がついてない作品があったら、その部屋は丸々見ないようにしています。それが気にならない作者たちが自分の作品に気を使えるとは思えないので。
このやり方で卒展見ても、結果的にほとんどの優秀賞を毎年チェックできちゃうのが何よりの証拠。


24.作者に見えなくても、お客さんに見えるものがある


  • 平成29年度ムサビ卒展風景

美術の世界には「作品以外は評価してはいけない」という心優しい習慣があります。
どういうことかというと、例えばツッカエ棒が横っちょから見えてても、「ここまでが作品です」「この方向から見てください」と作者から言われたら、その部分しか「見えてない」ことにするし、見てないフリをしてあげるもんなんです。

とはいっても、ツッカエ棒はツッカエ棒。構造の一部として処理されてればいいけど、「これ、もう少し隠すとかどうにかできなかったの?・・」と口にしないまでも思ってしまう。
作品の前に工具や端材が置きっぱなしだったり、延長コードが作品の横にダラーンとぶら下がってたり、作品の前を延長コードがニュルニュルしてたら、「これは作品じゃありません」と言われても気にならない方がおかしい。

電気を使う作品が増えたせいか、延長コードの処理が適当なものが最近目立つんですよ。多分作品本体に目がいってて、作者にはあのグルグルクネクネのコードが見えてないんじゃないかと。
せめて目立たない養生テープ(ガムテープはダメ。溶けちゃう)でまっつぐピシッと床や壁に固定しませんか?
また、プロジェクタの隠し場所もポイント大きいです。「どこから投影してるんだ?」と思える作品はそこまで気が回る作者でもあり、だいたい作品の内容もいいです。

あとは私物かな。
展示場所が教室だから逃げ場がないことはわかってるんだけど、作品の近くに世界堂の袋が転がってると「ああ。世界堂で材料買ったのね・・・」と急に現実に戻される感じになる。配布物がある場合は、展示台の中に隠せる構造を作っておくといいですよ。
「作品以外は評価するな」かもしれないけど、その前に「作品に対する愛情はないのか」なのです。

大学は「一般的に展示した場合の最低限必要な壁面は用意しましょ」なスタンスなので、それ以上のものを求める場合は自分でなんとかするしかありません。学科によっては学生たちでお金を出し合って展示パネルにつける布をまとめて発注して統一感を出してたりします。
空間づくりにちゃんと目がいってる学科はそういうところまで気を使ってるってことですね。

あ、展示パネルの運び方・立て方、展示のやり方だと、ストレートな教科書もいいですが、 #大道具のネタも参考になりますよ。例えば



こういうのとかね。この手のテクニックって、いろんなシーンで使えます。



25.吊りものは要注意


  • 平成29年度ムサビ卒展風景

上から吊るす作品って多くの人にとって経験が少なく、美大生なら一度はやってみたい展示方法かもしれません(笑)
でも、机上の空論が一番出ちゃう展示方法でもあります。

まず天井からどうやって吊るします?
うまい具合にひっかける場所があればいいけど、天井に穴は開けられないですよね?ガムテープ?多分半日で落ちます(笑)え?ちょうどいい場所にパイプがある?細い塩ビのパイプって予想以上にモロいから荷重があるものを長時間吊るすのはNG。

そしてなぜ吊るのか?
「上から吊るす」ことを軽く考えてる人が多いけど、最初はそこからの検討なんです。

恐らく、「宙に浮いてるように見せたい」「一度やってみたかった」「中を歩くと大きな布がフワっとなってきれいだと思うから」等だと思うんだけど、実際にやってみたら「吊ってるものはやっぱり吊ってるようにしか見えない」「作業が大変な割には床から自立展示でやるのと効果があんまり変わらなかった」「全然布が動かないor風の影響で布が常に動いちゃうorフワっじゃなくバサバサっとはためく」になった作品も多いです。

特に屋外で大きな布やビニールを吊るしてテンションを張る作品は、かなりシミュレーションしないと思った通りにはいきません。「空間のものに上下左右テンションを張る」ことがどんだけ大変なことか・・・。
ぶら下げるだけであればすぐできるし、左右はどこかに紐をくくりつければテンション張れないまでも固定はできるけど、それだけではすごく揺れるんです。室内だとエアコンや人の動きぐらいで余計に動くし、屋外だと風でバタバタと。

それを固定するためには下方向への固定が必須。
地面にアンカーを打てればいいけど、だいたいは床穴あけ禁止なので重しを使うことになります。その重しをどう処理するか(隠すか)がポイントになるんです。恐らく思ってたよりも大きく多くの重しを使うことになるはずで、「フワっ」とした優しい軽い印象の作品を作りたかったのに足元にゴッツイ重しがゴロゴロして重たーい印象の作品になったり。
「吊ってテンション張る」作品は上下左右からテンション張れる「フレーム」のようなものを作り、テンション具合を微調整できる構造にしないと、多分作者のイメージ通りにいかないはず。


  • 平成29年度ムサビ卒展風景

また「10.この時期の風の強さと寒さはハンパない」「13.大きさ・長さ・広さ・高さの『重さ』がある」とも関係しますが、普段は重さをあまり感じない布やビニールだけど、ある程度の大きさになるとその重量と風の力でハトメからビローンと延びてビリっと確実にいきます。布やビニールは意外と伸びるし、モロいんです。
吊るす紐も実験してちゃんと選定しないと、これがまた時間がたつと伸びるんですよ・・設営の時はビシっとテンション貼られてたのに翌日はベロンベロンになってるのもよくあること。

街の広告の大きな垂れ幕をよーく見ると、切れ目や穴が開いてるのに気が付くはずです。あれは破れたんじゃなく風を逃がすためにあえて開けてあるんですね。吊りモノをやる人はそういう別の知識を仕入れる必要があります。
そして大量の吊りものだと脚立の上で手をずっと挙げた状態の作業になり、ミケランジェロ気分になることも覚悟しときましょ。

 
続く。

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。