【美大4年生必見】手羽の卒業制作30ヶ条 準備編1

2018年11月14日(水)

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以前は1月にこの情報を出してたんだけど、卒展担当者から「もっと早く学生さんに伝えてほしかった」と言われ、今年はこのタイミングで。本当は9月ぐらいにUPするつもりだったんだけど11月になっちゃった・・。


まず、「卒業制作、卒業制作展って何?」の話を。
美大では「卒業論文」「卒業研究」もありますが、「卒業制作」(以下『卒制』)をおさめて卒業するケースが多く、それらを展示するのを「卒業制作展」(以下『卒展』)といいます。
ここでは「卒業論文」「卒業研究」「修了制作」等をひっくるめて「卒制」「卒展」と表現させてもらいます。


で、卒展は学内展だったり学外展だったり大学によってやり方はバラバラ。
大学全体としての卒展は、関東美大は学内、地方美大は学外の美術館で実施する傾向にあります。
地方の美大も学内卒展に切り替えるケースが出てきました。あ、京都の美大は京都造形さん以外「京都市美術館が改修中なんで今は仕方なく」かもしれないけど。
よく「学内で展示やらずに外でやれよ。狭い世界におさまってるから美大はダメなんだよ」と最近の卒展をご覧になってない方からご指摘を受けることもありますが、それについてはおいおいと。


ムサビの場合は1月に展示した状態で講評・採点し、そのまま学内で一般公開するので意味合いとしては「卒業制作=卒業制作展」であり、学生さんの学内卒展にかける気持ちはハンパないです。ただムサビはファインアート・視デ・工デ以外は学外卒展はやっていません。

一方タマビさんは1月に講評終わらせ3月に学内展示なので、学内卒展における学生さんのモチベーションはかなり低いですが、2月に行う各学科の学外卒展の気合の入れようはすごいです。
そう、ムサタマでも「卒展の位置付け」が全然違うんですね。あ、各美大の卒展スケジュールは、1月に書かせてもらいます。


「卒展」と「芸術祭」の大きな違いは、基本的に卒展は1回しか経験しない(できない)ことです。
社会人や短大編入組、大学院以外は誰も参加経験値がないんです。みんな卒展初心者。
なおかつ引継ぎが無く、前例が蓄積されないので、自主的に展示をやってきた人・いろんな展示を見てきた人とそうじゃない人の差が激しく出ます。
かくいう手羽もグループ展を一度やったくらいで、ちゃんとした展示は卒展がほぼ初めてでした。だから「事前にそれを教えてくれてたら回避できたのに・・・」と今でも思い出すだけで「クーー!!(涙)」となることがあって・・。


  • 平成29年度ムサビ卒展風景

前置きが長くなりました。

というわけで、現在卒業制作を作ってる人のために、
「こういう部分を気を付けるといいよ」
「卒業制作で陥りやすい点」

をまとめました。

教育研究効果・美術的評価は先生にまかせるとして、教務課時代に卒展担当を5年やり、毎年ムサビ含め他大学の卒展を見て回ってる手羽が精神論じゃないテクニカルな部分を書いていきます。
教員は基本的に自学科の卒展しか見れないんで、他大学含めジャンル関係なく(ここ大事)、自腹(趣味)で卒展を見たボリュームだと手羽は日本で1,2ぐらいのはず。

あ、ムサビ生向き(学内展示)な内容になってるけど、他美大の方、また卒展に関係なくこれから展示を考えてる人にも参考になると思います。手羽ブログを昔から読んでる人は「またこの話かよ・・」と思うかもしれませんが、毎年バージョンを上げてますんで(笑)
それでもやはり毎年ムサビの卒展を見ながら「今年もこの失敗をしてる学生さんがいるなあ・・手羽美★を読んでくれてたらなあ・・」と思うことがしばしば・・4年生に拡散してあげてください。


ではいきます。名付けて、
「手羽の卒業制作30ヶ条」。
まずは準備編をお届け。


1.卒業制作展は卒業記念制作展ではない。


  • 平成29年度ムサビ卒展風景

結論はこれに尽きますね。

ムサビの卒制展サイトや卒制DMには毎年こう書いてあります。
「制作研究の集大成ともいえる卒業制作・修了制作を・・・」
ムサビは昔からこのフレーズを使っており、いろんな美大さんでも今は使われています。で、ここに最大のヒントが隠れているの、気がついてました?


「卒業制作」は「4年間、あなたは何をやってきましたか?その集大成を表現しなさい」という最後の授業なんです。 「基礎造形1」「絵画III」とか普段の授業と同じレベルに考えてちゃダメで、それに気がついてない人が意外と多いかもしれません。

また、卒業制作は「卒業記念制作ではありません」
小学校卒業の時にみんなでワイワイ作ったトーテムポールや中学校の時に造った巨大タイル壁画じゃないんです。 「記念になんか作りなよ」ではなく、「これまでの自分の集大成」を作るのが卒業制作なんですね。
「卒業制作なんで大きなものを初めて作ってみた」ではなく「4年間学んだことを進化(深化)させ、形的にも大きくさせる」が必要になってくる。
あ、「卒業制作で初めての素材やテーマに取り組む」なチャレンジ精神を否定してるわけでなく、それだったら試作やモックアップを何度も作って研究をたんまりやったものを発表しようね、ってことです。

そして極端な話、「あなたは22年間、何を感じ、考え、何に取り組みましたか?」と問われてるのが卒業制作でもあります。
「あなたの4年間は1日で考えて3日ぐらいで●●と●●を組み合わせただけのように見える作品と等価だったんですか? 」
「あなたの22年間は、試作品を作ってれば回避できたであろう、その自然とピローンと折れ曲がってしまった作品と同じなんですか?」
ということ。この意識の違いは、作者に直接言わないだけで見てる側からするとはっきりわかります。


2.才能あるやつはある。自分と一緒にしない
芸術の世界の難しいところは、センスや才能のある人だとサクっといい作品が作れちゃう点です。そういう人がいるのも事実。
手羽が学生時代、ほとんど大学に来ない同級生が講評3日前に出てきてチャチャっと作ったものが、毎日作業してきた自分よりもセンスいい作品を作ってね。「才能ってこういうことなんだなあ・・」と悟ったことがあります。
そうなってくるとセンスのない自分は作業量か切り口かでそういう人に勝負するしかなく。
「才能がある人と自分を一緒にしちゃいけない」「才能は平等じゃない」ことを知るのも美大での学びかもしれません。



3.やっぱりお金って大事


  • 平成29年度ムサビ卒展風景。この大きな作品も材料費は自腹です。

外の人から必ず驚かれるのが、「通常課題も卒制も材料費は学生さん持ち」ということ。
課題で材料が配られることもありますが、基本的に材料や素材、道具は学生さんが自費で購入します。

で、いやらしい話ですが、最後はこれになっちゃうんですよね・・・。
安価なペラペラなベニヤ板はやっぱり安価なペラペラなベニヤ板でしかなく、お金があれば迷わず分厚いコンパネを使える。
性能が良くなってもカラープリンタはどうやってもカラープリンタ出力でしかなく、印刷所にお願いした方が確実にいいものができる。拾ってきたものはセンスのいい使い方しないとやっぱり拾ってきたものにしか見えない。
これはほんと「お金次第」になってしまうんです。

ちなみに手羽は小学校の頃から溜めてた「お年玉貯金」を卒制の材料費で全部使い切って(40万ぐらいだったかな?)、更に親に借金しました(卒業してすべて返済しました)
同級生は鉄加工を外注したから150万円かかってたっけ。それなりの大きさの彫刻というか立体はね・・・お金かかるんです・・・。

また、全展示者分のプロジェクターや大画面モニタが学内にはないので、基本的に映像機器類は自分で用意する覚悟をしといた方がいいです。表現し人が見られる状態にするまでが作者の役目で、例えるなら彫刻学科や油絵学科の学生さんが「イメージは頭の中にあります。実物はありません」と言いませんよね。そういうことです。「あなたの作品はUSBメモリやDVDメディアですか?」で。
でも映像機器って1週間とかリースすると結構するんですよ・・。


お金に関しては、こういう考え方もあります。

突然舞い込んだ展覧会と違って、卒業制作は入学した時、つまり4年前に必ず通る道だとわかってます。
ひと月1万ずつ卒展貯金をしてれば40万ぐらいは確保できるはずだし、それが厳しいのであれば夏休み、春休み2回がっつり長期バイトをすればそれなりの金額をためることができるはず。
ムサビだと、4年生を対象とした校友会の「校友会奨学生」、いわゆる卒業制作援助制度ってものもあります*今年度の募集は終了しました。
ちなみに校友会の卒展援助受けた人は結果的に優秀賞を取ってることが多いです。「早い段階で卒展資金をどうするか気が付き、アンテナを張り、自分で情報を調べる」「10月にプレゼンできる状態にある」「お金を獲得してでも作りたい強い意志を持ってる」人は、そういう人だってことかもしれません。

卒展資金確保のためにコンペに応募する手段だってあります。
渡米資金のために欽ちゃんの仮装大賞に応募して、見事グランプリ100万円をゲットしたムサビ油絵OB・上杉裕世さんの例もありますしね。
マットアーティスト上杉裕世氏と『シン・ゴジラ』樋口監督が対談 — 「eAT2018 in KANAZAWA」Powered by TOHOKUSHINSHAレポート | AdverTimes(アドタイ) by 宣伝会議
つまり早めに「卒業制作」への意識が生まれてれば、せめて「こんな感じのもの作りたいなー。それっていくらぐらいするんだろ?」と気が付いていれば、お金に関しては対策が取れなくはないってこと。
逆に4年になって「卒業制作どうしよう」と考え出しても、取れる手段はかなり限られてきます。通常課題と違って卒業制作ですからね。あまり妥協はしたくないもの。・・・と現在卒制真っ最中の学生さんにこれを言っても「おせーよ!」と言われますね・・3年生以下の方へのメッセージってことで。
ムサビ生の春休みは長いです。長期間実家に帰って田舎の友達と遊びまわるのもいいけど、卒制でベニヤ板じゃなく分厚いコンパネを使いたくないですか?

ちなみにやったこともないのに安易に「クラウドファンディングすればいいじゃん」と言ってる人の言葉はあまり信用しないほうがいいですよ。描かれる夢や目標が共感できるものじゃないと、たんに「展覧会やるんで」ぐらいじゃ達成は難しく。手段の一つとしてアリですが、メディアで言られてるほど簡単じゃないよ、と。



続く。

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。