【美大4年生必見】手羽の卒業制作30ヶ条 場所決め編

2018年11月16日(金)

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卒展出品経験と教務課時代の卒展担当経験、あちこちの美大卒展を見る趣味から、教育研究効果・美術的評価ではない視点の
「卒展ではこういう部分を気を付けるといいよ」
「卒業制作で陥りやすい点」

等テクニカルなアドバイスを30ヶ条にしてまとめました。多分一番欲しているのは精神論ではなくこういう話なのかな、と。
ムサビ生向きな内容になってますが、他美大の方、また卒展以外でこれから展示を考えてる人にも参考になると思います。

これまでの話はこちら。
【美大4年生必見】手羽の卒業制作30ヶ条 準備編1
【美大4年生必見】手羽の卒業制作30ヶ条 準備編2


今回は、どこに展示するかの「場所決め編」をお送りします。
学外美術館での卒展だと「どこに」という問題は発生しないので、これはある程度自由に展示場所を選べる学内卒展でしかあてはまらないかも。


8.いい場所・やりたい場所がいい展示になるとは限らない


  • 平成29年度ムサビ卒展風景

ムサビは12号館・9号館の地下展示室を各学科合同の展示場として利用しています。
いろいろ他美大の卒展を見てきましたが、学内卒展でこういう学科シャッフル状態の合同展示場パターンってあまりありません。

んで、この両展示室は来場者が足を運びやすい場所にあり、空間も天井高もあるから人気の高い卒展スペースの一つになっています。手羽が卒展担当やってる時は、あまりにも人気があったんで、ここで展示しなくちゃいけない必然性と「ちゃんと作れるか」の実現性をプレゼンしてもらって絞ってました。来場者が来やすい場所ってことはその年の卒展の印象として残る場所なので、あまり変な空間にしたくなくて。
研究室もそれがわかってたし他学科に迷惑かけないよう、地下展示場OKにするのはちゃんとした学生さんだけにしてました。今はそこまで厳しくないようですが、それがフィルターになってた部分はあります。

学芸員が展示コントロールしてるわけじゃなく、何かテーマが決まってる展覧会でもなく、作家をセレクトしてるわけでもない学科ごちゃまぜの共有スペースだと、隣に来るのがどんな作品・作者かわからない怖さがあります。事前に資料を見せあってどういう作品が隣に来るかはある程度展示学生さんたちで共有してるけど、展示計画書だけじゃ見えない「作家性(人間性?)」というのもあって。

どういうことかというと、自分と同じようにしっかり作ってくれる人だったらいいんだけど、「未完成でやっつけの作品を前日に隣に置かれる」なんてリスクがあるんです。事前に見せてもらった資料と全然違う作品(ほとんどの場合は作れなくて)で、なおかつ誰がどう見ても未完成でやっつけな作品だったりするのね。
同じ学科の人だったらどういう人かわかるし対策がとりやすいし、先生に相談することもできるのだけど、他学科だと言いにくい。特にこのご時世だと。

お互い「ここでやりたい!」と言い合って譲り合わず、結果、作品が影響しあったり、引きが取れなくてちゃんと見られなかったりしたら、自分の作品も何割か悪く見えてしまう。自分の空間も大事だけど、「引きの空間」「作品以外の空間」も展示には大事で。

なおかつ準備編で書いたように、お互いが通常の精神状態ではなく、そして卒展という自分にとってかなり大事な展示だからお互いが必死。いつもなら「他の場所も考えてみた方がよさそうだな」と柔らかい発想で気持ちを切り替えられるのに、それができない状態の可能性もあります。

卒展の展示では「いい場所で作品を見せる」よりも「いい空間を作る」ことを優先すべきだと思っています。いい空間になれば自然と作品も何割かよく見える。
ごちゃごちゃして「引きの空間」が取れず、作品同士が悪く影響しあうような人気場所だったら、そこはやめて、早く違う場所を探した方がいいですよ。これほんと。


9.屋外作品は学内全体に影響する


  • 平成29年度ムサビ卒展風景

屋外作品を大量に展示するのも、実はムサビ以外の卒展ではあまり見ないケースです。
ムサビは平らな場所や吹き抜けが多かったり、建物と外との境界線が薄いことも関係してるかな。芦原先生の作ったキャンパスグランドデザインに知らぬ間に影響受けてるのかもしれませんね。


ただ、大型の屋外作品はシンボリックな存在になるので、屋外作品がしょぼいと学内全体・・特に近くの建物の作品全体がしょぼく見えちゃうんです。意識してなくても、屋外作品ってその空間周辺を支配しちゃうので、作者の学生さんは責任がかなり大きい。

目立つ場所に置きたい気持ちはわかるけど、目立つ場所に置く以上シッカリ作ってほしいし、「3日間ぐらいで作りました」的、垂木とベニアを組み合わせたような作品は避けてほしいな、と。
逆にちゃんと作った作品が屋外にあると、「今年の卒展は良かった」と言われやすい傾向にあります。これもほんと。


10.この時期の風の強さと寒さはハンパない。

屋外作品で忘れちゃいけないのは風対策。雨よりも実はやっかいで。
特にビル風(ムサビだと中央広場や12号館前、9号館前、2号館)はほんとにバカにしちゃいけません。
私の同期が卒展で中央広場にトタンで作ったような作品を設置したら、風で1日もちませんでした。 ブーフーウーの家状態でトタンが飛んでく姿は今でも忘れらない・・・。

そして、屋外は寒い!!
屋外展示は
●室内よりも大きな作品が展示できる
●通りすがりの人も見てくれる可能性が高い。→目立つ
というメリットがある一方、卒展中、室内展示のみんなは来場者の方となごやかな空間を過ごしているのに、屋外展示組は寒くて寒くて作品のそばにはいれないし、 準備・撤収も凍えるように寒い中ずっと作業をしなくちゃいけないデメリットがあります。


11.雪は降るものと思え


  • 2015年度武蔵野美術大学卒業・修了制作展会場風景

これは3年前のムサビ卒業制作展最終日の写真で、だいたい3年に一度ぐらいの頻度でムサビ卒展は大雪日とぶつかるんですよ。
ちなみに10年に一度の頻度で卒展準備・片付け期間に火事が起きてます・・・火事ダメ絶対。


屋外に展示する場合、雨対策で漏電ブレーカーつけたり屋根つけたりは考えるけど、雪対策まで考えないことがほとんど。でも雨との違いは「雪には重みがある」「しばらく残ってしまう」ことで、3年前も雪の重みでつぶれてしまった屋外作品がいくつかありました。

屋外で展示またはパフォーマンスを考えてる方は雨以外に雪のことも考えておきましょ。「雪が降ったらどうしよう」ではなく「ムサビ卒展では雪は降るものだ」が大前提にないとまずいです。想定外ではなくおもいっきり想定内の案件。


12.卒展時間は明るい


  • 平成29年度ムサビ卒展風景

今の状況からは想像しにくいですが、卒展の時期は午後4時台って外はまだ明るいんですよ。
こちらをご覧ください。
日の出入り@東京(東京都) 平成31年(2019)01月 - 国立天文台暦計算室
ムサビ卒展が開催される2019年1月中旬って日の入りが17時ぐらいでしょ?午後5時過ぎから暗くなる感じ。
ムサビの卒展時間は9時から5時までなので、「屋外設置で暗い状態がデフォルト」な展示は会期時間と矛盾してるので、室内設置を選択した方がいいです。「そんなの囲み・壁を作ればいいんだ」かもしれないけど、それだと室内でやるのと同じことだし、次章で詳しく書きますが、囲み自体が作品になってないとまずく、ただ暗幕で光をさえぎればいいってわけにはいかないのです。


寒さや明るさがイメージできない人は、自分のセンター試験の時をことを思い出せばいいかも。
毎年センター試験と同じ時期にムサビは卒展をやってるので、その時の恰好や、外の明るさは覚えてるんじゃないかしら。筆記英語が終わった16:30ぐらいはまだ明るくて、ヒアリングの時に暗くなったんじゃない?



なんで屋外作品のことばかり書いてるかというと、手羽の卒業制作は屋外展示だったんです。
ええ。目立ちたくて。最初「正門にぶらさげたい」と教務課に申請したらあっさりボツになり、12号館前に展示しました(笑)

本邦初公開。これは手羽が学生時代の作品でタイトルは「うじゃうじゃてばちゃん」
3年の時の作品で卒制作品は別にあるんだけど、それがあんまり好きじゃなかったのと先日書いた通り普通の精神状態じゃなかったんで、卒制作品の写真をほとんど撮ってないんです・・。展示終わった夜にすぐにぶっ壊したぐらいで・・。

でも、卒制まで「人類の進化」という壮大な(笑)シリーズで作ってたこともあって、卒展では卒制以外にこのうじゃうじゃてばちゃんを12号館前広場に100個設置しました。ちなみに手前の1個だけ鋳造で残りはFRP(強化プラスチック)。ご覧のとおり、手羽のライフマスクがついたおたまじゃくし・・・ぶっちゃけ精子(遺伝子)ですね(笑)
袴田先生から最近「手羽くんは卒展でおたまじゃくしみたいなの展示してたよね?」と言ってくれて嬉しかったなあ。

屋外展示って、設置が大変なわりには、寒くて作品のそばにいることができないから見に来てくれた友達とも会えなかったし(当時はスマホもなかったし)、芳名帳をおいても風で飛んでいくし、寒いからみんなじっと作品を見てくれず通り過ぎちゃうし、あまりいい思い出が残ってなく・・。
手羽は大型作品だったんで外に展示するしか選択肢はなかったんだけど、「目立ちたいから屋外に作品を置きたい」ぐらいな理由であればやめた方がいいですよ・・経験者として・・。

ただ上述したように、屋外に大きな作品がビシっとあると大学全体の展示が引き締まります。寒くて大変だけど、ぜひ立派な屋外作品を置いてほしいな、と。


次はいよいよ「制作編」
より具体的な話になります。



以上、展示終わった後に友達から「手羽ちゃんさー、おたまじゃくしのヒレみたいなやつって背中じゃなくて横についてるのは知ってる?わざとこうしたの?」と指摘された手羽がお送りいたしました。
とても気が付かなかったとは言えなくて、「それだとおたまじゃくしじゃん。おたまじゃくしみたいなものってことだよ。わかってないなー」と屁理屈こねたっけ。衝撃の告白。

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。