【美大の事務組織編】君も大学職員になろう6

2021年5月11日(火)

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突然ですが、大学にはどんな組織があると思いますか?
多くの人が真っ先に思いつくのは教務課就職課でしょう。
学生サービスの中枢だし、学生さんと一番接触が多いからなじみもある。「学務担当」とか「キャリアセンター」とか名前は違っても大学設立時から存在するのがこの2つの組織なはずです。
「大学職員である以上、一度は教務課や就職課を経験したい(させたい)」という考えも強いです。
また、絶対に存在する部署は総務課(庶務課)経理課です。人事・お金を管理する部署で、人とお金を扱っている組織であればなくちゃ困る部署。

でも、美大ならではの組織とは何があるんだろう?通常の大学と違ったりするのか?
てなわけで、今日はいくつかの美大の事務組織を見ていくことにします。
教育組織構成図はよくあるけど、大学の事務組織図をまとめた記事はあまりないはず(笑)


まずは多摩美術大学

法人本部が上野毛キャンパスなので、総合企画部と総務課は上野毛にあります。なので八王子は「八王子総務課」という名称がついてます。
でも、かなりオーソドックスな大学組織構成と言えるんじゃないでしょうか。


次は東京工芸大学


東京工芸さんは厚木キャンパスが工学部、中野キャンパスが芸術学部で、それぞれに庶務や教務、入試課等を配置してます。でも教育研究支援課は厚木のみ。
恐らく法人本部は中野キャンパスで、問い合わせ先の電話番号を見ると広報は中野キャンパスで集約してるのかな。キャンパス規模だと厚木の方が圧倒的に大きいのだけど、都心に近い中野で受けて・・というやり方は確かに合理的。

 
次に東京藝術大学

有名な話ですが、東京藝大には入試課と就職課、つまり入口と出口がありません。
・・という説明は端折り過ぎですね。
入試全般は学生課の入学試験係、就職はキャリア支援担当があるので業務としてやってないわけではないのですが、専用の部署が存在しないんです。
とはいっても、この組織図には出てきませんが2019年頃、学生課の中にキャリア支援室が開設され、「いよいよ藝大もキャリア教育に力を入れだした!」と話題になりました。

にしても、今、「社会連携センター」と「社会連携課」が組織上違うことに気が付いた。
 

 
次は成安造形大学

「学校法人京都成安学園」が開設する大学であり、保育園もあります。
それほど大きくない組織のはずですが、「外部資金室」「危機管理室」があったり、今どきな印象を受けます。


続いて東京造形大学

学校法人桑沢学園の本部は研究所じゃなく大学の方にあるんですね。
組織図が見つからなかったので一覧で。

「進路支援課」と「就職課」の違いがわからず、問い合わせ先を見て、進路支援課は入学試験やオープンキャンパスなど高校生のための進路支援であり、就職課は学生の進路、就職関係の部署だと判明。
最初はわかりにくいなあと思ったけど、「入試」という言葉が「選抜」という表現に置き換わってきてるので、「入試課」の方がむしろおかしく、よくよく考えると「進路支援」という表現はうまいなあ、と気が付きました。勉強になります。

また、東京造形大事務局の特色は「学術交流課」で、こうやって組織図で見ると1部署に過ぎないけど、社会連携、図書館、美術館、国際交流、教員の研究活動など、かなり幅広いテリトリの部署だったりします。
課長さん、大変だろうなあ・・。
 

 
続いて武蔵野美術大学

ムサビは数年前から「グループ・チーム制」を使っていて、かなりはしょって説明するとグループが「部」で、チームが「課」です。うーん、ちゃんと説明するとチームは「プロジェクト」ぐらいな位置づけですが・・長くなりそうなので、細かくは後日説明します。


同じグループ・チーム制を2017年度からやっているのが京都精華大学

「法人事務組織」と言っても、学長が変わればその強みを生かすために組織を変更することもあり、その典型例がウスビ・サコ学長の京都精華さんです。
2年前ぐらいの組織図と比較すると「グローバル推進グループ」「学長室グループ」が増えていて、やはり戦略的なものを感じます。
 

こうやって見てみると、美大の事務組織の特色は「美術館がある」ぐらいで、他はあまり総合大学と変わらないのがわかると思います。
しかし、事務組織の考え方がその大学の文化によっていろいろあるって面白くないですか?え?手羽だけ?


事務組織を紹介してきたのは2つ理由があるんです。

1つ目は「『美大職員』といってもいろんな仕事(部署)がある」のを知ってもらいたかったから。
どうしても学生さんが知ってる教務課や就職課など学生窓口に目がいきがちで、皆さんのイメージも「カウンターに機嫌悪そうな職員が立ってる」かもしれませんが、「学校法人」を動かすためには企画、経営戦略、施設管理、総務、人事、経理、IR、情報システム、監査など学生との交流がほとんどない『バックオフィス部署』がちゃんと機能してなくてはいけません。

考えてもみてください。
例えばムサビだと通信教育課程を入れて約6900名の学生、教職員や助手、非常勤講師が約1100人いるから「約8000人で構成されてる組織」とみなすと、企業社員数ではTOTOや東京ガス、NTTドコモぐらいの人数であり、企業順位的には70位ぐらいの規模なんです。
いかにバックオフィスが重要な仕事かわかりますよね(あくまでも「ひとつの考え方」です)

つまり、専門職採用じゃない限り、いつかジョブローテーションされるはずだから、面接で「入職したら、自分の大学時代の経験を活かして学生さんへは優しく対応したいと思います!」と強く言っちゃうと「この人は大学のバックオフィスの存在知らないんだな・・」と思われるかもしれないし、「企業でのマーケティング経験を生かして経営戦略なら力を発揮できます!」と強く言っちゃうと「ジョブローテーションするんで『経営戦略なら』と言われても・・」と思われる可能性がある、と。バランスが大事ってことですね。


言いたかった二つ目は。
教務・就職・総務・経理は昔からほとんど名称もポジションも変わらないけど(やってる内容は広がってるけど)、「広報」「企画●●」「社会連携」「国際」などの概念は比較的新しいので、文科省の方針やトップの考え方によって変わりやすいというか、どの大学も答えをずっと探してるというか、答えが見えないというか、括りにくいというか、組織改編で一番変更があるのがこれらの部署です。

先週末にMAUbdpの説明会があって100名ぐらいの学生さんが聴講してましたが(第1回は5月27日コニカミノルタ株式会社さん。ムサビ生は必ずチェック!)、これを主催してるのは社会連携チームです。
課外活動・キャリア・社会貢献・企業連携・広報要素が含まれるこの事業は、大学の活動が簡単に括れないサービスになった典型例であり、もし社会連携チームがなく、昔ながらの事務組織・業務分掌だけだったらとても対応できなかったはず(たらい回しになってたはず)。
「社会連携」なんて20年前ぐらいは「赤字の公開講座をやってる日陰の部署」なイメージしかなかったから(笑)、大学に求められるものが変化してるってことですね。

また、「入試」「広報」部署は、「入試広報課」という名称で一緒の大学もあれば、入試は教学系部署、広報は法人系部署に設置されてるところもあり、と思えば1年後どこかの部の下に入ったり、ひとつの部屋になったり分かれたりを多くの大学で繰り返しています。「入試も教育・学生サービスと捉えるか」「大学広報と入試広報を分けるかどうか」等かなり悩ましい問題がそこにあって。

ただ、社会連携や企画広報は「答えがよくわからないから、いろいろできる部署」でもあり、教務と違うのは「そこにいる人によって何をやるか、価値が大きく変わる部署」でもある、と。
これも面白くないですか?え?手羽だけ?


続く。


以上、どの大学職員に聞いても「理念高い立派な組織をいくら作っても、結局はそこにいる人次第」と、それを言っちゃおしまいな答えが返ってきてしまう手羽がお送りいたしました。

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。