【ビダモン2017】みんなが気になる「倍率」だけど、気にする必要は全然ないって話

2017年2月10日(金)

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本日2月10日の入試は、ムサビが日本画・彫刻・空デ、タマビが油画と統合デザイン。
ここだけの情報をこっそり教えましょう。誰にも言っちゃダメだからね。
彫刻のデッサンAは男性セミヌードのムービング、デッサンBは石膏像が出ますよ!


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昨日は完全な息抜き記事だったので(笑)、今日は少しだけ真面目なネタをお送りします。
東京造形さんの合格発表日でもあるから、倍率の話を。


大学関係者なら恐らくこう言うでしょう。

去年の就職率と受験倍率ほど信用できないものはない、と。

あ、ちょっとこの表現は語弊がありますな。
「ウソの数字を発表してる」というわけではなく、「いろいろな算出方法や解釈の仕方がある」「いろんな条件が重なるのでアテにできない」ので、「参考にはなるけど信用できるほどのデータではない」って意味です。就職率の話はまた時間がある時に。


理由は3つあります。

一つ目は「定員の変更」
総入学定員は減らさないんだけど、一般入試の定員を減らし、その分をAO・推薦入試やセンター方式等に回すのはよくある手段。そうすると、一般入試の志願者数が減っても母数が減るので、倍率的には去年より上がったように見えると。
地方だと「8割以上がAO・推薦入試の定員」なんてことはもうザラで、ある関西の美大関係者が「これだけAO・推薦で決まってると、一般入試は定員を補充するためにやってる2次募集試験のようだ」とおっしゃってました。


2つ目は「併願」
例えば、今日入試があるタマビの統合デザイン学科受験者はムサビ基礎デザイン学科も受けてる可能性が高く、またムサビ基礎デザイン学科受験者はデザイン情報学科などを学内併願してる可能性が高いです。そして、一般方式とセンター方式を併願(厳密には「併用」)してる人も多い。
でも合格した時の選択肢は1つだけなので、全部合格してもそれ以外は全部「蹴る」ことになります。倍率が高いからといって合格者全員がそのままその学科を選択するわけじゃないから、本当の倍率は下がる、というわけ。

「合格したらその大学を選ぶ(入学者÷合格者)」ことを「歩留まり率」といいますが、日本全体の大学歩留まり率はここ数年39%なので、6割以上は蹴ってるということですね。
「志願者数が日本一!」と宣伝してても学内併願率を上げる仕組みで「延べ人数」を上げてるだけの可能性が高く、大学関係者からすると「そりゃ気にはなるけどね。あれだけ宣伝してると」でして。本当のブランド力ともいえる「歩留まり率がどうなのか」「延べ人数ではなく実数はどうなのか?」が知りたいんです。
ちなみに日本で一番歩留り率が高いのが東京藝大の100%。藝大に受かれば全員藝大にいくってことです(笑)

なので、多くの大学が「合格したけど抜けていく人」を見込んで合格発表の合格者数は定員よりも多めに出してます。 人気度だったり併願率が違うので、どれくらい多めに合格者を発表するかは当然各大学・学科バラバラだし、年によって変わります。通常は速報的に「志願者数を定員で割った数字=受験倍率」として出ることが多いですが、 「受験者数を合格発表数で割った数字」が「第2の倍率」。
ほとんどの大学が入試データとして出してるのはここまでかな?


3つ目が「補欠」
2月下旬になると「オレは●●学科の補欠◎番だけど、大丈夫かな?去年って何番まで上がったの?」なんて書き込みやつぶやきが毎年あるし、大学への電話問い合わせも多いです。
手羽も東京造形彫刻は補欠だったので補欠の方の不安な気持ちもわかるんですが、この「去年の補欠の繰り上がり数」も、本当にアテにならない数字でして。去年はいっぱい繰り上がったと思ったら、今年は数番で終わり、ってことはほんとよくあるし、もちろんその逆のパターンもあります。

これは「人気度が変わった」という考え方もなくはないだろうけど、「もろもろのデータを参考にして今年は去年より合格者をたくさん出したから補欠の繰り上がりも減った」ってことがあるんです。「補欠数は常に調整されてる数字」と考えてもらった方がいいのね。(今日の主題じゃないので詳しくは改めて書きます
んで、「受験者数を合格発表数+補欠繰上げ数(入学決定数)で割った数字」が第3の「倍率」となり、 本当の倍率ってこの数字だったりするわけです。

「合格発表数は定員どおりにして補欠で補充する」というやり方が一番簡単なんだけど、あんまり補欠が繰り上がりすぎると「あの大学は人気がないんだな・・」と思われたりするんで、どれくらい合格者を多めに出して、補欠を発表するかってかなり難しく、ある意味大学と受験生との「かけひき」でして。
「多く入学させちゃってもいいじゃん。倫理的な問題はあっても大学経営上悪いことじゃないでしょ?どーんと合格出しちゃいなよ」と素人考えで思いますよね?
入学者数上限(超過率)に関する文科省のペナルティがあるから、定員ぴったり、もしくは若干多いぐらいになんとかしないといけないんです。これを無視してる大学もないこともないですが(ボソッ)。
さらにこれが厳しくなったので、今後は合格者数を減らして補欠を増やす方向に行くんじゃないかと。 「去年より〇〇学科は多めに合格者発表したけど、意外と辞退者が少ないなあ・・あと二人くらい抜けてもらないと困るんだけど・・」という嬉しい悲鳴なケースもあるわけで。


では、皆さんが理解したか問題を出します。

■問題:手羽美術大学★の創造想像デザイン学科は入学定員50名で受験者数300名です。さて倍率はいくつですか?

正解は「これだけじゃわかりません。問題不成立」です(笑)
求めてるのが志願倍率なら、もちろん6倍です。
でも、実際に試験を受けたのが250名だったら受験倍率は5倍になり、辞退する人数も想定して発表した合格者数が60名だったら、合格倍率は4.2倍。
さらに辞退者が多く、補欠繰上げは40番まで回ると、入学倍率は2.5倍程度だったりするわけです。
わかったかな?


デザイン系とファインアート系でも微妙に違いがあり。
デザイン系希望者は例えば工デと空デを併願するとか学内複数併願してる人が多いです。また、「受験時が3枚目の絵」と言う人もやはりいらっしゃいます。
一方、彫刻学科は他大学彫刻との併願はあっても、彫刻と油絵を併願する人はほとんどいません。 また、 彫刻は美術予備校等で対策せずに受験する人がほとんどいないし、「彫刻学科に進学したい」というのはそれなりの強い意志が必要なわけで。
なので、彫刻学科なんかは見た目の倍率が低くても、中間から上位層の「実技力度」「本気度」は高い傾向にあります。これが「率」では見えない数字。


ちょっと脱線しますが。

ここまでのことが理解できると、よく言われてる「私立大学の45%が定員割れしてる」という言葉をそのまま信じちゃいけないこともわかってもらえるんじゃないかしら。
日本私立学校振興・共済事業団が出してる
平成28(2016年)年度 私立大学・短期大学等入学志願動向
をご覧ください。
5ページに「規模別の入学定員充足率」が出てます。入学定員充足率とは「入学者÷入学定員」のことで、これが100を切ると定員割れってことですね。
で、よーく見ると確かに入学定員800人未満の大学は100を超えてないですが、800人以上の大学は超過しています。でも集計大学577大学のうち、800人未満の大学が416校、800人以上が161校なので、これをぜーーんぶひっくるめて計算すると「私立大学の45%が定員割れしてる」になってしまうと。
もちろん800未満以下大学でも定員割れしてない、800人以上でも定員割れしてる大学はあるはずなので、このデータもあくまでも「傾向」を見るためのデータです。
でもこれを知らないと「大規模大学が入学定員を増やした」というニュースを聞いて、「え。45%が定員割れしてる時代に??バカじゃないの?」と思ってしまうんですが、全然普通に考えられる戦略なのです。はい。


つまり、何がいいたいかっていうと。
倍率が高いからといって嘆く必要もないけど、倍率が低いからといって楽観視する必要もない。 倍率とかデータとか周りのこととか気にしても仕方なく、自分はベスト尽くしてやるしかないってことです。



以上、彫刻学科だけはモチーフを事前発表してるので言えるんです、の手羽がお送りいたしました。
なんの石膏像が出るかは手羽も知らないのでそれが楽しみで。手羽の予想は当たるかな?

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。