【ビダモン2017】美大実技試験に関するたった1つのアドバイス

2017年2月4日(土)

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美大受験アドバイスシリーズ「ビダモン」をやっております。
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ムサビ的には今日が油絵学科と視覚伝達デザイン学科の実技試験日。
てことはバスがすんごい混むので、体調があまりよくない人はむしろ推奨ルートである鷹の台から歩いた方がいいですよ。
そして、今日は大きな手荷物を持ってる人が一番多い日でもあります。他の日でもそうだけど、荷崩れしないようにキャリーにはしっかり縛りつけましょう。タマビで荷物が崩れると丸いものだとオニギリコロリンすっとんとんみたいに橋本駅まで追っかけることになるから。

イメージ図。


今日は実技試験のアドバイスをたったひとつだけお送りしましょう。
「実は美大の実技試験って奥が深いのよ」って話になるんですが。
以降、去年のムサビ入試問題を例にとるので、
2016年度武蔵野美術大学入学試験問題集
を見ながら読んでくださいな。



たったひとつのこと。それは何かというと、

問題文をちゃんと読もう。

です。

「え?もっとさ、『こんな道具があると便利!』とか『自分の得意な色を事前に作ってフィルムケースでもってけ』とか実用的なアドバイスはないの?」と感じるかもしれませんが、これほど実用的で、即効力があり簡単に得点を稼げる方法はありません(てか、フィルムケースがもう手に入らない)。

これには2つの意味があります。

一つ目はそのまま、「よく読んで条件をちゃんと踏まえないとダメ」という意味。
例年、視覚伝達デザイン学科やデザイン情報学科等の試験は問題文に「条件」「設定」が多く書かれてます。これをよく読まないと出題意図とは全然違うものになってしまうことがあるの。
去年の視デ・デザインの問題文を引用します。
たぶん皆さんが想像されてる美大実技問題と違うのでびっくりしますよ。
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問題参照文にあるように本(書籍、雑誌、図書)には多様な意味があります。
また、本には読む(音読、黙読)、ページをめくる、持ち運ぶ、書く、描く、綴じる、印刷するなどの動作や行為も伴います。そして人はそれぞれ本に対して何らかの記憶、想い出などを持っています。
与えられたモチーフ(束見本)に触れ、観察、参照しながら、あなたにとっての本のイメージを色彩構成しなさい。
画面右上の与えられた枠内に20字以内でタイトルを記入しなさい。
============

これを高校生に考えるところから描き終えるまで3時間でやらせてるんですよ。すごくないですか?
実技試験ではただきれいに描くだけでなく、読解力、理解力、経験力、イメージ力も問われてるってことですね。デザイナー希望者なんだから当然といえば当然ですが。

手羽にとっての本・・・本屋さんや図書館に行くとトイレがしたくなるとか、小学校の頃図書館で借りた本を無くしてしまってから本を借りることが精神的にできなくなったとか、最近は字が小さいと読む気がしないとか・・・うーん、これ表現できないなあ・・。


ふたつめは・・の前に、この単語を解説しないといけませんな。
「モチーフ」という言葉がありますが、美術用語としての「モチーフ」は主に2つの意味があって、1つは「絵や彫刻で再現される対象」
ドラマなどで机の上にリンゴやら布やらフランスパンやらガラス瓶などが置かれているのを描いてるシーンを見たことがあると思いますが、それです。
厳密にはイコールではありませんが、他の日本語だと「対象」「静物」が一番近いかな。

だいたいの場合は、布・ガラス・鉄・植物・プラスチックなど異なる質感・形態のものをモチーフにし、布は布らしく、ガラス瓶はガラス瓶らしく「質感を描き分けできるか?」「画面にバランスよく納めているか」「形がちゃんと取れているか」「調子・陰影を把握してるか」等を見る試験。

例えば工芸工業デザイン学科の鉛筆デッサンが典型例です。


問題文には
===========
「机上のモチーフをデッサンしなさい」
===========

とだけ書かれてて、「いかに対象の特徴を捉えているか?忠実に形や質感や量感等を再現し、構図が優れているか?」等の「基礎的デッサン力」「描写力」が問われています。
多くの方になじみのある、すぐに想像できる「モチーフ」はこっちの意味じゃないかと。
 

モノヅクリ系は形をしっかりとれる人の方がいいのは昔も今も変わらず、手っ取り早く判断できるのがなんだかんだデッサンなのです。

 
そして2つ目は、「題材や動機」という意味。
違う単語だと「テーマ」「きっかけ」「イメージ」が近いかな?
あくまでもそこに存在するのは「きっかけ」であり、そこからどう発想を展開させたかを見るもの。

実は油絵学科油絵専攻のデッサン試験がそれです。


問題文には
=======
「机上のモチーフを自由に描きなさい」
=======

としか書かれていません。
でも、この「自由に」がクセモノ。
目の前にモチーフが組まれてるのでつい 「見たままを」を描いてしまいそうですが、「自由に」から「そのままを描くのではなく、現象や印象を自分なりに解釈し発展させ、それを自分なりに自由に表現しなさい」と言われてるんですね。
 

この「自由に」を読み飛ばしてしまうと、たったそれだけなのに出題意図から離れてしまい点数が下がる、と。
また去年だと空間演出デザイン学科のデッサンも
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与えられたモチーフで自由な形を作り、空間を意識して虫の目線でデッサンしなさい。
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普通なら「モチーフで自由に形を作ってデッサンしなさい」ですが、「虫の目線」という言葉が入っています。サラっと書かれてるけど、これをどう処理(想像)するかが最大のポイントってこと。
昔はデッサンで「基礎能力」を見て、デザイン等で「発想力」を見るのが一般的でしたが、今はその境目がなく、ただうまくきれいに絵が描ければいい時代ではなくなっています。

そうなんです。
20年前ぐらいの美大入試では、「いかに石膏像をうまく描けるか」「手をそっくりに描けるか」等が求められていて、「他では使えない美大受験用のテクニック」として批判されてました。現状を知らない(調べない)人が自分が受験した20年前ぐらいのことを例に出し批判することがいまだにあります。
もちろん短い時間で描いたり、基礎的なデッサン力・デザイン力のトレーニングは今も必要だしやってるけど、とっくにムサビやタマビの入試ではその能力だけを求めていないのです。

というわけで、「問題文をちゃんと読もう」の2つめの意味は「問題文に隠されたヒントを探し、そこから自分なりに発想を広げよう。」です。
ちなみにどうにでも取れる問題文はどう解釈してもいい、むしろ出題者の想定を超える作品を作ってほしい、という意図があるはずなので、そういう時はおもいっきりやっちゃってください。
あ、責任は取りませんが(笑)


美大の実技入試はこう考えて欲しいんです。
「教員からのメッセージであり、初めての課題」

実技試験の問題・出題意図は、「この出題をあなたはどう解釈し、表現しますか?→私たちはそれを理解できる(超える)人材が欲しいんです→そういう人のためのカリキュラムを用意してますよ」なメッセージでもあるわけで、実技試験から大学・学科の違いを見つけることができます。
上述した視デの試験問題文を見ると、明らかにタマグラと求めてる人材が違うのがわかるんじゃないでしょうか。それは求めてる人材・カリキュラム・育てたい人材が違うからで、実技試験がそのまま3つのポリシー(アドミッション・カリキュラム・ディプロマ)になってるのね。
だからムサビやタマビの実技試験には、基礎的なデッサン力だけを見る、メッセージのない試験・・・たとえば「紙コップを描きなさい」とかがないのです。

しかし、すごいと思いません?
問題文を理解し、更にそこから発想を広げ、独自性を入れ、アイデアスケッチをし、下書きをし、色を塗り、場合によっては文章もつける。ムサビのデザイン系だとこれを受験生は「3時間」でやり遂げてるんです。
美大・・特にムサビやタマビの実技試験では、読解力、発想力、描写力、表現力、瞬発力、持続力、価値創造力、ストレス耐性、課題発見・解決力、体力がそこで問われてる。
ある先生が「1時間もじっと座ってられない生徒が増えてるって言われてるのに、美大受験生は3時間とか6時間とかずっと集中して座れる人しかいないわけでしょ。それだけでもありがたいし合格にしてあげたいよね」とおっしゃってました。


2020年度から暗記型のセンター試験が廃止され、思考力・判断力・表現力を問われる新テストが導入されるのはご存知の通り。
「各大学は、従来の画一的なペーパーテストから、アドミッションポリシーに基づく様々な評価方法を組み合わせ、受験者の学力を多面的・総合的に評価する入試へと転換することが求められている」と言われてるけど、・・・とっくにムサビやタマビは実技試験でそれをやってるし、それ以上のことをやってるんですよね・・。
「みんなムサビやタマビを参考にすればいいのに」と手羽は本気で思ってたりするんだけど。 



以上、そろそろ「ムサビ日記」を出題に使ってくれる学科があってもいいんじゃないかと思ってる手羽がお送りいたしました。

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。