美大を卒業して何やってるの?第5話-東京造形大卒・こやまくんの場合

ようやく落ち着いてきたので、学長と一緒に近隣大学・協定校の学長さんや市長さんへ挨拶回りをしてる手羽です。昨日は武蔵野市長さんにご挨拶してからの東京外国語大学さんへ。外語大さんは調布飛行場の真横にあるので、報道車両やヘリ、野次馬がたくさんいました・・・。

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この「美大を卒業して何やってるの?」シリーズは、ムサビ日記時代の2007年から「久しぶりに書いてもらおうシリーズ」として続けてきた企画です。
美大卒業後、彼らは何をし、何を思い、どんな変化が起きているのか。もしくは変わってないのか。
一年に一度、ムサビ日記・美大日記OBOGにリアルな現況を書いてもらうことで、同じ卒業生をずっと追っかける長編ドキュメンタリーにもなってます。


▼これまでの話はこちらをご覧ください。
美大を卒業して何やってるの?第1話-ムサビ卒・べべつこさんの場合
美大を卒業して何やってるの?第2話-ムサビ卒・珍念くんの場合
美大を卒業して何やってるの?第3話-東京藝大卒・zoominさんの場合
美大を卒業して何やってるの?第4話-ムサビ卒・helveticaさんの場合


第5話目は、美大日記から東京造形大学卒のこやまくんに登場してもらいます。
文中にもありますが、東京造形大オーキャンレポートはそのマエフリでもありました(笑)
では、はりきってどうぞ!

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こんにちは、東京造形のこやまです。
かつて美大日記というブログで記事を書かせて頂いていた者です。

7/21【潜入レポート】東京造形大学オープンキャンパスに行ってきた
では、手羽さんに「カミングスーンこやま‼」な前フリをいただいていたにも関わらずですね。
記事の締め切りを守れていないのが本当に申し訳なく…
しかも自分は一応美大職員の端くれであり、その界隈では大先輩な手羽さんからの依頼の締め切りをね、守っていないというのはとてもやばいことなんじゃないの?どうなの?と思いながら、、、

週末には岐阜にIAMASのオーキャンやら、大阪国際のティルマンス やらを見に行って、非常に充実した夏休み期間を早くも堪能してきました‼‼‼‼‼‼‼


いやー楽しかった!
、、と、旅の思い出を書きたいところですが、この企画は美大を卒業した人がどこで何をしているのか、というのを報告する目的があるという事で、自分の近況を報告させていただきます。


美大日記が終わったのと同じ年に学部を卒業し、そのまま院に入って 2 年間、東京造形にいました。
院修了後は何かしら労働をしながらアーティストとして活動するつもりでいたので、制作をしながら発表の機会があれば参加して、その結果を持ち帰って考えるという事の繰り返しをしていました。
就活もしないで、一応腹をくくってはいましたが、修了後に労働とアーティストとしての活動のバランスが取れるのかというのはずっと不安でした。

そんな感じで悶々としていたのですが、いろいろあって今は東京造形大学の中にあるCSLABというところで、スタッフとして働いています。

まさかの造形大 7 年目に突入したわけです。
修了後は絶対この山から脱出してやると思っていたのですが 、学生の時に立ち上げから関わった組織で、大学のスタッフで関われるならいいかなと思ってやらせていただいています。


仕事の内容の説明の前に、簡単にCSLAB について説明をします。

CSLABは、2011年に造形大学内に立ち上がった組織で学生の手で「もう一つの大学」を作る、というスローガンの元、学生が自治運営をしています。

場所は元々食堂だった建物で、新しい新校舎が建ちそちらに学食が移動して空いたスペースを使っています。

活動内容は大学が展開する既存の教育とは別に、学生がその時の興味に応じて学びたい事を学ぶという事を核にして、 興味のあるアーティストやデザイナーや批評家や、を呼んでトークとかクリエーションをしてもらったり、展示とかライブとか、ゲストを呼んでゼミを勝手に作ったり、勉強会をやったり何でもありです。

また CSLAB で「知の漂流教室」という授業も企画していて、この授業には担当教授も講師もいません。
履修した学生同士で教え合ったり、ゲストを招いてレクチャーをしてもらったり、工房で機材講習をしてもらったりと、学生が 1 から授業を作るという内容で履修者はちゃんと単位を修得できます。

運営は学生が行い、毎年そのための予算が大学から出ています。
ゲスト料の他にも、学生が表現活動で使える機材などを購入するための費目や、印刷代といった費目もあり、企画や運営のための告知や広報も学生が行っています。

そこでのこやまの仕事は何かというと、学生が運営しているこの組織と大学とのパイプ役であり場所の管理人、という事になっています。番頭さんの様な立ち位置、といわれることがありますが、そんな感じです。
実際には立ち上げから関わっていることもあり、割と学生寄りで、一緒に何をしようかと話し合ったり時には企画を持つこともあります。

そもそも何のためにこんな組織ができたのかというと 。

さきほども書いたように、食堂がなくなって場所が空いた時に、学生と教員が集まってこの場所をどう活かすか、という話し合いが何度かなされていました。
その中で今の「もう一つの大学」という言葉も出てきました。
それと当時の学長が、自分の授業で学生に 1 コマ任せたら面白かったからこのやり方を正式に大学としてやりたい!と考えていたこともあるらしいです。

東京造形には 10 の専攻がありグラフはグラフ、絵画は絵画でそれぞれ仲良しですが、専攻が変わると関わる機会がなかなかありません。まして他専攻の学生が普段何を考えていて、何を作っているのかなんてなかなか見えてこないのです。
でも世の中そんなに物事はきっちり縦割りにはなっていなくて、アートもデザインも今ある問題にどうやって関わるのかというところでは一緒で、問題を発見するのか、解決案を出すのかとか、立場の取り方が異なっているだけで共有するべきことは沢山あるはずです。
CSLAB が掲げたスローガンは、そのような大学の縦割の構造に対して、そこに集まった人は誰でも互いに教え合い考える場所を作ろうといっているわけです。

ですがこの「もう一つの大学」という言葉にリアリティが無くなってきたように感じていて、ラボのメンバーで今これに代わる別の標語を考えています。本当はそれが決まってから、この記事で初お披露目を企んでいたのですが、なかなか決まらなくてみんなで考えてる途中です。


なぜ前の「もう一つの大学」が問題なのかというと、今は大学も変化の時で「大学」に対してオルタナティブな立場を取ろうにも取りずらい、というのとCSLABが続いてきたなかで学びとか学習という言葉の方がよりしっくりくるようになってきたので、そういう言葉を入れて、自分たちでもCSLABのあり方を捉えなおしていこうというのが理由です。

教員から学生へ一方向に知識の教授がされる教育よりも、そこに集まった人たちの間で考えが交換される学びがラボの核に最初からあったからだと思います。
決まったら発表しますがこやまが提案した「学びのデスロード」と「集団的学習権」は廃案になりました。
管理人といえども強行採決はできませんでした…

長々と CSLAB の宣伝をさせてもらいました。笑
そういう場所で自分に何ができるか考えて実行するのが今の仕事です。


それともう一つは、アーティストとして制作も続けています。
6 月の末に吉祥寺の ongoing というスペースで展示をさせていただいたり、10 月には大阪で展示に参加する機会ももらえたので制作頑張ろう、って感じです。

学生の時から問題にしていたことを継続して仕事にできているので、良かったとおもっています。
最初の方に書いた労働と仕事が別々になった時にバランスが取れないかも、ということは今はないです。
自分が向き合ってきた問題と継続して関わりながら、お金ももらえるのは良いことです。

同時に学生の時は見えていなかったこと、大学とか教育とかを、自分が属している、または属していたシステムをもう少し俯瞰して見えるようになってきました。
大学のシステムのいいところわるいところ、自分が無駄にした時間と有効に使えていた時間が学生の時よりはっきりわかるようになりました。
大学の学びで役に立たなかった事は特にないし怠けた分は勿体なかったなと後悔もあります。

とにかく大学の授業っていうのはすごく良くて、週一回その授業に出てれば本を自分で何冊か読む分の知識がちゃんと入ってきます。
意外といろいろな企画を先生方も立てていて、活用すればいろいろと近道ができます。
自分の場合は大学のカリキュラムの外に、CSLAB というグレーゾーンがありそこでいろいろ経験できた事がけっこう助けになりました。


大学の悪いところでは縦に割られた専門領域が、逆に学ぶことの妨げになっている部分があるように思います。
それぞれの専門領域の中で複雑になっている内容に入っていく前に、 もっと今起きている問題のなかから個々に課題を見つけていけるようにしておくべきだと思います。
それと IAMAS を見学して思ったのは設備や機材はすべての学生が使えるようにした方がいいということ。IAMAS は設備や機材が中心にあって、それを活用しつつ学生は個々の課題に向き合える環境を整えてあるように感じました。
造形大学では専攻ごとに持っているいい機材があるけれどまだ大学全体でシェアできるようになっていません。使う側にも問題はあるんですが誰の払った学費で買った物かを考えると…
たくさん言いたい事はあるのですが、このはなしはいろんな問題があるので深入りしません。笑
こういうのは職員になって大学の組織図が見えてきたときに分かってきた事も多いです。


という感じなんですけど、学生のうちから自分の仕事(労働ではなくて自分が相手にする問題)がなんだか考えて制作して 授業出てギャラリーめぐりして、ニュース聞いて、買い物とか、恋愛とかしたらいいんじゃないかなあ、いいなあそういうの、うらやましいなあ

というわけで僕は任期 3 年なのであと 2 年半くらい造形大に通います
でも最終的には CSLAB とかなくなって、え?学生が授業するとか普通だよ?という風に大学がなってしまえばいいなと思ってます。CSLAB の方法が普通になるってことです。
でもでもそうしたら、雇い主が居なくなるのでその時は手羽さん!手羽美術大学でこやまを雇ってください、ありがとうございます!

よし、手羽美術大学★開設の野望がまた一歩近づいた!

最後までお読みいただきありがとうございました!
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うーん、手羽美★職員は「学生時代はボランティア活動を頑張り、英検準2級で、サークルは副部長で、コンビニでバイトリーダーやってました」的なありがちなタイプばかりで構成したいんだよねー。
手羽より優秀だと困るから、こやまくんは遠慮させてもらうー。


CSLABは昔から手羽が注目してるプロジェクトで、こういう手法って東京造形大さんらしいなあ、ムサビじゃ「いろんな意味」でできないだろうなあと思ってて。
「いろんな意味」とは、こういう柔軟な発想の授業方法は古い大学だと取り組みにくいってのもありますが、こやまくんも書いてるとおり先生は学生さんが思ってるよりも授業展開を考えて内容を作ってるので
「学生さんの考えた内容で単位を出せる内容になるのか?単位の安売りにならないか?」
「学生さんが今は必要ないと思ってることを気が付かせて学ばせるのも大学じゃないだろうか」
という疑問もあるし、個人的には「単位とは関係ないところで動いた方が楽しくない?」と思ったり。
半分うらやましくて書いてるんだけどね(笑)
でも、今のムサビ生を見てても、CSLAB的な活動は何か「仕掛け」を用意してあげないと新たな展開は大変だろうなあ、とはうっすら感じてます。
この話はおいおいと。


「縦に割られた専門領域」というのは確かにムサビも抱える難しい問題で。
こやまくん、こんど美大職員仲間でゆっくり飲もう!
あ。相原は田舎だから都心でね。ギロッポンあたりで。



今日のまとめ
●とかなんとか言いながら、手羽美★ラボをやりたかったりして。


よし、手羽美術大学★開設の野望がまた一歩近づいた!!

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。