美大を卒業して何やってるの?第4話-ムサビ卒・helveticaさんの場合

ようやく自宅のネットが復活した手羽です。工事屋さんに聞いたら雷で近隣の家も大量に不通になってたそう。

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この「美大を卒業して何やってるの?」シリーズは、ムサビ日記時代の2007年から「久しぶりに書いてもらおうシリーズ」として続けてきた企画。
美大卒業後、一体彼らは何をし、何を思い、どんな変化が起きているのか。もしくは変わってないのか。
一年に一度、ムサビ日記・美大日記OBOGにリアルな現況を書いてもらうことで、同じ卒業生をずっと追っかける長編ドキュメンタリーにもなってます。


▼これまでの話はこちらをご覧ください。
美大を卒業して何やってるの?第1話-ムサビ卒・べべつこさんの場合
美大を卒業して何やってるの?第2話-ムサビ卒・珍念くんの場合
美大を卒業して何やってるの?第3話-東京藝大卒・zoominさんの場合

灼熱の第4話目は、ムサビ・デザイン情報学科卒のhelveticaさん。
「ヘルベチカ」さんです。

ちょっとだけ複雑な文書構造になってますんで、注意しながら読んでね。
でははりきってどうぞ!!

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「どうも、helveticaです。
2011年3月に武蔵野美術大学造形学部デザイン情報学科を卒業した26歳です。
卒業してすぐに就職できなかったので、なんとか働きたくて入った印刷会社のオペレーターを経て現在はドキュメントデザイン事務所のデザイナーとして働いています。業務はビジネスドキュメントのデザインが中心なのですが、現在は会社が出版するビジネス本の制作も手伝っています。
プライベートだと彼氏と野球を見ながら酒を飲みかわす日々だったけど最近は喧嘩して距離を置かれてるからただの干物女…」



ちょぉっと待ったあ!!
私は18歳のhelveticaよ。
さっきから聞いてみればなんて人生を歩んでるの…!
そもそも私はアートディレクターになりたくてムサビに入ったわ。原研哉さんや佐藤卓さんみたいなすごいアートディレクターになりたいの。
いまは全然モテないけど、26歳ならお母さんが結婚した年だから私も結婚してるはずだし!
なのにそもそも内定もらえないまま卒業しちゃった上にデザインを職業にしてしないブランクがあって、しかも転職したと思ったらなんかよくわかんないデザインの仕事して、しかも彼氏はいるけど喧嘩して距離置かれてて結婚どころじゃないってどういうつもり?!』


「まあまあ、落ち着いて。どうしてこうなったかは、これから順を追って説明するから。」


改めまして。どうも、helveticaです。
大学2年から卒業までムサビ日記を書かせてもらっていたOGです。
手羽さん、今回もこのような機会を頂きましてありがとうございます。

さて、たぶん「ドキュメントデザイン」という単語で引っかかる方も多いと思うので、いきなりですが補足させて下さい。
「ドキュメントデザイン」とは、グラフィックデザインの派生で「企業のプレゼンで使うPowerPointのスライドやWordで作る案内資料を綺麗にデザインしようぜ!」っていう趣旨のまだあまり普及していないジャンルです。llustratorではなくPowerPoint等を使って(←ここ大事)どこまで綺麗に整えつつもビジネスな雰囲気を損なわずにデザインするか、というのが主な業務です。
本当に大きな企業や業界を揺るがす提案書のデザインにも携わる機会があるので、ドキドキしますがやり甲斐はモリモリです。グローバル化が進行するにつれてかなり大事になってくるデザインのジャンルなので、是非覚えておいて下さいね!
ではでは、18歳の夢見る私に今の自分の姿を納得してもらおうと思います。

大志を抱いてムサビに入った私でしたが、結局自分と自分のデザインを信用できない4年間でした。
入学後に出された課題がことごとくうまくいかない事にいらだって課題の本旨をきちんと噛み砕かないで上っ面のものだけを作ったり「通学で大変だから…(片道2時間かけて通っていました)」と言い訳をしてブラッシュアップしなかったり。就活も手を動かすデザインから一歩引いたところに行こうと色んなジャンルを受けすぎて過密スケジュールにしすぎて風邪をこじらせて入院して、体力に自信がなくなったり。
かなり杜撰な学生生活にしてしまった事を後悔しています。

「ほら、こんなんじゃアートディレクターなんて無理だろ?自分でちゃんと制作を完結できないんだからディレクションもへったくれもないだろ?」

『はい、その通りです…』

そんな訳で内定が決まらないまま卒業する事になり、今まで順調に人生を進んできたつもりだった私はかなり打ちひしがれました。
しかし「とりあえず働かなきゃ!」ということで入った半ばブラックな印刷会社で、今の職業に出会うきっかけを得た訳です。
正社員にするって言う約束が最後まで口約束だったり給料が超安かったり部署によっては女性でも10時まで残業が当たり前だったりで(クリエイティブな事をしている訳ではないので単純に仕事量がおかしくて)残念にも程がある前職でしたが、きっかけをくれた事に関しては大変感謝なのです。

その会社はPowerPointやWordで作られたビジネスドキュメントを出力する機会が多かったのですが、中身を見ると
・赤や黄色の文字を使いすぎてモノクロ印刷でかすれて読みにくい(ってかPCの画面上ですら既に読みにくい)
・使っている挿絵(ピクト/アイコン類)の統一感がない上にそのデザインがダサイ
・使っているフォントの種類や大きさが無意味にアレンジされていて読んでいてイライラする

もうこんなのがザラです。レイアウトがメチャクチャでも読みづらいページ構成でもお構いなしです。
しかし「だっせぇデザインしてるな」と毒づいているうちに「そうだ、自分がデザイン会社に入ればこういう酷いものも綺麗にできるチャンスがあるじゃん!」と気付いて今の自分がある訳です。

自分の現状や与えられたものにケチを付けるより自分で環境を変えた方が早いわけですね。給与や待遇にも不満だったので、思い切ってデザイン業界に転職しようと思いました。
ただデザインはおいておくとして体力に不安があったので「定時上がり」を標榜している現在の会社に履歴書を出して「めっちゃやる気あります!!!!!」とない自信を振り絞って学生時代のポートフォリオでアピールしにいったところ内定をもらって今に至ります。

しかも何の縁かドキュメントデザインの会社。自分が毒づいていたものを「いい」と思えるものに変換していく仕事が出来るようになったのはとても嬉しい事でした。
やっぱりデザインは頭を使うのでやりがいがあって楽しいし、ダメならダメでリテイクも来るけれどもそこもお客様と一緒に作っているワクワク感があります。

それに「常にお客様が期待しているもの以上を作ろう」と思うと自然とデザインの勉強にも力が入るので、入社して1年でかなりデザインの力は上がった自覚があります。社会と繋がっている・自分が他者に開かれている実感を得る事はとても生きる上で大事だし、やり甲斐にも繋がっていきます。
“自分のベストを常に更新し、他者に開かれた自分自身を開拓する”という考え方自体はムサビで勉強をしたからこそ手に入れられたモノだと思っています。
具体的に誰から習った…というわけではないですが、周りの友人も教授始めオトナ達も常に自己ベストを目指して頑張っている姿を見てとても触発されました。

学生時代はうまくその気持ちを消化させられませんでしたが、今となってはその光景を見た経験がすごく為になっています。デザインにくくらずともどの職業も革新/開拓していく事は必要なのですが、私はデザイナーを目指して美大に入らなければこの考えに気付けなかったので、そういう意味では美大に入ろうと思った当時の私には最大限のグッジョブを送りたいです。


それから、「美大を卒業して良かった」と思った話をもう一つ。
美大だとぶっ飛んでいたり頭がおかしい(褒め言葉)奴ばかりで戸惑ったり落ち込んだりする事も多いのですが、そういう人達を多く見ているとものすごく「人に対する許容範囲」が広くなる気がします。
もちろんそういう人達と仲良くするかしないかは自分次第ですが、グループ課題が多い学科だと「おいおい」な人とも必ず組む事になるので『こういう人もいるんだな』と他では考えられないくらいの勉強になります。
というか「おいおい」な人は自我の開放を我慢せずに弾けちゃってるだけで芯がしっかりした人が多いです。表面だけ見ずに仲良くするのがオススメです。

あと、社会に出ると自我を開放させて弾けまくる事も出来なくなるし自己表現の勉強にもなるのでその人達と一緒に服とかイベントとか弾けられるところで大いに弾けるといいと思います。
で、仲良くしているうちに「人間には良いところも悪いところも同居している」という当たり前な事に気付いて他人に対する心のバリアがだいぶ軽減されます。

PARTNER webや昔の美大日記・ムサビ日記の読者層である美大受験志望の中学・高校生の皆さんおよびその親御さんは事前情報で安心しておきたい心配性な方が多いと思うので(というか自分がそうだった)、「変な奴に遭遇してもビビらない・仲間外れにしない・バカにしない」ということを美大ではぜひ実行して頂きたいと思う次第です。
そうすると案外、変な奴ほど長く一緒にバカな事を出来る友達になれたりします。
美大生はかなり自己主張が激しい人種なのでこればかりは大学で身につけられたら尚よしな感覚だと思います。

「色んな人がいるんだな」という感覚は、社会に出てものすごく役に立ちますよ。
変な話、私は歌詞に文学性の欠片もないJPOPを「マジ感謝ーyeah」とか言いながら聞いちゃう男性って大嫌いだったんですが今の彼がそんな人だと知って「うーん、まあ、そういうこともあるよねー」と流せる精神性を身につける事が出来ました。
ムサビの御蔭です!!!
でも泥酔するとやっぱり気に食わなくなって喧嘩を売ってしまう事があるのは内緒です。



とりとめもなく書いてきてしまいましたが、過去の自分に今の自分を現況報告するなれば

「大きい夢を見てムサビに入ったけど、あなたは自分の為の勉強から逃げたから夢は叶えられなかったよ。
でも色んな人に会って色んな考え方を得て、昔からは想像できないくらい人間として幅が広がった自分になっているよ」


といったところでしょうか。

昔は本当に自分の基準でしかものを見られず人に接する事が出来ず…な私だったので、そんな自分を変えるきっかけをくれたムサビには大きな感謝をしています。
これをお読みの受験生の皆さんや学生の皆さんには美大の良いところをたくさん吸収して意欲的に勉強してもらえるといいなと思います。


『…ふーん、言いたいことは何となく分かったわ。理想通り行かない人生も悪くないのね。
でもあんた、相変わらず文章を書くと長くなるのね。もうちょっとまとめられないの?』

「うるさいわね!将来のあんたはこうやって過去を長々と語って偉ぶりたがる御局様みたいな性格になるのよ、覚えておきなさい!」

気をつけて書いてはいるのですが、こういうのって書き方が難しいなと何回書かせて頂いても悩みます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
helveticaでしたー。
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去年ヘルベチカさんの久しぶり日記を読んで、「へー、ドキュメントデザインって仕事があるんだなー」と思ったもんだけど・・・えーと・・・一言言わせてもらっていい?・・・・



めんどくさいわっ!!!

あ、めんどくさい女とかそういうことじゃなくて(少しだけあるけど)、彼女から送られてきた原稿メールを引用するとね、
+++++
1)今の自分と過去の自分を対談させているので、色分けをお願いしたいです。
<昔>「~」</昔>といった形で色分けしたいところにタグ的な何かを配置しています。
お手数ですが手羽さんの方で適宜色をチョイスして頂けますか。

2)ボールドをお願いしたい部分は<b>~</b>とタグ的な何かを配置しています。

3)文字を大きくして頂きたい部分は<大きく>~</大きく>とタグ的な何かを配置しています。
大きさは手羽さんの裁量にお任せします。

4)効果をつけて頂いたあとはタグ的な何かを削除して頂けると幸いです。
+++++

なんだよ!「タグ的な何か」って!
デ情卒なんだから、htmlタグぐらい書けよ!
PARTNERは編集画面でボタン押したら色が変わったり太文字になるような近代的な仕様じゃないんだよ!(涙)
全部htmlタグ書かなくちゃダメなんだよっ!(涙)

現在原稿書いてるよい子の皆さんはマネしないでね。
・・って書くと、いわゆるダチョウ倶楽部さんの「押すなよ」的なフリになってる気がする・・。


今日のまとめ
●手羽美★ではhtmlタグの勉強を絶対にやらせる。



よし、手羽美術大学★開設の野望がまた一歩近づいた!!

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。