【美大4年生必見】手羽の卒業制作35ヶ条その3「他人の意見と屋外・共有スペース作品」

2020年1月11日(土)

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卒展出品経験と教務課時代の卒展担当経験、あちこちの美大卒展を見る趣味から、教育研究効果・美術的評価ではない視点の
「卒展ではこういう部分を気を付けるといいよ」
「卒業制作で陥りやすい点」

等テクニカルなアドバイスをまとめました。多分一番欲しているのは精神論ではなくこういう話なのかな、と。
ムサビ生向きな内容になってますが、他美大の方、また卒展以外でこれから展示を考えてる人、来年卒展の方にも参考になると思います。

これまでの話はこちら。
手羽の卒業制作35ヶ条その1「卒業制作展は卒業記念制作展ではない」
手羽の卒業制作35ヶ条その2「才能とお金と校正」


5.先生や友達の意見は大事


  • 昨年度の東京造形大学卒展風景 撮影:手羽イチロウ

卒制中・・・特に講評直前はテンパってて頭の中が混乱し、平常時とは違う精神状態になってるはずです。

手羽の卒制で最大の失敗は「友達や先生の意見を無視したこと」でした。
卒展前日にマジックで作品に文字をいっぱい書いちゃったんですよ。でも、なんでそんなことをしたのか・・・答えられないんです(笑)
みんなから「それはやめたほうがいい」と言われたけど「何言ってるんだ、こいつら。オレのセンスがわからないのか」ぐらいにその時は思ったんですよね。でも卒制終わってあらためて作品を見つめ直すと、「あああ。言う通りにすればよかった(涙)」と気が付きました。普段だと絶対にやらないのに、あの時の自分はその判断ができなかったんです。そういう精神状態でした。

自分よりも客観的にみてる友達や先生の意見に耳を傾けましょう。
恐らくその意見は正しいはずです。


6.先生や友達の意見を聞かないのも大事


  • 昨年度のムサビ卒展風景。彫刻学科の講評の様子 撮影:手羽イチロウ

さっきと逆のことを書きます。
講評で先生に「こんな作品作ってちゃダメだ!」と言われるかもしれませんが、そこで「教授みたいな年寄りに、自分の新しいセンスの作品の良さがわかるはずがない!」という気持ちも、美大生にはある程度必要だとは思ってます。

多分、教授の指摘は正しいはず。普遍的な「美」「造形」に対しての意見を発言されてるはずで、年齢は関係ありません。卒業して数年後に「ああ。卒制講評で教授が言ってたのはこういう意味だったんだな。なんであんな作品作ったんだろ(恥)」と気が付く時がきっときます。
なぜなら、手羽がそうでしたから。

でもそれでもいいんじゃないかと。「人生の学び」ってそういうもんで、学生時代に全部わかる必要なんかないんだもん。結果的にそれが恥ずかしいぐらいの失敗だろうが、その時表現したいものを表現するのが美大の学びなはずで。

また、「先生や友達の意見を聞かないのも大事」には「人によって意見が違うから」という意味合いもあります。
いろんな人の意見に耳を傾け過ぎるのも問題で、それでパニックった学生さんを何人も見てきました。突っ走るファインアート系よりも普段いろんな人に意見を聞く習慣があるデザイン系の学生さんに多いです。
「今の自分が一番大事にしたいものは何か?」というコンセプトの核部分は結局自分しかわからないので、最後は「他人の意見」としてスルーする勇気も必要。他人の意見を聞いて満足しなくても誰も責任は取ってくれません。作品の責任者は自分しかいない。


ちなみにいろんな美大の先生から「作品批評慣れしていない学生さんが増えてる」という声をよく聞きます。
以前は美術予備校で徹底的に作品を批評されて入学してきた学生がほとんどだったけど、今はAO・推薦入試で作品を批評される経験がほとんどないまま入学する学生さんが増えているからか、作品や取り組む姿勢を批評してるのに、自分の存在自体を否定されてるように感じてしまう学生さんが増えてるそう。
先生も前のような講評・指導方法じゃダメってことですね。


7.いい場所・やりたい場所がいい展示になるとは限らない


  • 昨年度のムサビ卒展風景。9号館地下展示室 撮影:手羽イチロウ

ムサビは12号館・9号館の地下展示室、9号館1階ゼロスペースなどを各学科合同の展示スペースにいしています。
いろいろ他美大の卒展を見てきましたが、学内卒展で完全な学科シャッフル状態の合同展示場パターンってほとんどなく、「ムサビらしさ」の一つだと思ってます。

これらの展示スペースは来場者が足を運びやすい場所にあり、空間も天井高もあるから人気の高い卒展スペースなんだけど、学芸員がキュレーションしてるわけじゃなく、何かテーマが決まってる展覧会でもなく、作家をセレクトしてるわけでもない学科ごちゃまぜの共有スペースなので、隣に来るのがどんな作品・作者かわからない怖さがあります。
事前に資料を見せあって、どういう作品が隣に来るかは展示学生さんたちで調整・共有してるけど、展示計画書だけじゃ見えない「作家性(人間性?)」というのもあって。


  • 昨年度のムサビ卒展風景。12号館地下展示室 撮影:手羽イチロウ

どういうことかというと、自分と同じようにしっかり作ってくれる人だったらいいんだけど、「未完成でやっつけの作品を前日に隣に置かれる」なんてリスクがあるんです。事前に見せてもらった資料と全然違う作品(ほとんどの場合は作れなくて)で、なおかつ誰がどう見ても未完成でやっつけな作品だったりするのね。
同じ学科の人だったらどういう人かわかるし対策がとりやすいし、先生に相談することもできるのだけど、他学科だと言いにくい。特にこのご時世だと。

お互い「ここでやりたい!」と言い合って譲り合わず、結果、作品が影響しあったり、引きが取れなくてちゃんと見られなかったりしたら、自分の作品も何割か悪く見えてしまう。自分の空間も大事だけど、「引きの空間」「作品以外の空間」も展示には大事で。

なおかつ先ほど書いたように、お互いが通常の精神状態ではなく、そして卒展という自分にとってかなり大事な展示だからお互いが必死。いつもなら「他の場所も考えてみた方がよさそうだな」と柔らかい発想で気持ちを切り替えられるのに、それができない状態の可能性もあります。

卒展の展示では「いい場所で作品を見せる」よりも「いい空間を作る」ことを優先すべきだと思っています。いい空間になれば自然と作品も何割かよく見える。
ごちゃごちゃして「引きの空間」が取れず、作品同士が悪く影響しあうような人気場所だったら、そこはやめて、早く違う場所を探した方がいいですよ。これほんと。


8.屋外作品は学内全体に影響する


  • 昨年度のムサビ卒展風景。7号館下 撮影:手羽イチロウ

屋外作品を大量に展示するのも、実はムサビ卒展以外ではあまり見ないケースです。
ムサビは平らな場所や吹き抜けが多かったり、建物と外との境界線が薄いことも関係してるのかな。芦原先生の作ったキャンパスグランドデザインに知らぬ間に影響受けてるのかもしれませんね。

ただ、大型の屋外作品はシンボリックな存在になるので、屋外作品がしょぼいと学内全体・・特に近くの建物の作品全体がしょぼく見えちゃうんです。意識してなくても、屋外作品ってその空間周辺を支配しちゃうので、作者の学生さんは責任がかなり大きい。

目立つ場所に置きたい気持ちはわかるけど、目立つ場所に置く以上シッカリ作ってほしいし、「3日間ぐらいで作りました」的、垂木とベニアを組み合わせたような作品は避けてほしいな、と。
逆にちゃんと作った作品が屋外にあると、「今年の卒展は良かった」と言われやすい傾向にあります。これもほんと。


9.この時期の風の強さと寒さはハンパない。


  • 昨年度の東京造形大学卒展風景 撮影:手羽イチロウ

屋外作品で忘れちゃいけないのは風対策。雨よりも実はやっかいで。
特にビル風(ムサビだと中央広場や12号館前、9号館前、2号館)はほんとにバカにしちゃいけません。私の同期が卒展で中央広場にトタンで作ったような作品を設置したら、風で1日もちませんでした。 ブーフーウーの家状態でトタンが飛んでく姿は今でも忘れらない・・・。

そして、屋外は寒い!!
屋外展示は
●室内よりも大きな作品が展示できる
●通りすがりの人も見てくれる可能性が高い。→目立つ

というメリットがある一方、卒展中、室内展示のみんなは来場者の方となごやかな空間を過ごしているのに、屋外展示組は寒くて寒くて作品のそばにはいれないし、 準備・撤収も凍えるように寒い中ずっと作業をしなくちゃいけないデメリットがあります。


10.雪は降るものと思え

これは4年前のムサビ卒業制作展最終日の写真。はい、数年に一度ムサビ卒展は大雪日とぶつかるんですよ。
ちなみに10年に一度の頻度で卒展準備・片付け期間に火事が起きてます・・・火事ダメ絶対。

屋外に展示する場合、雨対策で漏電ブレーカーつけたり屋根をつけたりは考えるけど、雪対策まで考えないことがほとんど。でも雨との違いは「雪には重みがある」「しばらく残ってしまう」ことで、数年前の大雪の時も雪の重みでつぶれてしまった屋外作品がいくつかありました。

屋外で展示またはパフォーマンスを考えてる方は雨以外に雪のことも考えておきましょ。
「雪が降ったらどうしよう」ではなく「ムサビ卒展では雪は降るものだ」が大前提にないとまずいです。想定外ではなくおもいっきり想定内の案件。


11.なんだかんだやっぱり現場百篇


  • 昨年度のムサビ卒展風景。7号館と8号館の間 撮影:手羽イチロウ

どんなにデジタル化が進もうとも、展示というアナログの世界ではやっぱり「現場」は大事。
何度も確認することで図面や机上ではわからなかったことや自分の勝手な思い込みなどが判明するはず。

典型例は「床はフラットではないし、微妙に膨らんでたりする」かな。
屋外や階段は水がたまらないようにわざと微妙に傾斜が入ってたり、中央部分が盛り上がってたりします。
普段は全く気にならないし、小さな展示台ぐらいじゃ影響は少ないんだけど、ある程度大きな作品を設置してみて初めて「ん?傾いてない?」「フラットじゃないじゃん・・」と気が付くことがよく起きるんです。特に屋外では。図面ではほとんどわからないし、「床は水平・平らだ」という思い込みもある。

レーザー水平器を使って完璧な水平垂直を出して作品を壁に掛けても、壁面の形状・模様・色味・周辺のモノで傾いて見えることはしょっちゅう。建物自体がゆがんでる可能性もないことはない(ムサビの場合は可能性大・・・)
「水平器を使って水平に設置しているんです。傾いて見えるだけです!」と言い張るのは意味が無く、傾いて見えるんだったらそれは間違いなく「傾いてる作品」。最後はなんだかんだ目で確認するしかなく、微調整できる素材や道具、構造を考えて置いた方がいいです。これも「現場」。

その他だと、人がいっぱい通りそうだからと通路に展示してみたら、実は昼休み時間以外はほとんど人が通らず、「あ、考えてみたら自分もここ通るの昼休み時間だけか・・」とかね。

そうそう。
自分も去年の夏まで知らなかったのは、

「9号館1階ゼロスペースは時間帯によって照明の明るさが自動的に変わってる」ですよ。
東工大×ムサビ合同ワークショップ2019のスポンサーについてくれた(株)モデュレックスさんがゼロスペースの照明を担当されてるんですが、その時に初めて光のコントロール制御がされてることを知りました。
こちらにも書いてあります。
教育施設 [武蔵野美術大学 ゼロスペース] | 受賞対象一覧 | Good Design Award

そう言われてみたら、

確かに朝と夜じゃ光が違う・・。
ゼロスペースに終日いることがないから気が付きにくいってのもあるけど、毎日見てるのに言われるまで気が付かなかったのは「部屋の照明の明るさは固定されてる」という思い込みも大きいですよね。
展示準備期間に入り1日ゼロスペースにいて「・・あれ?光線の感じが朝と夕方で違くね?」と気が付いた学生さんも多いんじゃないかしら。
ここで「展示してるんだから光を固定しろ!」と言うか、デザイナーのコンセプトを理解して、その光の変化を取り込むか・・多分後者の方がいい作品になるんじゃないかと。



なんで手羽が屋外・共有スペースの作品のことばかり書いてるかというと、手羽の卒業制作が屋外展示だったんです。
屋外展示って、設置が大変なわりには、寒くて作品のそばにいることができないから見に来てくれた友達とも会えなかったし(当時はスマホもなかったし)、芳名帳をおいても風で飛んでいくし、寒いからみんなじっと作品を見てくれず通り過ぎちゃうしで、いい思い出があまりありません・・。
手羽は大型作品だったんで外に展示するしか選択肢はなかったんだけど、「目立ちたいから屋外に作品を置きたい」ぐらいな理由であればやめた方がいいですよ・・経験者として・・。

ただ上述したように、屋外に大きな作品がビシっとあると大学全体の展示が引き締まります。寒くて大変だけど、ぜひ立派な屋外作品を置いてほしいっす。


続くっ!!!

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。