義弟はビーガン(完全菜食主義者)でフェミニスト

フェミニズムというと、女性だけに有利な思想と考えがちです。しかし、フェミニストと名乗る人たちは女性ばかりではありません。今回はビーガンでフェミニストの私の義弟から、「男性にとってのフェミニズムのメリット」について話を聞きました。日本ではまだまだ珍しいビーガンの話、そして「オシャレな」スウェーデンのフェミニスト党の話も交えてお伝えします。

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アクティブな義弟を紹介します

私のスウェーデン人夫の弟、つまり義弟のヨハンは、ビーガン(完全菜食主義者)でフェミニスト。34歳、A型、環境エンジニア。
私の夫とは体型も性格も正反対で、普段はなかなか寡黙なミステリアス男子なのですが、並外れた行動力には常に驚かされています。
趣味は、マラソン、トライアスロン、ダイビング、そしてアウトドア全般。10km程離れた職場へも毎日自転車で通っています。
旅行好きで、今まで訪れた国はなんと54カ国!今年の冬はミャンマーを含めアジアに5週間滞在したのだそう。言語にも興味があって、英語、スペイン語が堪能。日本語習得のために半年間日本に住んでいたこともありました。

スウェーデンの美大生はベジタリアンが多い!

まず、ヨハンにビーガンになった経緯を訊きました。

ヨハン(以下 J)「16歳の頃に、ネットで出会った友達がビーガンで、その子からの影響で動物の権利について興味をもち始めたんだ。動物性の食べ物を摂取するのを止めたのもその頃かな。」

ビーガンとは、肉や魚、そして卵・乳製品を摂らず、また蜂蜜、シルク、ウール、革などの動物性の素材も着用しない、あらゆる動物製品の消費を忌避する人たちを指します。

私がスウェーデンに来たときにまず驚いたことが、ベジタリアン(菜食主義者。卵・乳製品の摂取の有無は問わない)が多いことでした。特に美大生は、半分以上がベジタリアンなんじゃないかと思わせるほどで、寧ろ肉を食べる人の方が少ないくらいでした。

ベジタリアンになる理由は人それぞれですが、動物愛護、健康の保持、地球環境の保全などのために、ベジタリアンという選択をする人がほとんどです。食肉のための動物の飼育は、膨大な温室効果ガスを排出し、また深刻な食料問題も引き起こしています。美大生たちの多くが、ダイエットなどの目的ではなく、普段の食事が地球環境に影響していると自覚してベジタリアンという選択をしていることに、当時の私はまさに脱帽したのです。


  • photo by Laurence Vagner

スウェーデンのレストランでは、必ずベジタリアンメニューがありますし、スーパーでも肉、乳製品、蜂蜜の代替食品が売られているので、初心者でもベジタリアン/ビーガン料理を簡単に作ることができます。
日本でベジタリアンというと、厳格で食べ物のチョイスがなく、敷居が高いイメージがありますが、こちらのベジ料理はアイデアやバラエティーに富んでいます。肉や魚よりも美味しいという理由でベジ料理を食べている人(私です)もいるくらいです。


ビーガンになるのは難しい?

ただベジタリアンが多いスウェーデンでも、ヨハンのように徹底しているビーガンはとかく珍しく、私も初めてヨハンに会ったときには、こんなに食べるものが限定されていて、さぞかし大変だろうなと思いました。ヨハンにビーガンになって困ったことがあるかと訊いたところ、

J「いや、ビーガンになって良かった、と思うことばかりだよ。インターネットなどでビーガン同士でレシピやレストランの情報も交換できるから食事に困ることもないよ。今の研究ではビーガンになると癌や心臓疾患、骨粗鬆症になるリスクが減ると言われているしね。あと、食事のときに『これを食べたら地球の環境に悪いかも』ということも考えなくていいんだ。食べるものにあれこれ迷わなくていいしね。シンプルが一番!」

確かに、この牛肉は英国産で、熱帯雨林を破壊した畑で作られた大豆を飼料としているかもしれない、など考えていると、食欲よりも不安が増しそうです。

そんなヨハンでも日本に滞在したときにはかなり苦労したそうです。外国人の中には、精進料理などのイメージから、日本でベジタリアンの食品を探すのは簡単と思っている人も多いのですが、目に見える動物製品は避けられても、スープの出汁に肉や魚が使われていることが多く、日本ではベジタリアンが外食しようとすると選択肢が狭まってしまうのが現実です。
植物性だと思われているマーガリンでさえも、日本のスーパーで売っているものは、植物性の油に乳製品が加えられているものがほとんどで、ヨハンが日本に滞在していたときはインターネットで特別に完全植物性のものをオーダーしていました。
ただヨハンがビーガンになった18年前は、スウェーデンでもビーガンとして生活するのは大変だったそうなので、これから日本でも少しずつ意識が変わっていけば、もっとベジタリアン/ビーガンとしての生活が身近なものになるかもしれません。


オシャレな政党、「フェミニスト・イニシアティブ」


  • photo by Mimika Kirgios


その後、動物の権利を尊重する考えから、人権問題についても関心を寄せたヨハンは、次第にフェミニズムの思想にも興味をもち始めました。
「人間なら誰でも平等な権利をもつべきだ!」と強く感じたヨハンにとっては、とても自然な流れだったそうです。そして後に大学に入り、実際にフェミニストとしての活動を始めていきます。

2005年に発足した団体「フェミニスト・イニシアティブ」は、ヨーロッパでも珍しいフェミニスト政党で、主に、男女の平等、差別撤廃、経済格差の縮小、武力行使の禁止をマニフェストとして掲げています。
発足した当初は、政党ではなく圧力団体で、小さなフェミニストグループでした。大学生だったヨハンはそのグループの会合に参加し、フェミニストの社会活動がどういうものなのかを学びました。
フェミニスト・イニシアティブが発足された当時、世論の反応はかなりネガティブでメディアでも相当叩かれたそうです。

しかし今となっては、フェミニスト・イニシアティブは誰もが知る政党になり、そのキャッチーなピンクのシンボルカラーは、多くの若い支持者を惹きつけています。特に次世代ヒップスター「YUCCIE(Young, Urban, Creativesの略 / ヤッキー)」と呼ばれる、都会に住む知的でクリエイティブな人々が、フェミニスト・イニシアティブを強くサポートしています。私の周辺でも、選挙前になるとアーティスト、デザイナーの友人たちのFacebook投稿がピンク一色になるほどです。


男子だけどフェミニスト

さて、ヨハンの話に戻ります。ヨハンが大学を卒業して少し期間をおいた後の2012年、環境エンジニアとしてキャリアを積んだヨハンは、フェミニスト・イニシアティブの環境担当グループに所属し、具体的に活動に参加しはじめました。主に環境問題に関するマニフェストに対して助言をする役割です。
そして2014年には、念願叶ってフェミニスト・イニシアティブのEU連合の議会入りが決定しました。フェミニスト党として欧州議会で議席を勝ち取ったのは、歴史上初めてという快挙だったのです。
前回の国政選挙においては、残念ながら議席獲得を逃しましたが、今も確実に活動の規模を広げている注目すべき政党です。

ところで、男性であるヨハンがフェミニスト、というと少し違和感を感じるかと思います。正直、フェミニズムって女性に有利なことの方が多いのでは?という疑問をヨハンにぶつけてみました。

J「フェミニズムの思想は、男性にも『自由』を与えてくれるんだよ。男性も『男性らしさ』という偏見に縛られていることって多いと思うんだ。男だから弱音を吐くなっていうのもそう。友人と話す代わりにアルコールに依存してしまう男性も多いからね。男性も人とオープンに話せればもっとラクになれると思うんだ。」

確かに私たちは日頃から、女性らしさという概念と同じように、男性に対しても「男性はこうあるべきだ」という考えを押しつけています。「男の子なんだからしっかりしなさい」という言葉を子供の頃から幾度となく聞いてきました。
例えば、女性なら家事が苦手だとか、男性なら力仕事が苦手だとかは、世間でマイナス要素として扱われることが多いですよね。性別が逆であれば、特に非難もされないであろうことが..... 女性も「女性らしく」、男性も「男性らしく」なる必要がなくなれば、より「自分らしく」生活することができるはずです。

そういえば、ヨハンも何年か前に手編みのマフラーを夫にプレゼントしてくれたのですが......

J「あの時はちょうど編み物にハマっていたんだ。女の子がやっているのを見て、自分もやってみたいなぁって。男なんだからっていって、やりたいことをができないのは勿体ないと思うな。」

女の子だからピアノ、男の子だからサッカー、というような男女の固定概念を、私たちは子供の頃から植えつけられています。心から興味があれば問題はないのですが、男女の枠組みにはめられて選択肢が狭まることはとても残念なことです。趣味も然り職業も然り、性別に関係なくチョイスを広げると新しい発見もあるかと思います。
現在のスウェーデンでは、女性のバスドライバーを見かけることも、保育士さんや看護士さんが男性であることも珍しくありません。それが日常になってしまうと、特に違和感などなくなってしまうものです。つまり、それだけ男女の固定概念というものが、根拠なく世間にまかり通っているということなのです。

J「歴史的に馬は男性の乗り物だったけれど、今となっては乗馬を趣味とする女性が多いでしょ。そうやって、これからも男女のステレオタイプを変えていけるんだって信じているんだ。」

普段、家族の団欒の中でこういった自分の意志を主張することはないヨハン。今まで謎めいていたヨハンから話が聞けたことは、新しい家族の一員である私にとっては貴重なことでした。そして、今後のヨハンのフェミニストとしての活動がとても楽しみです。
私も新米フェミニストとして、大工仕事が苦手な夫を咎めるのをやめにします!


➜FEMINISTISKT INITIATIV http://feministisktinitiativ.se/

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OTONA WRITER

HIROKO TSUCHIMOTO / Hiroko Tsuchimoto

1984年北海道生まれ。ストックホルム在住。武蔵野美術大学卒業後、2008年にスウェーデンに移住。コンストファック(国立美術工芸デザイン大学)、スウェーデン王立美術大学で勉強した後、主にパフォーマンスを媒体に活動している。過去3年間に、13カ国52ヶ所での展覧会、イベントに参加。昨今では、パフォーマンスイベントのキュレーション、ストックホルムの芸術協会フィルキンゲンで役員も務めている。