美大受験生の疑問にお答えする恒例の「#美大受験」シリーズをお送りしてます。
#美大受験では、ムサビまたは関東美大の一般入試(AOや推薦入試じゃない入試)を具体例で使うことになりますが、基本的にはどの美大受験にも参考になるはずです。
これまでの話はこちらから▼
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■コロナ対応の入試変更点は重要な情報だから、マメにチェックしよう
■ムサビの実技試験で絶対に忘れちゃいけないものを1つ断言します
*間違った情報を書いている可能性もあるので、募集要項等大学公式情報で必ずご確認ください。
今日はムサビは版画・視デ、タマビが日本画・工芸・環境で、東京造形が彫刻と実技試験者数の多い日だから、美大入試の最大の特徴である「実技試験」について書きます。
去年一般入試が行われた段階では2020年はオリンピックが行わるはずだったので、タマビのグラフィックデザインとムサビの基礎デザイン学科ではスポーツに関する出題がありました。今年もスポーツネタが出題されるのが気になるところですが、そんなことを予想しても仕方なく、手羽からのアドバイスはたったひとつです。
問題文をちゃんと読もう。
はい、終了。おつかれさまです。これだけ言えればいい。
・・え?「それって学科試験のアドバイスじゃないの?!」ですって?
とんでもない。これほど実技試験で超実用的で、即効力があり、簡単に得点を稼げる方法は他にないっすよ。
これには2つの意味があります。
一つ目はそのまま、「よく読んで条件をちゃんと踏まえないとダメ」という意味。
例年、ムサビ視覚伝達デザイン学科や基礎デザイン学科、デザイン情報学科等の試験は問題文に「条件」「設定」が多く書かれてます。これをよく読まないと出題意図とは全然違うものになってしまうことがあるんです。
去年の視覚伝達デザイン学科を例にすると、
「これまで経験した『におい』のイメージを配布されたモチーフの素材感を生かしつつ色彩構成しろ」って問題。しかし、これを考える時間含め3時間でやらなくちゃいけないってすごいよね。実技力だけじゃなく出題者の意図を読み取る読解力も必要な、さすが視デというかほんと難しい問題だと思います。
で条件を見てみましょ。
条件は7つありますが、その中に「答案用紙は横長で使用すること」と書いてあります。
これを読み飛ばして縦長で使用しちゃったらアウト・・というわけ。
でも毎年視デのデザインは横位置指定なので、過去問をやってる人なら横位置でそのまま描くだろうけど、逆に突然今年「縦長に使用しろ」と書いてあったら・・かなりの人は読み飛ばしちゃうんじゃないかしら。
これが「問題文をよく読もう」の意味です。
ちなみにムサビ実技試験でよくあるのが条件に「裏面に画面の上を示す矢印を描きなさい」と書いてあるケース。
備考ではなく「出題条件」にある以上、天地矢印を書いてなかったら減点対象の「課題違反」になる可能性があります。
あ、課題違反の場合、よほど悪質なものじゃない限りは0点になるわけではなく減点・・と思われます。多分。
机上静物モチーフだと天地矢印はいらないんじゃないかと思ったりもしますが、「条件」に書かれてる以上問題文の一つです。
「問題文の『条件』をよく読む」とはそういうことでもあります。こんなことで減点されるのってほんともったいないし、悔しいですよね。
2つ目を説明する前に、まずこの単語を解説しないといけません。
「モチーフ」という言葉です。
美大受験用語としての「モチーフ」は主に2つの意味があって、1つ目は「絵や彫刻で再現される観察される対象」。これを「デッサンあ」とします。
2つ目が、「題材や動機」という意味。
違う単語だと「テーマ」「きっかけ」あたりで、あくまでもそこに存在するのは「きっかけ」であり、そこからどう発想を展開させたかを見るもの。これを「デッサンい」としましょう。
では具体例を見ていきます。
まず去年の版画の試験「デッサンA」。
ガラス・紙・植物など異なる質感・色・形態のものをモチーフにし、紙は紙らしく、ガラスはガラスらしく「質感・量感を描き分けできるか?」「画面にバランスよく納めているか」「形がちゃんと取れているか」「調子・陰影を把握してるか」等を見る試験。
「目の前にあるものをじっくり観察してそのままを描く」オーソドックスな問題で、多くの方になじみのある、すぐに想像できる美大入試らしい「モチーフ」の意味はこれじゃないかと。完全な「デッサンあ」。
で、次に版画の「デッサンB」。
「エアキャップと手を自由に組み合わせて描きなさい」という問題。
そのまま与えられたモチーフを描くだけじゃなく、構成力やイメージ力が問われており、空気を持った透明なエアキャップという素材からどんなストーリーを思いつくかも見られています。
「デッサンあ」寄りだけど「デッサンい」の要素がかなり入ってきてますよね。
ちなみに今年からデッサンBは廃止され、新たな試験科目として「イメージ・ドローイング」が新設されました。詳しくはこちら。
■2021年度一般選抜 油絵学科版画専攻 専⾨試験科⽬「イメージ・ドローイング」の新設について
そして油絵専攻の油絵試験です。
この「自由に」が超クセモノで。
目の前にモチーフが組まれてるのでつい 「見たまま」を描いてしまいそうですが、「自由に」から「目の前のものは『きっかけ』でしかなく、現象や印象を自分なりに整理し解釈し発展させ、それを自分なりに再構成して自由に表現しなさい」と言われてるんですね。
参作をみてもらうと意味がわかるはずで、よくもまあ、同じモチーフであれだけのアイデアが思いつくもんですよ。
この「自由に」を読み飛ばしてしまうと、たったそれだけなのに出題意図から離れてしまい点数が下がる、と。
というわけで、「問題文をちゃんと読もう」の2つめの意味は「問題文に隠されたヒントを探し、そこから自分なりに発想を広げよう。」。
言い換えると、一つ目は「趣旨から離れないため」であり、二つ目は「どこまで離れられるかを探るため」。
逆にどうにでも取れる問題文はどう解釈してもいいはず。
「配布したモチーフを加工するな」と書いてなければ、折ろうが曲げようが自由で、むしろ出題者の想定を超える作品を作ってほしい、という意図があるはずだから、そういう時はふりきっておもいっきりやっちゃってください。・・責任は取りませんが(ぼそっ)
20年前ぐらいの日本の美大は大量の受験生を手っ取り早く絞るために「いかに石膏像をうまく描けるか」「短い時間で手をそっくりに描けるか」等がポイントにありましたが、今はそれとは違った能力も見る方向になってきてます。
典型例がムサビ工芸工業デザイン学科の「構想力テスト」で、なんせ去年の出題は、
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「心地よい」をテーマに物をデザインし、提案しなさい。
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で、採点基準が「考察力・新規性・論理性・デザイン性・表現力」と一昔前の工デでは考えられない出題なんですよ。
そう、実技入試はこう考えた方がいいです。
「最初の課題」
「教員からのメッセージ」
「この出題をあなたはどう解釈し、表現しますか? → 私たちはそれを理解できる(超える)人材が欲しいんです → そういう人のためのカリキュラムを用意してますよ」なメッセージが込められ、そのまま3つのポリシー(アドミッション・カリキュラム・ディプロマ)になってて、どういうことを大事にしてる学科なのか一番手っ取りばやくわかるのが実技試験なんです。
大学関係者にわかりやすく書くならば、学校会計的にオープンキャンパスなどの経費は管理経費だけど、入試のモチーフ購入費は教育研究経費で処理されます(笑)
美大・・特に東京の美大実技試験では、読解力、発想力、観察力、描写力、表現力、瞬発力、持続力、価値創造力、ストレス耐性、課題発見・解決力、体力がそこで問われます。
某所では「これからの人材は思考力・判断力・表現力が必要で、入試は暗記型から多面的・総合的評価に変化するべきだっ!!」と騒がれてますが、とっくに美大では実技試験でそれをやってるし、それ以上のことをやってるんですよね。
私達からすると「何を今更言ってんの?」で、文科省の人は有名理工系大学じゃなくて、ムサビやタマビの入試を参考にすればいいのになあ、と割と本気で思ってます。
以上、2月2日が誕生日だった手羽がお送りいたしました。
20代の手羽が想像してたこの年齢は、デブハゲで、ドーンと偉い席に座ってほとんど仕事をしていないイメージだったのに、なんか違う。いつ違う世界線に来ちゃったんだろう。
【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。