武蔵野美術大学 デザイン・ラウンジは、「デザインの実証実験の場」をコンセプトに活動しています。
「デザイン」はグラフィック・プロダクト等「モノ」のイメージが先行してるので、「デザインってそれだけじゃないんだよ。いろんな可能性・使い方があるんだよ」を伝えるための実証実験というか。
ラウンジWEBサイトも単なる情報発信ツールではなく、毎年RaNa extractiveさんと考えながら実験的なコンテンツを入れるようにしています。
例えばこちら。
■D-LOUNGE Geography
ラウンジのイベントアーカイブを地層のように積み重ね分析することで、未来のデザイン領域と、将来的に今後デザインの領域で必要になるスキルの傾向などを予測しよう、というもの。
さすがに6年分なのでだいぶ地層が高くなってきました。
「集合知」的な発想だと、
■デザインのベクトル
個人の判断とその全体量を分析することで、世の中の向かうべき方向(ベクトル)の可視化を目指したプロジェクト。ちなみに今週のお題は「支払いは現金派?」です。
手羽は基本現金派だけど、それでもカードで払うことが増えてきた。
で、ラウンジWEBはサイト内検索ができなくて不便だったんすよ。その機能をつけるようにお願いしたら、いつのまにか
■模索エンジン
自分に合った結果を教えてくれるのではなく、自分では考えなかった可能性を提示してくれる検索窓がついてた。ただではすまないラウンジのサイト(笑)
こんな感じでRaNa extractiveさんとの共同プロジェクトという形でやってきています。
はい。ここまでが前置き。相変わらず長くてすいません・・。
そして、この7月からローンチされたのがこちらのプロジェクトなのです!
■Polydesign
「デザインの対象はモノだけではなく、サービスだったり、発想だったり、言葉だったり、いろいろあることを知ってほしいよね」というブレストから生まれたのがこのPOLYDESIGN。
今まで少し研究寄り・人間行動学的な感じだったので、今回は「いろんな」デザインを誰もが参加できて触発・共有しあえる実験プロジェクトを目指しました。
記念すべき初回は「ほどよさのデザイン」として、お題は「新しい『頑張れ』を考える」です。
つまり「新しい言葉をデザインしよう」ってことですね。(2回目までは「言葉探し」になるはずです)
実は・・・「『頑張れ』に代わる新しい言葉」は、そのブレストで「例えば、こういうこと?」と出したアイデアがそのまま初回のお題に採用されまして(笑)
これ、手羽が2008年からずっと考えてることなんですよ(昔からブログをご覧になってる方はご存知かと)
それは2008年1月の産経新聞に出てた宮川大助・花子さんのインタビュー記事を読んだところから始まります。
■自身の闘病を糧に夫支えた花子さん「努力と無理違う」
39度の熱でも漫才の練習をずっとするのが「無理」で、大助さんが毎日2回血圧を自分から測るようになったのが「努力」ということが書かれています。無理を努力と勘違いしがちだけど、無理と努力は別物だってことに気づかされ、当時「いいこと言うなー」と感動しちゃって。
今語られている熱中症のこともこれに当てはまる気がしてます。「暑さをなんとかする努力は必要だけど、無理をする必要は全くない」と考えれば議論すべきポイントがもう少し整理されるような。
ところで、「頑張ってる人に『頑張れ』と言っちゃいけない」と10年前ぐらいから言われるようになりましたよね。「『頑張れ』は命令形。頑張ってる人にこれ以上命令するのか?それは自己満足にすぎない」と。
カウンセリング的にもその通りだし、重々理解してるんですが、なんとなく違和感がずっとあって。はたして全部が全部そうなんだろうか。皆さんも昔よりも「頑張れ」と言いにくくなって、内心少し不便に感じてたりしません?
で、この花子さんの話を読んで、「無理をしてる人に『頑張って』と言っちゃいけない。でも努力してる人には『頑張って』と応援してあげた方がよくね?」という解釈ができることを思いついたのです。
「努力になるように無理をしてる人」もいるので全てがあてはまるわけではないけど、やっぱり素直に努力してる人へ「頑張って」と応援したい。自己満足と言われようとも。
ただ、「頑張れ」がその意味だったり命令形であること以上に、「ガンバレ」という音圧が相手に威圧感を与えるんですよ。
それは恐らく
●「ガ」というかなり強い音が入っている。
●「ガン」というあまりいい印象を与えない言葉が含まれている。
●濁音が短い音節に2つも入ってる。
ことが関係してるんじゃないかと。やっぱり言霊ってある。
ラーメンズの日本語学校ネタだけど、例えば「大東文化大学」さん。
全ての音節に濁音があり、なおかつ1単語に「ダ」が2つと「ガ」が入ってるからかなり強い印象を受けます。実際に口に出していってみてください。
ダイトウ ブンカ ダイガク!!
自然とビックリチョンマークを後ろに2つつけたくなる。「大東文化大学ゼット!!」と水木一郎チックに大きな声で叫びたくなる。「ガシーン、ガシーン」と巨大ロボット的ななにかをイメージしたくなる。クレヨンしんちゃんのカンタムロボをイメージしたくなる。ロケットパンチぐらいは出せそうな(略
それに比べて「ムサビ」ね。
●「ム」が柔らかいイメージ
●「サ」は細い感じ
●「ビ」は抜けてる感じ
●「むさい」「ムササビ」に音が似てる。
ので、ダイトウブンカダイガクにはかなり迫力負けします(笑)
でも、もしこれが濁音を増やした「ムザビ」だったら、もう少し力強いイメージになりません?「ボール」から「ザクレロ」ぐらいの強さへの変化。
「タマビ」も「タマ(玉)」を連想させるからフワフワ優しいイメージを持つけど、「ダマビ」だったらなんかゴワゴワして強そう。ゴワゴワが強いのかよくわからんけど。
つまり、「無理と努力は違う」という情報の整理と同時に、なおかつ「頑張れ」に変わる新しい言葉を開発できれば、いろいろな問題がクリアになるんじゃなかろうか、それが発想の原点です。
頑張れの代わりに「ゆっくりでいいんだよ」「無理しなくてもいいんだよ」でもいいけど、もっと一言で言えるような言葉を作りたい。できれば、無理をしてる人にも努力してる人にも共通に使える単語だったら何かと便利。
そこで手羽が提案してるのが「かんぱ~れ」です。
濁音取って、半濁音を入れるだけでずいぶん「人を追い込んでる感」が緩和されます。「頑張れ」の音感は残しつつ、「乾杯」「アモーレ」に寄せてるから祝福感もある。試しに使ってみましょう。
かんぱ~れ!ニッポン!
無理して頑張る気がしない上、説明なくても祝福・応援されてる気がしませんか?
これの優れてるところは、「がんばれ!ニッポン!」は日本オリンピック委員会が商標登録してるので販売グッズなどでは使えないけど、ニュアンスは同じなのにそれを回避することができるのですっ!!
・・・え?逆にバカにしてるように聞こえる?・・・そうかもしれない・・・ま、慣れでなんとか・・。
この「ガンバレと言っちゃいけない」問題を、「言わない」というある意味ネガティブな解決方法ではなく、ルールの隙間をついて前向きに解決できそうな「プロトタイプ」をどんどん試作し、「ブラッシュアップ」「検証」していくのがデザイン思考的アプローチなのかな、と。
あ、デザイン思考といえば、先日
■【暫定版】「デザイン思考」が学べる日本の大学
という記事をUPし、文中で「昔から美大のデザイン系学科がやってることと何が違うんだ?」と書いたところ、第4回X デザインフォーラムでお世話になった専修大学・上平先生からコメントをいただきました!
・・・・・
「デザイン思考」で真摯に葛藤されている姿がなかなか素晴らしく(笑)、ご参考になればとメッセージ致します。
「デザイン思考」が美大となにがちがうんだ、という問いはもっともです。デザイナーは普通にデザインすればよくて、デザイン思考というのは「非専門家が、デザイン的に考える」という意味だと解釈しています。
基準となるのは「学位」かと思います。本家スタンフォード大のDスクールは、医学とか主専攻を他に持っている大学院生が学ぶ場で、プロダクトデザイン専攻の学生は含まれてません。デザインの学位は出さないそうです。それぞれの分野にデザインの考え方を持ち帰ることを前提としているんですね。
ですので、デザインを専門とする学位を出すようなところは、「デザイン」そのものを学んでいると思いますよ。千葉工大とかIAMASはそうですね。
以前、ベンチャー向けのトークで使った資料です、参考になるかもしれません。
http://www.ne.senshu-u.ac.jp/~cd/files/venture_cafe_2018_0406.pdf
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PDFまで教えていただきありがたやありがたや。手羽ももっと勉強しないと。
てなわけで、皆さんも「頑張れ」の代わりに使える、相手にプレッシャーを与えない、応援の気持ちを伝える一言を考えてください!
【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。