農業カメラマン 網野文絵
山梨県出身。玉川大学農学部生命化学科卒業。大学時代は写真部に所属。卒業後は「農業カメラマン」として活動中。国内に問わず、海外の農作物事情を知るため自ら出向き、一身に農業の今に迫る。
こんなこと人生で初めてで
—2018年6月6日(水)から17日(日)までの約2週間、表参道での人生初の個展が決まったとのこと、おめでとうございます!
網野さん:ありがとうございます!(照)
—そのきっかけになったのが、約1年前に取材させていただいたこのPARTNERの記事だったということで、取材させていただいた身としても大変嬉しい展開ですが、詳しい経緯を教えていただいてもいいですか?
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網野さん:インタビュー記事を、たまたま公益社団法人日本写真協会の東京写真月間実行委員会の方が見つけてくださりました。個人のポートフォリオサイトを持っていなかったのですが、本名でやっていたSNSから直接メッセージをいただいて。本名で活動してよかったと思いました(笑)
実は、日本写真協会ときちんと名乗っていただいたものの、はじめはあまりに突然すぎる個展開催のご提案で、怪しいと思いお返事をためらっていたんです。しかし、まずは詳細なことを聞いてみないとわからないと考え直し、恐る恐るご担当者さんとやり取りするうちに、きちんと対面でお会いして主旨をご説明いただくことになりました。「これは詐欺ですか?」とまで、電話口で聞いてしましました(笑)
—喜びの前に、驚きと恐怖が同時にきた本当に急な展開ですね!(笑)
網野さん:はい。こんなこと人生で初めてなので…(笑)
ご担当者の方と直接お会いした際、日本写真協会が主催する『東京写真月間』が「毎年、6月1日の“写真の日”の啓蒙として東京写真月間では日本と海外の写真文化を広く紹介し、写真を通じた文化交流を行なっている」こと、そして、「今年は“農業文化を支える人々”という企画展」であるということをお話しいただきました。
—東京写真月間のことは知っていましたか?
網野さん:写真家であれば、内閣府の傘下である日本写真協会を知っていて当然なのかもしれませんが、お恥ずかしながら全く知らなかったのです。さらに、ご担当者さんから「実は半年前から網野さんの活動を追いかけていて、社内の企画展プレゼンテーションでは『是非今年のテーマで網野さんを起用したい!』と、勝手にご紹介させていただいていたんです!」と熱い思いまで語っていただきました。それでも私が信じなかったので、運営副委員長の高橋延明さんにもこの企画展の意義をご説明いただいたり、ギャラリーにも直接お招きいただいたりなどして、やっと実感が湧いてきたところで個展に挑戦することに決めました。
—網野さんの疑いっぷりに驚きが滲み出てますね(笑)。約一年前の取材から、活動や気持ちの変化はありましたか?
網野さん:自ら「農業カメラマン」と称したのが同じく一年前。会社の業務として撮る野菜の商品写真とは違い、個人の視点で農業シーンや野菜の面白いところ・可愛いところ・意外なところを撮るようになりました。
そう思うようになったのは、実は引っ込み思案な私を支えてくれた「地域の先輩」である渡邉辰吾さんの存在が大きいです。渡邉さんは、私が勤める種苗会社とは程遠い、元々博報堂のご出身で現在は「デンキのミライにワクワクする」というというビジョンで、様々な電気の可能性を追求する株式会社ソウワ・ディライトの社長さん。そんな方が自分の写真を気に入って、お声がけくださったたことに驚きと感動がありました。今まで自信がなくて写真を公に発表したことがなかったのですが、やってみたいと思っていたことを行動に移す自信を持たせてくださった恩人です。渡邉さんとの出会いから、自分自身で具体的に行動してみようと意識が変わりました。
生産者さん一人一人が作る野菜のストーリーを表現したい
—「地域の先輩」というアドバイスをしてくださる存在がいる環境はとてもありがたいですね!商業写真だけでなく、個人の視点で農業シーンや野菜の魅力を写真に収めたいと思ったのはどうしてだったんですか?
網野さん:会社では主に商品写真を撮っているので、野菜の生産者さんに「美味しそう!」と思われる商材写真が求められます。畑に行って、野菜を洗い、品種の特性がでている野菜を綺麗に並べて撮影をするんです。これは自分自身が野菜を育てる立場から考えても、必要な素材だと理解しています。しかし、私は農家と消費者をつなぐ役目を果たすには、それだけでは足りないと思っていました。そして生産者さん一人一人が作る野菜のストーリーを表現したいと思いました。
もちろんこのような個人的な活動をしようと思ったきっかけを与えてくれたのは会社の仕事。その必要性も理解した上で、写真を通じて個人の思いも表現したいと思う気持ちが強くなりましたね。
そういった気持ちの変化もあり、自分が実際に見て心が踊る瞬間を撮るようになりました。農業って汚い・大変…など、あまりいいイメージを持たれないかもしれないのですが、実は面白かったり可愛いシーンがたくさんあるんですよ。
—具体的には野菜の面白いところ・可愛いところ・意外なところとはどういったシーンでしょうか。
網野さん:例えば「ネギネギチェック」。ネギを収穫、そして出荷する際には、効率よく土を落として袋詰めしなければならなくて、3つずつ縦と横に並べて積み上げるのですが、これをネギネギチェックといいます。私が勝手に名付けました(笑) 農業に関わったことがない人間にとってはアートに見えるけれど、これは農家さんか効率よく作業を進めるために編み出した技。そのギャップがとても面白くて、他にも色々な農業シーンを撮るようになりました。
—本当にアートのように綺麗に並んだネギですね!他にはどんなものがありますか?
網野さん:「ハートが見つかるネギ」とか。この仕事をするようになってから、いろいろな角度からネギを見るようになりました。知ってますか? 束ねられたネギを真上から見ると、ネギの形がハート型に見えることがあるんです。たまにしか存在しないのでウォーリーを探せのような気分で探して、見つけた瞬間はその喜びを写真に収めたりしています。すみません、ネギのことばかり熱く語って(笑)
ネギ以外だと、商品としては出荷されない畑に取り残されたブロッコリーが、ハートの形をしていて、こんなに可愛いのに、丸くなかったり、大きすぎたりすると規格外で商品にならない。寂しいけど個性的に成長した野菜の可愛い姿も収めています。
「とれたて」野菜のみずみずしさや鮮やかさを伝えたい
—今回の写真展では、「撮れたて野菜」という個展タイトルがつけられていますが、そこにはどういった思いが込められているのでしょうか?
網野さん:私は畑などの現場で野菜や花を撮っているという意味で、「とれたて」のシーンを撮っています。収穫したてのみずみずしい鮮やかな色がタイトルでも表現できたらいいなと思って付けました。また、「とれたて」の野菜はまだ選別される前の「ありのままの状態」なので、その姿をそのまま伝えたいという思いも込めました。
このタイトルは、群馬県前橋市を拠点に活動されるコピーライターでONOBORI3代表の竹内ヤクトさんと一緒に考えたタイトルです。ヤクトさんとお話しすることで、改めて自分の活動や作品を振り返ることができました。とても素敵なタイトルに出会えたことを、本当に嬉しく思っています。えびちりちゃんにも、個展のフライヤーをデザインしてもらうなど、本当にみなさんのお力を借りて個展が開けることに心から感謝しています!
—私の方こそ、網野さんの活躍を間近で見られ、そしてワクワクを共有してもらい、本当に嬉しく思います! では、個展に向けた思いと、最後に一言いただけますか?
網野さん:自分が今の会社を受けた時、トマトが好きだと言って入社しました。本当は食べられないのに(笑) けれど、入社して農家さんのところに行き、トマト畑の姿、栽培方法、そして農家さんの思いを聞いて、畑の匂いをかぎながら写真を撮っているうちに、食べられなかったトマトが食べられるようになったんです。この他にも気にならなかった野菜が気になるようになったり、野菜に心踊らされることが幾度もありました。
写真を通じて私と同じような体験をしてもらいたく、心踊る写真たちを選んでいますので、是非(野菜嫌いな人は特に!そして、お子さんと一緒に!)来てみてください。
企画展は6月6日(水)から17日(日)までですが、初日と、8日〜10日、15日〜17日は在廊予定です。在廊中は野菜のフレッシュジュースをお配りしようと考えていますので、是非話しかけていただけたらと思います。
—ありがとうございました。私も行きます! 個展「撮れたて野菜」、今からとても楽しみにしています!
■開催情報
企画展:農業文化を支える人々 〜土と共に〜
個展:撮れたて野菜 農業カメラマン 網野文絵
日程:2018年6月6日(水)〜17日(日)
11時〜19時(日曜のみ17時まで、月火休み)
会場:ピクトリコショップ&ギャラリー表参道
東京都渋谷区神宮前4-14-5 Cabina表参道1F
tel:03-6447-5440
東京メトロ
千代田線・銀座線・半蔵門線「表参道駅」A2出口より徒歩3分
千代田線・副都心線「明治神宮前(原宿)駅」5番出口より徒歩7分
主催:「東京写真月間2018」実行委員会
公益社団法人日本写真協会・東京都写真美術館
後援:外務省・環境省・文化庁・東京都(東京都で開催展示のみ)企画巡回展:北海道東川町文化ギャラリーにて7月1日~23日
執筆:ebichileco
ebichileco(えびちりこ) 一般社団法人TEKITO DESIGN Lab 代表理事/クリエイティブデザイナー 立教大学社会学部を卒業後、商社系IT企業勤務。2015年チリに移住し、デザイナー活動を開始。「社会課題をデザインの力で創造的に解決させる」を軸に、 行政・企業・個人など様々なパートナーと組みながら、事業を展開している。