【美大4年生必見】手羽の卒業制作26ヶ条 会期中編

2017年12月5日(火)

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卒展出品経験と教務課時代の卒展担当経験、あちこちの美大卒展を見る趣味から、教育的効果・美術的評価ではない視点の
「卒展ではこういう部分を気を付けるといいよ」
「卒業制作で陥りやすい点」
を26ヶ条にしてまとめました。
ムサビ生向きな内容になってるけど、他美大の方、またこれから展示を考えてる人にも参考になると思います。

これまでの話はこちら。
【美大4年生必見】手羽の卒業制作26ヶ条 準備編
【美大4年生必見】手羽の卒業制作26ヶ条 場所編
【美大4年生必見】手羽の卒業制作26ヶ条 制作編
【美大4年生必見】手羽の卒業制作26ヶ条 展示編


シリーズラストは会期中の話を。


22.写真は撮っておこう

写真がうまい人にスマホじゃなく「ちゃんとしたカメラ」で撮っておいてもらった方がいいよ(お金出してでも)
手羽ね。ほんと卒展の時は精神状態がアレで、作品が気に入らなかったのもあるんだけど写真を撮らなかったんです。卒展後すぐに全部廃棄しちゃったし、「過去は振り返らん!それがかっこいい!」と中2病というか美術系が陥りやすいファインアート病というか、ほんとアレだったの・・。
でも今となっては後悔してます。卒業制作って「自分はなんなのか?」を一番考える時期でもあるから、今は作品が気に入らなくても、自分の人生の記録としてちゃんとした写真を残しておいた方がいいっす。「就職するからもうポートフォリオ用の写真はいらない」って人も数年後必要になるかもしれないしね(笑) 
なので展示中に撮影をしてて「なによ。鑑賞のジャマでしょ!」とお客さんは感じるかもしれませんが、講評終わったばかりなもんで展示中に作者さんたちは撮影するしかないんです。
すいませんが優しい心でご協力お願いいたします。


23.お客さんは大事。でも・・

これは2年前のムサビ卒展で某学科の受付に置かれてた学生同士の伝言メモです。

よく、「タマビの卒展では受付や監視やってる学生さんに挨拶されるけど、ムサビの卒展では挨拶されない」と言われます。
そう言われてみればそうかも。。
手羽はムサビ卒展に慣れちゃってるからか、「念のために学生さんがスタンバッテいる」ぐらいの認識なので別に挨拶されなくても全然平気だけど、でも普通に考えれば教室入って「こんにちは」の一言ぐらいは言った方がいいかも。

そこにいることが「受付・監視」のためであれば、お客さんに声をかけるべきだし、ずっとノートPCやスマホをさわってる行為はありえないわけで。

ただ。
これは意見が分かれるところだと思いますが、「作品を説明させてもらっていいですか?」とお客さんにポートフォリオをもって近寄ってくるのは手羽は苦手で・・。

理由は二つあって、一つ目は「自分のペースで展覧会を見たい」。
自分なりの「作品を見るピッチ」ってありますよね。手羽はトントコ進んでいく派です。でも「説明させてもらっていいですか?」と来られちゃうと「いえ、結構です(びしっ)」と言えるわけがなく、「あ、はい・・」と聞くしかない。
それで「そんなコンセプトがこの中にあったのか!!すごいじゃん!!」と知らされることもあるんだけど、「よく考えてはりますね。ありがとうございました」と終わらせたいケースもチラホラ。興味をもったらこっちから聞くし、なければ素通りするし、それでよくね?と。

二つ目は「作品で勝負しろよ」と。
「研究」だと確かに見た目はわかりづらいし、「自分の作品をたくさんの人に理解してもらいたい」というその姿勢は否定しないんだけど、なに、あなたはずっと作品の前にいて説明するんですか?あなたも作品の一部なんですか?その説明パネルはなんなの?口頭で説明が必要な作品って作品としても説明パネルとしても失敗してるってことじゃないんですか?とどうしても思っちゃうんですよね。
ファイン系は同じように考えてる人が多いかも。キャプションに「無題」と書いたら怒る人がいるけど、「余計な情報を与えたくない」という気持ちもわかってほしいのですが。

最初に書いたように、これは人それぞれ。
「普通の展覧会じゃなく卒業研究・制作展なんだから、自分の研究内容を説明するべき」という意見ももっとも。なので「やらない方がいい」ではなく「手羽は苦手です」です。
お店で「何かお探しですか?」と定員さんに声をかけられるのも美容院で髪を切ってもらってる間に話しかけられるのも苦手な性格なもので・・「用があったらこっちから聞くわい!」「小粋な日常会話ができない」てのもあるけど・・・ちなみに怖いので美容院で髪を洗ってる最中は布の下で目を開いてます。


24.ネットは便利で怖いもの
手羽の学生時代と今の学生さんの一番大きな違いは「ネットがあるかないか」。
いろんな情報を収集でき、自分で情報発信する手段を持ってるのはすごく羨ましい。こうやって過去の事例を知ることができるしね(自画自賛)
ムサビ卒展では「1200人のうちの1人」なので、展示を見てほしい人は自分から宣伝するべきです。あ、手羽にFacebookかtwitterで連絡くれたら宣伝しますよ。10人ぐらいは来場者が増えるはずなので。

一方、昔よりも周りの目を気にしなくちゃいけなくてかわいそうだなあ、とも感じてます。
手羽の頃は友達と教授以外に「君の作品はダメだ」と言われることはなかった(情報が入ってこなかった)んで「オレってまさか天才?!」と勘違いしたまま卒業することができたけど、今はネットでいろいろ言われちゃいますからね・・。
作品の「好き嫌い」は人それぞれだしそれを語るのは自由なので、ネットでの評価を無視するか参考にするかは自分次第。
でも卒展時期はくどいようですが気が付かないうちに精神が不安定になってるんで、個人的には進んでエゴサーチをやって自分を追い詰める必要はないと思ってます。

また、ここ数年は例の件以降、「文脈を読まれずに叩かれるケースも想定しないといけない」というめんどくささも出てきてます。

これも2年前の卒展写真です。
作品を見ればオマージュであることは一目瞭然だし、解説文にもそう書いてあるけど、文脈も文章も読まれずに「パクリだ!」とネットで騒がれてしまう可能性が今はあるので、こういった形でわかりやすく出さないといけない、とかね。
昔は「わからない方が悪い」だったけど「誰でもわかるように作ってない方が悪い」の世界。
その状況がいいことなのか悪いことなのかは抜きにして。


25.いろんな人がくる

おかげさまでムサビ卒展は来場者が毎年増えてますが、来場者が増えるってことは「いろんな人がやってくる」ってことでもあり。

「説教を始める話の長いおじさん」なんてのはこの業界にいる以上あきらめるしかないのだけど、作品や機材、貴重品の管理はいつも以上にしっかりしましょ。
悪意のある盗難のケースももちろんですが、ギャラリーにあまりいかない一般のお客さんだと「持ってちゃいけないものどうか」「触っちゃいけないものなのか」の判断ができないので、「サンプルで作った紙冊子」とかだと悪意なく持っていかれてしまうことがあるんです。
また、うちの子はお皿とかだと平気で展示されてるものを手に取っちゃうの。彼らのデフォルトは「お皿は手に取るもの」「カバーがないのもは触っていい」なんですよね。「作品に触っちゃダメだからね」と会場に入る前に言っても、触りたくなったものは素直に触ってしまう。その純粋な気持ちは美術教育的には大事だけど、親としては怖くて怖くて。そういうケースも想定する必要があります。

「いろんな人がくる」から個人情報管理も大事。
「興味のある方は連絡ください」と作品の横に電話番号やメアドを書いた名刺を置くのはいいんだけど、こういう時は捨てアド・捨てアカにしときましょ。特に女性は。ほんとに「いろんな人」がいらっしゃるので。


26.お客さんはそれが作品かどうかはわからない

教室や展示会場にあるものは「展示作品」と誰もが認識できますが、屋外や廊下に設置した作品だと、それが作品かどうか、お客さんって判断つかないんです。

というのも、普段学内にいる私たちが最初作品かどうか見分ける方法は「普段そこにないもの=今回のために設置した作品」じゃありませんか?
つまり、普段を知らないお客さんは「美大なんだから常にそこにあるものなんだろう=卒制作品じゃない」と素通りしてしまう可能性があるってこと。例えるなら2号館吹き抜けにある椅子と同じ扱い。上記写真の作品もキャプションや作者がそばにいなければ「普段から転がってる遊具」と思われてたかもしれません。
ある意味「大学が常設してるもの」と思われるのは完成度が高いってことでもあり嬉しくはありますが、コンセプトがそうじゃなければ、一般の方向けに「作品」と知らしめる工夫が必要になってきます。

下の写真は、学期末に清掃さんが張り出す張り紙だけど、

それが作品なのか素材なのかゴミなのかは、誰もわからないわけで・・・。
恐らく「アートはゴミかどうか?」論争を一番考えているのは美大の清掃さんで、美大生は「展覧会が終わった後どうするか?」も卒展前に考えておきたいですね・・。


27.作品買取や展示依頼が舞い込んでも浮かれるな


  • 秋田公立美術大学卒業研究作品展2017会場風景

卒展中に「作品を売ってほしい」「制作してほしい」「うちのギャラリーで展示を」と声をかけられるのも関東の美大ならよくある話です。
でも「画廊から声がかかった!」と喜んだら単なる貸しギャラリーの営業だった・・なんてこともあったり(それが絶対に悪いとは言えないけど)。

依頼系だと「うちの店の空間が空いてるから作品展示して(絵を描いて)」話もよくあり、多くは「学生さんの発表する場を提供したい」な作品にほれ込んで善意の気持ちでおっしゃてくれてます。(もちろん悪意をもって声をかけてる人もいますが)

ただ「美術業界・美大生の常識」と「一般の方の常識」は違うから、事前に条件を確認した方がいいです。
●壁に設置する方法がない(釘が打てなかったりピクチャーレールがない等)
●スポットライトもなく薄暗い空間
●従業員しか通らないスペース
●厨房のすぐ横で油がべったり
●半屋外で雨にあたる
●夜中しか作業できない
●交通費・運搬費や材料費がでない(出ないケースの方が多いと思った方がいい)
●展示期間が決まってないor勝手に撤去されてた
●上司や管理会社と調整してなく設営日に現場で揉める(大人の世界じゃよくある話)

なんてこともよくあって、これが悪意があってそうしてるわけじゃないのが非常に難しいところで・・。

この手の話は「言った言わない」「聞いた聞いてない」に必ずなるので、後でお互い嫌な気持ちにならないためにも、相手から口頭ではなく文字で条件をもらっときましょ。
特にお金のことは言いにくくても必ず最初に。


以上です。
どの大学も卒業制作の追い込みに入ってると思いますが、なにはともあれ体調管理が一番。
頑張ってね!
 
 
・・・・ん・・・26ヶ条と言いつつ、27あるなあ・・・計算間違っちゃった。てへ。

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。