卒展出品経験と教務課時代の卒展担当経験、あちこちの美大卒展を見る趣味から、教育的効果・美術的評価ではない視点の
「卒展ではこういう部分を気を付けるといいよ」
「卒業制作で陥りやすい点」
を26ヶ条にしてまとめました。
ムサビ生向きな内容になってるけど、他美大の方、またこれから展示を考えてる人にも参考になると思います。
これまでの話はこちら。
■【美大4年生必見】手羽の卒業制作26ヶ条 準備編
■【美大4年生必見】手羽の卒業制作26ヶ条 場所編
今日はいよいよ制作編。
11.小屋モノは内側と外側をしっかり作れ。いや、そもそもその小屋はいるのか?
手羽は「小屋モノ」と呼んでるんですが、「囲った壁や小屋(ようなもの)の中で作品を展示したり、その中で映像を見せたり、または穴から外界を見る」タイプの作品です。
このタイプで一番陥りやすいのは、中のことばかり考えて外装、つまり「箱」の処理を手を抜いちゃうパターン。
自分が見る側の立場だと、見た目の悪い作品の中に入ろうと思いませんよね? 中に入って見てもらいたい作品なら、中身を作る以上に「箱」制作に力とお金をかけるべきなんです。
んで。
「教室の中に自分が占有できる空間が必要=壁で作品を囲む」という展示が最近は多いけど、囲まれた空間がポツンと立ってる部屋って、それが浮いちゃってあまり見栄えがいいものではありません。
「そもそも小屋状態にする必然があるのか?」ということですね。
その壁に必然性があったり、外側から見て壁も作品の一つになってるならいいんだけど、「ダンボールパネルを立てただけですー。1人の空間が欲しかったんで囲みましたー」みたいな作者が、いい作品を作る気遣いがあるとは思えず。
場合によっては、自分の作品に対し「妥協」することになるやもしれなませんが、不思議なことに会場全体の空間に調和が取れると、自然とその中の作品も良く見えるものです。「空間のために基本コンセプトを妥協しろ」という意味ではなく、 「空間を良くするためには、違うアプローチもあるんじゃないの?」ということ。
場所編で「屋外作品は全体に影響する」と書きましたが、「室内の小屋モノは周りの作品に影響する」も当てはまります。
12.大きさ・長さ・広さ・高さの「重さ」がある
小さいと気にならないけど、大きくなると気が付くもの。
それは大きさ・長さ・広さ・高さの「重さ」です。
例えば、
「布はでかくなると重くなる(大きさ・広さの重さ・空気の重さ)」
「鉄は長くなると予想以上にしなる(長さの重さ・鉄の柔らかさ)」
「紙を立方体にして積み上げたら潰れる(高さの重さ)」
など。
「あれ?鉄って長くなると結構曲がるのね」と気がついた時には講評前日。
「まあ・・しなってるのもアリってことにしよう。曲線を出したかったってことにしよう」とかなんとか理由をつけて終わり。
これらは大きなものを作る時の素材や設置方法の知識・経験がないから起きることで、見る人間が見れば、 「ああ。ほんとは直線にしたかったのに、直前にそっちゃうことがわかったんだろうなあ・・・」とすぐにわかっちゃいます。大きなものを作れば「重さ」、つまり重力の影響がどんどん出てくることを覚悟しときましょ。
また、「B1プレゼンボードを壁に両面テープで貼り付けて、翌日出てきたら全部床に落ちてた」ってことも特にデザイン系の人は経験してるはず(笑)これも「重さ」の一種ですね。
時間がないから次に取る手段は「両面テープをもっといっぱい使う」「超強力両面テープを使う」です。
でも、これって剥がすのが大変で。せっかく作ったプレゼンボードが撤収の時に剥がす勢いで折れ曲がったり、壁の塗装がベリっとはがれたり・・なんてよくあること。
なぜわざわざ虫ピンや展示フックを使うのか。
それは壁の保護でもあるし、撤収作業を含めた作品保護のためでもあり、楽な両面テープではなくあえてその手段を取ってる蓄積された理由があるわけで。
13.パッチワーク系は要注意
布に限らず板だったり、いろんな素材や色をくっつけたり貼りあわせる、いわゆる「パッチワーク系」「コラージュ系」があります。 「困った時はコラージュに逃げろ」という諺があって(今作りました)、簡単に手間がかかってるっぽく見え、なおかつにぎやかに見える。
ただ、よほどセンスがよくないと作者がイメージしてる以上に
「ツギハギ?」
「粗大ゴミ置き場から拾ってきただけでしょ?」
「捨てようと思ってた雑誌から切り抜いただけ?」
「やるなら徹底的にやればいいのに、空間スカスカやん」
と思われてしまう傾向にあります。
普段は「色は2色しか使わない」と理性で抑制・コントロールできてても、パッチワーク系ってついその人の本当の色や空間のセンスが丸裸になっちゃうんですよね。
手羽はパッチワーク系・コラージュ系がすごく苦手で・・・はい、全然センスがありません(涙)
14.「質より量」作品は想定の2倍作れ
数や大きさなどボリュームで見せる作品があって、手羽は「ボリュームもの」と呼んでます。
手羽はボリュームものが大好きなんだけど、今までの経験からして、初めてボリュームものを作る人は「想定してる数・大きさの最低2倍は作らないとダメ」を心がけた方がいいです。
50分の1の模型空間で「ま、これくらいあればいいっしょ」と思ったものを実空間に持ってくると、「ま、いいっしょ」の塊が50倍になるんで、密度がスッカスカなことが多いです。
ボリュームモノで「でも、この倍は数が欲しかったね・・」「コンセプト的に10倍は必要だったんじゃないの?」と言われたらおしまいなんですよね。
ボリュームものは時間をうまく使うことが大事。計画的にやりましょ。
15.制作場所と人は確保してる?
卒制では気合入れて大きなものを作りたくなるもの。
でもそれを作る場所があるのか、そしてそれを搬出できる出入り口があるかは事前に確認しましょ。
大きい作品作る時は学外に場所借りて制作してる人もいます。
彫刻学科の場合は自分一人で動かせる作品がほとんどないので、制作や搬入出では「ギブアンドテイク」が発生します。 「君のも手伝うから、僕のも手伝ってね」という暗黙の。これは卒展だけでなく、普段からこういう関係で制作してるので当然な世界なんです。 (工デのクラフト系も同じような感じかな?)
彫刻学科の学生が意外と時間に厳しいのは相手のため、というよりも自分のためでもあるんですね。
でも普段からそういう関係ができてないデザイン系の学生さんが卒制で大きな作品を作りたい場合はどうしたらいいか。 同級生はみんな同じようにせっぱつまってるので、「準備・撤収も含め人の確保をどうするか」という問題は早めにクリアにしておきましょう。 サークルの後輩とかね。そして「手伝いますよ」と言ってるムサビ生は多分時間通りには誰も来ないので、そのことも計算に入れときましょう(笑)
でもなにより手羽が伝えたいのは、
16.どんな形であれ完成させる
これ大事。とっても大事。
卒展2日目でも作業してる人がチラホラいるのがムサビの卒展で・・・。
「間に合わなかった」のは問題外として、「悪い部分に気が付けば展覧会中だろうが関係なく追究するのが本当のアーティストだろうが!!妥協はしたくない!恥ずかしいものは見せたくない!」という考えはわからなくはないんだけど、今できる限りの完成形態を「期日」に見せるのが大事なわけで。納得してなくてもそれを発表しなくちゃいけないのが「今の自分の実力」であり、「自分の作品に対する責任」であり。
また、個展であれば知ったこっちゃないけど、合同展覧会の場合は「展示場で作業してる風景」ってのは学生さんが思っている以上に見栄えがいいものではなく、周りに与える影響も大きい。
講評直後に展示、または展示中に講評するスケジュールなので、「ある程度は見逃してください」というのが元卒展担当の立場ではあるんですが、少なくとも修正作業するのは会期時間外とか人のいない時にやってほしいなあ、と・・・。
ちなみに上記写真は空デ・小嶋沙弥華さんの作品ですが、この卒業制作がSA日本空間デザイン2017で日本空間デザイン協会特別賞を受賞してたりします。
次は展示編をお送りします。
以上、昨日からムサビ美術館と12号館地下展示室で
■遠藤彰子展“Cosmic Soul”
■吉田直哉 映像とは何だろうか
■ムサビ助手展2017 -武蔵野美術大学助手研究発表-
の3つの展覧会がスタートしたけど、卒制やってる学生さんに見てほしい手羽がお送りいたしました。
助手さんがどういう作品を作っているのか知るのもいいし、個人的には遠藤彰子展ですね。
戸谷先生の展示もすごかったけど、500号クラスの作品が所狭しと並ぶこの展覧会が無料で見れるってのがまずちょっとありえないんだけど(しかし地下にどうやって運んだんだろう・・)、作品に対する執念というか、遠藤先生に力を吸われるんじゃないかってくらいなパワーに圧倒。
もうすぐ退官される方がこれくらいの絵を描いてるんだから、「20代の学生さんが頑張らんでどうする」という遠藤先生からの無言のメッセージも感じました。
【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。