もうすぐ12月。
美大4年生は卒業制作の真っ最中じゃないでしょうか。
まず、「卒業制作、卒業制作展って何?」の話を。
美大では「卒業論文」「卒業研究」もありますが、「卒業制作」(以下『卒制』)をおさめて卒業するケースが多いです。
そしてそれらを展示するのを「卒業制作展」(以下『卒展』)といいます。
卒展は学内展だったり学外展だったり大学によってやり方はバラバラ。
大学全体としての卒展は、関東美大は学内、関西美大は学外の美術館で実施する傾向にあります。各学科独自の卒展は学外ギャラリーを使います。
ムサビの場合は1月に展示した状態で講評・採点し、そのまま学内で一般公開するので「卒業制作=卒業制作展」であり、学生さんの学内卒展にかける気持ちはハンパないです。
一方タマビさんは1月に講評終わらせ3月に学内展示なので、学内卒展における学生さんのモチベーションはかなり低いですが、2月に行う各学科の学外卒展の気合の入れようはすごいです。そう、ムサタマでも「卒展の位置付け」が全然違うんですね。
おっと、各美大の卒展スケジュールは、1月に書かせてもらいます。
「卒展」と「芸術祭」の大きな違いは、基本的に卒展は1回しか経験しない(できない)こと。
短大編入組や大学院2年生以外は誰も参加経験値がないんです。みんな卒展初心者。
なおかつ引継ぎが無く、前例が蓄積されにくいので、自主的に展示をやってきた人・いろんな展示を見てきた人とそうじゃない人の差が激しく出ます。
かくいう手羽もグループ展を一度やったくらいで、ちゃんとした展示は卒展がほぼ初めてでした。だから「事前にそれを教えてくれてたら回避できたのに・・・」と今でも思い出すだけで「クーーー!!(涙)」となることがあって・・。
というわけで、現在卒業制作を作ってる人のために、
「こういう部分を気を付けるといいよ」
「卒業制作で陥りやすい点」
をまとめました。
教育的効果・美術的評価は先生にまかせるとして、教務課時代に卒展担当を5年やり、毎年ムサビ含め他大学の卒展を見て回ってる手羽がテクニカルな部分を書いていきます。
教員は基本的に自学科の卒展しか見れないんで、他大学もで含め自腹(趣味)卒展を見たボリュームは恐らく手羽が日本で一番のはず。
あ、ムサビ生向き(学内展示)な内容になってるけど、他美大の方、またこれから展示を考えてる人にも参考になると思います。
手羽ブログを昔から読んでる人は「またこの話かよ・・」と思うかもしれませんが、毎年バージョンを上げてますんで(笑)
それでもやはり毎年ムサビの卒展を見ながら「今年もこの失敗をしてる学生さんがいるなあ・・手羽ブログを読んでくれてたらなあ・・」と思うことがしばしば・・4年生に拡散してあげてください。
ではいきます。名付けて、
「手羽の卒業制作26ヶ条」。
まずは準備編をお届け。
1.卒業制作展は卒業記念制作展ではない。
これから書くことはこれに尽きるんですが。
ムサビの卒制展サイトや卒制DMにはこう書いてあります。
「制作研究の集大成ともいえる卒業制作・修了制作を・・・」
ムサビは昔からこのフレーズを使っており、いろんな美大さんでも今は使われていますね。で、ここに最大のヒントが隠れているの、気がついてました?
「卒業制作」は「4年間、あなたは何をやってきましたか?その集大成を表現しなさい」という最後の授業なんです。 「基礎造形1」「絵画III」とか普段の授業と同じレベルに考えてちゃダメで、それに気がついてない人が意外と多いかもしれない。
また、卒業制作は「卒業記念制作」ではありません。
小学校卒業の時にみんなでワイワイ作ったトーテムポールや中学校の時に造った巨大タイル壁画じゃないんです。 「記念になんか作りなよ」ではなく、「これまでの自分の集大成」を作るのが卒業制作なんですね。
「卒業制作なんで大きなものを初めて作ってみた」ではなく「4年間学んだことを進化(深化)させ、形的にも大きくさせる」が必要になってくる。
あ、「卒業制作で初めての素材やテーマに取り組む」なチャレンジ精神を否定してるわけでなく、それだったら試作やモックアップを何度も作って研究をたんまりやったものを発表しようね、ってことです。
そして極端な話、「あなたは22年間、何を感じ、考え、何に取り組みましたか?」と問われてるのが卒業制作でもあり。
「あなたの4年間は1日で考えて3日ぐらいで●●と●●を組み合わせただけのように見える作品と等価だったんですか? 」
「あなたの22年間は、試作品を作ってれば回避できたであろう、その自然とピローンと折れ曲がってしまった作品と同じなんですか?」
ということ。この意識の違いは、作者に直接言わないだけで見てる側からするとはっきりわかります。
ただ。
美術の世界の難しいところは、センスや才能のある人だとサクっといい作品が作れちゃう点です。そういう人がいるのも事実。
学生時代、ほとんど大学に来ない同級生が講評3日前に出てきてチャチャっと作ったものが、毎日作業してきた自分よりもセンスいい作品を作っててね。「才能ってこういうことなんだなあ・・」と悟りました。
「才能がある人と自分を一緒にしちゃいけない」ことを知るのも学校での学びかもしれません。
2.やっぱりお金って大事
外の人が必ず驚かれるのが、「材料費は学生さん持ち」ということ。
課題で材料が配られることもありますが、基本的に材料や素材、道具は学生さんが自費で購入します。それは卒業制作も同じ。
で、いやらしい話ですが、最後はこれになっちゃうんですよね・・・。
安価なベニヤ板はやっぱりベニヤ板でしかなく、お金があれば迷わずコンパネを使える。
性能が良くなってもカラープリンタはどうやってもカラープリンタ出力でしかなく、印刷所にお願いした方が確実にいいものができる。
これはほんと「お金次第」になってしまうんです。
ちなみに手羽は小学校の頃から溜めてた「お年玉貯金」を卒制の材料費で全部使い切って(40万ぐらいだったかな?)、更に親に借金しました(卒業してすべて返済しました)
同級生は鉄加工を外注したから150万円かかってたっけ。それなりの大きさの彫刻というか立体はね・・・お金かかるんです・・・。
また、全展示者分のプロジェクターや大画面モニタが学内にはないので、基本的に映像機器類は自分で用意する覚悟をしといた方がいいです。表現し人が見られる状態にするまでが作者の役目で、例えるなら彫刻学科や油絵学科の学生さんが「イメージは頭の中にあります。実物はありません」と言いませんよね。そういうことです。「あなたの作品はUSBメモリやDVDメディアですか?」で。
でも映像機器って1週間とかリースすると結構するんですよ・・。
お金に関しては、こういう考え方もあります。
突然舞い込んだ展覧会とは違って、卒業制作は入学した時、つまり4年前に必ず通る道だとわかってること。
ひと月1万ずつ卒展貯金をしてれば40万ぐらいは確保できるはずだし、それが厳しいのであれば夏休み、春休み2回がっつり長期バイトをすればそれなりの金額をためることができるはず。
ムサビだと4年生を対象とした校友会の「校友会奨学生」、いわゆる卒展援助制度ってものもあります*今年度の募集は終了。
ちなみに卒展援助受けた人は結果的に優秀賞を取ってることが多いです。「早い段階で卒展資金をどうするか気が付きアンテナを張り自分で情報を調べる」「10月にプレゼンできる状態にある」「お金を獲得してでも作りたい強い意志を持ってる」人は、そういう人だってことかもしれません。
卒展資金確保のためにコンペに応募する手段だってあります。
渡米資金のために欽ちゃんの仮装大賞に応募して、見事グランプリ100万円をゲットしたムサビ油絵OB・上杉裕世さんの例もありますしね。
■課外講座:鷹ノ台からハリウッドへ
つまり早めに「卒業制作」への意識が生まれてれば、せめて「こんな感じのもの作りたいなー。それっていくらするんだろ」とわかってれば、お金に関しては対策が取れなくはないってこと。逆に4年になって「卒業制作どうしよう」と考え出しても、取れる手段はかなり限られてきます。通常課題と違って卒業制作ですからね。あまり妥協はしたくないもの。
・・・現在卒制真っ最中の学生さんにこれを言っても「おせーよ!」と言われますね・・3年生以下の方へのメッセージってことで。
ムサビ生の春休みは長いです。長期間実家に帰って田舎の友達と遊びまわるのもいいけど、卒制でベニヤ板じゃなくコンパネを使いたくないですか?
3.DMはよーく校正しよう
最近は自分で展示のDMやチラシを作るケースが増えてます。
自分で宣伝する意識があって素晴らしいんだけど、最後に自分以外の誰かに校正してもらいましょう。
というのも、結構な確率で学生さんのDMは日時や曜日が間違てる可能性が高いんです。何を隠そう、手羽も曜日間違えの天才。
危険なのは西暦や元号ですね。つい最近スタッフが作った文書が「2019年」になってました(多分平成29年とごっちゃになった)。
ムサビだと「今年度卒業予定者の展覧会」なので、2018(平成30)年1月に開催しても「2017(平成29)年度 卒業・修了制作展」という表記を使うんです。
だから西暦や元号がかなりごっちゃになっちゃうのね。
また、これも1年に1回は必ず見かけるのが「exhibition」の綴り間違い。
iが続いたり、hが余計だったり、間違えろってばかりの単語なんだけどね。
今まで見た綴り間違いで多いのは、InformationがInfomation、UniversityがUnivercityです(デ情は要注意)
そしてこれは間違えだとは言い切れないんだけど、ムサビの公式な卒展英語表記は「degree show」です。海外の大学はだいたいdegree showなんですね。なのでムサビ生はできるならこれを使ってほしいな、と。
というか、来てほしい相手が日本人メインなら、中途半端にかっこつけないで日本語でいいんじゃないかとは思ってますが。
あとは自分のグルーピング・所属を間違えることも、とってもとっても恥ずかしいこと。
その時だけの綴り間違いぐらいはみんな寛容になれますが、所属を間違えるって「4年間もいて、気が付かなかったの?!」なわけだし。
DMに書いた所属学科が「映像科」「油絵科」になってたりしてませんか?
ムサビにあるのは「映像学科」「油絵学科」です。この2学科の人は、ほんとによく間違ってる気がするし、時々「油画科」と書いてる学生さんも・・そんな科はムサビにないっ!
また、各学科の卒展WEBを見ると「生徒たちの卒業制作をご覧ください」と書いてることがしばしばあります。くどいですが、大学は「学生」であって「生徒」ではありません。
あ、それと「卒業・終了制作展」と書いてた学生さんも過去何人かいました。終了しちゃダメ絶対。
4.先生や友達の意見は大事
卒制中、特に講評直前は頭の中が混乱してて、平常時とは違う精神状態になってるはずです。
手羽の卒制の失敗は「友達や先生の意見を無視した」ことでした。
卒展直前にマジックで作品に文字をいっぱい書いちゃったんですよ。なんでか聞かれても困るんだけど(笑)
みんなから「それはやめたほうがいい」と言われたけど「何言ってるんだ、こいつら。オレのセンスがわからないのか」ぐらいにその時は思ったんですよね。でも卒制終わってあらためて作品を見つめ直すと、「あああ。言う通りにすればよかった(涙)」と気が付きました。普段だと絶対にやらないのに、あの時の自分はその判断ができなかったの。
自分よりも客観的にみてる友達や先生の意見に耳を傾けましょう。
恐らくその意見は正しいはずです。
5.先生や友達の意見を聞かないのも大事
さっきと逆のことを書きます。
講評で先生に「こんな作品作ってちゃダメだ!」と言われるかもしれませんが、そこで「教授みたいな年寄りに、自分の新しいセンスの作品の良さがわかるはずがない!」という気持ちも美大生にはある程度必要だと思ってます。
多分、教授の指摘は正しいはず。普遍的な「美」「造形」に対しての意見を発言されてるはずで、年寄りかどうかは関係ありません。あなたが気が付いてないだけ、見えてない可能性の方が高いです。
でも、卒業して数年後に
「ああ。卒制講評で教授が言ってたのはこういう意味だったんだな。なんであんな作品作ったんだろ(恥)」
と気が付く時がきっときます。なぜなら、私がそうでしたから(笑)
でもそれでもいいんじゃないかな。「人生の学び」ってそういうもんで、学生時代に全部わかる必要なんかないんだもん。
5で気を付けてほしいのは、人によって意見が違う時なのね。いろんな人の意見に耳を傾け過ぎるのも問題で、それでパニックった学生さんを何人か見てきました。やっぱり最後は自分で決断するしかありません。
5と6で一番いいたいことは「卒展直前は通常の精神状態じゃないことを知っておきましょ」ってこと。
次回は「場所決め編」をお送りします。
【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。