【池上彰登壇!】東工大xロンドン芸術大学CSM合同シンポジウム に行ってきた2

2017年5月29日(月)

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●日時 :2017年5月27日(土) 13:00 -
●会場:渋谷ヒカリエ ヒカリエホール ホールB
●スケジュール:
・セッション1:デザインと産業
・セッション2:アートと科学技術
・キーノートセッション


ともにムサビの協定校である東工大とロンドン芸術大学の合同シンポで、なおかつテーマが「科学・アート・デザイン」と聞いて、参加しない人間がいますかって話ですよ。
東工大さんとは毎年合同ワークショップをやってるし、ロンドン芸大さんともGDIで一緒に活動してて、CSMのニコラス・ローズさんには3月にフェローも出したばかり。名前だけの協定ではないんです。
両校をつなぐのはムサビなわけで、正直「え。この場にムサビを仲間に入れてくれないの?やっぱりこういう時はムサビじゃなくて藝大なの?」とジェラシーを感じるわけですが(笑)

ま、本当のところはその東工大合同ワークショップで毎年お世話になってる野原先生が登壇されるのをたまたま知って、申込ボタンをポチっと押した、と。
今回のシンポの仕掛人が野原先生だということを後で知りました・・。


スピーカー、モデレーターは

ご存知、池上彰さんは実は東京工業大学特命教授もされてるんです。今回参加した目的の半分ぐらいは生「いい質問ですねー」を聞きにきたようなもんで。。
キャロル•コレットさんは「バイオデザイン」「バイオミミクリー(生物模倣)」を研究されてる方。
山縣良和さんはここを読んでる人は知ってる人の方が多いはず。ファッション学校「ここのがっこう」も運営されてます。セントマ卒なので今回登壇されたってことですね。


あ。会場内撮影禁止だったんで、パンフレットを使った紹介になってます(笑)

豊田啓介さんは建築家。「油圧」と書かれたTシャツを着てた(笑)
伊藤亜紗さんは東工大准教授。専門は美学、現代アート。
ヘザー・バーネットさんは粘菌モジホコリカビと“コラボレーション”したアート作品を作ってて、CSM内アート/デザイン、サイエンスリサーチグループの幹部でもあります。
小長谷明彦さんは東工大教授で分子 ロボットの研究をされてる方。
日比野克彦さんは・・説明不要ですね。

広瀬茂男さんはヘビ型ロボットなど独創的なロボットを開発されてきた、その道では超有名な方。
そして野原先生。


シンポジウムのテーマは「The experiment(実験)」
一般的に「実験」と聞くと、理系が仮説を立証したり、反証するための「実験」と、ゴールを設定せずにアーティスト・デザイナーが行う「実験」の違いをパっと思いますよね。
でも、科学の世界でも出発点からゴールまで直線的な実験じゃないものもあるし、アートやデザインの世界でも衝動的・感情的な創造性によってのみ実験をしてるわけでもない。今回のシンポジウムでは、「実験」の位置付けを決めつけず、理解を深めていきましょ・・・てな内容。
いろいろ難しいこと書いたけど、「サイエンスもアートも変わらないよね?」ということを示すシンポだったんじゃないかと手羽は勝手に推測。


いやー、皆さんの話は面白かったです。
個人的にはヘザー・バーネットさんと広瀬茂男さん、伊藤亜紗さんの話はもっと聞きたかった。
ヘザーさんは「粘菌アート」の話で、同時通訳の人も「こんなの原稿なかったら訳せない」と愚痴ったのが聞こえちゃうくらい専門用語バンバンな内容でしたが(笑)、やられてることは面白く、粘菌を「パートナー」と呼んでいたのが印象的でした。
あ、TEDに出てるので動画を見てくださいな。
ヘザー・バーネット: 準知的粘菌が人類に教えてくれること - TED.com

ただ。
東工大の先生はアートに寄せた話をされたり、セントマの先生も「アートとサイエンスの融合」「アートにおける実験」な話をされたのに、日比野さんは4月から始めた藝大での授業「DOOR」ワークショップの話で、それ自体は他のシーンで聞けば面白い内容なんだけど、ここで話をされるには、ちと弱かったかなあ、と。
なんか日本のアートシーン・アート教育が幼稚に見える感じで(内容が悪いわけじゃなく)。
しかもプレゼン時間を全然オーバーしちゃって、日本のファインアート教育力の低さを理工学系の方に発信してしまったような(くどいですが内容は手羽は楽しめました)。
今回は「実験」がテーマで「アートはやりっぱなしじゃない」「アートとサイエンスの親和性」を証明するシンポだから、藝大枠は日比野さんではなく八谷和彦さんの方がよかったんじゃないかと。鳥人間的で東工大生も喜んだでしょうし。後はタマビの久保田先生とか。
野原先生は手羽に相談してくれれば、美大から適任を探したのに(笑)

その野原先生の専門は「翻訳学」で、翻訳学とは言い換えると「差異の研究」でもあります。
日本語と英語で同じ意味として使われてる単語でも、文化の違いなどでニュアンスを表せてないものがかなりあります。典型例だと「conviviality」。辞書には「宴会」「陽気さ」と書かれてるけど、これだとconvivialityのニュアンスを伝えきれておらず、長澤学長は「懇親力」という言葉を使っています。
逆に「いただきます」「おつかれさま」にちゃんと該当する英語がなく、「いただきます」は「Let’s eat!」と訳されるけど、これだと「みんなで食べようぜ!」な意味合いが強く、「(命を)いただきます(ありがとう)」な意味合いが含まれてない。
これが「差異」ってやつで、その差異の研究からアートとサイエンス、アーティストとサイエンティストの差異に興味をもたれたそう。
ちなみに池上彰さんがおっしゃってましたが、外国人記者が今一番困ってるのが「忖度(そんたく)」をどう訳すか、だそうです(笑)



それで思い出したのが、「Art」という言葉。
欧米の学問体系ではArtは「人が作ったもの」という意味なので、美術もアートだけど、歴史も哲学もArtに入ります。また「Science」は「自然(神)が作ったもの」なので、化学はもちろんのこと心理学も経済学も欧米ではScienceに含まれる、と。
でも日本では「数学が必要がどうか」みたいな判断基準で「理系」「文系」の分け方をしてますよね。詳しくはこちらを。
日本人の的外れな「リベラルアーツ論」 リベラルアーツとは何か(上) | 日本の教育では、「本物の日本人」は生まれない - 東洋経済オンライン
リベラルアーツは今だと「基礎教養科目」と訳されますが、明治時代にその訳語として西周さんが作った単語が「藝術」と言われてます。

今日の話を聞きながら、芸術と科学は相性がすごくいいけど、無理やり融合させないで、その差異をお互い尊重し楽しむ面白さもあるなあ、と思ったり。あ、それが東工大合同ワークショップの趣旨か(笑)



以上、ちなみにムサビではロンドン芸術大学は「ロンゲー」、セントラル・セントマーティンズは「セントマ」と呼んでるんだけど、「ロンゲー」は野原先生には通じなかった手羽がお送りいたしました。「ロンゲー?言わない言わない」と。ムサビと東工大の差異(笑)
ムサビ職員の皆さん、「ロンゲー」は一般用語じゃないみたいなんで要注意っすよ!!

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。