OAC主催「創造性を考える教育シンポジウム」@聖心女子大に行ってきた

2017年3月12日(日)

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先週土曜に開催されたイベントのレポートをお送りします。
京都造形卒展レポート文化庁展レポートと続いてたもんで、遅くなっちゃった・・。


3月4日(土)午後12時、オサレな街・広尾に到着。
広尾は広尾学園高校さんに大学説明で来たのが最後だから・・・かれこれ10年ぶりだな・・ほんとオサレな街に縁がなく・・。

んで、どこに行ったかというと、

聖心女子大学さんです。

聖心女子大学は、1800年に生まれた聖心会(Societas Sacratissimi Cordis Jesu)という教育修道会を設立母体とし、大学の前身である聖心女子学院高等専門学校が1916年に創立され、1948年に日本で最初の新制女子大学の一つとして発足しています。
去年2016年が100周年だったんですね。
 

広尾の商店街にあった生涯学習センターの看板。こんな風に公開講座系の看板をドーンと商店街に設置してるパターンってあんまりないかも。
なんとなく聖心さんというと、キリスト教とか英語の公開講座だけかと思っちゃうけど、いろんな講座を開設されてるんですね。
・・・美大もそう思われてるってことだな・・・。

聖心女子大さんのキャンパスマップ。
校内をゆっくりまわってる時間はなかったけど、

敷地の中にこんな立派な日本家屋があるんですよ。
あとで調べたら、この聖心女子大のキャンパスは久邇宮、つまり昭和天皇皇后家から購入したもので、この「パレス」と呼ばれる建物は旧久邇宮邸御常御殿なのです。1924年に竣工、移築・修復保存され2000年に登録有形文化財に指定されてます。今は茶道、華道、書道、日本画、箏曲、鼓、能楽などの情操教育の場として使用されているそう。
ちなみに普段は一般公開されていませんが、100周年事業として3月13日(月)~3月18日(土)の間だけ中に入れるそうですよ。
 

こちらは聖堂(チャペル)。大学キャンパスのほぼ中央にあり、他の建物から隔離されてます。
ちなみに聖心さんでは「おみどう」と呼ぶそうです。
 

んで、なんで聖心女子さんにやってきたかというと、このイベントに参加するためです。

創造性を考えるシンポジウム -クリエイティブの育つ場所、育てるために必要なこと-
●日時:2017年3月4日(土)12:30-17:00
●会場:聖心女子大学宮代ホール
●主催:公益社団法人 日本広告制作協会
●協力:美術科教育学会


日本広告制作協会、通称OACとは、コミュニケーション・デザインの振興を通じて、教育・文化の向上及び産業・経済の発展に貢献し、あわせて調査研究、技術開発、国際交流の活動を行い、広く公益に寄与することを目的とした団体です。
賛助会員として、タマビ、東京造形、女子美、東京工芸、東京工科、横浜美、名古屋学芸、大阪芸大、ムサビが参加してます。

はたして今はクリエイティブな人材が育つ世の中になっているのか、そしてそれはなぜなのか。
問題点や私たちが今なにをやるべきかを共有し、子供たちや日本の未来を考えましょう、ということで教育シンポジウムが3年前にスタートしました。

過去2回のレポートはこちらをご覧ください。
手羽ちゃんのドキドキ潜入レポート-教育現場と制作現場を結ぶ情報交換会2014-
【脳科学と美術】産学官連携による情報交換会に行ってきた1
【創造人を作るには】産学官連携による情報交換会に行ってきた2

就職課長がOAC理事をやってる関係で初回から手羽も聞かせてもらってます。

これまでは東京工芸さんを会場にしてましたが、今年は聖心女子大さんの300人収容できる宮代ホール。
すんごく立派なホールを使わせていただき、ありがとうございました!

司会はOAC理事でもある武蔵野美術大学 学生支援グループキャリアチームリーダーの澤野さん。
あ、澤野さんはムサビの某式典も司会をやるはずです(笑)
 

OAC理事長の鈴木清文さんから主催者代表挨拶。
今回のイベントには21都道府県から小中高大の教員、幼稚園の先生、企業の方、学生と様々な人が申し込まれたそう。通常美術教育に関係するシンポジウムだと、小さなカテゴリの教育関係者しか集まらないので、この幅の広さがこの企画の特徴もしれません。


まず最初は、日本製作所役員待遇フェローで理学博士・脳科学者の小泉英明さんによる基調講演。
小泉先生は去年も登壇されていて、「うわ。いい話だなあ。もっと詳しく聞きたいし、他の人にも聞かせたいなあ」と感じる内容だったんですが、来場者アンケートでも圧倒的に好評だったそうで、異例の去年に続き2度目の登場となったのです。

「脳は出会いで育つ。体験・感動・身体性」というタイトルで、基本的には去年の話がベースになってるけど、切り口を進化の視点とし、新しい情報が追加された内容になってました。

手羽流にお話をまとめます。

人間とチンパンジーの違いは、「階層的な文法による言語能力」「複雑な道具を制作・使用」「積極的な教育活動」「慈愛・憎悪など高次の感情」の他に、「人間は未来を考える力がある」という点です。

「未来を考える力」とは「宝くじが当たって嬉しい」という感情もそのひとつ。
今は単なる紙切れがいずれ「報酬」に代わることが経験や知識でわかってるから嬉しいんであって、これも「未来を考える力(未来への報酬予測)」。人間は、生きてく上で本来は必要としないお金や名誉など「精神的な褒美」もパワーにできるから、「人間は生命維持に関係しなくても努力ができる生物」と言える。だから、人間は自分の評価が高ければ嬉しいし、他人の評価が低くても嬉しく感じる。
また、チンパンジーは今のことしか考えてないから悩まないわけで、未来のことを考えてしまうから人間は生きるのが辛くなったりする。いいのか悪いのか抜きにしてね。


脳は、一番内側にある「生命維持を扱う」脳幹から外側へ順番に、「生きる力を駆動する」部分を扱う古い皮質、そして「よりよく生きる」ことを考える新しい皮質という構造になっている。これはまさに進化の過程を表してる。

生きる力を駆動するのは「やる気」「思い」「意欲」の感性であり、よりよく生きるためにあるのが知性。新しい皮質(知性)を動かす時に古い皮質(感性)から信号が出ることが脳科学的に判明している。
これはいくら知性を鍛えても感性が成長していないと機能しないことを表しており、例えるなら蔵書数は多いけど閲覧者がいない、宝の持ち腐れ状態。

このスライドはびっくりしました。
57か国15歳男女40万人に行われているOECD・PISA学力調査では、一緒に「意欲」の調査もされてます。上記スライドは2006年の結果ですが・・ことごとく日本は科学に対する「意欲」「興味」「科学の楽しさ実感」が世界最低水準なんです。日本は知識・スキル重視の教育で、意欲・パッションを無視した教育をしてることがここからわかります。

一言でいうなら、「好きこそものの上手なれ」なのに、日本は「好き」「楽しい」と感じる気持ちを後回しに、非効率的な知識の詰め込み教育を優先してるため、子供たちは「やらされてる感」の中で勉強をしてる。それだと「それなりの人」が増えるだけ。だから日本は伸び悩んでる。
上述したように、知識・スキルを上げるためには、まず意識下にある実体験に基づく感性や創造性の部分を育む教育が重要。そしてそれができるのが・・・はい、芸術教育なんです。

知性をあげたいのなら、まず芸術教育に取り組むことが簡単で効率的な方法、と小泉先生は脳科学的な観点から芸術教育の必要性を語られました。

どうですか?
今までの感情的に訴える芸術必要論と違って、説得力もあり、面白くありません?

詳しくは小泉先生の
恋う・癒す・究める 脳科学と芸術
に書かれてますので、もっと詳しく知りたい方はぜひご購入ください。


ちなみに「右脳は芸術脳。だから芸術家は左利きが多い」と言われてますが、脳科学的に右脳・左脳の違いは判明していないそうです。
でも確かに美大は一般大学より左利きが多い印象があるから、左利きを強制的に修正しない「家庭環境」が芸術家を育ててるのかもしれませんね。 

 
ちなみにちなみに、「アインシュタインの脳は小さかった(だから頭の良さと脳の大きさは関係ない)」という話もよく聞きますが、小泉先生のよるとこれも少し嘘で、やはりアインシュタインの脳は同年齢の人の脳より大きかったことが判明してるし、特に左右の脳を結ぶ神経線維の束がかなり太かったこともわかってるそうです。


かなり長くなってしまったので続くっ!!

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。