「ファインアートの学部しかない」アートに特化したサンフランシスコの美大

カリフォルニア州サンフランシスコは、NYやLAほど知られていないかもしれないがいくつか専門性の高い美術大学もある。そのなかでも今回は、ファインアートの学部しかないというアートに特化したサンフランシスコの美大、San Francisco Art Instituteを紹介する。

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日本ではあまり聞かない!?
ファインアートに特化した美大


サンフランシスコには、NYやLAほど知られていないかもしれないがAcademy of ArtCalifornia college of the art、San Francisco Art Institute(以下SFAI)など、美術やデザインを学べる美大がいくつかある。取材をする前はシリコンバレーも近いので、アートというよりはデザインを学ぶ学生が多いように思っていた。しかし、ピクサー本社があることもあって、アニメーション学科を誇るAcademy of Art(ピクサークラスもあるのだとか!)、ファインアートに特化した美大SFAIなどデザイン以外の学びの場も充実していた。
東京の美術大学と比較して考えてみると、ファインアートだけに特化した美術大学は聞いたことがない。そこで今回はSFAIに取材した。


  • キャンパスの入り口にある中庭で授業が行われていた


SFAIは、1871年に創立、全米で最も古いコンテンポラリーアートの専門大学として知られている。当初はサンフランシスコの繁華街として知られるノッブ・ヒル(Union Squareの近辺)にあったが、4つの校舎をひとつの校舎に集約するべく、1926年に現在のロシアン・ヒル(Russian Hill location)に場所を移した。規模は決して大きくなく、学部・大学院生を合わせても700名程度しかいないこじんまりとした大学だ。

学部はArt and Technology(芸術と技術)、Film(映画)、History and Theory of Contemporary Art(コンテンポラリーアートの歴史と理論)、New Genres(ニュージャンル)、Painting(絵画)、Photography(写真)、Printmaking(版画)、Sculpture(彫刻)のコースが用意されている。大学院では「アートを通じて世界を変えろ」というスローガンのもと、院生それぞれが自分にあったコースを組めるように考えられている。また、MFA(Master of Fine Arts)やMA(Master of Arts)、後期バカロレアのコースも充実している。また、いずれのコースも歴史的・伝統的なアートと現代・コンテンポラリーアートの両方を学ぶことができるそうだ。



小さいキャンパス、隣の教室では違うクラス

留学生課(International Admissions)のLauraさんの案内でキャンパスをぐるっと1周見学させてもらうことにした。1周回っても30分かからない、日本の芸大・美大に比べたらなんとコンパクトなことか。


  • 彫刻科の作業スペース。吹き抜けスペースの2階部分には絵画科のアトリエが並ぶ



この大学の特徴であり魅力だなと思ったのは、こじんまりしているからこそ、彫刻科の隣の教室で油絵を描いている学生がいて、階段を下がった下の階では映像制作をしている学生がいること。


階段にはそれぞれの学生の作品を展示していて、自分の専攻以外のアートに触れる機会が多い。キャンパスには多くのギャラリーがあり、2週間おきに学生がキュレーションした展示が行われる。タマビにいた時は自分から出かけていかなければテキスタイル学科の授業の様子は見えてこなかったし、彫刻家のツナギ姿の学生にもあまり会うことがなかったから新鮮に思える。


  • 絵画科の学生のアトリエ


  • 映像編集・投影ルーム。授業で使われることも多い


SFAIでは入学前に選考を決める必要がなく、2年時に進級するタイミングで専攻を選ぶことになる。自分の専門を決める前に多くのことに触れることを尊重したカリキュラムだ。そのため受験時には特別なテクニックや知識は必要ない。自分がどんな表現方法を極めるかを模索できる環境がある。


サンフランシスコのアーティストコミュニティは学生にも寛大でフランク!
若手作家に優しい街



私自身学生時代はニューヨークに短期留学した経験もあり、現代美術というジャンルではサンフランシスコにはニューヨークほどのイメージがなかったが、調べてみるとここから生まれた新たな芸術運動も数多くあるようだ。

1945年にはに写真家アンセル・アダムスが全米で初めて写真学科を開設するなど、この大学もサンフランシスコの芸術シーンで重要な役割を果たしてきた。

日本の美大よりもさらに倍くらい高い学費をかけ生活費もかけてわざわざアメリカで美術を学ぶなら、やっぱり日本で学べないことや体験できないことを吸収したい。そういう視点で大学の環境を選ぶのに大事な要素のひとつが、アートを学ぶということだけでなくアーティストになるための学びができるかどうかだろう。

Lauraさん曰く、「サンフランシスコは新人アーティストにとってはいいところだと思うわよ。NYやLAはすでにアーティストで溢れてしまっているから、サポートを受けるのが難しいんです。すごく有名な人が多いでしょう。サンフランシスコは美術大学の数は多くないけれど、どこの大学も協力的だし、San Francisco Arts Commission (SFAC)などの組織もあって、新人アーティストに優しいところだと思います」
「そして何より魅力的なのは、寛大で学生にもフランクに接してくれる素晴らしいアーティストやメンターのコミュニティに学生も浸ることができること。彼らは仲間同士で同時代に生きる現代作家として、ベイエリアから批判的・創造的なディスカッションや提起を行うべく、集団で制作もはじめるみたいですよ(個人での制作ももちろんありますが)。」


サンフランシスコにはクリエイターのスペースも作られてもいるんだって。(詳しくは別記事で紹介します!)学部の学生のうち25%が留学生、大学院の学生は40%以上が留学生。留学生の割合や数からも、アメリカでアーティストとして挑戦しようと、多くの学生がこのサンフランシスコにも多く集まってきているということなのだろう。


>> こんな記事も書いてみました!
「サンフランシスコの美大関係者に教えてもらったSF注目のアートスポット」



卒業後は?

Lauraさんと別れ際、最後の質問として聞いた。それは、卒業後のアーティストとしてのキャリアについて。スキルを学ぶのはもとより、卒業したら一番最初にぶつかるのは「アーティストとして食っていく」ということだからだ。

「重要な質問だね」と丁寧に答えてくれた。
「SFAIではアントレプレナーシップを学べるプログラムも用意しています。自分にあったキャリアを見つけるために、会社とのアポのサポートや、大学院(博士号)への進学相談・サポートもしています。その甲斐もあって、SFAIの卒業生の90%はアートをつくり続けているんですよ。どれだけ学生たちがアートに情熱を持ち続ける環境をつくれているかわかってもらえるのではないでしょうか」


アートを学ぶ環境も、いろいろな選択肢がある。
海外の美術大学について情報を集めるのは簡単ではないかもしれないけれど、こういう記事を通じて、視野・選択肢を広げてみてもらえたら嬉しい。



▼大学概要
San Francisco Art Institute

サンフランシスコ・アート・インスティチュート

URL:http://sfai.edu


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OTONA WRITER

natsumiueno / natsumiueno

編集者/メディエイター。美大での4年間は「アートと世の中を繋ぐ人になる」ことを目標に、フリーペーパーPARTNERを編集してみたり、展覧会THE SIXの運営をしてみたり、就活アート展『美ナビ展』の企画書をつくったりしてすごしました。現在チリ・サンチャゴ在住。ウェブメディアPARTNERの編集、記事執筆など。