セゾン現代美術館代表理事に聞く、アートを日常にするために出来ること OA vol.10 セゾン現代美術館 堤たか雄

「世の中を生き抜く術・勝ち残る術」をテーマに、建築界の異端児の異名をとる建築家松葉邦彦が今話したい人物と対談、インタビューを行い、これからの世の中を生きて行く学生や若手に伝えたいメッセージを発信する。第10回はセゾン現代美術館代表理事の堤たか雄さんにお話を伺いました。

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堤たか雄
セゾン現代美術館代表理事。1970年生まれ。父は小説家・詩人(実業家)、母は地唄舞の舞踊家、兄は芝居等舞台芸術のプロデューサーという芸術一家に育ち、家族みな自然が好きだったため昆虫にも興味を持ち、暗く孤独な思春期にも昆虫とアートを愛し続けたことで趣味と仕事の一体化を実現し現在に至る。2015年度NY AGORA GALLARY主催のコンペティション審査員、講演は2014年静岡芸術劇場、2015年アーツ前橋、執筆は読売新聞長野版「名作招待席」等。



松葉:「Outsider Architect」の10回目は、セゾン現代美術館代表理事の堤たか雄さんに主に以下の3つのトピックスについてお話を伺っていこうと思っています。


1:自然だったアートとの関わり。好きだった昆虫も蛇もアートに通ずる?
2:父の現代アートの収集で始まったセゾン美術館。有名作品もケースに入れない展示ポリシー
3:アートを日常にするために出来ること



1:自然だったアートの関わり。好きだった昆虫も蛇もアートに通ずる?

松葉:まずはアートとの関わりについてお伺いしたいと思うのですが、やはりお父様である堤清二氏の影響が大きいのでしょうか?

堤:そうですね、やはり父の影響が大きいと思います。といってもアートの英才教育を受けてきたというわけでは決してなく、自宅に父が個人的に所有していたアート作品が飾ってあったり、美術館が所蔵している抽象画家のサム・フランシスなどのリトグラフも色々と飾ってあったりして、幼い時から自然にアートに触れてきたという感じだと思います。色がカラフルだったりして子供心に関心を持っていたことを覚えています。そして、気付いたらアートが好きになっていました。ただ、好きになったけどそれがどういう作品なのかということは全然理解していなくて、そういうことに興味を持ち始めたのは大学生の頃でした。大学の2年の時に一般教養で美術の講義を取っていたのですが、16〜17世紀のオランダの花の静物画を研究している先生の講義だったため、授業で色々な花の静物画のスライドを見せてくれました。その中でも花の背景に赤ん坊とドクロが描かれているメメント・モリ(死を想え)という意味を持った絵画に興味を持ち、それからだんだんとアートにも関心を持ち始めました。ただ、その頃は現代美術というよりは、もっと具象的で古典的な作品への興味だったと思います。それ以降、たまに美術館に足を運ぶようになりました。

松葉:ちなみに、どちらの美術館がお好きですか?

堤:東京でしたら少し時間のある時にふらっと寄れる品川の原美術館が好きですね。あともう少し時間がある時は東京都現代美術館にも行ったりします。あと、Bunkamuraのザ・ミュージアムにもよく行きます。

松葉:大学卒業後はフランスに留学されていますが、なぜフランスに行かれようと思ったのでしょうか?

堤:中学・高校と通っていた学校がフランス語教育を行っており、両親の勧めもあり中学の時からフランス語を第一外国語として専攻していました。また、私の叔母に堤邦子さん(父の妹)という方がいたのですが、その邦子さんは27歳の時にフランスに渡り国籍も取得して40年間もフランスに住んでいました。エルメスやイヴ・サンローランといったブランドの創業家とも親交を深め、その関係で日本に商品を輸入しブランド展開する権利を商社に販売するビジネスを行ったりしていたのですが、その一方でフランスの文化を日本に伝えるために本を執筆するなど文化にも精通したとても素敵な女性でした。叔母の関係で私の母も若いころに1年間フランスに留学しており、両親ともにフランスには親しみを感じていました。ですので、私にフランス語の専攻を勧めたのだと思います。そして、高校1年の時にはホームステイで初めてフランスに行きました。そのように常に身近にフランスを感じる機会が多かったことや、日本を客観的に見ることができるようになるために海外行ってみようという思いもあり、大学卒業後にフランスに留学しました。

松葉:フランス留学は堤さんにとってどのような影響がありましたか?

堤:とにかく街に芸術文化が溢れている国でして、とても楽しい時間を過ごすことができました。アートのことをより好きになったのはフランス滞在の時です。今の私の礎となる経験だったと思います。

松葉:フランス留学に銀行勤務を経て、大学院に入られていますがどんな分野を専攻されていたのでしょうか?


  • 堤たか雄

堤:私が昔から好きだったものがアートと昆虫でして、将来はそのどちらかに関わる仕事がしたいと考えていました。それで昆虫も含むエコシステムについて学ぼうと思い大学院に入学しました。専攻は環境経済学という分野だったのですが、やはり昆虫好きが講じてしまい副専攻で野生動物学を専攻しました。通常は副専攻では環境経済学と近縁にある農業経済学を専攻するのが一般的だったのですが、どうしても昆虫について学びたいと思い、指導教官に事情を話して野生動物学の担当教授に話をつけてもらいよそ者的な感じで授業に出させてもらいました。

松葉:小さい時から昆虫が好きだったのですか?

堤:そうですね、幼稚園の頃から好きで、母と一緒に土の中にいる羽化直前のセミの幼虫を捕獲して木の枝に留まらせて羽化するのを見たりしていました。家族全員が自然とか昆虫とかが好きだったのも影響していると思います。

松葉:僕も子供の頃は昆虫が好きで近所の河原でバッタやコオロギを捕まえたり、カブトムシやクワガタを飼っていたりしたのですが、ある時から苦手になってしまいました。何故なのでしょうかね?

堤:そういう人は結構多いですよね。以前知り合いの方が思春期に昆虫が好きで飼育していたりする人は、友達から「気持ち悪い」とか言われたりするうち自然と触れる機会が減っていき、必然的に苦手になっていくのではないかとおっしゃっていましたが、妙に納得してしまいました。大人になればそれも個性の一つだと思うのですが、思春期に昆虫好きだとやはりネクラとか気持ち悪いというイメージを持たれてしまいがちなのだと思います。

松葉:先日、堤さんがアオダイショウを満面の笑みでつかんでいる写真を拝見したのですが、あの写真を見て本当に昆虫や爬虫類がお好きなのだなと思いました。

堤:田植え体験で高知県の棚田に行った際に用水路を大きなアオダイショウが泳いでいるのを見つけて嬉しくなってしまい捕まえてみました。そうしたら周りにいた子供達が意外にも興味を示してきたので、毒の有無を見極めるにはどうしたら良いかとか、顎の所をつかめば噛まれないということを教えてあげたところ怖がりながらも触って喜んでいました。

松葉:蛇って泳ぐのですね、知りませんでした。うなぎみたいな感じで泳ぐのでしょうか?

堤:体をくねらせて水面を泳ぐのですよね。長距離はどれくらい泳げるのかはわからないですが10mくらいであれば普通に泳いでいきますね。

松葉:泳ぐ姿を見たり蛇に触ったりという機会は普段なかなか無いと思いますので、子供達も良い機会になりますよね。

堤:また、造形という意味でも蛇は抽象画のようで美しいですよね。蛇というのは手足が退化していて、直線と曲線しかない形ですよね。這う時の動きもシンプルで研ぎ澄まされた動きですし。コンテンポラリーダンスでも蛇の動きを取り入れているという話を聞いたことがあります。あと蛇で思い出したのですが、アーティストの荒川修作さんは人間が蛇のように這って生活することができたら、180歳まで生きられるとおっしゃっていました。

松葉:二足歩行をやめて這いつくばって生活できれば寿命が延びるということなのでしょうかね?実際にどうなのかはわかりませんが、面白い発想ですね。アートと蛇は通ずるところがありそうですね。そう考えるとアートと昆虫も共通点があるのでしょうか?

堤:昆虫も造形的な視点で見るととても興味深いですね。以前知人のカーデザイナーの方がおっしゃっていたのですが、デザイン関連の書籍にも昆虫のイラスト図解が描かれていたそうです。例えばカブトムシでも羽を閉じている状態と開いている状態が描かれていたそうで、それらを見てデザインの参考にしていたとおっしゃっていました。先入観で気持ち悪いという風に思われがちですが、造形的な視点でよく見ると美しいのだと思います。あと昆虫ではないですが、蜘蛛も一見すると不恰好なのですがやはりよく見ると均整が取れていて興味深いなと思っています。

松葉:先入観という話ですと、エビとかカニも美味しいから好きだという人が多いかもしれませんが、逆によく見ると気持ち悪い格好をしていますからね。最初に食べた人は凄いなと思ってしまいます。



2:父の現代アートの収集で始まったセゾン美術館。有名作品もケースに入れない展示ポリシー

松葉:セゾン現代美術館についてお聞かせいただけますか。

堤:セゾン現代美術館は私の祖父の堤康次郎が収集していた骨董等の収蔵品を一般公開するために開館した高輪美術館が母体となっています。その後、父が美術館を引き継ぎセゾン現代美術館に改称しました。何故父が現代アートに興味を持ったかと言いますと、NYへの出張の際にニューヨーク近代美術館(MoMA)に立ち寄ったのがきっかけだと聞いております。最初は正直よくわからなかったようなのですが、3度目くらいから面白さに気づきはじめ、同時に日本の人にももっと現代アートを見てもらいたいと思い収集を始めたそうです。そして1961年に西武百貨店池袋店の催事場で「パウル・クレー展」を開催しました。パウル・クレーはスイスのアーティストで今でこそ日本でも認知されていますが、その時代にパウル・クレーを知っている日本人がどれだけいたのかはわかりません(笑)。実際に催事を担当した人も正直何を扱っているのかさっぱりわからないという状況だったみたいです。

松葉:当時は現代アートを理解できる日本人はほとんどいなかったということなのですね。そういう意味ではお父様は日本に現代アートというものを根付かせたお一人とも言えますね。

堤:周囲からも将来価値が上がりそうな作品、例えば印象派の絵画とかではなく何故よくわからない作品を購入するのだという意見があったみたいです。ですが、第一に父は経営資源として作品を購入していたわけでありませんし、加えて印象派等の作品は既に他の美術館で数多く収集されていたため、自分の信念を曲げずに現代アートの収集を行いました。やはり、日本に無いものをより多くの人に見てもらいたいという想いが強かったのだと思います。そして約500点ほどの作品を収集し、1975年に西武百貨店池袋店の中に西武美術館を開館いたしました。西武美術館は現代アートだけでなくツタンカーメン展や曼荼羅展など幅広いジャンルの展示を行っていて、行けば常に面白い展示が開催されている場所でした。その当時は今のようにインターネットも無い時代ですので、面白いことをやればとにかく人が集まるという状態で人気を博しました。そういう時代を経て1991年に、その10年前に軽井沢に移転していた高輪美術館に西武美術館の作品を統合しセゾン現代美術館となりました。

松葉:セゾン現代美術館の代表的な収蔵作品についてお話しいただけますか?

堤:そうですね、目玉が2つあるとしたら、1つはアメリカの抽象画家のマーク・ロスコの 「No.7」という作品だと思います。マーク・ロスコは1~2色で画面を塗りつぶすオールオーバーという技法で描く画家でとても人気があります。ロスコは自分の作品と一緒に写真に写るということをほとんどしない人だったのですが、そんな彼が唯一一緒に写っているのが「No.7」です。彼は自身の作品は全て1つの場所にまとまって存在して、空間を埋め尽くしている状態を希望していたのですが、弊館の収蔵作品は「No.7」だけでしてそういう意味では望ましい状態ではないのかもしれません。ですが傑作でしてどの企画展でも常に展示しています。もう1つはジャクソン・ポロックという早くして亡くなってしまったアメリカの抽象画家の「No.9」という作品です。キャンバスを床に広げ、刷毛やコテで空中から絵具を滴らせる「ドリッピング」という手法で描かれた作品なのですが、絵具の盛り上がりを見てもらいたいと思い、ガラスケースに入れずにそのままの状態で展示しています。ガラスの反射もなく見ることが出来ます。


  • セゾン現代美術館展示風景


  • セゾン現代美術館展示風景

松葉:確かにガラスケースに入っていませんでしたよね。こんなにすごい絵をむき出しで展示されているだと友人と驚いたことを覚えています。僕は作品の値段とかよくわかっていなかったのですが、横で友人に値段を耳打ちされてとても驚きました。けど、あんな近距離でいろいろな作品を鑑賞できる美術館は珍しいのではないでしょうか?

堤:欧米の美術館のように気軽にアートを鑑賞してほしいという想いもあり、床にテープを貼って「ここから先には入らないようにしてください」というような形には極力したくないと考えています。とはいえ、不安が無いと言えば嘘になってしまうかもしれないですけど(笑)。あとロスコの「No.7」とポロックの「No.9」以外で皆さんが特に驚かれるのが、ジャン・ティンゲリーの巨大なインスタレーション「地獄の首都NO.1」だと思います。使い古されたタイヤや車輪などの廃品とモーターを組み合わせた可動式の作品で、1時間に1度動かすのですがガチャーンとかチーンとかドーンといった類の音を奏でます。子供達にも人気がある作品です。

松葉:確かにティンゲリーの作品は子供達が喜びそうですよね。あと、以前堤さんに伺ったセザールにまつわる面白いお話をお聞かせいただけませんか?

堤:セザールはフランスの彫刻家でして、うちの美術館では2tトラックを2〜3台プレス機で圧縮した「TOKYO圧縮」や、250mlのコカコーラの缶を圧縮した「イエス・コーク」などの立体作品を収蔵しています。そしてある時その作品を見た業者さんがゴミと勘違いたようで、親切心から「よければ処分しておきますよ」と言われました(笑) 確かにアート作品としてみなければ巨大な鉄くずと勘違いされても仕方がないですよね。ですが、現代アートとは新しい物の見方を提示するという側面もありますので、そういう話もありなのかなと思っています。

松葉:なるほど。確かに自動車解体の工場の端に積んでありそうな金属の塊に見えなくはないですからね。むしろ、その業者の方の方が作品と聞いて驚いたのではないでしょうか(笑)。あと建築設計をやっているのでやはり美術館の建物が気になるのですが、何故菊竹清訓さんに設計をお願いしたのでしょうか?

堤:菊竹清訓さんは父が好きだった建築家でして、セゾン現代美術館以外にも西友大津ショッピングセンターなどの設計を依頼しています。

松葉:広い庭園の中に佇む素敵な美術館ですよね。もちろん建物も素晴らしいのですが個人的には特に庭園が素晴らしいと感じました。

堤:ありがとうございます。緑の中の美術館というコンセプトの下、自然に溶け込む数寄屋造りのような低層建築となっています。また庭園は緑の中を川のせせらぎを聴きながら彫刻作品を巡る回遊式で、彫刻家の若林奮さんに計画していただきました。庭園入口脇に設置された彫刻と門にはじまり、地形の再構成、台地、遊歩道、二つの鉄の橋、傾斜地の鉄板、植栽等など庭園全体が若林さんの作品と言っても過言でもありません。ちなみに、庭園入口や橋はコールテン鋼の錆仕上げとなっているのですが、メンテナンスが悪くて錆びてしまったと勘違いされもう少し綺麗にしても良いのではと打診されることもあります(笑)。

松葉:一般の方はわざと錆びさせているとは見てくれないのですね(笑)。ですが、その佇まいが存在感を放ちつつも自然の中に違和感なく溶け込んでいるのだと感じました。


  • セゾン現代美術館外観


  • セゾン現代美術館庭園風景


  • セゾン現代美術館庭園風景



3:アートを日常にするために出来ること

松葉:堤さんがセゾン現代美術館の代表理事になられて以降、運営方針等の方向転換はあったのでしょうか?

堤:今までは現代美術がわかる方だけに来ていただければ良いというスタンスで、宣伝のような外部に対する発信はほとんど行っておらず、どちらかというととにかく作品を守るというスタンスでした。ここ数年は一人でも多くの方に現代アートを見てほしいという方針に変更しつつあります。しかもなるべく気楽に見てほしいと思っています。というのも、現代アートというものは日頃美術館に行きなれていない方にとってはなかなか理解しがたいものだと思っています。私自身も子供の頃に白地のカンバスに3本の切り込みが入っている作品を見たときに、それが書なのかオブジェなのか絵なのか正直よくわかりませんでした。ルーチョ・フォンタナの「空間概念」という作品でカンバスに切り込みが入っていることで平面でなくて立体であり、また切り込みによってできた穴が宇宙とつながっているなどシンプルな作品ですがいろいろな意味合いがあります。ですので、きちんと理解しようとするとかなり難しいのですが、そこは無視していただいて「シュッと切れていいてかっこいいね」とかそういう見方をしていただいても良いのかなと思っています。そのように気軽に見ていただけるようになると、現代アートが日常生活にも溶け込みやすくなってくるのかなと考えています。作品は見てもらってこそ価値があり、また制作したアーティストも喜ぶと思っております。

松葉:現代アートが日常生活に溶け込むというのはとても良いなと思います。日本ではアートは崇高なものだと思われていたりする一方、理解に苦しむものだとも思われて敬遠されがちだと感じる事が多々あると思います。

堤:確かにそうですよね。そのようなイメージを変えて一人でも多くの人に面白いと思っていただけるように、企画内容も工夫するように心がけています。例えば現代アートの現代を問うために古美術品と一緒に並べてみたいとか、あと他の美術館とのコラボレーションなどにも力を入れています。最近ですと、富山近代美術館と連携して「時代の共鳴者 辻井喬・瀧口修造と20世紀美術 ーセゾン現代美術館コレクションからー」という企画展を開催しています。

松葉:以前、とある美術館の館長さんが「あのセゾン現代美術館が作品の貸し出しをするのか!?」ととても驚かれていましたよね。

堤:今まではセゾンは正直お高くとまっているという印象を持たれていたのかもしれません。ただ、そういうイメージですと気軽に行く感じの場所ではありませんよね。人に来ていただかないと活気も無くなってしまいますので、やはりイメージを変えていく必要があると思っています。

松葉:2015年12月には神宮前にSEZON ART GALLERYをオープンさせていますが、やはり気軽に現代アートと触れ合ってほしいという想いがあってギャラリーを始められたのでしょうか?

堤:おっしゃる通りでSEZON ART GALLERYは「芸術の日常性」をテーマにしたギャラリーです。セゾン現代美術館も親しみやすい場所になりつつありますが、とはいっても作品はもとより建物や庭園すべてが巨匠の作品です。それが良いところでもあるのですが、反面なかなか思い切った事はやりづらいという側面もあります。

松葉:確かにあの空間は素敵ですが、一方である種の緊張感を持った非日常を感じますからね。ちなみにSEZON ART GALLERYはどのような場所なのですか?

堤:作品が生まれるアーティストのアトリエや、生まれたものが外界と摩擦を起こす展示・ 販売を行うギャラリー、さらには想像力を膨らます人々の対話の場となるカフェ・ダイニングバーを一体化した空間でして、注目のアーティストの画展やゲスト参加型の企画を開催することで、最新の現代アートを紹介していきたいと思っています。また、アートフェア、オークションを通して、将来にわたって新しいアートを担う新進気鋭のアーティストの発掘の場も目指しています。

松葉:なるほど、セゾン現代美術館と異なるところはどこでしょうか?

堤:アートを売買するというのが美術館とは大きく異なる点でして、よりアートが日常的になるきっかけになる場として機能したらと思っています。有名無名問わず自分が好きなアーティストを見つけて作品を購入するという人が増えてくれるのが理想的です。

松葉:以前、堤さんが知り合いの Yamamoto Haruca さんというアーティストの絵を買ってくだいましたよね。それをきっかけに自分もアート作品を買いたいなと思うようになり、気になる作品を購入するようになりました。僕の今のお気に入りは有吉勇志くんという画家でして、絵など数点を所有しています。そしていつかはアンディ・ウォーホルとかを購入できたらと思っています。

堤:コレクターとしての第一歩を踏み出した記念すべき最初の作品は大切にされた方が良いですよ。売る・売らないは別としても、自分が気に入ったアーティストが評価され価値が何十倍とかになったら嬉しいですしね。

松葉:アーティストとして大成して、将来美術館を設計してほしいと言われたら尚嬉しいですが(笑)。基本的に自分のオフィスの壁面には有吉くんの絵以外にも友人の写真家の作品や自分が設計した建物の写真、さらにはウォーホールのキャンベルスープのポスターなどを額装して飾ってあります。そしてそういった作品があるのとないのでは全然空間の豊かさが違ってくると思います。また、収集している作品には一定の好みがあるので、その作品群には自分の個性が表現されているとも思っています。ですので、僕のオフィスは全く建築設計事務所っぽくないと言われますし、また僕らしいと来た人に言われます(笑)。

堤:松葉さんのようにアートを買ってみようという人が増えてくれると嬉しいですし、そのようになるためにはやはりまずは東京にギャラリーをつくるのが良いだろうと思いました。そして東京でセゾンにゆかりのある場所として、セゾン文化の中心だった渋谷付近でと思い、神宮前にSEZON ART GALLERYをオープンさせました。あくまでギャラリーなので作品が中心なのですが、その作品を見ながらランチができたり、お酒が飲めたりできるようにカフェ・ダイニングバーのスペースも設けています。

松葉:先日僕もレセプションに伺った「BEN MORI 展 “FORBIDDEN FOREST”」がSEZON ART GALLREYが開催した最初の個展ですよね。何故森勉さんを選ばれたのでしょうか?

堤:去年の7月に渋谷ヒカリエで開催された森勉さんの個展で作品を拝見して興味を持ちました。森さんは動物が好きで色々な動物をモチーフとした絵を描いています。私も動物好きですし、独特のドットのような表現方法も面白いなと思い個展を開催いたしました。

松葉:ドットのような表現はキラキラと光っていて綺麗で良かったですよね。蛇をモチーフにした絵は光の反射が見る角度によって異なり本物の蛇の鱗のようにも見えました。

堤:森さんの作品自体は高額ですが、シルクスクリーンも販売もしていて、そちらはかなり買いやすい価格になっていますので結構買っていかれる方もいます。私も亀と蝶と梟をそれぞれモチーフにしたシルクスクリーンを3点購入しました。そのように気軽にアート作品を購入していっていただけるような場にしたいと思っていますし、一方でアーティストともきちんと話ができる場にもしたいと思っています。森さんは気さくな方ですので、在廊中にいらっしゃった方々ともお話をされているみたいです。

松葉:森さん以降はどのような方が展示をされる予定なのですが?

堤:今決まっているのは笹田靖人さんと門田光雅さんの個展です。笹田靖人さんは繊細で緻密な線を描くアーティストでして、Yohji Yamamotoとのコラボレーションでファッション界でも話題なった方です。門田光雅さんは以前セゾン現代美術館が行っていた、その時一番旬なアーティストを紹介する「ART TODAY」という企画展でも取り上げたアーティストでして、色彩や素材・筆触の追求の中で、今日の絵画表現の新たな可能性の開拓をテーマにしている方です。基本的に現代アートという括りにしてありますが、前を向いて新しいことに取りくんでいるアーティストであればジャンルにとらわれずに幅広く扱っていきたいと思っています。

松葉:個人的に門田さんの絵には関心がありますので展示がとても楽しみです。以前堤さんに呼んでいたただいたイベントで門田さんの絵を拝見してとても興味を持ちました。今メインでやっているプロジェクトの設計料が入ってきた時には門田さんの絵を購入したいと密かに思っています(笑)。

堤:門田さんも含めSEZON ART GALLERYで扱ったアーティストは極力海外のアートフェア等にも積極的に出していきたいと思っているのですが、そこで高値がついてしまうと買いづらくなってしまうので今は買い時だと思いますよ。

松葉:そうしたら早めに購入したいといけないですね。今までは趣味のお金の使い方といったら家具か洋服、それに時計やアクセサリーといったところだったのですが、アートに関心を持つようになってより日々の生活が前より豊かになった気がしています。多分近いうちにオフィスを移転させる予定でしてそこにどんな家具や照明を置こうとか想像しているのですが、同時に壁にはどんな絵を飾ろうかなと考えているとより一層楽しくなります。まあ、自分で設計している建物の一区画に入ろうとしているので、その前に膨大な図面を描かないといけないのですが・・・。日本ではアートは高額で美術館のようなおごそかな空間で対峙するものというイメージが強いですが、購入して生活の一部として楽しむという文化がより定着していくとアートに対するイメージが変わってくるのかなと思いました。もちろん著名なアーティストの作品は高額過ぎてとても手が出せませんが、自分が出せる範囲でも十分に楽しめますし。投資目的でないのであれば自分が気に入れば有名なアーティストの作品でなくても良いと思います。そして将来値上がりをしてくれれば尚良いですね(笑)。




<セゾン現代美術館開催要項>

展覧会名 :「UNTITLED/無題」から ― 恋は語らず…
会  期 :2016年4月23日(土)-7月18日(月・祝)
主  催 :セゾン現代美術館
開 館 時 館:10:00-18:00 (最終入館17:30)
休 館 日:木曜日(ただし、5/5を除く)
入 館 料:一般1000円/大高生800円/中小生300円
所 在 地:〒389-0111 長野県北佐久郡軽井沢町長倉芹ヶ沢2140


<展覧会について>

「UNTITLED」や「無題」は作品のタイトルなのか、それともタイトルがないという意味なのでしょうか。これは現代美術の本質的な問題です。多くの作品では、描かれているモノや場所、一連の事象がタイトルになっています。ホンモノは作品の外にあり作品はその仮象という捉え方なのです。しかし、外部の存在を再現しない現代美術は、作品そのものが全てです。この作品があるのみだ!という「UNTITLED」や「無題」は、最も近代芸術的であり、最も純粋で強く美しいものです。あえてタイトルをつけるとすれば、作品を見る観客が決めるしかないのです。NAME IT!

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OTONA WRITER

松葉邦彦 / KUNIHIKO MATSUBA

株式会社TYRANT代表取締役/一級建築士 1979年東京都生まれ。東京藝術大学大学院修了後、事務所勤務を経ることなく独立。 人生で初めて設計した建物が公共の文化施設(旧廣盛酒造所再生計画)という異例な経歴を持つ。工学院大学建築学部建築デザイン学科非常勤講師。