コラムニストの憂鬱その7「学校と教師〜ニー〜」

長い前振りのあとに・・・。

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前編

イラストレーターの先輩から、一斉メールが届いた。
簡潔に内容を書くと、ある都立高校で行われる特別授業の講師の依頼。
「コレは面白そうだぞ」と直ぐに返信した。
数日後、「正式に依頼します」と返信アリ。
授業内容は、老人ホームや幼稚園に送るグリーディングカード制作の補佐役。
高校生にアドバイスをするらしい。

で、当日。
普段なら絶対に寝ている時間に、高校がある駅に待ち合わせ。
僕を含めて6人の講師陣が顔を合わせた。
先輩から「一人、一クラスを担当してもらいます」と説明を受ける。
徒歩数分の高校に着く、公立高校なんて15年ぶり。
学校独特の空気に懐かしい気持ちに浸る。

控え室に案内されると、特別授業を統括する先生から特別授業の以下の詳しい説明。
担任はあくまでサポート。
授業のメインは外部から来た皆さん。
外部から来た皆さんと高校生が触れ合うことに意味がある。
(端的にまとめたので冷たい文面になったが、もちろん丁寧な口調)


このまま教室に突入すると思ったが、
アドバイスをする相手の1年生達に挨拶をするのが先。
久々の響き、多目的ホールに足を運んだ。
裏手のドアから入ると、一段上がった舞台が目に入る。
「え、こんなパブリックな場で挨拶するのかよ!?」
とビビリつつ、壇上へ上がる。
6クラス×40人、計240人の視線が6人の大人に集中。
上野動物園のパンダは、こんな気分だろう。
かなり羞恥プレイ、一人一人あいさつをする。
ココはウケを狙って、面白いことをいうべきなのか?
僕のキャラ的に何かユニークなことを言った方が良い気もする。
だが、ウケなかったら授業する気持ちもナーバスに・・・
結果、「イラストレーターのヨシムラです。よろしくお願いします」
と普通に挨拶をした。
反応は特になし。そりゃそーだ。

「では、教室へ」
1年3組の教室の前に案内された。
1年3組ヨシムラ先生のデビュー戦。最後の聖戦の幕開けだ。

ガラッ。

「ワーガヤーギャー、キャーアパパーワー、キャーガ、ワーガヤーギキャーアパパー、キャーガガヤーギャー、キャーアパパー、ワー、キャーガ、ワー!!!!!!」

生徒のものスゴイ歓声。もしくは悲鳴。
コレ、全く脚色してないノンフィクションコラムだからね。

圧倒される。ここまで人に騒がれたことはない。
男子生徒が叫んでいる。

「KANA-BOONだ、KANA-BOONが来た!」
僕はKANA-BOONではない。確実に、KANA-BOONではない。

僕が「お前ら、怖いなぁ」とつぶやくと、
それを聞いていた担任の先生が
「はーい、みんな静かに!!ヨシムラさん、怖がっているよ」
と叫んだ。
教室が一瞬平穏に包まれる。
自己紹介をした。
同じ轍は踏まない。
「僕は面白い人ですよぉ」とアピールするために得意の小話を披露した。
(この連載でも書いた、街で会った中学生に僕が童貞ではないと自慢した話である。
リンクから読めます)


「で、中学生にしたことありますよと言ったらさぁ」と話した刹那

「ワギャーーー」
再度、教室が揺れた。

男子がアホみたいに騒いでいる。
そう、男は年をいくら重ねようが、この手の話は大好きなのである。
女子は案の定、静かだった。

一人の男子が先生に向かってこう言った。
「先生、やったことある?」
書いていなかったが、このクラスの担任は僕とほぼ同じ年齢と想像される女性教師。
「オイ、君。社会人になってそんなこと言ったら終わりだぞ!」と僕は注意をした。

また他の男子が
「先生に来て欲しかったんですよ」
と言ってくれたが「たぶん、6人中で僕が一番絵がヘタだよ」と返した。


授業がスタートした。
前述したように、
2時間目から4時間目までを使ってグリーディングカードを制作する。

やっぱりというか、なんというか。
高校一年生ぐらいの年頃は、男女の精神年齢が圧倒的に違う。
女子は黙々と制作し、男子はバカ話に花を咲かす。
一応、講師なので「カード作れー!」と急かす。
ただ、「仮に僕が君たちの年齢で、この状況だったら100%やらない」とも言った。
フェアさが大事なんだ。キレイごとかも知れないが、
公平さに欠ける人間は教育には向かない。
「作れ」と言ってもやらない。しかし「作るな」と言ったらやる。
逆説的手法が効いたようで、授業の後半にもなると、教室は静かになった。


途中、男子に「先生のiPhone5s!?古いですね」とツッコまれる。
大人になると、人の持ち物にどーこーツッコミを入れない。
しかい、高校生の僕も他人の些細なことに気になって仕方なかった。
そんな、感じを再認識できて良かった。
自分が失った感性を若人との触れ合いによって思い出す。
そんなことが妙にグっとくるのも、年齢を重ねた結果だろう。


4時間目を迎える頃には、だいたいの生徒の作業は終わった。
イラストを描いて欲しいといった生徒が数名いたので、
男子にはおっぱい、女子には似顔絵を描いてあげた。
僕は、似顔絵がヘタなので、全く似ないこともあったが、まぁ、それも許してくれた。


1日教師業。気軽に教えたつもりだったが、学校の門を出た瞬間に
異常な疲れを感じている自分がいた。
コレを毎日やるのは、そーとーに難儀なことだと理解できた。
世の中には、自らの身をもって体験しなければ分かないことが多すぎる。
想像では掴めないことが無限にある。
こんなことでは、死ぬまでに何にも分からない。だから何にも言えない。
「もっと、想像力を育てなけらばなぁ」と、そんなことを考えた。

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OTONA WRITER

ヨシムラヒロム / Hiromu Yoshimura

中野区観光大使やっています。最近、29歳になりました!趣味は読書です。