教師業は、ロマンある仕事だとずっと思っていた。
中学三年生の時に、上戸彩がメインを飾った
『3年B組金八先生』を夢中で見ていたし、
週刊少年マガジンで連載されていた『GTO』もリアルタイムで読んでいた。
想像上の教師に恵まれた世代だ。
しかし、実際に出会った教師・・・。
僕が通っていた公立中学校は、生徒のクオリティが低かった。
そういった学校に赴任してくれる教師もはっきりと言って難儀なタイプが多い。
中学生から見て難儀な教師。今の大人になって考えるとヤヴァイ教師。
英語教師M
この男は、僕が2年生の頃に中野H中に赴任してきた。
何故か、赴任前から話題になっていて
「次に来る先生は、俺のように甘くないぞ」と他の先生からも口伝。
新春、体育館で行われる挨拶で遂にMと初対面した。
彼は、Nikeでもadidasでもないasixとも違う、
どこのブランドか分からない紺色のジャージを上下に着用しいた。
壇上の上から生徒を見下ろすM。
首には笛をかけおり、その音色で生徒を統治する気満々だ。
「オレの言うこと聞かせて〜」というオーラが身体からモロに放たれていた。
英語担当らしいが、見た目は完璧に体育教師。
体育館の壇上でMは「俺は熱いぞ」的なことを言ったと思う。
Mの授業のチャイムが鳴った。熱血指導開始。
授業前には必ず、「よ〜し脳のトレーニングだ」
と言って間違え探しをやらせた。
サイゼリアのメニューの裏ぐらいに難易度が高く、
なかなか見つけられない。
だから授業中も間違え探しのことが気になって仕方ないのだ。
あのトレーニングに意味があったのか、現在でも謎。
しかし、Mに期待していることもあったことも事実だ。
不良達の討伐である。
中野H中学、教師もB級なら、もちろん生徒もB級。
僕もB級。ときおりC級が混じる。
そのC級が難儀で、授業を邪魔したり、
カツアゲをしたりと暴れていた。
そいつらの暴走っぷりに、
ことほど左様に迷惑をしていたB級軍団は平和なスクールライフを熱望。
当初、MはC級に激しい指導をした。
「こうかは いまひとつの ようだ」
更に指導が激化すると思ったが、
Mの次の一手は驚愕するものだった。
そう、不良の太鼓持ちを始めたのだ。
テスト発表日。順々に名前が呼ばれる。
Mが「ヨシムラ」と呼んだ。
Mの手からテスト用紙を取る。「ん・・・」テスト用紙が取れない。
「何故だ・・・?」次の瞬間、驚愕した。
Mがテストの端を人差し指と親指で強く掴んでいるのである。
僕も引っ張る、テスト用紙がピンッと張る。
「ヨシムラ」高圧的なボイスが教室に響く。
「・・・?」大きなハテナマークが僕の頭に浮かぶ。
頭を下げて、丁寧にテスト用紙を取ろうとするが、まだ離さない。
静寂が教室を包む。
次の瞬間「手、手、手、手、手、手、手、手、手」とM。
片手でテスト用紙を取ろうとしたことにお怒りの様子だ。
「すいません」と賞状を受け取るように両手でテスト用紙を受け取った。
Mは教室の王様。
席に戻ると、不良が雑に扉を開けて教室に入ってきた。
MはC級に「お、よく来たなぁ〜」と言った。
不良は「テスト」と言い放ち、Mはテストを差し出した。
不良は、片手でMからテストを剥ぎ取った。
僕は「あ、コレはM怒るぞー」と思ったが、
Mは笑顔で「おぉ、勢いあるな」と対応。
生徒によって態度を使い分けが明確なのだ。
C級は学校の王様。
Mは、よく僕らを圧迫した。反抗しない生徒には強めに出たい男である。
圧迫する際は、ナニ言うのでもなく、
ほうれい線が深く刻まれた顔でジーっと見つめてくる。
そして、「すいません」の一言を待つのだ。マッド!
Mは、40代で結婚をしていたが、子供はいなかった。
そんなことを授業で話しているとC級が
「先生の遺伝子腐ってんるんじゃねーの」と発言。
仮に、僕が同様の発言をしたら
旧スターウォーズ三部作を見るよりも長い説教を受けるだろう。
Mは「おいおい、そういうなよ。ハハハ」
とトレンディドラマのような軽い笑みで返した。
お前はプールバーで上司にイジられた後輩か!?
と思わせる対応に驚愕。
Mは、卒業まで太鼓持ちを続けた結果、
不良の中で恩師的ポディションに収まった。
当時の僕はMにたいして不服を感じた。
C級には太鼓持ち、B級には強面の対応。
前者で溜めたストレス、後者で解消。
最も効率良く教師をする良い方法なんだろう。
だが、不服なのはMの熱血教師的なスタンスである。
太鼓持ちするなら、その熱血体育教師的スタンスは捨てて欲しいものだ。
同時に首にかけた笛も捨てろと言いたい。
あ、本編にいくまえに文字数がこんなにいってしまった。
Mのことを書くと止まらないのだ。
人間の業やペルソナを体現するMは、まるで落語のキャラクター。
僕にとってのミューズなんだと思う。堪らなく愛おしい。
後編に乞うご期待。ついに教壇へ上がります。
教壇編