建築家 成瀬友梨と猪熊純 × ムジン荘 美大生が語る 空間をシェアする本当の意味

シェアハウスにいつもの顔ぶれしか集まらないんじゃ意味がない!? 開かれた空間が大切なのはなぜ!? 武蔵野美術大学近くに社宅をリノベーションしてつくられたシェアハウス「ガーデンテラス鷹の台」のデザインを担当した成瀬・猪熊建築設計事務所の建築家・成瀬友梨さん、猪熊純さん。そして、誰も住まないけどみんなで話すためのシェアハウス、ムジン荘を運営するムサビ生が語り合った「空間をシェアする本当の意味」をお届けします。

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武蔵野美術大学近くに、社宅をリノベーションしてつくられたシェアハウス「ガーデンテラス鷹の台」。デザインを担当した成瀬・猪熊建築設計事務所の建築家、成瀬友梨さんと猪熊純さんが、美大生やご近所さんに向けてツアーをしてくださるというおひろめ会が行われました。(ツアーの様子はこちら)ツアー後、「ガーデンテラス鷹の台」住民のシェアスペースである、玉川上水沿いのキッチンつきのテラスで、成瀬さんと猪熊さん、そしてムジン荘を運営する美大生らが、シェアハウスやコミュティの現状や可能性について語り合いました。

成瀬・猪熊建築設計事務所
建築はもとより、プロダクトからランドスケープ、まちづくりまで、様々なデザインを行う。近年では、場所のシェアの研究を行い、新しい運営と一体的に空間を作ることを実践。コワーキングスペース、イノベーションセンター、シェアハウス、コミュニティカフェ、福祉施設などを設計中。
http://www.narukuma.com/

猪熊純
1977年神奈川県生まれ。2004年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。同年から2006年まで、千葉学建築計画事務所勤務の後、2007年成瀬・猪熊建築設計事務所共同設立。2008年から首都大学東京助教。

成瀬友梨
1979年愛知県生まれ。2007年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程単位取得退学の後、同年、成瀬・猪熊建築設計事務所共同設立。2008年から09年東京理科大学非常勤講師。2009年東京大学大学院特任助教。2010から同大学院助教。


ムジン荘
「つくる」アトリエではなく「話す」アトリエ。誰も住まないことをルールに、武蔵野美術大学の学生9名が中心となって運営するシェアハウス。最近行われたイベントは、目隠しをして視覚を制限した時と、目隠しをせず視覚に制限がない時の2つの状況での対話をする試み、武蔵野美術大学基礎デザイン学科板東孝明教授による「バックミンスター・フラーとデザイン」など。
https://twitter.com/muzinsou/

川口茜
武蔵野美術大学基礎デザイン学科4年。ムジン荘メンバー。ムジン荘では、談話でもない、議論でもない、対話の生まれる空間を意識してイベントをたまに開催。ある場所が、人によってある時間になるという、あたりまえのような奇跡に日々わくわくしている。

脇野あや
武蔵野美術大学日本画専攻3年。ムジン荘メンバー。生活の中心は作品制作。一人で煮詰まってしまう時にシェアできる空間に行きたくなる。対してアトリエは、基本的にはリラックスした状態で過ごす場所。ゆったりとした呼吸で、シャボン玉を吹くように言葉が生まれる穏やかで刺激的な空間。

豊島彩花
白百合女子大学発達心理学専攻2年。ムジン荘客人。シェアする空間が持つ可能性、重要性に関心があり、よく足を運んでいる。シェアハウスはまさにシェアする機会を多くもつことができ、多くのセレンディピティを経験した。

誰も住まないけど、みんなで話すシェアハウス、ムジン荘って?

猪熊純 ムジン荘ってどんなことをやってるの?

川口茜 ムジン大学という名前で、月一くらいでイベントを行ってます。目標は、ムジン荘のメンバーとかムサビ(武蔵野美術大学)以外の人が半分以上来て、そこでそれぞれが自分のことを話す時間がある場所をつくりたいと思っています。一回目は、それそれが、好きな本の中で、好きな文をひとつ紹介してくださいというのをやりました。

猪熊純 すぐキャラがわかる。

川口茜 そうなんです。自分が好きなことを話す場所にしたい。自分の好きなことって、もしかしたら他の人からすると、こうなのかもしれないという発掘が出来る場所が欲しいと思って。
私、欲張りで、色んなことをやりたいんですけど、たくさんありすぎて、生きている間だけじゃ時間が足りないって気づいてから、じゃあもう、自分が興味のあることを、ひとつひとつ進んで来た人たちの話を聞けば、疑似体験じゃないですけど、経験が伴った誰かの言葉を聞いていくことで、それなりに豊かになることがあるんだろうなって思って、だから色んな人の話が聞きたいんですよ。

猪熊純 へえ〜いいねえ、すごい。

成瀬友梨 一回目をやった時は、他大の人もけっこう来たの?

川口茜 うん、呼びました。

脇野あや 基本的に茜が呼んだよね。

成瀬友梨 どうやって呼んでるの?

川口茜 鷹の台に何時に、来ない?って。何時からなになにあるからおいで!みたいな。「なにすんの〜?」って聞かれて「教育のこと話す!」という感じで。二回目は集中して教育について話すって私が勝手に決めて、横浜国立大学で教育を専攻している人を呼びました。それから私は、自由学園という学校に通っていたんですけど。

猪熊純 フランク・ロイド・ライトの校舎の、自由学園だね。

川口茜 そうです。前校舎として使われていた明日館の食堂がフランク・ロイド・ライトの設計で。その学校の同級生が、リベラルアーツを学んでいて、その子やその友達を呼んだりしました。

自由学園・・・二人のジャーナリスト、羽仁吉一、もと子夫妻が自分たちの子どもが小学校で受けていた教育の在り方に不満を感じたことから作った教育機関。幼稚園から大学にあたる部まである一貫教育機関。幼稚園では自分たちの遠足の持ち物を先生と一緒に考える。男子部(中等科・高等科)では入学式の次の日に自分が6年間使う椅子を自分で作り、女子部では自分たちで給食を作る。

猪熊純  すごいね、それは参加費はとってるの?

川口茜  全然。皆でご飯を作った時は、材料費をもらうこともあるんですけど。

猪熊純 そうか。だから、参加してる人はメイン9人がやってるけど、イベント参加する人は、またプラスαで、今の時点では料金がかかってないんだ。

川口茜 お気持ちで光熱費を出してくれるって子がいたら、それはもうウェルカム。

猪熊純 広がるとそうなってくるだろうね。立ち上げの時は、なかなかそういうことできないけど。そのうち、ほっといても人が来るようになると、じゃあ参加費500円で、というのでも成り立つようにだんだんなるよね。

脇野あや その流れ理想だね。運営側も負担がないし。現時点では、ここが遠くっていうことを私は意識していて。

猪熊純  鷹の台遠いよね。

脇野あや ここがどこからも遠いっていうことを意識すると、来ていただくだけで一生懸命なのが伝わってくるし、だからそれプラスαもっと豊かなものを提供できるかな、ということで今すごく奮闘しています。

猪熊純 なんか、いい場だね。

川口茜 誰も住まないってことを基本にすると、難しいことも沢山あるんですけど、だからこそ皆で作っていかなきゃならないっていう意識を皆が持っていると思います。誰かが住んでるから、あの子がやるでしょじゃなくって、皆でやんなきゃねってことになるから。

猪熊純 スキルとかレベルってより、ポリシーとか生き方とか、そっち側に興味がある感じだね。こういうことに興味をもって目指していて、そのために今苦労していますっていう話とかを、掘り下げていく場になっていくよね。

成瀬友梨 月1回イベントをしているの?

脇野あや でも、ただ集まってなんか食べてるみたいな日もあると思います。

猪熊純 分野を横断したゼミ室みたいだね。

脇野あや 教授呼ぶから、来たい人は来てねって言う時もあるし。

猪熊純 楽しそう、行ってみたいね。

成瀬友梨 どんな人呼んでるの?


川口茜 この間は、 関野吉晴さんという、人類史の先生をお呼びしました。「グレートジャーニー」という昔フジテレビで放映していた、人類の起源を逆に上っていくというプロジェクトをされていた、冒険家で医師をしている先生なのですが。

猪熊純 すごいね。情熱大陸レベルの人だね。

川口茜 一人の人を思い浮かべた時に、あの人はこういうことをやってるから興味があるかもしれないと思って、呼ぼうって広がっていきます。

猪熊純 HAGISOとちょっと似てるね。谷中にあって、東京藝術大学の卒業生がやっている。世界最小の文化施設にしたいっていって。一階にカフェとギャラリーがあって、二階に宮崎君の設計事務所と美容室があって。イベントで僕も喋りにいったことがある。彼らを呼んだら面白いかもね。実践者だからすごく面白い話が聞けると思う。設計もやってイベント企画もやって、カフェ運営もやった人だから。建設中のプロセスでも、柱に彫刻したり、それをもとに身体表現のパフォーマンスをやったりとか。今はカフェが人気で、土日だともう50メートルとか行列できちゃうくらい流行っているらしい。

豊島彩花 へえ〜いってみよう。明日、谷中行きます!

シェアする空間が開かれていることの重要性

川口茜 行列って大事ですよね。常連さんで固まっちゃうって、心地いい空間になりやすいけれども、結構衰退に繋がっているのではないかって。

猪熊純 コアな人で固まっちゃうっていうね。

川口茜  実際、常連さんばかり訪れる飲食店は、潰れやすいと聞いたことがあります。その人達が一気にいなくなったらもうなくなっちゃう。しかもどんどんサービスばっかりしちゃって結局赤字になる。そうやって、中の人だけが心地よくなっちゃうっていうのだと、またちょっと違って。

猪熊純 一見さんがよくわからない会話が続くみたいなね。それってどんどん差が開かれていくじゃないですか。いったん出来上がると、常連さん達もそのムードを楽しんでしまって、一見さんにとって居心地悪いなぁという風に。

脇野あや どこかで開かれてるって大事ですね。

豊島彩花 開かれてることは、シェアする空間に絶対欠かせないなって思っています。私の周りに、ムジン荘以外にも、シェアスペースを使って活動している人がいるのですが、開かれた場所がどこに向かっているのか考えてなくてはいけないと。シェアハウスに興味があって、渋ハウスとか、家入一真さんが作った、六本木のリバ邸にも通っていたりしているのですが、リバ邸ではセッションズというグループのようなものを作って、ムジン荘みたいに、話したいテーマを提案する人がいたら、リバ邸のスペースを借りて集まって、お金も発生するように運営していました。
渋ハウスは、アーティストがよく集まる場所として知られているのですが、そのうちに知り合いが多くなったりして、だんだんと、いろんな人がいろんな話をしたりできない空気になっていて。

猪熊純 なるほど、閉じちゃってるんだ。

川口茜 コアな人が集まってるよね。

豊島彩花 それはそれで良いところもあるんですけど、なんか違うかなって。

セレンディピティをオンにする

成瀬友梨 豊島さんは、自己紹介でセレンディピティって書いてた人ですよね?

豊島彩花 そうです。私はムジン荘に集まって話をすることが好きですし、いろいろなシェアする空間に足を運んでいる中で、私自身は美大に通っているわけではないのですが、美術に興味があって、心理学を学んでいて思ったことや、生け花をしていて思ったりすることが、美大生の観点から見た時に繋がって、参考になったり発見したり、セレンディピティがたくさんあるということが今まで何度もあったんです。本当にシェアする空間は、これから大事だなって思いますね。

猪熊純 心理学を研究としてやっている観点から見ても、多様性が効いてくることってある?閉じている中だと、一見、気楽で安心で、新しい人が入ってくると、ちょっと疲れる面と、開放感みたいなのもあって。

豊島彩花 東京みたいな、開かれたシェアスペースには一定の人と言うか、いつも入れ替わりいろんな人が入る空間が必要だと思っています。田舎とか僻地とかそういう狭まったところでは、近所の付き合いとか深いですし、密な関係になっていくんですけれども、今の現代社会とか東京とかだったら、人間関係が、広く浅くという感じだから、必然とシェアスペースが欲しいって思う人がいるかなあと思います。

猪熊純 確かにそういうところがないと、個人として強くないと大変だよね。集まる場所があるとちょっと安心するっていうのはあるよね。そこに開かれたポイントをつくるかどうか。

脇野あや  セレンディピティが何かを聞いてもいいですか?

豊島彩花  セレンディピティは、自分とは関係ないところや、結びつきが見当たらないところで繋がるという感じかな。例えば私が陰影礼賛を読んでいて、「ああ光の乏しさって、」って思ったら、脇野ちゃんが日本画をやっていて「ああ日本画って、光の乏しさを大事にするよなって」思っていて、陰影礼賛で研究されている日本の文化っていうのと、日本画で大事にされている美っていうのがフィットして、私たちが話した時に、私の思っていたこととあなたの思っていたことって一緒じゃない?って繋がること・・・それって現象とか能力のことかもしれない。心理学にも出てくるし、結構ビジネスの会話にでてくる。

猪熊純 結局自分たちが過ごしている環境って、自分を中心に親しい順に同心円上にできちゃうので、会社にいると同じ部署の人達が一番親しくって、そういう場でずっと研究開発をしていると、いつも同じ環境でしかないので、新しいイメージが生まれないし、インターナショナルに勝てるようなアイデアが出ないというのが、ずっと問題にある。無理矢理、違う分野の人達と一緒に、セッションしたりすると、意外と、全然違う視点から画期的な発見があったりするわけです。
Facebookも、結局コントロールされていて、仲の良い人の投稿ばかり出てくるようになっていて、自分もいつも見てもらっていて、仲良い人達をいつも見ているっていう感覚にさせられて、あれはセレンディピティをオフにしちゃっている状態だと思う。そこを飛び越えるのが大事なんだよね。

川口茜 ビジネス的にも、人間的にもセレンディピティをオンにしたほうが広がるよね。

脇野あや  セレンディピティ、なんかしっくりきたな。自分が外に出て行くのはその理由でしかない。基本的に自分の中で完結してしまいがちなところを、呼ばれたらいつでも行く、行けるっていうスタンスでいれることが大事ですよね。いずれは自分でそういう事や場をつくっていきたいなって思います。人がたくさんいる中に入って行った時に、自分はどうなるんだろうということを知って、そこから自分がそういう空間でなにができるか、得意不得意があるかもしれないし、ムジン荘はじりじりと試せる場という感じですね。

猪熊純 トラディショナルなものほど、評価基準も作法も決まっていて、すごく綿密なストーリーに則っている。素人の人から、なんでこうなっているの?って問われて意外と答えられないって言う話あるじゃない。専門分野の中の話だけで、成立しているストーリーというか、そういう価値観みたいなものを、突然揺さぶられるみたいなことってあるよね。そこに対して、答えきれている一般性と、その専門性をもっているが故の強さみたいなものを、両方もってほんとは一番大事。だから、一般の人達が入ってくる場って大事だよね。場があることの良さだと思うよ。


成瀬さん、猪熊さんとムジン荘のメンバーの対話から浮かび上がってきた、空間をシェアすることの本質。次回、後編では、「ガーデンテラス鷹の台」を生かした場づくりについてお届けします。


お問い合わせ
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株式会社オークハウス
TEL 03-6427-3777
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷3-15-4モノステップビル3F

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