歴史に残る、美術館で開催された映像展示「映像表現'72」が再び

私たちが生まれる前のこと。1972 年に京都市美術館で開催された「映像表現'72」展は、映画館ではなく美術館で、美術家による複数の映像作品を一堂に展示した、当時世界的に見ても先駆的かつ画期的な展覧会として注目をあびました。その展覧会を、2015年東京で再演。どんなズレが生じ、現代的な意味が現出するか。刺激的な空間体験ができそうだ。

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伝説的な映像展示「映像表現'72」とは?

1972 年京都市美術館で開催された「映像表現'72」展は、映画館ではなく美術館で、美術家による複数の映像作品を一堂に展示した、世界的に見ても先駆的かつ画期的な展覧会だった。


  • 「映像表現 '72」展(1972年、京都市美術館)会場風景 photo: 松本正司

この展示の正式名称は「第5 回現代の造形< 映像表現'72> もの、場、時間、空間-Equivalent Cinema-」。映画館やホールでの上映ではなく、展覧会形式で複数の作家の映像作品を発表したという点で国内初の試みとして注目された。


  • 「映像表現 '72」展(1972年、京都市美術館)会場風景 photo: 松本正司

  • 「映像表現 '72」展(1972年、京都市美術館)会場風景 photo: 松本正司

薄暗がりの中、16 名の美術家による映像作品がそこかしこの壁やモニターに映し出され、映写機やビデオデッキ、スライドプロジェクターの機械音が響く会場には、エンドレス上映するためにフィルムが蜘蛛の巣のように張り巡らされた、かつてない不思議な空間が作り出されていた。出品作家の一人は、そこに「新たな時代の幕開けの音を聴いた」と評したほどだ。

暗闇で終始着席したまま映像に没頭する映画館から美術館へと場所を変え、複数の作品が同時に上映される中を観客は動き回り、どこから見るのも、どれだけ見るのも自由という展示(上映)形式は、国内初であると同時に世界的に見ても先駆的な試みだったのだ。


▽「映像表現'72」出品作家一覧
石原薫、今井祝雄、植松奎二、植村義夫、柏原えつとむ、河口龍夫、庄司達、長澤英俊、野村仁、彦坂尚嘉、松本正司、宮川憲明、村岡三郎、山中信夫、山本圭吾、米津茂英




ジャンルを問わず、今年は70年代への注目が高まる

美術、建築、演劇、舞踊、デザイン、写真、音楽・・様々なジャンルの表現者が大胆に交流しながら、芸術を根源から問い直そうとした70年代。既成のジャンルを再考し、新たに世界を拡張しようという熱気は、ヒッピー、フォークソング、和製ヌーベルバーグ、アングラ演劇、劇画、(万博に対する)反博・・と、様々なカウンターカルチャーも生み出した。

今回紹介する東京国立近代美術館の展示だけでなく、今年は「パフォーマ70 HONMOKU」(7/31-8/2 HONMOKU AREA-2)や「70's 原風景 原宿」展 Vol.2(9/4-8 原宿バツアートギャラリー)、「70’sバイブレーションYOKOHAMA」(8/1-9/13 横浜赤レンガ)などが開催され、様々なジャンルで70年代への注目が見受けられた。




会場も再現し、この展覧会を「Re: play」する試み
東京国立近代美術館で12月13日まで


そんななか東京国立近代美術館で行われているのは、作品の上映だけにとどまらず実際に会場を再現することでより当時に近づき、その現代的意味を捉え直そうという試みだ。その名も「Re: play 1972/2015―「映像表現 '72」展、再演」。

「Replay」の意味 1.(録音テープ、ビデオテープなどの)再生 2.(劇などの)再演
「Re: 」の意味 1.…について(e-mail の件名での使用はこの意)

一風変わった展覧会名「Re: play」にはいくつかの意味が込められている。1972 年の展覧会を再び取り上げるという意味での「再生」と、展覧会とは二度と同じものが繰り返されることがない、一回性の出来事(上演=play)であるという意味。
そしてRe とplay のあいだに差し込まれた「:(コロン)」は、この展覧会が過去の展覧会を扱う、「展覧会=上演についての展覧会=上演」であるという意味を示している。

今回の趣旨である「映像表現'72」展の再演とは、残響に耳を澄まし、残像に眼をとめ、それらをモンタージュすること。過去の展覧会を懐古的に「再現」するのではなく、「再び舞台にのせる」、すなわち「replay(再演)」することによって、ノスタルジーでもアナクロニズムでもなく、2015 年という「いま、ここ」においてアクチュアルな出来事を浮かび上がらせるというチャレンジなのだ。


そのために、展示の中にも様々な工夫が凝らされている。たとえば「再演」にあたり、会場図面や記録写真、カタログ、展評、出品作家の記憶などから会場面積や機材の種類、配置など、あらゆる要素をできる限り正確に割り出している。また、現在では極めて困難な8 ミリフィルムの複製にも挑戦し、実際に8 ミリフィルムでの上映を行うなど、1972 年の展覧会をディテールにこだわって追求している。
私たち70年代を知らない世代が、その時代性を追体験するには、刺激に満ちた体験がつまっていて、きっと視覚だけでなく、五感で展覧会の会場空間を、そして70年代を体感できるだろう。



▼開催概要

会期:2015年10月6日(火)〜 2015年12月13日(日)
会場:東京国立近代美術館 1 階企画展ギャラリー
開館時間:10:00〜17:00(金曜は20:00 まで)
休館日:月曜日(11月23日は開館)、11 月24 日(火)
観覧料:一般900(600)円、大学生500(250)円

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