その他大勢を気にしていても仕方がない、自分で道無き道を切り開いていく 松葉邦彦 後編

「世の中を生き抜く術・勝ち残る術」をテーマに、建築界の異端児の異名をとる建築家松葉邦彦が 今話したい人物と対談、インタビューを行い、これからの世の中を生きて行く学生や若手に伝えたいメッセージを発信する。第24回は特別編として長年本連載のアシスタントを務めてきた藤沼拓巳が松葉邦彦へのインタビューを実施しました。

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  • PHOTO:Tomoki Hirokawa

松葉邦彦 株式会社TYRANT 代表取締役
1979年東京都生まれ。東京藝術大学大学院修了、事務所勤務を経ることなく独立。人生で初めて設計した建物が公共の文化施設(旧廣盛酒造再生計画/群馬県中之条町)という異例な経歴を持つ。また、同プロジェクトで芦原義信賞優秀賞やJCD DESIGN AWARD新人賞などを受賞。「浮かせる」「歪ませる」「尖らせる」といった設計手法で新たな価値を生み出す建築の実現を目指しており、その活動がイギリスの一般誌 「The Independent」を始め、「SURFACE」アジア版など様々な海外メディアで紹介される。2018年には現代アートコレクターとして外苑前のアートギャラリー「EUKARYOTE」で自身のコレクションを展示する「MATSUBA COLLECTION」を開催。工学院大学建築学部建築デザイン学科非常勤講師

藤沼拓巳 株式会社フリークアウト
1995年栃木県生まれ。早稲田大学創造理工学部建築学科卒業後、デジタルマーケティングの業界にてビジネスを学ぶべく同社に入社。広告配信プラットフォームのコンサルタント営業からプロダクト改善に至るまで幅広い業務に従事。2018年には「SNSの普及した現代における都市のイメージ構造に関する研究」を行い、Esri Young Scholar Award 2018を受賞。

その他大勢を気にしていても仕方がない、自分で道無き道を切り開いていく 松葉邦彦 前編

ある意味革命、コレクション展のハードルを下げる

藤沼:アートコレクションについてお伺いしていきたいと思いますが、そもそも何故アートコレクションを始められたのでしょうか?

松葉:元々はセゾン現代美術館の堤(たか雄)さんが、僕の知り合いの作品を買いたいと言ってくださって、その流れで売買の場に立ち会ったのがきっかけかな。その時目の前で絵の売買がされていて、といってもそんなに大げさな話ではないけど「絵って普通に買うんだ!」って気づいて、じゃあ僕も買ってみようかなと思って試しに1枚買ったんだよね。その後、堤さんが表参道でSEZON ART GALLERYを始められたのでたまに遊びに行っていたのだけど、ある時、門田(光雅)さんの個展で「line works 3」に一目惚れして即買いしたのだよね。それ以降は定期的に買うようになったかな。最近は額装をお願いしている中村(明博)さんから「ペースが上がってきていますね!!」って言われるようになった笑。

藤沼:なるほど、確かに門田さんの絵は素晴らしいですからね。ちなみにそんなに沢山買われているのですか?

松葉:ここ数年で国産車が1台買えるくらい買っている感じかな。けどコレクターとしては全然大したことないね。皆さんもっと買っているから。

藤沼:買わない人間からするとそれでも十分凄いですけどね。それに単にコレクションだけではなく、2018年にはご自身のコレクション展「MATSUBA COLLECTION」を開催されていますよね。

松葉:EUKARYOTEの鈴木(亮)さんと今度何かやりたいですね的な話をしていたら、「コレクション展やりませんか?」という打診があって。元々建築展とかはなんかダサいからやりたくないな~と思っていたのだけど、コレクション展って聞いて「そう来たかっ!」って思ったよね。というのも、コレクション展って高橋コレクションみたいにKUSAMA(草間弥生)とかMURAKAMI(村上隆)とかをコレクションしている凄いコレクターの方がやるものだと思っていたから、もし僕のレベルでやったらある意味斬新だなって笑。


  • MATSUBA COLLECTIONバナー


  • MATSUBA COLLECTION展示風景 Photo:Ryo Yahara


  • MATSUBA COLLECTION展示風景 Photo:Ryo Yahara

藤沼:コレクション展というのはそういうものなのですね。

松葉:良し悪しは別だけど普通は相当なレベルじゃないと人に見せたいと思わないだろうからね。けど僕レベルでもやってしまえば、他のコレクターの方達もかなりやり易くなるかなと思って。だって、あれでOKなら自分でも出来るって思うでしょ。

藤沼:コレクション展開催のハードルを下げたということですね。

松葉:そういう事だね。それはある意味アートコレクション業界に革命を起こしたと言えるね笑。

藤沼:アート作品というのは通常どのように買うものなのでしょうか?

松葉:まずプライマリーとセカンダリーって言葉があるのだけど、ざくっというとプライマリーはギャラリーとかから直接買うイメージかな。セカンダリーは主にオークション。ちなみに、オークションで入札はしたことあるけど買ったことはない。Barry McGee買おうと思ったのだけど、予想価格を大幅に上まって落札できなかった笑。

藤沼:そうすると基本的にはギャラリーで買われるのですか?

松葉:そうだね。baanaiさんに関しては直接ご連絡してコミッションワークでということも以前あったけど、それ以外は基本的にギャラリーかな。門田さんは大阪のTEZUKAYAMA GALLERYでも買ったし。あとEUKARYOTEだと畑山太志さんかな。って考えると僕は完全にセゾン一派だな。

藤沼:セゾン一派ってなんですか?

松葉:いや、実際はそんなものは存在しないのだけど、コレクションしている作品がセゾン現代美術館とかSEZON ART GALLERY、それにSEZONから派生したEUKARYOTEで扱っているアーティスト比率が非常に高いなって。以前ハシグチリンタロウさんの作品が欲しくてたまたま東京でグループ展を開催しているから行ってみたMARUEIDO JAPANにも元SEZON ART GALLERYのスタッフの方がいたし。まあ、コレクションを始めたきっかけが堤さんだから、ある意味そうなるのも必然なのかもしれないけどね。門田さんと飲むと、やはりの堤さんの話になるし。ただ実際はみんな一匹狼気質で全く群れたりしないから派閥形成は絶対に不可能だけど笑。それにもちろんセゾン系以外のアーティストの作品も買うしね。


  • baanai「ARIGATOUGOZAIMASU」 Photo:Yohei Yamakami


  • 門田光雅「line works 3」 Photo:Yohei Yamakami


  • ハシグチリンタロウ「WLIGHTE!!!」 Photo:Yohei Yamakami

藤沼:他のコレクターの方とのお付き合いはありますか?

松葉:元々アートをコレクションしている方の知り合いはいるけど、別にコレクターとしてのお付き合いって感じはないかな。ただ、この前鈴木さんにEUKARYOTEのお客さん(コレクター)の方との会食を設定してもらったのだけど、結構新鮮だったね。というのも、純粋にコレクター同士というのは初めてだったので。もちろん皆さん僕なんかよりも色々コレクションされてるし、勉強熱心で色々なアーティストやギャラリーの情報を持っているんだよね。

自分の美術館をつくったら建築人生は上がり

藤沼:松葉さんがそれほど楽しそうにお話しされているのを見ると僕もコレクションしたくなります。それと近年はアートへの関わり方が主にコレクションにシフトされていましたが、元々は八王子でAKITENなどのアートプロジェクトを立ち上げてまちづくり的な活動されていましたよね。そちらの方は今どうなっているのでしょうか?

松葉:知らない、もう辞めたから。

藤沼:えっ、そうでしたか。お聞きしない方がいいかもしれませんが、辞められた理由は何ですか?

松葉:何年も前からずっと楽しくないなって思っていて。それにボトムでチョコチョコ活動しても仕方ないってことに気づいてしまったこともあると思うけど。タイミング的にはアーツカウンシル東京の補助金取ったあたりだから2014年くらいからだけど、何か草の根活動的な取り組みとか、形式的な事に終始する活動になっていって。街にアートやクリエイティブを浸透させるために、地域で活動する作家とコラボしてワークショップをやったりとか裾野を広げる活動も必要だとは思うし、公金が入るっていうことで形式的な事が重要になることもわかるんだけど、結局やっていることが尖ってないし、新しい価値を創出していないから。それって大勢の人には刺さらないしインパクトも残せないなって思って。もちろん、AKITENのやり方が良いっていう人もいるとは思うけど、僕にとっては違ったみたいだから。

藤沼:どの辺りの認識が他の方々と違ったのでしょうか?


  • Photo:Tomoki Hirokawa

松葉:一番はアートに対する概念かな。日本でアートっていう言葉は色々な意味合いで使われているけど、僕にとってはやっぱり現代アートが理想なのだよね。だから、まちづくりだろうが何だろうがアートとか言うなら現代アートと自他共に思えるプロジェクト、かつ可能な限り高いレベルの事をやりたいし。

藤沼:ちなみに松葉さんにとっての現代アートというのはどういうものなのですか?

松葉:その質問は実はなかなか難しいよね笑。そもそもアートの専門家でない自分が語ることではないかもしれないけど、一つ言えることは既存の価値観をひっくり返して、新しい価値を世の中に提示できるか否かなのかなと思っているのだよね、それが出来ている作品こそ真の現代アートなのかな。間違っていたら恥ずかしいけど笑。ただ、これは建築でも同じだと思っているのだけどね。もちろん人から影響を受けることは誰だってあるけど、そこに自分なりのオリジナリティを加えないで単なる人の真似だけで終わってしまっているとそれは難しい。建築は著作権みたいな概念が存在しないのか、平気でみんな人の真似をしているからね。別に人それぞれだからどうでもいいけど、個人的には稚拙でもいいから自分の道を切り開かないといけないなって。

藤沼:確かに、松葉さんは他の建築家とは良い意味で別カテゴリーの人に見えますからね。

松葉:悪い意味でもね笑。そもそも同じ人種だと思っていないし同じ括りにされたくない。だから建築家コミュニティにはどこにも属していないし、今後もそのつもりも無いかな。元々群れるのが嫌いだし。まあ、AKITENは珍しく群れていのだけど、なんか最近違うなと思っていた時に今度はJINSの田中さんが前橋で取り組まれている活動を拝見して、理想はこういう活動だ!・・・ただ、逆に今の自分には到底できない、こりゃ無理だってなって。だって前橋の活性化のために私費で田中仁財団を立ち上げたり、廃業したホテルを買って藤本壮介さんにリノベーションをお願いしてSHIROIYA HOTELとして再生させたり、さらにはJINSの本社機能の一部を前橋に移しますって宣言したり次々と斬新なプロジェクトが出てくる。

藤沼:前橋の取り組みは明快なビジョンの下、大小様々な形でプロジェクトが進行していますよね。

松葉:“ふわふわ”バブルが到来している村瀬さんのなか又とかもね。昔は巨万の富を築いた人が地域に還元するっていう話は結構あったのかもしれないけど、現代の日本ではあまり聞かないから尚更凄いなって。それでまずは足下をきちんと固めるために自分の実力不足を解消するとこから始めないといけないなって気づいて、まずはとりあえず本業を頑張ろうと笑。

藤沼:なるほど、そういう経緯があってAKITENを辞められた訳ですね。ちなみに建築家の方でそういう発想をお持ちで活動されている方っているのでしょうか?

松葉:地域に根ざした活動をされている方は大勢いると思うけど、大きなビジョンや行動力を持って活動されている建築家は安藤忠雄さんくらいかなと思う。だから、単に建築家という枠に収まらないし社会貢献もしているという意味で安藤さんには憧れがあるのだよね。クライアントは打放しコンクリートの家なのに、自分は普通のマンション住まいという突っ込みどころ満載の話も好きだし笑。僕も自宅はマンションで良いから。それはともかく、今はあまり役に立っていないことは認識しているけど、いつかは社会の役に立ちたいなというのはあるのだよね、特に芸術・文化面で。

藤沼:そうすると今やられているアートコレクションにも社会貢献という意味合いがあるのでしょうか?

松葉:そういう側面もあるよね。もちろん基本は趣味だけど、ギャラリーを通じて作品を購入することで、自分の好きなアーティストやギャラリーへの支援にも繋がっていることは確かだから。けど実は1番それが重要だよね。だから微力ではあるけどその分野で活躍されているアーティストや、これから活躍が期待されるアーティストの作品購入を通じてその人達を応援したいなと思っている。それと、あと10~20年くらいかけてコレクションした作品を展示・アーカイブする美術館を自分で設計したいなと。もちろん、土地購入から建設費まで全て自費で。いや、寄付は集めまくるか、最低10億円くらい笑。場所は高尾山の麓辺りが良いかなと思ってるけど。有名な建築家の建築ミュージアムはあるけど、そうじゃなくてちゃんとコレクションを収蔵する美術館。だから、作品を買う時にいつもこの話をして、「将来、美術館に収蔵・展示するのに相応しいアーティストになってくださいね」とお願いしているのだよね。まあ、それに応えてくれそうな人の作品しか買わないようにしているけど。実現したら八王子初の現代美術館になるのかな。けど、美術館単独の経営は大変だろうから、多分どこかの会社と組んでオーベルジュ的なものを併設させる感じかなと思っている。それを建築の集大成にして、その後は趣味に生きようって思っている、古いFerrariとかMustang集めたり、着物着てお茶でもやったりして笑。茶器とか骨董集めるのも良いかもね。

藤沼:相手にもよりますが、買う時に美術館に収蔵・展示するレベルになってくださいって言うのは結構凄いですね、色々な意味で。もちろん巨匠クラスには言わないですよね笑?

松葉:僕は基本的には同世代のアーティストを中心にコレクションしているから笑。けどそれってある意味アーティストとは共存共栄だし、ライバルでもあるのだよね。アーティストにも成長・活躍してくださいって言うし、自分もその成長・活躍についていけるようにしていないといけない。何故ならアーティストだけ仮にワールドクラスになってしまって僕が成長していないとその人の作品買えなくなっちゃうからね。しかもこれはコレクター病かもしれないけど、段々大作が欲しくなってくるから尚更買うのが大変になってくる笑。けど、そういうプレッシャーのかけ方はアーティストにというよりどちらかと言うと自分にとってかもしれないけど。だから、逆にもうアーティスト活動をやっているのだかどうだかわからない人の作品はコレクションリストからは外すようにしているんだよね、もちろん所有はしているけど。ただ残念だけどそういうケースもたまにある。けど、門田さんとか既にセゾン現代美術館に作品が収蔵されているので、むしろ「お前が頑張って俺の作品を収蔵するに相応しい美術館を設計しろ」って思われているかもしれないけどね笑。

藤沼:MoMAにサポートしてもらって、NYのLincoln Center for the Performing Artsで個展を開催しているような方ですからね。しかもCy Twomblyの甥でRothschild一族でもあるCody Franchettiがコレクションしたいとう。

松葉:詳しいねって、門田さんとの対談のテキストも藤沼くんがやってくれたから当たり前か。けど門田さんは良い人だよね、大分変わっているけど笑。この前飲んだ時にもお互い同業者じゃないから仲良くできてよかったねって話をしていたからね。

藤沼:アーティストの方とはプライベートでもお付き合いはあるのですか?

松葉:門田さんとは結構な頻度、多分2ヶ月に一回くらいのペースで飲みに行っているね。この前は門田家と食事していたし。あとbaanaiさんともこの前食事に行った。しかも、食事の後にGINZA SIXで開催されていたhykrxさんの個展を一緒に見にいったし。一応hykrxさんの作品も1点持っているのだよね、会ったことないけど最近すごい活躍されているみたい。

藤沼:密なお付き合いですね。

松葉:建築家でそんな付き合いしている人いないからね笑。学生時代からの友達は別だけど。というのも2人ともタイプは全然違うけど良い人達だから。そもそも嫌な人の作品なんかたとえ人気があっても欲しくないし。しかも門田さんもbaanaiさんも世界に通用すると以前から思っていたけど、最近はそれぞれ凄い力のある協力者がついてこれから世界へのステージに上がっていこうとしているからね。僕も置いてけぼりにならないようにしないとね。


  • baanai「ARIGATOUGOZAIMASU」Photo:Yohei Yamakami


  • 門田光雅「home」 Photo:Yohei Yamakami

藤沼:それは素晴らしいことですね。

松葉:本当にそう思う。日本でアートを買うって富裕層のやることっていうイメージがかなり強いし、実際にそういう側面はあるのだけど、それ以外にも色々な交流を持ちながらアーティストとコレクターが一緒に成長していきましょうっていうスタイルがもっと定着してくれると良いんなと思っているんだよね。

とりあえず好きなことをちゃんとやる

藤沼:それはお互いの成長のためにも良いことですね。先程松葉さんは今は力不足だとおっしゃっていましたが、仮にご自身で納得されるような力を得た時にはどのような事を行って行きたいとお考えなのでしょうか?

松葉:やっぱりもう一回クリエイティブやアートを軸に色々な有力者を巻き込んで八王子で何かやってみようと思ってはいる。ただ、単にイベントをやるとかっていう訳ではなくて、クリエイターやアーティストがきちんと仕事をして生活ができるようにするためにはまずは理解のある企業とかが無いと駄目だから、その辺りから手をつけていくのかなって。そうすると最低でも10年、20年スパンだよね、最低でも。ただ、実は今表立って何かやっている訳ではないのだけど、自分的にはクリエイティブやアートの側面では八王子の街にかなり寄与しているつもりだけどね。

藤沼:それはどういう事なのでしょうか?

松葉:まだ八王子を出て行ってない。

藤沼:その発想はなかなか斬新ですね笑。

松葉:まあ半分冗談だけど、いつか大きな事を起こせるようになるまでは、とりあえず自分がやるべき事をきちんとやって、かつ自分が出来る範囲で構わないので街に還元していければなと思っているのだよね。例えば僕の中ではMODESTEの望月(成一)さんって結構凄いことをやっているなと思っていて。

藤沼:どのような所が凄いのでしょうか?

松葉:誰も気づかなかった元遊郭街の田町の魅力に気づき、そこにあった良い感じのクラシックなビルに目をつけてMODESTEをオープンさせて、自分の美意識に基づいて選定したクラフト作品の展示販売やアーティストの作品展示を行っているってところかな。

藤沼:元遊郭街というのは興味深いエリアですね。

松葉:そうだよね。まあ、コーヒー頼んだら自分の分も勝手に入れ始めるから出てくるまでに余計に時間がかかったりするし、商品のほとんどが買取なのに売れないからある意味かなりのコレクションを持っていたりするのだよね。「在庫」という。だから経営的には普通にダメなのだけどね笑。

藤沼:よく買取でやられていますね。


  • Modeste

松葉:そう、変わった人でしょ。人が良くてかつ多分収集癖があるのだと思う、収集癖は僕も同じだからわかるけど。けどお客さんは普段ほとんどいないので静かでいいよ。1年くらい前までよく娘を昼寝させに行っていたし。ただ、望月さんはきちんと本業があって、その上でMODESTEもやっているから。本人的には好きなことはやっているだけなのだろうけど、そこで人と人が出会って色々な活動に繋がっていくバブの役割を果たしている。多分八王子のクリエイティブやアートな分野では相当重要な役割を果たしているのではないかなと思っているし。さっき、自分がやるべき事をきちんとやって、かつ自分が出来る範囲で構わないので街に還元していくって話をしたけど、望月さんなんかまさにその通りだし、そういう人がもっと増えてくれば自然に良い方向に向かって行くんじゃないかな。もちろん、劇的な変化はすぐには起きないだろうけど、まずは個々で出来る事をきちんとやるって事が重要なのだと思う。だって、街って結局はその集合体な訳だから。

藤沼:確かに個の集合体で街が形成されている訳ですからね。

松葉:八王子の場合は特に壮大なビジョンを掲げて皆を引っ張って行けるカリスマみたいな存在はいないし、良し悪しは別として東京都の市町村で人口が一番多かったりするから危機感もあまりないだろうからね。多分しばらく現状のままって感じなのかなって気がしているけど。だから自分もまずは好きなことをやってそれが結果街にもいい影響を与えられていればOKかな。ただ、福祉や医療、教育それにコロナ対応とかの分野は全く別で緊急性が高いだろうけど、それは専門外だから市議会議員の及川(賢一)さんとかに任せておけば良いかなと。

藤沼:ここに来て及川さんの名前がやっと出て来ましたね笑。

松葉:そう?面白くないからじゃないかな。

藤沼:AKITENを立ち上げの頃から一緒に活動されてきた方ですよね。

松葉:もう辞めたからね。といってもたまに会ってランチとかしてはいるけど。役所関係で面倒なことがあると「とりあえず部長に言っておけっ!」って電話するし、去年引越の時はまとめきれずに持って行ってもらえなかった荷物を新居まで運ぶのを手伝ってもらったし。

藤沼:それはとてもいい方ですね。

松葉:昔よく迎えにきてもらったから「及川タクシー」って呼んでた笑。まあ、納税している市民のために働くのが税金もらっている人の仕事だからね。それに及川さんのご家族の会社で作っているブンドクーカっていう美味しいけどバカ高いぶどうジュース毎年よく買っているし。去年なんか生産量の5%以上は松葉家で消費しているし、今年も買ったから。娘が好きだから良いけど。それはともかく僕は「及川さんは早くどこかの政党に入って都議会議員とか国会議員になりなよ」って言っているのだけど、無所属の市議に拘るみたいだからね。まあ勉強熱心だし、政治家としては非常にまともなのだけどけど、一方でめちゃくちゃ頑固だからね笑。まあ、政治は好きにすればいいけど、AKITEN代表はさっさと辞任した方が良いと思うけどね。まちづくり法人国土交通大臣表彰とか色々賞貰ったのだからもういいでしょって。ちゃんと地域に貢献することやるなら20~30代の人達に全部任せた方が良いと思う、やりたい人がいるかは別だけど。

その他大勢を気にしていても仕方がない、自分で道無き道を切り開いていく

藤沼:40代の方ってまだまだこれからじゃないですか?

松葉:確かにビジネスだとこれから一番良くなっていく年代かもしれないけど、一方でもう若くないから徐々に発想がつまらなくなってきたりしていると思うんだよね、僕自身気づけていかもしれないけど多分そう。知識と経験が先行してしまっている感じ。だから優秀な若い人とかと話すと「そんな視点で考えているんだ!!」とか刺激になるし。

藤沼:そんなこと松葉さんでも感じているのですね。

松葉:うん。もう僕らもおじさんになったのだから、今までに得た知恵と経験で上手く立ち回ってお金を儲けて若い人に還元するのが役割かなと。とはい僕は経営者気質では全くないのでお金儲けに向いてないんだけど笑。起業して上場させている同世代の経営者とかってほんと凄いなって思うよね、僕にはそういう才能はないので。

藤沼:そうすると40代は何をやられていきたいとお考えでしょうか?

松葉:これからはもっと建築を尖らせていくかな。色々な意味で安藤さんみたいに尖ってないとダメだなって日々反省しているから。あと日々言っていることとしては、とりあえず美術館にオーベルジュ、あとブルワリー・ワイナリーに超高層の設計がやりたいんだよね。って、そう言っていれば来るかなって笑。実際数年後にその一部の設計に関われるってお話も頂いているし。あとは、ハイブランドの路面店とか。そろそろ表参道のどこか建て替えないかね笑。

藤沼:超高層というのは意外ですね。

松葉:性格的にそういう方が向いているかなって思っているので。1000mくらいの高さの超超高層みたいなのとか。もう国内だと日建設計とか三菱地所設計とかにでもいない限りなかなか機会はなさそうだけど、海外のプロジェクトとかならまだチャンスもあるかなって。まあ現実的にはデザイン監修だろうけど。もちろんコロナのことがあるので一箇所に集積すること自体に疑問の声が上がってくるとは思うけど、それでも一定の需要はあるだろうし。技術的に解決することは多々あるけど、地上1000mの屋外テラス的な空間とか面白そう、地上とはあきらかに環境が違うだろうから。

藤沼:建築以外のことはどうでしょうか?

松葉:アート関係だと、さっきも言ったけどアートコレクションを続けて将来美術館を建設するっていうのは絶対やりたいよね。あっ、結局建築の話か笑。それ以外にアート関連だと最近リリースがあったポストコロナ・アーツ基金(PCAF)のようなアートを通じた社会貢献事業にも関わっていきたいなと思っているのだよね。

藤沼:それはどのような活動なのでしょうか?

松葉:まだスタートしたばかりだから本格的な活動はこれからだけど、新型コロナ禍以降の大きな社会的課題と考えられる「新しい成長」に関する価値観・視点を、アーティストとの協働プロジェクトにより創出し、展覧会等を通じて広く社会へ提起していくことを目的として設立された団体なのだよね。東京藝術大学との共同事業というのもある意味珍しいのかなと思うけど。

藤沼:松葉さんはどのような関わり方をされているのですか?

松葉:一応、発起人。笑えるでしょ。他のメンバーが錚々たる方すぎて何で自分がって思うと思うけど。ACCというアートコレクターの集まりでお世話になっている川村文化芸術振興財団の川村(喜久)さんからお声がけいただいて、何かできる事があれば是非と気軽にお返事をしてしまったところ日本のアートシーンを代表する方々たちが沢山いて・・・って感じ。

藤沼:このメンバーは凄いですね。

松葉:僕じゃなくて安藤忠雄さんがいても不思議じゃないメンバーだからね。

藤沼:本当にそうですね。

松葉:活動が本格的にスタートするのはこれからだから、具体的なことはわからないけどより多くの人にアートとの接点を持ってもらえる機会になれば良いかなとは思っているけどね。そのためにこちらも出来ることはご協力できたらなと。

藤沼:ポストコロナの新しい成長のあり方には興味がありますね。それ以外にも何かやりたい事ってありますか?


  • Photo:Tomoki Hirokawa

松葉:う~ん、あとは直近だとBarry McGEEと911買うことくらいかな、ぱっと思いつくのは。それにガレージ兼ギャラリーが欲しい。あとは一週間くらい家族でハワイに行ってのんびりしたいね、毎日昼寝して。今年の5月行こうと思っていたけどコロナでそれどころじゃなかったから。

藤沼:物欲が凄いですね。

松葉:そうだね、けど僕は有名企業の創業家とか華族とかの由緒正しき家系出身ではないから、仮にどんなに上手く行っても所詮成り上がりにしかなれないでしょ。だったらそういう俗っぽいモチベーションの積み重ねも重要かなと。

藤沼:確かにそういうモチベーションの上げ方もあるかもしれませんね。

松葉:とはいえ、キャッシュレスの時代にも関わらず高級財布に札束入れて、焼肉とか高いものばっかり食べているようないかにもな人達とは関わりたくないけどね。あくまでもイメージだけど話が全く合わないだろうし。あとは真面目な話になっちゃうけど、常に自分の行動によって新しい価値を創出させられるようにありたいかな。近年、インフルエンサーと称して色々影響力を持っている人が出てきているけど、正直一部のtop of topの人以外みんな真似でしかないような気がしていて。別に真似が悪いわけではないけど、進化をしない単なる真似事は新しくはないからね。結局稼げたり承認欲求を満たしたりしたいからやっているだけなのだろうなって。ただ、最先端の技術や知識を駆使して最新しいサービスをつくるようなことは向いてない気がするので、やっぱり他の業界に比べるとまだまだアナログな建築辺りが1番向いているかなと思っているのだよね。それにさっきも言ったけど車に服、アートとか物を集めたがる20世紀型の物欲まみれの人間だから。だってChrome Hearts付けていて重くない?って言われた時に「重さは富の象徴だ」って言ったからね。

藤沼:庄司さんのインタビューで読みました。ただ、オフィスでは全部外しているのですよね。

松葉:そう、邪魔だからね笑。柔らかい木のカットサンプルの上に。ただ、これからの世の中僕みたいなタイプの方が少なくなってくるから一周回ってこっちの方が新しいってなる気がしているのだよね。もちろん全く同じ事をやっていては駄目だろうけど。


  • カットサンプルの上に取り外した装飾品を置く

藤沼:そもそもご自身ではアナログと言っていますが、決して世間で言うアナログではないですよね。

松葉:それならいいけど。あと、逆にやりたくないというか、なりたくないって言うなら既存の価値観で定義される建築家という職能かな。多分、これはそろそろ終わる気がしている。だって、建築家とか呼ばれている人のやっていることの大半はあと10年もしたらほとんどがgoogleとかのサービスで済んでしまう気がするので。だとすると、top of topになって振り切るか、そことは全く異なるベクトルに進むかのいずれかだよね。いや、両方やらないと無理か。もしくは今からgoogleとそのサービスの構築をする側になるか。いずれにせよ、なかなか厳しいね、建築家も。ただ、社会に必要とされていないのであれば淘汰が起こるのは仕方がないことなので、それが正しい流れなのかな。

藤沼:松葉さんはどうされますか?

松葉:もちろん僕は生き残るつもりでいるけど。既に言っているけど建築を現代アートに結びつけることとか、他人からみたら良くわからないこと色々手を出していることも無意識に生き残りに必要だからって思っているからやっているのだと思う。そうすることでハイブリッドの良さもわかるし、純粋な建築の良さも見えてくるし。

藤沼:全ては生き残るためにやられていたのですね。

松葉:まあ単純に好きなことやっているだけというのもあるけど。随分前だけど、大きな飲食店を経営されている先輩の方に「俺の周りで好きな事だけやって生きているのは松葉さんくらいしかいないよ」って言われたけど、振り返ってみると確かにそうかなって最近思うんだよね。だって一応経営者なはずなのに経営すらしてないから笑。

藤沼:経営はちゃんとやって下さい笑。

松葉:確かにそうだね、向き不向きは別としても、とりあえずアート買わないといけないし。ただ、ちゃんとした経営者にならなくても会社が回るようにするための努力はしているつもり。それに既存の価値観で定義されているような建築家として生き残ることより、手法は建築やインテリアだけど現代アート分野で生きて行くというのがこれからの目標だからね。そのためにはまずは頂いたお仕事で建築やインテリアを一生懸命浮かせたり、歪めたり、尖らせたりして、クライアントや使う方々に喜んで頂きながら自分で道を切り開くしかないよね笑。

藤沼:やっぱり浮かせたり、歪めたり、尖らせたりは続けていくのですね。

松葉:うんそうだね。そこはブレたらだめかなと思って。まあ変なこと言ってるように思われるかもしれないし、いわゆる本流とはかけ離れているかもしれないけど、そのうち僕が本流になるから。だって建築の世界しか見えていな人達に負けるわけないからね。だから今はブレずに自分のやり方を貫き通していこうかなと。見えていない人達からすると何をやっているのだか?って感じだろうけど、こっちからすると行く先は断崖絶壁で道は無いのにどうするの?って感じかな。まあ、その他大勢を気にしていても仕方がないので、こちらは自分の力で道無き道を切り開いていくしかないね。

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OTONA WRITER

松葉邦彦 / KUNIHIKO MATSUBA

株式会社TYRANT代表取締役/一級建築士 1979年東京都生まれ。東京藝術大学大学院修了後、事務所勤務を経ることなく独立。 人生で初めて設計した建物が公共の文化施設(旧廣盛酒造所再生計画)という異例な経歴を持つ。工学院大学建築学部建築デザイン学科非常勤講師。