その他大勢を気にしていても仕方がない、自分で道無き道を切り開いていく 松葉邦彦 前編

「世の中を生き抜く術・勝ち残る術」をテーマに、建築界の異端児の異名をとる建築家松葉邦彦が 今話したい人物と対談、インタビューを行い、これからの世の中を生きて行く学生や若手に伝えたいメッセージを発信する。第24回は特別編として長年本連載のアシスタントを務めてきた藤沼拓巳が松葉邦彦へのインタビューを実施しました。

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  • Photo:Tomoki Hirokawa

松葉邦彦 株式会社TYRANT 代表取締役
1979年東京都生まれ。東京藝術大学大学院修了、事務所勤務を経ることなく独立。人生で初めて設計した建物が公共の文化施設(旧廣盛酒造再生計画/群馬県中之条町)という異例な経歴を持つ。また、同プロジェクトで芦原義信賞優秀賞やJCD DESIGN AWARD新人賞などを受賞。「浮かせる」「歪ませる」「尖らせる」といった設計手法で新たな価値を生み出す建築の実現を目指しており、その活動がイギリスの一般誌 「The Independent」を始め、「SURFACE」アジア版など様々な海外メディアで紹介される。2018年には現代アートコレクターとして外苑前のアートギャラリー「EUKARYOTE」で自身のコレクションを展示する「MATSUBA COLLECTION」を開催。工学院大学建築学部建築デザイン学科非常勤講師

藤沼拓巳 株式会社フリークアウト
1995年栃木県生まれ。早稲田大学創造理工学部建築学科卒業後、デジタルマーケティングの業界にてビジネスを学ぶべく同社に入社。広告配信プラットフォームのコンサルタント営業からプロダクト改善に至るまで幅広い業務に従事。2018年には「SNSの普及した現代における都市のイメージ構造に関する研究」を行い、Esri Young Scholar Award 2018を受賞。

基本的には逆張り、皆なと同じ方向には向かいたくない

藤沼:「Outsider Architect」の第24回は本連載を行なっている建築家の松葉邦彦さんにお話を伺っていきたいと思います。今回はいつもと違い、普段アシスタントの僕が松葉さんへのインタビューを行うわけですが、そもそも何故このような企画になったのでしょうか?

松葉:以前友達から「一応建築家なのだから、他人にインタビューばかりやってないで、たまにはインタビューされる側に回ったらどう?」という指摘を受けて、そういえばそうだった!と気づいたというのが経緯かな。最近インタビューとかされてないし、じゃあやろうかなって。それにしても、これは自作自演だよね。自分のインタビュー自分で企画する人っていないだろうから。ある意味一歩先を行ったね。

藤沼:確かに笑。今まで有名な経営者など色々な方々にインタビューをされてきましたからね。

松葉:そう、途中から有名な方々にお話を伺うみたいな感じになってきていたけど、元々は、facebookとかのSNSではなく、ちゃんとしたメディア上で好き勝手言いたいなと思っていて、それをモーフィングの加藤(晃央)さんに話したら「PARTNERのweb版をつくるので何かやりませんか?」って言われて実現した連載なんだよね。だから最初は好き勝手言うために身近な建築関係の人に声をかけてお願いしていたのだけど。

藤沼:建築関係の方へのインタビューや対談は途中からなくなりましたからね。

松葉:建築ばかりじゃ面白くないかなって思って。もちろん、人から話を聞くとなるほどなって思うところもあるから、それはそれで悪くはないけどね。あと、この連載とは別だけど、超有名建築家達に話を聞いていくみたいな企画を以前打診されたことがあったのだけど、なんかゴマすっているみたいで気持ち悪いなって思ったので、藤原ヒロシさんかNIGOさんに話を聞くことが出来るのであればと言ったら建築家じゃなければダメだって断られて流れたけど笑。

藤沼:建築関係の方に言われたのですか?

松葉:そうだね。ただ、業界内の狭い発想しかないのってまずいよね。どこを目指しているのかわからないし、どうやってこれからの時代生きていくのか逆に興味がある笑。ただ、残念なことにそんな事しか思いつかない人ばっかりなのだよね、だからその類の人達とはほとんど付き合いないけど。

藤沼:同感です。僕も松葉さんの考え方やインタビューをさせていただいた方と接することで良くも悪くも影響をもらい、狭い世界、価値観で外の業界を学ばないまま建築や都市計画の道に進むのがリスクだなと感じて大学卒業後にビジネスの世界に飛び出しました笑。特に昨今の新型コロナウイルスの感染拡大で、世の中の仕組みや価値観が大きく変わろうとしていますからね。ちなみに松葉さんはコロナの影響で何か大きな変化はありましたか?

松葉:う~ん、一時期夜の会食がほぼ無くなったのと、電車やバスを利用するのが嫌になったから車買ったくらいかな。けど、不要な打ち合わせを断れるようになったのはメリットだよね。断れなくてもオンラインで済むから楽だよね。これはみんな一緒だと思うけど。

藤沼:テレワークが増えることで都心部のオフィスの需要が減るのではないか?といったような予測もありますし色々な分野に大きな変革が起こりそうですね。

松葉:コロナ以前は近い将来、広尾あたりに引っ越そうかなって考えていたのだけど、最近は正直どこに住んでいても一緒かなって思い始めているんだよね。

藤沼:大企業やベンチャーはもちろん、有名な建築家やクリエイターの方々もオフィスは都心部の一等地というのが今までの通例でしたけど、その辺りはどのようにお考えですか?


  • Photo:Tomoki Hirokawa

松葉:これは以前から言っていたけど、都内の一等地にオフィス構えてないといい仕事が来ないのではなく、いい仕事をしている人の多くが都内の一等地にオフィスを構えているというだけなのだと思う。そして、その他大勢はそれを勘違いしていて無理やりボロボロのビルとかにオフィスを借りていたりするけど、正直それすら身の丈に合ってなくて経営がカツカツなんじゃないかな、別にどうでもいいけど。自分的には都心の良い環境に自分が納得できるオフィスが構えられないなら無理には移転はしないかな。家引っ越したら別だけど。

藤沼:ちなみに八王子にオフィスがあっても支障はありませんでしたか?

松葉:コロナ以前は最大で週4日くらいクライアントとの打ち合わせがあって、その行き帰りの時間がかかりすぎて勿体ないって思ったけど、もうそれに悩まされることもなくなったから。それに最近八王子の仕事もやっと増えてきた笑。もちろん都心の方が人材の確保がしやすいとか色々な要因もあるとは思うけど。それも一部はテレワークが進むことで解消するよね。それ以前に多くの設計事務所はまずは就労時間や賃金のブラック体質を改善してやれよって思うし。

藤沼:以前から思ったのですが、松葉さんはいわゆる一般的な建築家の行動パターンとは大分違う動き方をされていると思われますが、そのあたりはどのようにお考えでしょうか?

松葉:基本的には逆張りの発想かな、ひねくれているから皆んなと同じは嫌いなんだよね。例えば八王子にオフィスを構えた理由の一つはライバルとなる同業が誰もいないのでという判断があったのでブルー・オーシャン戦略とも言えなくもないけど、どちらかと言うと「皆が都心なら自分は郊外」的な逆張りの方が近い気がする。誤算は需要があまりなかったことだけど笑。最近は建築家が自分の出身地の地方都市とかに事務所を構えるみたいな流れも一般的になってきていると思うけど。まあ、藤沼くんが言うとおり世の中の建築家の方々とは動き方というか思考が全然違かもね。もちろん意図的なものもあるけど、基本的に建築家には全く憧れがないからね。だから同調するような動きにはならないのかな。ただ、谷口吉生さんと安藤忠雄さんは別だけど。

藤沼:お二方はタイプの異なる建築家ですが。

松葉:谷口吉生さんは作品で全てを語られるのだけど、僕も作品が好き。上野の法隆寺宝物館とか藝大にいた時に何回も行ったし、大学院を修了する時に建築をやめてグラフィックデザイナーになりたいなって思って資生堂を受けたのだけど、その時に参考として掛川にある資生堂アートハウスを見に行ったら、やっぱり建築って良いなって思って帰ってきたから。ある意味谷口さんの素晴らしい建築のおかげで今があるのだよね、学生時代唯一アルバイトに行ったアトリエ事務所でもあるし。

藤沼:安藤忠雄さんがお好きというのはなんとなくわかりますが、谷口吉生さんがお好きというのは意外ですね。

松葉:谷口さんの事務所のOBの矢板(久明)さんにも同じこと言われた笑。けど、僕は谷口さんが次に日本人建築家でプリツカー賞取るだろうと思っているくらい好き。いつか僕も谷口さんみたいな建築を設計できたら良いなと思っているので。

藤沼:そこまでお好きなのですね。

松葉:うん、ほんと意外だと思うけど。逆に安藤忠雄さんは作品以外にも雄弁に語られるよね、安藤さんの建築は色々見にいったけど、光の教会や小篠邸、本福寺水御堂、司馬遼太郎記念館、ミュゼふくおかカメラ館とかが好き。シークエンスの作り方は今でも参考にしているので。それに存在自体が僕のカリスマだから。学生時代に講演会を聞きに行った時に帰りがけの安藤さんの肩を後ろから叩いてサインをお願いしたら、周りのお付きの人は凍りついていたけど安藤さんは普通にサインしてくれたからね。元々サイン本だったのにさらに二回くらいサインしてもらったけど、最後は「もうええやろっ」って言われて点書かれた笑。

藤沼:よく何度もサインをお願いしましたね笑。

松葉:特に大学1~2年の頃は本当に憧れていて、課題は全て打放しだったからね。けど自分も凄いなと思うのが、シークエンスとか空間を参考にするだけじゃなくて、ちゃんと型枠の割付してかつPコンまできちんと描いていたから。まあ、誰も理解してくれなかったけど笑。

藤沼:それだけ憧れていた方なのに、松葉さんの設計で安藤建築を彷彿させる建築はありませんよね?

松葉:うん、多分安藤さんのようになりたかったら、後追いで打放しコンクリートを選択してはいけないのだと思って。

藤沼:そこまで安藤さんを意識して、あえて打放しを選択しないということだったのですね。

松葉:独立当初からそんなことを考えていた訳ではないけど、突き詰めて考えると人の後追いではダメだなって。ただ、安藤さんが28歳で事務所をつくって独立されたのは以前から知っていたから、自分も28歳の誕生日に事務所登録したから笑。僕は大学院まで通っていたから学術的には独学ではないけど、別に教授から設計思想や手法の影響を受けた訳ではないので、ある意味は独学だと思っているので。それに実務は完全独学だし。安藤さんの著書や作品を通して色々勉強させていただいたけど。

藤沼:研究室の教授からは影響は受けていないのですか?

松葉:うん、黒川(哲郎)さんにはお世話になったし、好きだったけど建築的な影響は一切受けてないかな笑。もちろん、「スケルトンログ」という丸太立体トラス構法を取り入れた公共建築を数多く設計されていて、設計者として実はとてつもなく凄いことをやっていた方なのだけど、学生時代はそれに全く気づいていなかったし、そういうことを学生に言うようなタイプの先生ではなかったから。だから国内外のコンペとか好き勝手やって、ちゃんとやってないとゼミで怒ってくれるって感じ。2~3ヶ月に1回怒られるみたいな。けど、別に受賞したから褒めてくれる訳でもないし、落ちても怒られるわけでもなかったんだよね。あと、大学院出た後に黒川さんから「君は言えばちゃんとやってくるから」っておっしゃっていただいて。その時先生はちゃんと僕のことを見てくれていたんだなって気が付いたんだよね。もちろん、優秀な学生は怒られる前にやってくるんだけど。

藤沼:松葉さんのことよくわかっていたのですね笑。

松葉:そうだね。2013年に亡くなられてしまったのだけど、最初に手掛けた旧廣盛酒造所とかは写真を見ていただけけて「君の考えていたことが少しわかった気がする」って言っていただけた。最後にお会いしたのは亡くなる半年くらい前に先生のご自宅の側の蕎麦屋だったのだけど、その後事務所やご自宅にもお邪魔させていただいて、森伊蔵飲ませてもらった笑。もっと色々見ていただきたかったけどね。

藤沼:とても良い先生ですね。

松葉:そう思う。それと、作家の松山(巖)さんからは影響を受けたかな、建築とは直接関係ないけど笑。修士1年の時に松山さんの授業を選択していたのだけど、毎回授業で文章を書くトレーニングをして最終的には実際に出版社から「建築批評」という書籍を出版するという変わった授業で。けど、ここで大分考え方や文章の書き方が鍛えられたと思う。「小学生にでもわかるように文章を書け」って本質的なことをちゃんと教えてくれた人だから。ちなみに、授業で最初に書いた文章は「お前の文章は役人が書いた文章みたいでわかりづらい」って言われけどね。だから「だって役人の息子だし」って切り返した気がするけど笑。松山さんは授業中にPeaceの両切りをスパスパ吸っていて「お前たちもタバコ吸っていいぞって言われて」じゃあ遠慮なくって普通に吸っていたから。今だったら絶対にありえないよね。

藤沼:著名な作家の方ですよね。

松葉:そうなんだよね。読売文学賞とか凄い文学賞を沢山受賞している作家だし、日本建築学会賞文化賞を受賞しているから日本の建築業界でも多分権威のある方なんだよね。しかも山本理顕さんをはじめ有名建築家の友達も多いし。さらに驚いたのは授業に芥川賞作家の川上弘美さんを連れてきていたからね。

藤沼:それは凄い話ですね。

松葉:そう。けど、20代の頃からたまに松山さんに連絡してお酒を飲ませてもらったりご飯をご馳走してもらったりという感じで。その話を業界の方にすると驚かれるからね。新橋の串焼き屋に連れて行ってもらった時に「僕はホルモン系は食べなたことないです」って言ったら、お前は贅沢だ的なことを言われて、以後はもう串焼き屋には連れて行かないって言われるようになった笑。けどお寿司や中華をご馳走になったこともあるし、文壇バーにも連れて行ってもらったね。大体帰りは泥酔だけど笑。

藤沼:確かに、松山さんのような方と飲みに行けるのは羨ましいですね。

松葉:ただ、残念なことに黒川さんと違って松山さんとの思い出には美しいエピソードは何もないんだよね。昔、松山さんの自宅で飲んでいた際に何かで言い争いになって、鍋の蓋で頭を叩かれたことあるし笑。それに、何年か前に建築家の麻生(征太郎)と東京都立大で先生をやっている土屋(真)と3人で松山さんの自宅に行って日中から泥酔してたのだけど、夕方松山さんを訪ねてきた著名な建築史家で関西の大学で教授をされている方にめちゃくちゃ絡んでたからね笑。持って行ったワインとか日本酒を飲み干して、仕方がないから松山さんの飲んでいる紙パック入りのお酒を飲んでたから悪酔いしてしまったんだって言い訳してたけど笑。

藤沼:そのノリは完全に学生ですね・・・

松葉:同級生で集まるとどうしても学生時代のノリになってしまよね。けど、松山さんも僕の結婚パーティーすっぽかしたからね、忘れてたって次の日メールが来て。そっちの方が大分酷い笑。最近コロナで遊びに行きづらいから飲んでないけど、この前電話したら元気そうだった。早く飲みに行けるようになればいいけどね。

「浮かせる」「歪ませる」「尖らせる」

藤沼:松葉さんの建築についてのお考えを伺っていきたいと思いますが、まず非常に明快なデザインの建物が多いと思いますが、どのようなことをお考えになって設計されているのでしょうか?

松葉:基本的なコンセプトというかデザイン手法は「浮かせる」「歪ませる」「尖らせる」かな。計画ごとによって使い分けるけど、それによって新しい価値を持った建築を実現させられたらと思っているのだよね。ただ、もちろん建築なので、機能性や法規とか遵守しなければいけないことはちゃんとやっているけどね。

藤沼:コンセプトが非常に明快ですね。

松葉:2年くらい前に前橋でJINSの田中(仁)さんとnanilaniのというか、最近はふわふわがTwitterでバズって大人気のなか又の方が有名になっている村瀬(隆明)さんと食事をしていた時に、田中さんから「松葉さんの建築ってどういうのなの?」って質問をされたのだけど、「とりあえず浮かせていますっ!」って感じでうまく答えられなくて。それでちゃんと自分のやっていることを明文化できないとダメだと気づいて。そもそも自分が何をやっているのか?とか何がやりたいのか?とか。最初は「社会に~」みたいなことを書いていたのだけど、社会貢献はちゃんとした企業に任せておけば良いなって、非常に恣意的な文言に落ち着いた。

藤沼:何故そのようなステートメントになったのでしょうか?

松葉:最近同業の人の多くがソーシャルビジネス的な立ち位置になってきているよね、まちづくりとリノベーションセットにしてみたいな感じで。けど僕は建築をやる上では絶対そっちには行きたくないなと思っていて。まちづくりにも関わってきてるし、リノベーションもよくやるけど、やっぱり表現者でありたいから。建築を設計するならちゃんとデザインした上で社会的にも意義がるものにしたないといけない、あくまでも建築が主体。あと、これからは自分の設計した建築を現代アートの分野・文脈に結びつけて行きないなって強く思っているので。それに10年以上設計やってきて最初に比べると色々上手くはなってきたけど、一方で段々丸くなってきたなと思い始めていたのだよね。それを踏まえて最近HPをリニューアルしたからあんなことになったしまったという。メインビジュアルがグニャグニャに歪んでいるから笑。デザインしてもらっている時に「これで仕事が来づらくなるな」って思ったから。けど目先の仕事を取るためというより、これからの生き方を示そうと思って。じゃないと10~20年後の立ち位置が自分の目標とは乖離しすぎてしまうとかなり危機感を持っていたので。


  • TYRANT Inc. HP(建築)


  • TYRANT Inc. HP(アートコレクション)

藤沼:そんな事を考えていたのですね。確かにHPは尖っていますからね。ちなみに最近はJINSの新店舗の設計を手掛けられましたよね?

松葉:そう、 JINS熊谷肥塚店 。今年の7月にオープンしたのだけど、わかりやすく箱が40cmくらい浮いている笑。最初の打ち合わせの時にJINSの店舗でロードサイドの単独店舗は多分ほとんどないはずって担当者の方が言っていたので、これは頑張らねばと思って色々検討したのだけど、途中から奇抜な形状のものを頑張って設計するのも何か違うなって思って。それでロードサイドの一般的な店舗っていわゆる「箱」だよなって気づいて、じゃあそれを浮かせてしまえばいいかなって。もちろん箱っていうのは比喩なのだけどね。

藤沼:非常にシンプルな建築ですよね。

松葉:自分の中では今までで一番ピュアなモダニズム建築に近づけたかなと思っているのだよね、浮いているけど笑。ただ、浮かせたことによって必要となったスロープや、中庭、そして前面道路や中庭に面した水平連続窓とか建築的要素が色々あって、結構真面目に設計しているなと。それに基本的には壁で閉じているにも関わらず結構透明感もあるし。中庭が非常にいい感じだと個人的には思っている。多分商業建築としてはかなり真面目な建築だと思う、浮いているけど笑。


  • JINA熊谷肥塚店 Photo:Tomoyuki Kusunose


  • JINA熊谷肥塚店 Photo:Tomoyuki Kusunose


  • JINA熊谷肥塚店 Photo:Tomoyuki Kusunose

藤沼:地面から少し浮かせるというのは、以前四万温泉で設計された住宅でもやられていますよね。

松葉:町田邸ね。あれは半分斜面に突き出しているけど笑。基本的には同じ感じだね。ただ、町田邸の場合、敷地が傾斜地で湿気の多い場所だったので、2mくらいの高さのRCの基礎を造って、その上に木造の細長い平屋を乗せたんだよね。だから必然的に地面から浮いた感じになっただけなのだけどね。まあ、とはいえ基礎の周りを意図的に埋め戻して際どく見えるようにはしているけど。別に僕のエゴではない笑。ただ、諸条件を僕のフィルターに通して整理すると浮いて見えるようになるだけかな。


  • 町田邸 Photo:Tomoki Hirokawa


  • 町田邸 Photo:Tomoki Hirokawa

藤沼:なるほど。松葉フィルターを通過すると浮いてしまうという事なのですね。あと際どさという意味では、八王子で設計された長澤歯科医院はかなり際どいですよね。

松葉:あれは表現としてだけでなく構造的な意味でも与えられた条件の中でギリギリを攻めたので、際どさという意味では一番かもね。ただ、クライアントからの要望の一つが目立つことと、駐車場を十分に確保することだったので、それには最大限応えたつもりだけど。浮かせれば2つとも解決しちゃうよねって。

藤沼:かなり目立つ建築ですよね。

松葉:住宅街の中にいきなり現れるから、何だ?って感じになると思う。ただ、箱が3個置いてあるだけの建築だから、それほど周囲から突出しているわけでもないとも思っているけどね。というのも、Zaha Hadidの建築のように流線型でいかにも浮きそうなって感じではなく、「そこにあるものがフワっと浮いたみたい」っていう方が好みだから。さっきも言ったけど、これからの自分のテーマは設計した建築をどう現代アートの文脈に乗せいくかだと思っているのだけど、そうすると一見普通に見えるものが浮いていることで価値観が転換するって方がはまる気がするのだよね。まあ、仮に将来巨匠みたいに好き放題やっていいって状況になれたら、流線型の建築を設計するかもしれないけど笑。


藤沼:確かに、松葉さんの設計される建築は基本的にシンプルなデザインが多いですね。

松葉:箱とか家型のシンプルなボリュームが好きなんだよね。2階建てだと積んだりするからやや複雑な構成になるけど。

藤沼:長澤歯科医院や網代園でしょうか?

松葉:そう。長澤歯科医院は若者が勢いでやりましたって感じがそのままで出ているけど、網代園は結構色々考え、それをうまくデザインしたなって自分でも思っている。ただ、接点を極力減らしてボリュームを積むので空間的なつながりがなくなっているので、空間体験としてはさほど良いものではないかなと。まあ、長澤歯科医院や網代園は各ボリュームが機能的に連続空間である必要性は無いから問題はないのだけど。ただ、構成だけでなく空間体験も重要だなって最近思っているので。JINSもだけど今計画・施工している建物は構成だけでなく良い空間になっているはず。最近やっと良い建築の設計ができるようになってきたなって自分で感心しているから笑。


  • 長澤歯科医院 Photo:Taishi Hirokawa


  • 網代園 Photo:Tomoki Hirokawa

藤沼:なるほど、ちなみに松葉さんが設計の際に心がけている事というはなんでしょうか?

松葉:手法としては浮かせたり歪めたりっていうのがあるけど、最初に設計した中之条町の旧廣盛酒造所の時から「違和感」のある建築を設計したいと思っていて。昔から「違和感」って何だろう?例えば未視感と既視感を行ったり来たりしているような状況なのかな?とか色々考えたのだけど、まだちゃんと明文化はできていない笑。ただ、環境から突出してはいないのだけど、圧倒的な差異とか存在感を持っている建築を設計することで「違和感」を持たせることができるのかな?と考えているから最終的にはシンプルになっていくのかな。ゴチャゴチャしていると構成原理とか違うところに話がいっちゃうと思うので。そして「違和感」の獲得によって新しい価値を持った建築を実現されればと思っているんだよね。

藤沼:「違和感」ですか。ちなみに旧廣盛酒造所は歪める手法で設計されていましたよね。

松葉:そう、床とか壁とかガラス面とか。新築とリノベーション を両方やるプロジェクトだったから場所によって歪める対象を変えているのだよね。あれは修了制作で考えていたことをそのままやりましたって感じ。時間だけはあったから色々考えてそこから余計なものを削ぎ落としていったから、かなり研ぎ澄まされた建築になっていると思う。もう10年以上、建築の設計をやっているけど、作品の切れ味って意味でいうと旧廣盛酒造所が一番かなって思う。非常に小さな建物なのにガラス面は表参道のLouis Vuittonのファサードと同じチームの施工だったりあの状況で結構すごいことやっているし。それに普通なら素人設計者がもらえないような建築賞も貰えたし。


  • 旧廣盛酒造所 Photo:Tomoki Hirokawa


  • 旧廣盛酒造所 Photo:Tomoki Hirokawa


  • 旧廣盛酒造所 Photo:Tomoki Hirokawa


  • 旧廣盛酒造所 Photo:Tomoki Hirokawa

藤沼:それはすごい事ですね。

松葉:設計者としてはあの時が人生のピークだったかも笑。まあ、それは冗談だけど初めて建築を設計するって訳だから色々必死だったし。よく、あんなド素人に公共施設を発注したなと今でも思っているからね。当時は実施図の描き方も知らないし、仕様とか収まりも全く知らなかったから。それで、その話を当時の中之条町町長で今群馬県議会議員をやっている入内島(道隆)さんにすると、「普通じゃ面白くないじゃん、俺の見る目があったのだよ」って笑って言われるけど。

藤沼:そもそもよく公共建築の設計業務が取れましたね。

松葉:元々は小樽で建設会社とかをやっている福島(慶介)くんが2008年に当時埼玉大学の教授だった後藤和子先生と中之条を訪問した際に入内島さんから打診された話だったんだよね。それで、向こうは1級建築士持ってないし、こっちは仕事なんか皆無だったから一緒にやろうって話になったんじゃなかったかな、よく覚えてないけど。あの頃は本当にお金なかったから打ち合わせの度に中之条駅まで在来線乗り継いで行っていたからね。片道4時間、しかも日帰りで。今なら腰痛くなるから新幹線か特急じゃなきゃ行かないって言うよ、絶対。けど、昼からワイン飲んだり、アート集めたりして好き勝手に生きてられるのもこの仕事があったからだからね。入内島さんをはじめ色々な人に感謝しないとね。

星付きシェフを日高屋に誘う

藤沼:今ワインやアートというお話しが出ましたが、以前UCHIDA SHANGHAIの庄司光宏さんとの対談ではワインやアートに加えて、車やファッションに関するお話しも色々されていていましたね。一般的なインタビューとは大分違い、ある意味新鮮だなと思いました。

松葉:庄司くんとは学生時代からの友達だから。飲んでいる時にしている話みたいだったよね。というか、オールドスクールとか普通言わないよね笑。ちなみに庄司くんは旧車好きで学生時代にアイデアコンペに入賞してもらった賞金でVWのType 1(ビートル)買ってカスタムしていたからね。筋金入りの旧車好きだよね。僕の趣味は成金みたいだってディスられたし。

藤沼:先ほど、最近車を最近買われたとおっしゃっていましたが何を買われたのですか?

松葉:PorscheのMacan、いかにもでしょ。けど気に入っているから次はGTSあたりを買うと思う。庄司くんとの対談の時はPanameraが良いかなと思っていたのだけど、実物見たら大きすぎて運転大変そうだなって思って。MacanはCayenneよりはコンパクトだし。といってもそれでも普通に大きいけど。この前都内のホテルに泊まった時に駐車しようとしたら、立体駐車場には入れられないからって地下エントランス横に停めさせられたからね。実際にはギリギリ入るけど以前Macanを入れてトラブルがあったみたい。本当は911が欲しいけど、ファミリーカーにはならないからダメなんだよね。数年後にコロナを無事乗り切れていたら2台目に買おうと思っているけど。

藤沼:確かに911はファミリーカーとしては無理ですね。というか松葉さん車お好きだったのですね。

松葉:いや、10年以上持ってなかったよ。というのも大学生の時に免許取って車買ったのだけど、それから10年間で1万キロしか乗らなかったから、いらないなと思って処分したんだよね。タクシー乗った方が断然安いなって。それに今住んでいるマンションって最寄りの駅まで徒歩で3~4分だから一人で行動するなら全然車なんかいらなかったのだけど、子供がいるとやっぱりあった方が便利だなと思っていて。その矢先にコロナになったので急遽買ったんだよね。けど、1台買うと2~3台欲しくなってくるから。最近友達とガレージが欲しいって言っている笑。実家の隣にでも本気で建てようかなって思っているくらい。RCの平屋かなにかで、ついでにコレクションを飾る小さなギャラリーも併設させようなかとか妄想しているし。


  • Photo:Tomoki Hirokawa

藤沼:それは凄い変わり様ですね。あと、この前も一緒に食事をした際にワインを飲まれていましたが、ワインお好きですよね。

松葉:1番飲むのは角ハイボールだけどね、糖質ゼロだから。もちろんワインも20代から飲んでたけどね、お中元とかで頂いたものをたまに飲むくらいかな。自分で買ってちゃんと飲むようになったのはOdeの立ち上げプロジェクトに関わるようになってからからだから、2017年か。プロジェクトを通じてソムリエやインポーターの方と色々知り合いになって、話を聞いていると興味が湧いてくるのでじゃあ飲んでみようと思って飲んだら美味しくて。それで、去年40歳になったタイミングでそろそろセラーでも買おうかなって思って買ったら、その後コロナになって家での消費量が倍増。奥さんに家にしょっ中ワインが大量に届くって文句言われたので最近は事務所に届くようにしている。

藤沼:高級なワインをお持ちなのですか?

松葉:いや、持ってない。一番高いのでも1本2~3万円くらいだったはずだし、大体は1万円前後。初心者だからね。しかもそんなのは普段はほとんど飲まないし。けど日本にはあまり入ってきていないスイスワインとか結構あるね、輸入しているやまきゅういちスイスワインの杉山(明美)さんにを通じて買わせていただいているので。あとアメリカのCharles Smith Winesとかリーズナブルで美味しいしね。フランスワインは多分1~2本しか入ってないと思うけど、一番高いやつだったと思う。日本のワインはSAYS FARMしか無いかな。いずれにしても外で飲むのに比べると大分リーズナブルだよね。ちょっと良いお店だと大体5倍くらいの値段ついているから。もちろん、外で飲むのも嫌いじゃないけど。池尻大橋のcalmeとか八王子のLe Vin Perduで出してもらえるワインは美味しくて好きかな。高いとか有名とかの評価軸だけでなく、それぞれのお店の個性がきちんとワインで表現されていて、普通のお店ではなかなか出てこない気がする。特にcalmeの佐野(敏高)さんなんて、同じワインを温度やグラスを変えて出してくれるから味が全然違う。出てくる度にグラスの形が違うの。初めて伺った時に感動したもん。それにOdeでシャンパン飲んだりとか。料理がスペシャルだからなお酒は何でも美味しい笑。

藤沼:それは是非一度伺ってみたいです。Odeは以前松葉さんに連れて行って頂きましたが、生井(祐介)さんの料理は五感すべてで楽しめる素晴らしいものでしたね。

松葉:今年の9月で3周年なのだけど、2年目でミシュラン1つ星だし、3年目でAsia’s 50 Best Restaurantsで35位になっちゃったからね。完全スターシェフだよね。オープン当初から生井さんに「いつAsia’s 50入りますか?」ってある種の強迫をしていたけど、まさか3年目で入るとは思ってなかったので連絡来た時めちゃくちゃ嬉しかった。もちろん、前のお店でも1つ星は持っていた訳だから会った時から凄いシェフだったのだけど、業界が違うからOdeがオープンするまで正直ピンと来てなかったんだよね。だから打ち合わせの後に生井さんがビール飲みたいって言うので、「夕方だから飲み屋は開いていないですけど、日高屋なら飲めますよ」って、日高屋誘っちゃったこともあるし。生井さんは「ここのチャーハン美味いですね!」って喜んでいたけどね。だけどオープンして初めて食事した時にこの人めちゃくちゃ凄いシェフだって思い知らされたから。

藤沼:星付きシェフを日高屋に誘うところが松葉さんらしいですね。

松葉:うん、けどその話をソムリエの人にしたら注意されたけど笑。

藤沼:Odeのインテリアはグレーで統一された空間と色々な傾きを持った天井が印象的ですが、どのようにデザインされたのでしょうか?


  • Ode Photo:Shinichiro Fuji


  • Ode Photo:Shinichiro Fuji


  • Ode Photo:Shinichiro Fuji

松葉:グレーは生井さんからの要望。とりあえずグレーでって笑。それまで全体をグレーにしたことはなかったのだけど、Odeをやってグレーを使うテクニックが上手になった気がする。天井はたまたま京都に行った時に寄った虎屋菓寮京都一条店のテラス席で抹茶を飲んでいた時に、なんか庇の下って良いなって思って。丁度雨の日だったのだけど水盤に雨が落ちて綺麗だなとか、要はボーッとしていただけなのだけど、ふとOdeも天井を斜めにしたら色々上手くいくなって気づいたんだよね。というのも、厨房とカウンター席の高さ関係で床をFLから300mmくらい上げる必要があったのだけど、そうすると普通に天井を貼るとかなり狭苦しくなってしまうのでどうしよう?ってずっと考えていて。恵比寿のおしゃれなカフェとからなら天井無しっていうのもありだったけど、ファインダイニングでそれは無いよねって思っていたから、大げさに言えば閃いたって感じかな。

藤沼:京都で閃くというのがポイントですね。

松葉:そう、ただ京都で遊んでいた訳ではないと言えるからね笑。

コンペに負けても仕事は取る

藤沼:その後恵比寿のハンバーガーレストランBLACOWSでもタイルやモルタルなど様々な素材を用いてグレーの空間をデザインされていますが。

松葉:そう、BLACOWSは白金の焼肉ジャンボとか五反田のミート矢澤とか肉コンセプトの飲食店を国内外で運営しているビータスの系列店なのだけど、たまたま白馬にホテルをつくるっていう指名コンペに呼んでもらって、それが縁でBLACOWSのデザインをやらせていただいたんだよね。ちなみにパテはミート矢澤だし、バンズはMAISON KAYSERだから当たり前だけど美味しいよ。

藤沼:確かに美味しかったです。ちなみにホテルのコンペはどうだったのですか?

松葉:あっさり負けた笑。圧倒的に目立つからという理由でほぼ正方形の敷地の対角線上に細長いボリュームを浮かせるという非常に斬新な案だったのだけど、客観的に見るとコンペで勝ちやすい案じゃないよね、僕は好きだけどね。ただ、ビータスの佐藤(貴典)会長にOdeのデザインを気に入っていただけて、そのおかげでBLACOWSでは本当に好き放題やらせてもらえた。

藤沼:ホテルは残念でしたが、結果良かったですね。

松葉:そう、佐藤会長とはデザインの趣味も合ったので、非常にやりやすかったんだよね。こういうデザイン良いですよねってLINEが来たり、あと打ち合わせ中に急にgoro'sの話になったりとか。高校生の頃ゴローさんの手伝をしていたから、goro'sの店員でも驚くようなアイテムを持っているらしい。それに一番衝撃的だったのが、ある時腕時計外して巻いているなと思ってよく見たらPATEK PHILIPPEのGrand Complicationだったり。しかもゴールド。その時計いつか買いたいと思っているやつだっ!!って。それとは関係ないけど、金属部は基本真鍮か真鍮メッキでゴールドだからね、そうとうお金かかっている笑。


  • BLACOWS Photo:Tomoki Hirokawa


  • BLACOWS Photo:Tomoki Hirokawa


  • BLACOWS Photo:Tomoki Hirokawa

藤沼:松葉さんのデザインにしては珍しくかなりインテリアデザイン的な表現になっていますよね。

松葉:意識的にそっちに寄せてはいるかな。一度やってみたかったので。

藤沼:何故ですか?

松葉:昔、麻生(征太郎)に「お前インテリアに興味無いでしょ」って言われたことがあったから。別に興味が無い訳ではないけど依頼が来なかっただけで、自分的には空間デザイン系もやればそれなりに上手に出来る自信はあったから。それを証明するためにいつかやりたいなって。

藤沼:実際にやられてみてどうでしたか?

松葉:う~ん、結局育ちが建築畑なので、どうしても建築とインテリアの間くらいのデザインになっちゃうのだよね。装飾的要素を30~40%くらい抽象化しちゃうイメージ、やっぱり装飾ではなく空間で魅せたいなって。ただ初めての経験だしよくわからない部分もあったかな。なので、やっぱり最近は建築で良いかなと思ってる。たまにインテリアもやったりすると思うけど。って最近インテリア案件がまた増えてきているな。

藤沼:インテリアのお仕事も是非頑張って頂けたらと思いますが。というのも、やはり松葉さんらしさがきちんと出ていると思いますので。先程おっしゃっていた違和感とかが。

松葉:それにゴールド好きとかね。最近も色々な案件でゴールドどうですか?って勧めていたりするから。それに高校生の時も18Kのベネチアンチェーンのネックレスを学校に付けて行っていたし。今思うと生意気な高校生だな笑。いつか文字盤黒の金無垢のROLEXとかを買ってGショック的な感じで付けようかなと思っていたりもしたけど、金無垢ROLEX買うくらいなら他のことに使った方がいいか。

藤沼:アクセサリーや時計お好きなのですね。

松葉:昔から好きだったんだよね。10代の時に欲しかったけど当時高過ぎて買えなかった物が買えるようになった反動もあるのだと思う。まあ、奥さんGOMAJIMAってブランドをやっているジュエリーデザイナーだしね。といっても付けているのはChrome Heartsとgoro’sだけど笑。ちなみに、付けすぎだってずっと注意されたから指輪は左右一つずつまで減らしたけどね。けどブレスレットとウォレットチェーンを付けているから、まだたまに文句を言われる。

藤沼:建築家でChrome Heartsを付けている方はなかなかいないですよね。そもそもアクセサリーだけというより、ファッションというかキャラクターそのものが建築家らしくないですよね。

松葉:Chrome Hearts付けている同業者に会ったことはないけど、もしいたら友達になれると思う。いないと思うけど。あと、ファッションも確かに他の建築家の方々みたいに品行方正というか無難な感じとは真逆かもね。美容師をやっている仲の良い友達がいるのだけど、一緒に飲んでいると「松葉さんも美容師だと思っていました」って店員さんに言われるからね。それについ最近もライダースジャケットにサングラス、それにコロナ対応のマスクで現場に行ったら監督に「不良が来たのかと思った笑」って言われたし。そもそも不良って今いないでしょ笑。ただ、設計者だって気づかれなくて、現場で職人さんに「何勝手に入ってきているんだ?」的な感じで見られることは多々あるけど笑。


  • Photo Tomoki Hirokawa

藤沼:やはりそうなのですね。お好きなファッションブランドってあるのですか?

松葉:FACETASMは結構持っているね。ストリートとかパッチワークが好きなのだけど、そのテイストが上手く取り込んであって。アウターとかはかなり持っているかな、色違いで持っているものもあるし。靴はvisvimが履きやすくて好きだから何足か持ってるけど。あと、最近はBALENCIAGAも気になって買ってみたりしている。それと、Alessandro MicheleになってからのGUCCIがすごく気になっているのだよね、あの世界観は好き。この前Gマークが沢山入っているド派手なコート買ったけど、かなり良い感じだね。「普通の人は着れないよね、少なくても八王子で着ている人は絶対いない」って奥さんに褒めていだいたし笑。歳とると段々趣味が派手になってくるみたい。

藤沼:基本的にハイブランドがお好きなのですね。

松葉:いや、そうでもなくてCONVERSEとかVANSは昔からよく履いているし。アウトレットで1足2000円くらいのスリッポン買ったりするからね。それに週の半分はLevi'sの511履いている。Rocky Mountain Featherbedも好きだし。あと今一番熱いブランドはアメリカのTシャツブランドのFRUIT OF THE LOOM。厚手の無地Tシャツを色違いで2枚買ったのだけど、これは非常に良くて。ちゃんとしていてしかも安い。だから届いた日にまた2枚買い足したて、さらに違うタイプを3枚追加笑

藤沼:7枚あったら一週間毎日違う色のTシャツですごますね。あと家具も集めていますよね。

松葉:うん、主にEamesとGeorge Nelson、すなわちHermanMillerが好きなんだよね。Eamesの椅子は10脚以上持っているよ。もちろん、半分くらいは現行品だけどヴィンテージのレザーのDSRも5脚あるし。それ以外にもCH24(Yチェア)とか色々あるから、椅子だけなら小さなカフェができるくらい持っている。あと仕事で最近見る機会が多いというのもあるけど、Pierre Jeanneretも欲しくなってきている。

藤沼:それほどお好きなのに設計された空間にそういった椅子が置かれているのは見たことないですが。

松葉:何故だかわからないけど自分の設計した空間にはEamesとかNelsonを置こうと思ったことはほぼ無いかも。どちらかと言うとマルニ木工とかをスペックすること多いかな。HIROSHIMAのアームチェアをスペックしたOdeの竣工写真はマルニ木工のカタログでも使ってもらっているし。好きなのだよね、単にプロダクトとしてっていうだけじゃなくてマルニ木工という会社が。品質はもとよりデザインでも海外で勝負している数少ない国内メーカーだし。ちなみに自宅のソファーとサイドテーブルはHIROSHIMAシリーズを使っている。

藤沼:完全にファンですね。

松葉:そう。だからという訳ではないけど、より多くの人に使ってもらいたいからそのうち街中でマルニ木工とか自分でデザインした家具を販売するお店やりたい。富山にある51%みたいな感じかな。まあ、小売では儲からないだろうからコントラクトで稼ぐしかないだろうけど、なんかそういう場所があったら良いなって昔から思っていたのだよね。週末だけそこでクラフトビールのCOEDOとか出して。

藤沼:COEDOもお好きですよね。

松葉:COEDOも完全にファンだね。元々先祖が川越藩士ってこともあって先祖代々のお墓があったから子供の頃から良く川越に行っていたってこともあるのだけど、10年くらい前に久しぶりに川越に行った時に全く知らないでSHIROを飲んだら美味しくて。それで好きになって色々飲むようになったのだけど、ある時立川のCOEDOの飲めるカフェでFMラジオの放送終了後にやっていた打ち上げに参加したのだよね。多分ラジオをやっていたリライトの籾山(真人)さんに用事があって。それでSHIROでも飲もうと思って注文していたら、たまたま横にCOEDOの事にやけに詳しい人がいたので「僕も好きなんですよね」とか話をしていたら、その方がラジオのゲストで来ていた朝霧(重治)さんだったという。

藤沼:どなたですか?

松葉:社長。

藤沼:それはびっくりですね。

松葉:うん、「何でそんなに詳しいのですか?」って聞いたら、「だって社長だから」って。そりゃ詳しい訳だよね。けど、それ以降、事あるごとに協賛とかを図々しくお願いしてもいつも快く引き受けていただけるのだよね。だから、こちらも少しでも恩返しをしないと思って、今でも良い感じの飲食店のオーナーさんと仲良くなるとCOEDO美味しいからを置いてってお願いしているから。

藤沼:営業されている訳ですね。

松葉:そう。マルニもそうだけど、好きになると勝手に営業し始めるからね。正直自分の本業以外の営業力は結構高いと思う笑。

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OTONA WRITER

松葉邦彦 / KUNIHIKO MATSUBA

株式会社 TYRANT 代表取締役 / 一級建築士 ( 登録番号 第 327569 号 ) 1979年東京都生まれ。東京藝術大学大学院修了後、事務所勤務を経ることなく独立。人生で初めて設計した建物が公共の文化施設(旧廣盛酒造再生計画/群馬県中之条町)という異例な経歴を持つ。また、同プロジェクトで芦原義信賞優秀賞やJCD DESIGN AWARD新人賞などを受賞。