日本で設計やっている奴らが貧乏くさく見えるんだよね UCHIDA SHANGHAI 庄司光宏(後編)

「世の中を生き抜く術・勝ち残る術」をテーマに、建築界の異端児の異名をとる建築家松葉邦彦が今話したい人物と対談、インタビューを行い、これからの世の中を生きて行く学生や若手に伝えたいメッセージを発信する。第22回は上海を拠点に建築やインテリアのデザインを手がけるUCHIDA SHANGHAI Design Directorを務める庄司光宏さんにお話を伺いました。尚、現在全世界で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染予防のためオンラインでの対談となっております。

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庄司光宏
1978年神奈川県藤沢生まれ。幼少期をサウジアラビア、クウェートで過ごす。2005年東京電機大学大学院建築学修士課程修了。2008年、内田洋行テクニカルデザインセンター、2012年より UCHIDA SHANGHAI デザインディレクター。現在上海、天津、広州、深圳、香港などで設計活動中。

前編:売り上げも無いやつに説得力は無い、嫌なら田舎で自給自足してればいい UCHIDA SHANGHAI 庄司光宏

日本で設計やっている奴らが貧乏くさく見えるんだよね笑

松葉:仕事をする上で中国と日本の決定的な違いって何なの?

庄司:中国は完全な契約社会ということかな。あとは契約やお金に対する判断スピードが日本とは比較にならないくらい早い。中国の経営者はWechatでお金の相談・確認の連絡が頻繁に来る。だから設計者としてもお金の感覚について持ち合わせないとこの市場では難しいかな。平米単価やスケジュールを即答できないと完全にダメ。もちろん言うタイミングはあるけど。

松葉:基本的に好きにやっていいよって言われる仕事が多いから、中国では無理だな。極端な場合総工費も知らないまま完成させてたりすることもあるし。

庄司:それだと中国では無理だね。基本中国の人は常にお金のこと、数字のことを考えているからね。あと、繰り返しになるけど中国人は企業名より一個人で見てくる。例えば能力の無い担当者がいたとしても日本のだとよほどのことが無い限り変更させられることは無いよね。中国だったら即変更もしくは解雇が当たり前だし。ただ、矛盾しているようだけど、誰かのミスで問題が発生した時に、日本だったら誰かが責任を取らされるけど、中国の場合みんなで何とかして解決しようとする。だから個人的には非常にやりやすいと思っているんだよね。

松葉:確かにそっちの方がやりやすいね。

庄司:あと日常生活に関しても、中国ではコロナ以前から生活や仕事においてアプリを駆使し効率性を追求していたということもあって、テレワークとかも全く抵抗がなかったかな。学校とかも元々アプリで管理してるし。中国に来たことのない日本人の人って今だに日本の方が最先端と勘違いしているけど、全然中国の方が進んでるからね。お金に関しても電子マネーが当たり前だから、現金なんてもう2年くらい触って無いな。

松葉:2017年に上海に遊びに行った時に既にそんな感じだったからね。最近日本でもやっとキャッシュレス化が進んできたけど。ただその弊害じゃないけど、この前地方に行った際にタクシーの中で新幹線チケット取ったんだけど、駅に着いて降りる時に車内にiPhone落としていて何も出来なくなった時は正直焦ったけどね。バックアップとしての現金もまだ必要かなと思った。それにウォレットチェーンの意味がなくなるし。

庄司:ウォレットチェーンはぶる下げておけばいいんじゃない。あと何より強く感じたのは中国人は巷に溢れている情報を信じて行動するというようなことはないし、判断のスピードが本当に早い。そして、判断する際に何の情報を信じるかというと、信用できる仲間などの口コミ等を第一に判断材料にしている。この辺の空気感は上海来てから5年目位で何となく掴めるようになって来た気がする。それに中国人はブランド好きだと思われがちだけど、中国市場で人気のあるブランドはそれなりに理由があって歴史や知名度の高い商品でも、市場にフィットできなければ全く売れないだよね。逆に良ければ受け入れるというオープンな感覚を持った市場であるとも言える。

松葉:みんなバレンシアガとかが好きなイメージだけどね。

庄司:あと、圧倒的に日本と違うのは人と人との距離感。これは物理的にも精神的にも本当に近いよ。話す距離やエレベーター乗っても超近いし、ちょっとこの辺のこと話し始めると面白いので長くなるから今はやめておくけど、中国で信用されるにはまず中国にいないと信用は築けないと思う。距離感も含めて。


  • 無錫KONICAMINOLTA © KENTA HASEGAWA


  • 浙江省KINGDOM(麻の製品展示ギャラリー) © MITSUHIRO SHOJI


  • 浙江省KINGDOM(麻の製品展示ギャラリー) © MITSUHIRO SHOJI

松葉:それとさっきアジア圏でもって話が出たけど、中国以外の地域での展開も考えているのかな?

庄司:もちろん。ただ、上海って場所性も自身のブランディングに取り込んでいるので、「上海の庄司」というスタンスは変えたくないかな。だから、他のエリアに拠点を構えるというよりはスポット的なやり方になってしまうと思う。例えばNYで仕事をしたいけど、早い段階でNYに事務所を出すより上海での活動実績を残して乗り込む方が早いかなと。現にそういう話もあるんだけど、それは今までの実績のお陰だと思っているので。

松葉:スケールめちゃくちゃ大きいね。

庄司:いや、そんなスケールでなくても良いのだけどね。正直、上海のスタジオは5人くらいで良いかなと思ってる。以前もっと多かった時もあったけど、むやみやたらに増やす必要性は無いかな。きちんとこちらの言うこと聞いてくれるスタッフでないと意味がないので。もちろん、モチベーションの高いスタッフならいつでもウェルカムだけどね。学歴や技術力よりモチベーションが一番重要だね。これは中国に限らずだけど。中国の人はすぐ辞めて給料高いとこに移籍しちゃうから。

松葉:言っていることが、ちゃんとした経営者みたいに聞こえるけど。

庄司:あと、とりあえずカッコよく生きたいんだよね。

松葉:今度は飲んでる時の会話みたいになってきてるな。

庄司:そうかな?けど簡単に言うとちゃんとお金稼いで、欲しい車買ったり好きなことをやって生活していきたいんだよね。松葉くんみたいにわかりやすい成金趣味って訳ではないのだけど。日本で設計やっている人のほとんどが貧乏くさく見えちゃって。それは嫌なんだよ。

松葉:色々酷いこと言うな。

庄司:けど松葉くんだってそう思ってるでしょ。

松葉:うん、貧乏くさい人が多い。もちろんお金のかかることだけが良いとは思わないけどね。ただ、5年くらい前から現代アート集めてるからやっぱりそこそこお金かかるし。もちろんそんなに高い作品は買わないけど。あと家具もイームズとネルソン好きだしね。最近はペリアンとかジャンヌレが流行ってるけど、やっぱりイームズとかネルソンの方が雰囲気がポップで明かるいから好きなんだよね。自宅で娘に変なシール沢山貼られたりぞんざいに扱われているの見てそれヴィンテージだから高いのにって心の中で思ってるけど。

庄司:それは仕方ないな。

松葉:あと、この前40歳になったからワインでも始めようかなと思ってワインセラー買ったんだよね。そうしたら、今まで買わなかったような長期熟成させるワインも買い始めて。最近お店でもそこそこ良いワインを飲むことがあるんだけど、やっぱり美味しいからね。

庄司:何か話聞いてるとNIGOのオタクみたいだな。

松葉:NIGO昔から好きだからね。ただ、HUMAN MADEは持ってないし、ロールスロイスもいらないけど。けど、APとkawsとランボルギーニのウルスはいつか欲しかな。

庄司:さすが裏原世代だな。

松葉:ファッション自体はそんなに裏原系ではなかったんだけどね。PIED PIPERの亀石剣一郎さん好きだったから。TOILETとか良く着てたからね。知ってるTOILET?

庄司:トイレだろ?

松葉:普通でつまらないなぁ。あと、ショットガンで撃ち抜いたSABOTAGEのスエット欲しかったな。並木橋にお店があった時に見たから高校生の時だと思うけど。

庄司:そうなんだ。けど、松葉くんの青春時代の服の話は今いいから。

人生も作品もオールド・スクール

松葉:けど、庄司くんも旧車集めてたりとか色々好きなこと多いでしょ。

庄司:せっかく折角命削って表現してお金を稼げる仕事を見つけたのだから、あとは自分の好きなものと数人の友人に囲まれて格好いいと思える設計を残す、それができれば良っていうのが本音だけどね。松葉くんと違って作風もオールド・スクールだし。

松葉:僕の周りでオールド・スクールって言ってる人、庄司くんしかいないよ。

庄司:何だろ、コンテクストとかをしっかり考える建築家特有の思考は無いからかな。竣工写真の撮影をお願いしている写真家の長谷川健太さんとかには、もっと文脈を考えた方が良いと言われたりするのだけど、考えないでただカッコいいと思えるものを設計・デザインする方が自分に合っているのかなと思っていて。

松葉:僕みたいに浮かせたり、歪めたりした方が良いと思うけど。まあ、そんなこと一人でやってるから日本の建築界に友達出来ないのか。ただクロムハーツ付けてない人とは元々友達になれないからしょうがないね。


  • 網代園 © TOMOKI HIROKAWA


  • 町田邸 © TOMOKI HIROKAWA


  • 長澤歯科医院 © TAISHI HIROKAWA

庄司:松葉くんの友達誰もクロムハーツ付けてないでしょ。

松葉:うん、アクセサリーを付けてる人もほとんどいない。

庄司:だよね。いずれにしても既存のドメスティックな建築やデザインコミュニティーなんて正直でどうでもいいんだよね。だから日本のデザインシーンもほとんど気にしてないし。特に自称建築家やデザイナーみたいな奴はほとんど気が合わないし、どうでもいい。泥臭くても自分で表現している人や自分にとって憧れとなる人と時間を共有する様にしているね。これは日常生活も同じだ。自分の居場所は自分で作って、上海はもとより様々な国で設計を行いたいと思ってる。


  • 浙江省KINGDOM外観CG(竹圧縮材ルーバーとランダムな開口のダブルスキン/現在工事中)


  • 浙江省KINGDOM外観CG(オーディトリアム + ゲストルーム/現在設計進行中 )

松葉:業界の人がイラっとする発言だな。ちなみに僕は自称現代アートコレクターなんだけどね。しかも既にコレクション展まで開催してるし。

庄司:それはかなり胡散臭いね。

松葉:まあ、アート関係の人、特に売れてないアーティスト的な人と話すと雰囲気は建築やデザインの業界と同じだけどね。美術手帖にちらっと出たとか、どこどこのギャラリーで今展示しているとか。知らんわ、そんなのって。もちろんそれも重要なのもだけど、それ以外の話は?って思う。そういう話しかできない人の作品はつまらないから買わないよね。

庄司:新建築に出たとか誰かのオープンハウスに仲間内で行ったとかいう建築業界のノリと一緒だな。

松葉:みんな同じだね。というか、そもそもオープンハウスをやる意味が全然わからないんだよね。商業系ならともかく個人住宅とかのプライベートな空間に同業者呼んで何の意味があるのかな? 誰向けなのかね?少なくとも仕事にはならないでしょ。

庄司:まあ、楽しいんじゃないの。その後にみんなで小洒落た店にでも行ってトリッパの煮込みでもつまみならチリワインでも飲んで建築談義したりさ。


  • MATSUBA COLLECTION @ EUKARYOTE

松葉:妙に具体的だな。あと、いつも思うんだけど何で建築業界の人ってあんなに地味なんだろうね?他の業界、特にファッション系の人からよく言われるんだけど。建築業界の人の集まりって華が無いと。確かに以前とあるブランドのパーティーに行った時に超有名な建築家に何人か見かけたけど、皆地味すぎて浮いてるんだよね笑。モデルや芸能人、それにいかにも業界の人ばかりのキラキラ・ギラギラした中で、一般人オーラが出まくってて。

庄司:確かにみんな華がないよね。

松葉:ただ、変なことにみんなちょっと変な服装してて。何でだろう?悪目立ちしたいのかな?

庄司:建築家になる人たちって、松葉くんみたいな落ちこぼれの不良は例外で、普通は有名大学の建築学科を優秀な成績で卒業してその後大学院まで行き、さらには有名アトリエ事務所や日建設計に入って勝ち残り独立した人たちでしょ。大学デビューや社会人デビューもせず直向きに勉強・仕事をしている真面目な人じゃ無いとなれないじゃん。

松葉:酷い言い方だな。

庄司:ただ逆に言うと昔から建築しかやってないから他の感性が全く磨かれてないんじゃないの?簡単に言うと建築以外のセンスが無いっていう。もちろん勉強熱心だから色々知ってるんだけど。

松葉:なるほどね。ファッションセンスが無いからわかりやすくギャルソンを着ている=おしゃれって発想になって、コレクションで出てきそうなド派手な服着てるわけか。目立てば良いっていう思考かと思ってたけど、素でおしゃれだと思ってるってことだとするとそれはかなり痛いな。

庄司:最近の若い人にはそういう人はあまりいないと思うけどね。

松葉:確かに、みんな結構オシャレだよね。いずれにしても最近はアートコレクターと話している方が全然楽しいね。この前もとあるパーティーで日本でもトップクラスのコレクターの方と話をしていたけど、お互いのコレクションや注目しているアーティストの話ですごい盛り上がる。僕は基本同世代かそれより下のアーティストしか買ってないから、正直それほど高い値段はついてないけど、自分が良いって思っているかどうかが重要で作品の今の価値とかはあまり関係ないんだよね。庄司くんもアートコレクターになった方がいいと思うよ。人生がより豊かで美しいものになるし、見える世界が変わるよ。

庄司:新興宗教かマルチ商法の勧誘みたいでうさんくさいな笑。藤沢に置いてある旧車の維持だけで十分だよ。あと、もしお金に余裕があったらアートトラック(デコトラ)が欲しいな。

松葉:デコトラはいらないでしょ。アート集め始めると家具の仕様がオークからエボニーになるくらいの環境の変化おこるよ。ちなみに庄司くんが嫌いな自称建築家はラーチ合板的な。

庄司:例えがマニアックだからよくわらないが、ラーチ合板は嫌いじゃないぞ。まあ若い世代はどう考えているかわからないけど、もし建築家やデザイナーになりたかったらこれからは日本だけじゃなくて海外に目を向けて外国人と勝負して生計を立てるようなことをしていかなければもう生活出来ない時代が既に来てると思うよ、今はちょっとコロナで色々停滞気味だけど。それに上海来たら日本人も外国人枠だからね。日本は好きだけど建築もデザインも世界トップクラスで全部最高みたいな風潮が本当に気持ち悪い。全然そんなことないからね。現実は残酷で勝負に勝たなければ設計も人生も選択できないことが多いし。その勝負するフィールドは自分で作るものだし、一度の人生に対して勝負するのが男だと思うんだよね。

松葉:男だと思うって、やっぱり庄司くんはオールド・スクールだな。

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OTONA WRITER

松葉邦彦 / KUNIHIKO MATSUBA

株式会社 TYRANT 代表取締役 / 一級建築士 ( 登録番号 第 327569 号 ) 1979年東京都生まれ。東京藝術大学大学院修了後、事務所勤務を経ることなく独立。人生で初めて設計した建物が公共の文化施設(旧廣盛酒造再生計画/群馬県中之条町)という異例な経歴を持つ。また、同プロジェクトで芦原義信賞優秀賞やJCD DESIGN AWARD新人賞などを受賞。