学生さんはインターンシップ演習のレポートを書かなくちゃいけないんで、そのために授業で話した内容を振り返っています。これまでの話はこちら。
■インターンシップ演習2018を終えて1
■【今年のプレゼント発表!】インターンシップ演習2018を終えて2
■【ムサビで学んだあんな人こんな人】インターンシップ演習2018を終えて3【完全保存版】
■【他分野からのデザイン領域進出】インターンシップ演習2018を終えて4
■【美大は誤解されている】インターンシップ演習2018を終えて5
じゃ、どうすれば「美大の本質的な学び」を伝えることができるのか?
ひとつの方法としては、「今社会で求められてることと美術・デザインの学びは一致する」ことをアピールすることじゃないかと。
100年に1回は文明の本質的な技術革新が起きるといわれてるけど、いよいよそれが起きようとしています。技術革命は喜ばしいことだけじゃなくそのぶん失業者も発生するってことで、18-19世紀の産業革命では失業率が10%でしたが、それに近い状態、それ以上の事態が起きるかもしれないと言われてるんですね。
でも産業革命時との一番の違いは、AIによってブルーカラーだけじゃなくホワイトカラーも失業に直面してしまうってこと。経済的価値のない人々が巷にあふれ、都市では治安悪化やスラム化などが発生する。それが次の技術革命の負のシナリオ。
ご覧になった方も多いと思いますが、野村総合研究所(NRI)が英オックスフォード大学マイケルA.オズボーン准教授等との共同研究(2015年)で、国内601種類の職業について人工知能やロボット等で代替される確率を試算したデータを発表しています。
代替可能性が低い・・つまり将来残る可能性がある職業がこちら。
で、赤文字は美術大学と関係しそうな職業で、美大関係者はこれを見て「やったー!クリエイティブの時代がキタコレ!」と喜び、いろんな美大がこのデータを進学雑誌等に使っています(笑)
でもちょっと待てよ、と。
音楽はAIによって代替がかなり進んでいます。
最近手羽が驚いたのはこちら。
■AI技術により超高精度な歌声合成を実現~バーチャルシンガーの歌声は人と区別できない時代へ~
「人間らしさ」を表現する技術がここまで来てる。
音符以外の音は存在しない(存在するけど)から機械化と相性いいし、カラオケ採点もこぶし・しゃくり・ロングトーン・ビブラートが高得点になるってことは「何がいい歌なのか」がある程度分析評価されてる、つまり代替えが真っ先に進む分野とも言えます。
文章だと、2016年にこういうことがありました。
■人工知能創作小説、一部が「星新一賞」1次審査通過:日本経済新聞
AIの書いたショートショートが星新一賞の1次審査を通過する・・というこれ自体が星新一っぽい案件(笑)
2016年段階ではある程度人の手が入ってたそうだけど、今はかなり改良され、プロット作成ぐらいは全然できるようになってます。
そして、「答えがない」からAI化の影響を一番受けないと思われてた美術業界。
■人工知能が描いた「レンブラントの新作」 wired_jp
レンブラントの贋作を作ることが2016年には既にできてるし、最近だと
■人工知能(AI)がつくった作品の価値とは? クリスティーズで初となるオークションが開催|美術手帖
こんな話もありました。
AIによる動画編集技術もこの1,2年でかなり進んでるし、AIによる自動着色も
■結構バズったので、AIによる自動着色の現状とその使い方についてまとめた~~人工知能技術の衝撃~~ - Togetter
ノーヒントでここまで自動着色できちゃう時代になってます。アニメの着色する人が将来不要になるかもしれません。
「過去のデータをもとに新しいものを作成することが創造っていえるのか?」と思うけど、人間のやってることもほとんど同じなんですよね。「過去のものと違うものが生まれる要素って『バグ』の発生によるものかもしれない」とドワンゴ川上さんも以前おっしゃってました。AIを研究することで逆に「創造とは何か?」を考えるってことで、「バグ」って面白い視点。
AIによって代替可能性が低い美術・デザイン業界と言えども、
・経験を必要とする作業
・チェックする仕事
・入力、操作する仕事
・一定の範囲を●●する仕事
が不要になるはずで、結構な割合で上記職種が美大就職先に当てはまるはず。
「美大にいくことでAI時代に勝ち残れる」みたいな安直なアプローチや「美大の時代キタコレ!」と喜んでる場合では全然ないのです。
でも一方で・・・こちらの動画をご覧ください。
「千葉次郎さん」と手羽と似た名前なのは置いといても、何度見ても目頭が熱くなるんです。
「音程」「テクニック」のAI採点をすれば、音符の再現度は低く、高得点には絶対になりません。
でも人を感動させる「何か」がここにはあります。多分それは「家族への愛情」。
次に紹介するのは、最近の手羽プレゼンで毎回といっていいほど紹介させてもらってる動画です。
日立製作所さんが作った「新しい社会システムのあり方を考えるための問題提起」という動画で、簡単に説明するなら「AIと高齢化時代に本当に必要なコトは?」が描かれています。
AI化+高齢化の時代、これからのロボットはただ作業を楽にしたり、データをただ蓄積したり、命令されたことに指示通り動くのではなく、相手の「尊厳」を守りながら一緒に成長していくようになると語られています。
今はVolatility(不安定)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)の頭文字をとって「VUCAの時代」と言われていて、環境変化や未来が予測しづらい時代になっています。それに対応するには現実に適応する力やリーダーシップ力、多様性、課題発見力をもつ人材育成が必要だと言われてます。
また、2020年には女性の半分が50歳以上になると言われていて(実はもうすぐ)、日本は今まで経験したことがない高齢化社会に突入します。これまでは過去のデータや実績を元に考えるフォアキャスティング思考で良かったけど、「不確実・複雑な時代」「経験したことがない時代」には
・『未来』に起点を置いて『今』を考えるバックキャスティング思考
・ビジョンデザイン
が求められ、それには「きざし」を感じられる知性と感性がポイントになってくる。
これらの学びに一番近いものはなにか。
・・あれ、もしかして美大じゃね?
続く。
【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。