【美大は誤解されている】インターンシップ演習2018を終えて5

2018年12月21日(金)

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学生さんはインターンシップ演習のレポートを書かなくちゃいけないんで、そのために授業で話した内容を振り返っています。これまでの話はこちら。
インターンシップ演習2018を終えて1
【今年のプレゼント発表!】インターンシップ演習2018を終えて2
【ムサビで学んだあんな人こんな人】インターンシップ演習2018を終えて3【完全保存版】
【他分野からのデザイン領域進出】インターンシップ演習2018を終えて4


「美大が抱える外的要因の課題・危機感」のその2。

「高校・予備校教員の認識」は、未だに20年前ぐらいの「美大のイメージ」をもとに指導されていたり、東京の私立美大なんかに送っても自分や高校の「ポイント」にならないという問題。


残りの「一般社会での認識不足」は、結論を先に書くと私達美術大学の責任なんですがそれは最後に。


社会連携チームには
「お店の壁が寂しいから、美大生にパパーとテキトーに 絵を描いてほしいんだけど。 若い美大生のセンスでさ。 学生さんの発表の場になるでしょ?」
という依頼が、ほぼ週1ぐらいの頻度であります。冗談抜きで。

で、「学生さんへの謝礼っておいくらぐらいいただけるんですか?」と聞くと、「え。お金いるの?」とほぼ聞き返されます。画材代・交通費を考えてくれてるだけでもありがたい感じで。
「お店の壁」は「シャッター」「工事壁」「窓ガラス」「パンフレット」「表紙イラスト」「ゆるキャラ」「何かのロゴマーク」「あいてる空間におく立体物」等パターンはいろいろありますが、


  • 「シャッター商店街が寂しいからシャッターに絵を描いてほしい」という依頼がすごく増えました・・。

すべての共通点は「無料で何か作ってもいいよ」

「デザイナーや業者に見積り取ったら高かった。あ。美大生なら無料でやるだろ」な発想の方もいるでしょうが、多くは「困ってるであろう美大生の発表の場を作ってあげたい」という善意の気持ちなので、これがなかなか難しい話で・・・。


そう思われてる理由はいくつか考えられます。
(1)絵を描くことが簡単だと思われている
以前、某市役所から無料でマンガ完全原稿30P作成を求められたこともありました。ネームじゃなく完全原稿納品なんです。しかも自分の描きたい漫画ではなく公的サービスに関する漫画で、「学生さんのおまかせで」という依頼。依頼された市役所の方はそのボリュームの漫画を描くのがどれくらい大変なのか全くご理解されてない感じで、「漫画が得意な子にチャーチャーと描いてもらいたいんですけど。なんなら名前出してもらって構わないんで」なすごく軽いノリ。一般大学卒の人にはこれがなかなかわかってくれない。
ちなみに黒板ジャックも1枚に描くのにだいたい9時間ぐらいかかります。
 
(2)「テキトーに」「おまかせ」の怖さを知らない
上記とも関係するけど、「適当に」が適当じゃないのが一番問題で、「おまかせ」と依頼した人に限って必ず「え。そんな大事なポイントを今言う?」な修正を絶妙なタイミングで要求してくる傾向にあります。
うちの奥さんがボランティアの「おまかせ」イラストを頼まれて、赤いパーカーを着た子供を手書きで描いたら「雰囲気的にパーカーは青で」と修正を求められたこともありました。MACで描いてりゃ一瞬の修正だけど、手書きだと全部を描きかえるしかなく「それを今言われても・・・」で。

一言で言ってしまうと「美術やデザインの依頼の仕方を知らない人が多い」かもしれません。
知らないのは当然で、せめて「これこれこういう要素を絶対に入れて。あとは楽し気にしてくれたら」「●●チックに」と言われたらまだやりようはあるんだけど、「●●チック」のイメージもクライアント側が出せないことも多いです。依頼条件をクリアしてるけどイマイチなものを納品してきた場合は、「クライアント(発注者)側の依頼方法に問題があったから」という認識がまだ世の中では弱いんですね。「クライアントの言ってないことも全部くみ取って勝手にオシャレなデザインをするのがデザイナー」と思われてるフシがあり。
「デザインクライアント教育」と「そういうクライアントの方が多いよ」教育は必要なんじゃないかと。

(3)本当の「若い美大生のセンス」はそんなに求められていない。

「若々しいセンスで」「美大生のパワーで」といろいろ言われますが、本当に若々しい美大生のパワーで思う存分描いたら、多分皆さん嫌がるはず(笑)

美大生側にも空気を読む能力が必要だけど、その感性を受け入れる「土壌」が相手側にないと成立しないわけで、本当に求められてるのは「若い美大生のセンス」ではなく「妥当で万人性がありポップなもの」を「若々しいセンス」と言ってるだけだったりするんですね。
さっきから使ってるいらすとやのイラストみたいなやつ。

ちなみに一般大学の人はいいんだけど、美大生がいらすとやを使ってプレゼンシートを作ってるのを見かけると「それって将来の自分の仕事が1回減ってることを意味するんだけど、わかってるかな?」と思ったりも。
 

(4)美大生や先生は意外と忙しい
美大は「1日中『美術の時間』の大学」と思われがちですが、「一般大学の教養科目プラス実技の授業をやってる大学」なので「一般大学」より倍忙しい。それをご存知じゃない方が多く、「美大って英語があるの?」と普通に驚かれます(笑)
また、文科省の指導で出席日数管理が昔より厳しくなってることもあり、20年前とかと比べると今はどの大学の学生も先生も忙しくなってるし、特に美大生は「その無料の仕事をやってる時間があったら」かもしれません。自腹で旅するムサビに参加してる学生さんには本当に頭が上がらない。。

だから謝礼の金額というより「どういうシーンで誰がみてくれるのか?」「だれが評価するのか?」「自分が学べることはあるか?」が大きく、審査員が著名人だったり目立つ場所での展示だったり、ただ絵を描くだけじゃなく学びが大きいのであれば無料でもやりたいもんで、「自分のさいた時間とイーブンになるか?」で判断してるってことですね。


(5)社会との接続性をあまり訴えてこなかった
日本テレビ「世界一受けたい授業」に手羽のお友達でもある東北芸工大環境・建築デザインの志村"猫耳"先生が何度も出演されてます。

また、やっぱり手羽のお友達のタマビ・プロダクトデザイン学科長の和田先生も何度も出てて、
【社会】和田 達也 先生 『機能的・遊び心満載!生活を楽しくしてくれる世界の最新日用品』
【社会】和田 達也 先生『常識を変えた!グッドデザイン最新版』
お二人とも「なぜそんなデザインなのか?」「グッドデザインプロダクトの紹介」等をされてるんですが、このリンクで気が付いたことありません?

そうなんです。お二人とも「社会」の授業なんです。世の中的には「社会に役立つデザインを知る」は「社会」なんですね。
リンクロウが小学2年の時に「目が不自由な人のためにあるものを見つけよう」という授業があって(シャンプーのペットボトルや牛乳パックがそうですね)、まさにやってることは「 ユニバーサルデザイン見つけ」だけど、これも図画工作ではなく「生活」の時間でした。
世界一受けたい授業には「美術・工芸」の時間もありますが(新見先生も一度出演されてる)、それは「美術館での楽しい過ごし方」「クリスマスカードを作ろう!」で、これが世の中的に「美術」の時間。

私たちは疑いようがなく「ソーシャルデザイン」「ユニバーサルデザイン」等を「デザイン」文脈で見てるけど、一般的に「美術大学での学び」と解釈されてないし、「美大は絵の描き方を学ぶ場ではない」「ロゴマークは『企画・設計』のアウトプット」というのが世の中では一切通じません。
今回タクラミ展でソーシャルデザインを主テーマにしてるのは「美大のカテゴリーなんだよ」というメッセージでもあり。

長澤学長のいうところの「美術大学は誤解されている」です。

あ、ちなみに今週水曜日の理事会で長澤学長の再任が決定しました!
次期学長に長澤忠徳学長が再任
学長選が先週開催され、実質、ムサビ改革路線の信任投票でもあったのですが、約25年の現・学長選挙規則の歴史で初めて、過半数越え一発決まりだったんです。教職員助手の多くはムサビの更なる改革を期待しているってことですね。

そして「改革意識があり、英語がしゃべれて、『話芸』が優れていて、社交的で、どんどん外に出て発信して、デザイン知識がある」と企業にしてみたらありがたく、他美大からしたら一番嫌な学長なんじゃないかと思います(笑)
今後ともムサビをどうぞよろしくお願いいたします。
 

えーと、なんの話だっけ。

あ、まとめます。

私たちは「美術=情操教育」と強く言いすぎたのではないか?
私たちは「美術は特別な人によるもの」と言いすぎたのではないか?
私たちは「わかる人だけわかればいい」と言いすぎたのではないか?
私たちは「美術は才能が必要」と言いすぎたのではないか?
私たちは「美術は答えがない」と言いすぎたのではないか?

「才能」や「答えがないもの」は勉強できないから、初等教育での必要性をいくら訴えても「そんなのいらない」と言われるのは当たり前で。
美術関係者がいくら「美術教育は大事!」と叫んでも意味がなく、しかもそのメッセージは美術関係者にしか届いておらず、身内で怒って慰め合ってる状態に見えなくもない。美術関係者以外が「美術やデザインは大事!」と言ってくれる状態にならないとダメなわけで。

これは「一般大学とは違う」ことを売りにしてそのポジションを構築してきた美術大学の責任も大きいし、美大がちゃんと「一般の人」にも伝わるような言葉でメッセージをちゃんと発信してこなかったことが大きいと思っています。
ちなみに前回から意識的に「一般大学」という単語を使ってきましたが、これは完全な美大用語で、一般大学の人は「ボクは一般大学卒」とは言わないんです(笑)
これが「一般大学とは違うことを売りにしてきたけど、美大関係者はそれに気が付いてない」最大の証明でもあります。

じゃ、どうすれば「美大の本質的な学び」を伝えることができるのか?


続く。


以上、今週の理事会は新宿の会議室を使ったけど、

武蔵野美術大学理事会を「多摩」でやる屈辱を味わった手羽がお送りいたしました。
ホスピタリティが低いっ!

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹と西原理恵子とみうらじゅんと羽海野チカと銀魂と合体ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し日夜奮闘中