どこにでもあるような家族の風景

2017年3月15日(水) *忙しい方は今日の記事は読み飛ばしてください。

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末っ子のマナミが「私も美大に行く!」と言い出したのは7年前の夏だった。
家族でお昼のそうめんを食べてる時だったのをよく覚えている。

反対はしなかった。
マナミが中2で「バスケ部をやめて吹奏楽部に入る!」と言い出した時も反対はしなかったし、できるだけ彼女が決めたことは支持してきた。
なによりマナミは小さな頃から絵を描くのが得意だったし、私も妻も長男も美大を卒業している美大一家。娘ぐらいは普通の大学を卒業して普通の仕事についてほしいとも思っていたが、その宣言を聞いた時の少しばかりの諦め感と少しばかりの嬉しさはいなめない。
それからマナミは画塾に通い、現役で空間演出デザイン学科に合格し、大学の劇団に入って舞台美術制作にあけくれる毎日を送った。

だが大学4年の夏、「就職しないで劇団で舞台美術をやる」と突然言い出したのだ。
劇団四季とかであれば別だが、よく知らない下北沢で活動するアングラ劇団の舞台美術だという。テバ家ではそうめんを食べてるときに大きな出来事が発生する。

長男のカオルは美大卒業後、私が経営するデザイン会社に就職した。とても子供二人を雇えるほど大きな会社ではないが、マナミの人当たりの良さ・行動力を生かしたマネジメントをしてくれると事業拡大ができて助かる部分もある。就職が決まらなければ家族経営も少し夢に思っていた。

だが、そんな親心を無視してアングラ劇団で美術をやるというのだ。
初めて猛反対した。他親よりは美大生の進路に理解があると思っている。でも、自分の子供となると話は別だ。「ちゃんと就職しろ」だの「そんなんじゃ食べていけない」だの、よく聞くアレだ。でもマナミの決心は変わらず、彼女と会話をしなくなったのはその頃だろうか。

そして卒業式が終わった朝、「私、4月から一人暮らしする」と言い出した。マナミはいつも「●●したい」ではなく「●●する」だから困る。
妻には前々から相談してたようだが、あまりにも突然すぎた。
「いい加減にしろ!もうお前がどうなってもしらん!」と大声で言い放ち仕事に向かった。そしてある日、仕事から帰るとマナミの部屋から洋服とぬいぐみだけがなくなっていた。

それからマナミとは一切連絡を取らなかった。
カオルから時々「居酒屋でバイトしながら舞台作ってる」「必要になって自動車の免許取った」「彼氏にフラられた」と聞かされる程度。妻からは「もう許してあげなさいよ。あの子の人生なんだから」と何度も言われた。もちろんそんなことはわかっている・・。

実は去年の夏、こっそり下北沢へマナミの劇団を見に行ったりもした。
本番中に裏方が外に出ることはないのを知ってるから、途中で入って途中で抜ける作戦を思いついたのだ。小さな劇場は満員だった。それなりに人気のある劇団のようで、舞台美術もアングラ劇団とは思えないくらいお金をかけて作られている。三谷幸喜好きの自分の趣味とは違うから「好きか?」と聞かれたら「嫌いとは言わないけど、このアングラ感が生理的に嫌い」と答えるタイプの劇団だった。

アンケートと一緒にもらったチラシを見ると「美術スタッフ」の一番上にマナミの名前があった。彼女は美術班リーダーをやっているのか。でもこんなメジャーになれるはずがない劇団でこのまま暮らしていけるのだろうか。ダメだと気が付いたらやめるだろうけど、それがいつになるのか。
頑張っていることがわかった安心感と不安感が同居してしまい、その日は寝れなかった。


3月のある日、ミッドタウン5階にある日本デザイン振興会(JDP)へカオルと一緒に打ち合わせへ向かった。JDPは2019年に10周年だそうで、それに関係した大きな仕事。カオルは慣れないネクタイをしプレゼンを進めてくれ、私はアドバイスに徹した。彼はこの春独立を考えており、これなら大丈夫だな、と親として嬉しい気持ちで横で聞いていた。
打ち合わせは1時間ほどで終わり、帰ろうとしたらすぐそばに「武蔵野美術大学 デザイン・ラウンジ」という部屋があるじゃないか。ムサビは私、妻、カオル、マナミの母校。「こんなおしゃれなところにムサビはサテライトを出してるんだ。ムサビらしくないなあ」と中に入ってみた。
ちょうどイベントが終わった直後らしく、機材の撤収を始めてるところだった。

するとそこにマナミの姿があった。
一瞬混乱したが、カオルのニヤニヤした顔ですべてを把握する。

はめられた・・・。

この日にJDPの打ち合わせを入れたのはカオルだが、最初からやけに日付と時間を気にしていたのだ。
後から聞いた話だと、マナミはイベント設営のアルバイトをやっていて、ちょうどデザイン・ラウンジに来てる日だったのだ。

「お父さん・・・」
「マナミ・・・・ち、ちゃんと食べれてるのか?」
突然すぎて他に言葉は思いつかなかった。でも親からすぐに出てくる言葉はこれくらいしかない。
「うん。食べるのは大変だけど、いろいろアルバイトしながら舞台も頑張ってる」
「そうか・・」
「お父さん、昔からよく言ってたもん。『美大卒で食えなくて死んだ奴はいない。なんとかなるんだ』って」
「・・ああ。そんなこと言ってたっけかな・・」
「初めての『食えなくて死んだ奴』の例になっちゃまずいしね(笑)意地でも頑張ってやる」
「・・そうだな・・」

もっといろんな言葉をかけたかったが、それ以上言葉が出てこない。沈黙の時間が生まれる。
いいタイミングで調子の良さそうなデザイン・ラウンジのスタッフから
「マナミちゃんのお父さんなんですね。今回のインタビューボード、彼女が作ったんですよ。せっかく家族そろったんだから一緒に写真撮りません?」
と声をかけられ、「なんでこの前で」と嫌がったが、無理やり前に座らされる。

「そういえばお父さん・・去年舞台を見に来たでしょ?」
「え。誰から聞いた?!カオルにも言ってないのに」
「受付の子が『マナミちゃんそっくりの顔でクネクネしてる人が来たよ』と教えてくれたの」
「その情報で特定されるって・・」
「舞台、どうだった?」
「うーん、嫌いじゃないけど生理的に受け付けなかったよ。もっと三谷幸喜みたいな芝居をやればいいのに」
「ふふ。年寄りはみんなそういうのよね」

マナミが肩にそっと手をそえながら、「お父さん、2年で白髪増えたんじゃない?」と語りかける。
「お前が白髪増やしたんだろ」
「だったら、もっと痩せるでしょ」
「余計なオ・セ・ワ!」
久しぶりに家族で笑った。


パシャ。

ラウンジ、それは人生という旅の起点でもあり、みんなが集う場所。
どこにでもあるような家族の風景がそこに生まれる。



「・・って、関係ないスタッフさんも一緒に写るの?・・『一緒に』ってそういう意味?」と思ったが誰も指摘できなかった。



てな感じのストーリーを妄想。
あ、昨日の記事からつながってます(笑)
誰かこれを原作にしてドラマ脚本にしてくれないかしら。放送はMXテレビでいいので。

*この物語はフィックションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹と西原理恵子とみうらじゅんと羽海野チカと銀魂と合体ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し日夜奮闘中