【東大主催】価値創造デザインフォーラム2016に行ってきた

2016年12月21日(水)

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12月20日(火)、午後から青山へ行ってきました。青山も原宿もすっかりクリスマスモードですね。


Gallery 5610で12月24日までやってる中島信也さんプロヂュースの「パッケージ幸福論のクリスマス」展

をまず見て、目的地のスパイラルホールへ。(Gallery5610はスパイラルの真裏なのです)
しかし、東京造形大50周年もそうだけど、前よりスパイラルホールを使ったイベントへ行く機会が増えたような。


で、何しに来たかというと、

東大主催の価値創造デザインフォーラム2016 Design-LedXを聴講するためです。

 

最初に東京大学生産技術研究所の藤井所長からご挨拶。

「人とモノ、ヒトと社会の関わり全体をデザインと捉え、デザインを通して新しい価値を生み出したい。そのために価値創造デザインプロジェクトを立ち上げ、それを担う人材育成をしていく」
「Led Xの『X』とはデザインが先導する何かという意味。それはイノベーションだったり、エデュケーションだったり、フューチャー」
というお話。
 

お話で面白かったのが、「イノベーションが起きるとある部分では効率化されるが、ある部分では労力が増える」という話。
例えば洗濯機が生まれたことで主婦は洗濯の時間から解放されたけど、回数が増えたり、「干す」作業は減らないから作業労力はむしろ増えた、、とか。

手羽家もルンバが家にやってきてから掃除する時間がかなり短縮化されたけど、ルンバを動かすためにはプチ片付けをしなくちゃいけないんです。「そんなの普段から片付けてればいいじゃん」と思うでしょうが、中3と小4がいる共働き夫婦なら「そんなの無理!!」と共感してくれるはず(笑)
でそのプチ片付けやりながら「このまま掃除した方が早くね?・・」となんとなく矛盾を感じたりね。
しかも、あいつってよくコードに絡まって「動けないよー助けてくれー」って叫ぶんですよ。そっちは危ないって言ってるのに。だからルンバを回して家を出るわけにもいかず、ずっと待機してなくちゃいけない。「これってほんとのイノベーションか?」と思ったり。いや、それでもずいぶん楽になりましたけどね。
イノベーションですべてが解決するわけではなく、難しい言葉を使うと「技術の社会的形成が重要」ってことです。

その次はトークセッション1 「デザインの新しい役割」
コーディネーターを野城智也(東京大学生産技術研究所 教授)さんがされ、佐倉統(東京大学大学院情報学環 学環長)さん、宮井弘之(株式会社SEEDATA代表[博報堂DYグループ])さん、山中俊治(東京大学大学院情報学環/生産技術研究所 教授)さんが登壇されました。

この中のキーワードとしては、
・技術の使い方は社会が決める。もともと電話は一方向伝達を前提に開発されたが双方向の使い方になったし、ラジオはその逆。最近だとポケベルなんかが典型例。
・「洞察者」を意識する
・「スモールマス」が注目されている。小さなものがいくつか集まって、いつかマスになるかもしれない。
・「デザイン」がバズワードになってることに注意が必要。いろんなものをデザインと言いすぎてる。
かな。
 

第2部「次世代のデザインエンジニア像」では再度、藤井所長が登壇されて東京大学価値創造デザインプロジェクトについて、構想の詳細発表。
一言で説明するならば、「東京大学生産技術研究所がロイヤル・カレッジ・オブ・アート(
RCA)と連携して、デザイン拠点を作りますよ」
という話。
美大関係者にわかりやすく書くなら、「ムサビのデ情をもっとサイエンス寄りにしたもの、タマビの情デをもっとソーシャル寄りにしたものを100倍ぐらいにしてみた」かしら。
あ、情デと言えば知り合いの情デの学生さんも来てました。
どういうアンテナ張ってれば、学生さんがこのイベントの存在にたどり着けるんだ。。凄いなあ。。

「人とモノ、ヒトと社会の関わり全体をデザインと捉え、デザインを通して新しい価値を作る」
正直、美大関係者からすると「え。今それを大発見的に発信します?それって美大が昔から言ってることなんだけど・・・」な内容ではあります。でも「これを東大生産技術研究所が言い出した」がポイントで。
東大も以前からi.schoolをやってますし、大学としては既に取り組まれてた分野ではあるんですが、生産技術研究所は我が国最大の大学付置研究所ですからね。影響力は計り知れません。内閣府が支援してるそうだし。
 

続いてMiles Pennington(Royal College of Art IDE 教授)さんによる「About RCA-IIS Design Lab」。
「IDE」とはイノベーションデザインエンジニアリング(Innovation Design Engineering)の略です。
なんとその場でTakram 代表の田川 欣哉さんが通訳するという豪華な構成(笑)
でも田川さんは山中先生のデザイン事務所に5年ほど住み込みで働いてた経験があり、なおかつRCAのOBなので、このプロジェクトに最もふさわしい人と言えます。
構想を1年以上前から一緒に考えていたそうです。





やはり東大にはかなわないというか、美大がもし「デザインの価値創造」をテーマに同じ内容のフォーラムをスパイラルホールでやったとして・・・身内を100人集めるのがやっとじゃないかな。

会場は常に満席で400人ぐらいいたんじゃないかと。
美大1大学でここまで外部の人を集めるのは困難。。
でもポジティブに考えるならば、「東大がデザインの価値をたくさんの人に発信してくれた」とも言えます。
 
 

トークセッション2 「領域を超えた人を作る」では、 コーディネーターを今井公太郎(東京大学生産技術研究所 教授)さんが勤められ、藤井所長、マイルズ ・ペニントンさんがそのまま登壇。

・4,5名で構成される「マイクロラボ」を複数作り(20個持てれば理想)、駒場が拠点だがサテライトスペースを町の中に作っていきたい。
・2017年2月にパイロットマイクロラボを立ち上げる
・RCA側は既に人材選定が終了しており、2月に来日
・どんな素材があるのか、どんなことができるかを探す中心人物を「トレジャーハンター」と呼んでおり、去年RCAを卒業したシャーロットフィローさんがそれをやる。1月に来日。
・パートナーやコラボレータを常に募集してるので、デザインラボとのコラボに興味を持ってる人は気軽に声をかけて。

と、こんなところ。
 

第3部「デザインが開く未来」の基調講演は山中先生による「トレジャー・ハンティング - 先端技術の贈り物」。

ちなみに山中先生は長澤学長と昔からの知り合いで(井口先生とも)、今回山中先生からご招待をいただき、出席させていただきました。どうもありがとうございました。

このメインビジュアルに使われてるスケッチは山中先生が描かれたものです。

手羽が気になったキーワードはこれかな。
・「Desgin」とは「ひととモノとの間で起こるほぼすべてのことを計画し幸福な体験を実現すること」と定義づけた。アートもサイエンスも幸福なものを作るが、全部が全部幸福なものを求めるものではない。デザインはサイエンスやアートより浅く陳腐な場合もあるが、必ず何かしらのベネフィットを求めるもの。
・手法は陳腐化する。でも態度は陳腐化しない。
 



最後はトークセッション3「技術を先導するデザイン」として、コーディネーターを山中先生がされ、スプツニ子!(マサチューセッツ工科大学メディアラボ 助教)さん、田川欣哉さん、新野俊樹 (東京大学生産技術研究所 教授)さんが登壇。
スプツニ子!さんもRCA卒なわけで「うまい人選だなあ」とそういう運営側の視点でつい見ちゃうクセが。

新野先生は付加製造科学研究室の教授で、「付加製造」とは一言で言ってしまえば「3Dプリンタの研究」。山中先生は新野さんとコラボすることで1億円ぐらいの3Dプリンタを使い放題だとか(笑)


今回のフォーラム全体的な感想ですが、スプツニ子!さんと田川さんは「広義なデザイン」の話をされてるのがすごくわかるんだけど、他の方はやっぱり「デザイン=意匠」が中心になってる感が少し。
でもすごく質が高いエキサイティングなフォーラムでした。

今後こういうものを作っていくのがデザインラボなのかもしれませんね。



あ、ちなみにスパイラルでは、

the art fair +plus-ultra 2016をやってて、こちらもかなりオススメです。
東大の先生達はこれを見たかなああ・・。

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。