AIUEOデザイナー荒川香織が見出した「デジタルとアナログのちょうどいいところ」とは?

デザインにおける「デジタルのフラットさ」と「アナログのあたたかみ」とのちょうどいい関係とは──。AdobeBook2016 「CREATOR'S HINTS 26悩める美大生におくるクリエイター26人のつくるヒント」から、手ざわり感のある創作雑貨が人気を呼んでいるデザインチームAIUEOの荒川香織さんのインタビューを再編集してお送りします。

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AIUEOは、京都の出版社「いろは出版」が11年前に立ち上げた雑貨チーム。芸大などで、ものづくりを学んできた仲間で集まっておもしろいこと、作りたいものをかたちにしたい、という思いからスタートしました。グリーティングカードなどの紙モノから始まり、今ではファブリックアイテムやiPhoneケースなど、AIUEOメンバーが“こんな雑貨が欲しい”と思ったものを形にしています。「ハッピーはあなたから」というコンセプトそのままに、手に取る人をハッピーにするAIUEOの雑貨創作。

その秘密を知るために、AIUEOデザイナーの荒川香織さんを京都に訪ねました。

みんなで“一緒に”つくること

—— AIUEOの雑貨はどのようにデザインをされているのでしょうか?

 AIUEOは、メンバーの「やりたい」や「なりたい」を雑貨というかたちにしてお客様へお届けしようという想いから始まりました。AIUEOは「ハッピーをあなたから」というコンセプトを掲げている。じゃあまずAIUEOメンバーがハッピーになれるものをお客様へ提供しようと。

もちろん、まとまったひとつの方向性に統一することは難しいですが、話し合いを重ねて生まれた商品は、その違いもひっくるめてメンバー全員が「AIUEOの商品」だと自信をもって言えるものになっていますね。

—— メンバーの皆さんでの共同作業にあたって気をつけていることはありますか?

 デザイナーひとりひとりがそれぞれ強いこだわりや個性を持っているので、どうしてもやりたいこと、表現したいことに違いがあるんですね。でも、その「違い」を無視せず、納得のいくまでミーティングを重ねるのがAIUEO 流といえるかもしれません。

気持ちに嘘をつかないことが大事。本当はやりたくないし嫌だけど、必要なことだから……と自分の感情を無視していては絶対にいいものはできません。全員の「やりたい」「なりたい」から始まったチームなので、細かいところまで全員の意見を聞きながら吟味して判断しています。

大学時代の授業が意外にも役に立っている

—— その中で荒川さんのお仕事はどういった役割になるのでしょうか?

私の仕事はデザイナーとしてAIUEO の商品をつくることと、AIUEO 全体をどうしていくか考えること。雑貨の企画から販売にまつわるほとんどの制作業務を一貫して社内でおこなっているので、直営店の運営もみんなで話し合いながら舵取りしています。

自分たちでパッケージやチラシ、さらにはAIUEOの公式サイトまでトータルでデザインしなければいけない。私自身、大学在学中にAIUEOで働くようになってそのまま入社したので、制作会社や広告代理店での勤務経験はありませんでした。

どうやってデザインしよう、と考えた時に、大学時代に受けた名刺作成やタイポグラフィー、ポスター制作などの授業が意外と役に立っているんですよ。意外なんて言うと失礼かもしれませんが(笑)、本当にそうなんです。

ちなみに2016年の新作のファブリックは、初めてアイテムのカラーを統一して制作しました。

「朝」をテーマに、メインカラー6色とサブカラー6色の計12色を指定して、それにもとづいて商品を作ったんです。傘やトートバック、ノートなど、それぞれに春らしいテキスタイルがプリントされています。

それぞれの個性を色で表しながらブランドとしての統一感も出そうという、これまでにない初めてのチャレンジでした。みんなそれぞれに主張するので、まとめるのにとても苦労しましたね(笑)。

手書き表現をデジタル化することの効能

—— AIUEO が扱う雑貨は手ざわり感があるものが多いと思います。

そうですね。やっぱり、手作業的な部分をいかに残すか、というのは気をつけています。線もペンで書いたものにしたり、その線を潰してしまわないようなデータにしたり…。そういう部分にはなるべくこだわって、気をつけるようにしていますね。

ただ、必ずしもアナログな表現にこだわっているわけではありません。アナログだと、塗り込みや書き込みの密度がストレートに伝わるので、想いがこもり過ぎてしまうことがあるんです。そうすると、見る人に「重い」と感じさせてしまうことも。

手描き表現をあえて一度データ化して、デジタルツール上で手直しすることで、表現がフラットになり、見る人にすっと入りやすくなるんです。

世界観を想像してもらえるように余白をもたせる

わたしたちの手を離れたあとで、見る人の感情や解釈を自由に乗せられる、余白のあるものを作りたいと思っています。

例えば、商品に描かれているイラストには裏のストーリーを用意することがあります。でもそれは直接伝えない。イラストだけで想像してもらえるように広がりを持たせます。

商品撮影も同じで、商品だけにフォーカスするのではなくて、少し商品を浮き上がらせたり背景を意識したり、写真からその商品の使用シーンや世界観を想像してもらえるように、何パターンも撮影して選んでいます。おそらくどこの雑貨ブランドよりも時間をかけているのではないでしょうか。

デジタルとアナログの間のちょうどいいところに表現をおくと、使い手を心地よく日常から非日常へいざなってくれます。このちょうどいいところを探すために、今でも日々試行錯誤を続けています。

学生のうちは、なんでもやっておくべき

—— デザインの段階では具体的にどのようにデジタルツールを活用しているんですか?

私はまず手描きでイラストを起こして、その段階で何度もリライトを重ねます。「これだ!」と思うものが描けたら、スキャンしてデータ化して、4色印刷なのか特色なのかなどの印刷条件によってデータを個別に制作します。

以前はPhotoshop(★1)で作ったPSDデータをIllustrator(★2)にレイアウトして、入稿する作業を行ってきました。ある時「ライブトレース/ライブペインティング」機能を使えば線画のイラストをパスデータ化できることを知ってからは、カラー変換やデータ管理が格段に楽になりましたね。線画を描ける、というのは、私にとってとてもありがたい機能なんです。

—— デジタルとアナログを上手に行き来されているんですね。

メンバーのみんなは、いろいろなツールを試しながら最終的に「手描きをどう生かすか」に行き着いた人が多いようです。

学生のうちは、食わず嫌いせずになんでもやってみることが実はやりたいことを実現するためのいちばんの近道なのかもしれませんね。やりたいことが見つかった時に、すぐに「じゃあそれを実現するためにはこのツールが必要だな」と手法で悩まずに済むと、「やりたい」に全力投球できるはずですから。

でも、卒展などで今の学生の制作作業やポートフォリオを見ると、私が学生だった頃と比べたら格段にデジタルツールを使いこなしてるなあ、と常々感じますね。そのまま、どんどん新しいものに挑戦していってほしいです。私もいつもトライアンドエラーを日々繰り返しながら、自分の「やりたい」をかたちにする作業を続けていきたいと思っています。


Text by 飯田ネオ


★1  Photoshop
あらゆるクリエイティブワークの中核となる、世界最高峰の画像編集アプリケーション。写真、Webサイトやモバイルアプリなどのデザイン、3Dアートワーク、ビデオなどの制作と編集をデスクトップとモバイルデバイスで行える。
>> 公式サイト


★2  Illustrator
印刷、Web、インタラクティブ、ビデオ、およびモバイル向けにロゴからアイコン、スケッチ、タイポグラフィ、複雑なイラストレーションまで作成できる、業界標準のベクターグラフィックアプリケーション。
>> 公式サイト


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PROFILE
2006年に京都造形芸術大学 情報デザイン学科卒業。在学中より、いろは出版の雑貨デザインチーム AIUEO のメンバーとして活動。現在は、AIUEO のリーダーとして、「ハッピーをあなたから」をテーマに、雑貨制作や、AIUEO 直営店を運営。

今回ご紹介した荒川さんのインタビューのほかにも、気鋭のアーティストやデザイナーをはじめ、面白法人カヤック、ライゾマティクスなど話題のクリエイティブチームやイラストレーター、CMプランナーまで、さまざまなクリエイターたちが登場。

つくるヒントを、縦横無尽に語り尽くしています。 全国の美術大学の教務課、研究室にて配布しておりますので、 見かけた際には、ぜひ手にとってみてください!

AdobeBook2016 CREATOR'S HINTS 26 悩める美大生におくるクリエイター26人のつくるヒント (敬称略) 太刀川瑛弼/飛田正浩/高木こずえ/長谷川哲士/吉田憲司/たかくらかずき/梅沢和木/清水貴栄/金巻芳俊/下浜臨太郎/ 白本由佳/山本大貴/AKI INOMATA/畠山祐二/木住野彰悟/荒川香織/シミズダニヤスノブ/サイトウユウスケ/木村浩康/シシヤマザキ/白鳥友里恵/ 佐藤ねじ/佐古奈々花/手島桃/水尻自子/ カメントツ

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発行:株式会社モーフィング
企画・編集:小松健太郎 / 小林美菜(株式会社モーフィング)飯田ネオ
編集協力: 山田毅
アートディレクション:加藤賢策(LABORATORIES
デザイン:中野由貴 / 伊藤博紀 / 北岡誠吾(LABORATORIES
撮影:下屋敷和文

イラスト:小林美菜 / 神保賢志
印刷・製本:株式会社アトミ
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OTONA WRITER

飯田ネオ / Neo Iida

フリーランスの編集者&ライター。ハイパーローカルな東京カルチャーガイド『TOweb』編集長。浅草生まれ錦糸町育ち。