つくることと、その続き 〜Vol.001 中村 麻由美さん【第2話】〜

「本は手でつくれること」を知った麻由美さんは、作品制作や主宰するワークショップの場で、手を動かしながらたくさんの考察を深めていました。そしてその考察は、別のお仕事の場でもとても活きています。「紙まわりの何でも屋さん」は、今日もどこかで誰かの「つくりたいこと」に向き合っています。

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中村麻由美さん(造本デザイナー)
1984年新潟県生まれ エディトリアルデザイナーとしてデザイン会社勤務を経て、2011年よりフリーランス、「本と紙を嗜好品として愛でる毎日を送りたい」という自身の願望から、手製本をすることにこだわり、デザイン、紙選び、造形、製本に至るまでのすべてをオートクチュールで請け負う造本デザイナーを始める。
ブックレーベル「Feel so books!」としても活動中。
WEB http://mayuminakamurapw.tumblr.com/
instgram @mayumi_nkmr
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1人ひとりの思いに向き合う

-前回お話をいただいたようなワークショップでつくる本は、今後流通に乗せることを考えてたりしますか?

麻:
 流通には今は乗せないつもりでやっています。量産するにあたって、1人で全部の工程を作業することが、まず物理的に不可能なことが多い。あと一番大きいのは、会社員時代に分業によって紙に触れなくなって、「量産が嫌だな」と思っちゃったんですよね。出版となると、流通のためのISBNっていう規格が必要なんです。規格外のものをつくってしまうと、流通の段階で折れ曲がったり、積めなくて荷物として扱ってもらえない。効率性を求めるためには、一手間かかるというか。変な紙にしたり変な表紙にすると、NGが入ったりします。なので、流通することでよくない面の方を知ってしまった状態ですね。

-セミオーダーとか、一定のニーズはすごくあるのではないですか?

麻:
 そうですね。製本だけではなく、デザインもできますし、協力してくれる人を紹介したり、企画も頂いたら、内容に沿ってコーディネートしています。紙まわりの何でも屋みたいですね。
 仕事の相手は個人のお客さんが多いです。依頼は「メールだけ」とか「電話だけ」では絶対に受けないようにしていて、確実に会って相談をしてから始めています。依頼が製本であれば1回サンプルをつくっていきますね。あとは過去につくったものを何個か見てもらう、っていうのはやります」


  • 近作のカフェメニュー 開いていても自立する本をというオーダーのもと、紙の選定や加工を担当。 日替わりメニューも差し込めるようにと、細やかな工夫が随所に見受けられました。

  • 近作のカフェメニュー 開いていても自立する本をというオーダーのもと、紙の選定や加工を担当。 日替わりメニューも差し込めるようにと、細やかな工夫が随所に見受けられました。



「もの」の感覚をどうやって共有するか


-本の束感・物質感って、実際触ってみないとイメージが湧かないですよね。
読むためのメディアが変わってきたことで、この物質感(ものの重み、厚み、質感)が手からすごく離れた印象がありますが、どう感じていますか?

麻:
まさに思っていて。instagramをやっていてもそうなんですけど、みんな写真って見せることが重要になってきているのはありますよね。ただ、物理的な重みは伴わない。
写真を撮る技術はすごく向上している気がするんです。アプリもそうなんですけど。そういう意味では、視覚的な共有はしやすくなっていると思います。

-視覚的な共有はしやすいが、物理的な共有がしにくい?

麻:
 想像しにくいみたいです。サンプルでも、実物を見せることで初めて共有ができますね。なので、本はプロダクトと思っています。ただ、誌面はまた別と思われているのは「嫌だな」って思うところなんです。誌面のつくりこみも含めてブックデザインです。装丁って言うと、表紙のグラフィックデザインだと思われがちなのでちょっとそれが悲しいですね。あとは私は「物」を納品するので、納品するものと想像にギャップがあると自分の信用問題に関わるんですよね。

-紙と向き合っていて、一番初めに製本で感動した時から今まで飽きたことはありませんか?


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麻:
会社勤務当時は仕事で土日もないような日もあって。製本でリフレッシュはできなかったですね。なのでその間は、やりたい憧れを保った一心で製本自体はあんまりやってないです。何回かは製本をやっていたけど、正面から紙とは向き合ってなかったかな。でも頭の片隅にはありましたし、紙と一緒には生活してました。家が狭かったので大きな紙のロールに囲まれて寝てたりとか(笑)。材料には囲まれていた、っていう悪あがきです。
 あと、飽きるについてなんですけど、実は毎日飽きていて。だからSNSでみなさんにどうやって私がやっている今の実験を伝えようかとか考えています。


今回はインタビューだから続々と話ができるんですが、毎日これだけ考えているわけじゃないです。もっと日々の細かな悩みはたくさんあります(笑)そう考えると紙とか製本の悩みはそんなにないんですよね。

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OTONA WRITER

高橋奈保子 / Takahashi Naoko

ムサビ→NPO勤務。デザインすることは紙の上でも画面の中でもまちの中でも同じ。 まちや、プロジェクトや、そこでつながる人達と、コツコツとワークショップやプロジェクトをつくったり、振り返って記録をしてます。音楽は生きる糧。