プロジェクションマッピングは果たして本当に「オワコン」か?

学生たちに、大きな大きなプロジェクションマッピングの舞台が解放された、3月の夜。ライターの塩谷舞(しおたん)が、その夜の様子を、お届けします。

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「安全を考慮し、本日最後の公演は中止とさせていただきます」という報せに、どれだけの人が、心の底からがっかりしたのでしょう。それは2012年の秋。東京駅での出来事でした。

そのイベントは「幻のプロジェクションマッピング」として伝説を残し、YouTube上の動画は今もただひたすらに再生回数を伸ばし続けています。



“プロジェクションマッピング”という手法自体はもっと昔からあったけれども、多くの日本国民がその魔力を目の当たりにしたのは、きっとこの夜。そこに存在するすべての輪郭、窓、時計、そして様々な歴史を含んだ”東京駅の駅舎”というその存在そのものが、プロジェクションマッピングという魔法で最高にファンタジックな姿に変貌した、エポックメイキングな出来事だったのです。


それが、2012年のこと。


それからのプロジェクションマッピング大流行は、みなさんもご存知の通り。シンデレラ城も、大阪城も、夜の水族館も、ありとあらゆるモノが色とりどりのプロジェクションマッピングで鮮やかに包まれては、多くの人に驚きと笑顔を与えていったのです。

同時に、プロジェクションマッピングは桜や紅葉のシーズンを外した、閑散期の大規模な集客装置としても重宝されます。つまり、集客用プロジェクションマッピングの裾野はどんどん広がり、それに比例してやや劣った……いや。ストレートに申し上げると、本っっ当に退屈な作品が公共の場で上映されては、多くの人をげんなりさせてきてしまったのです。するとやっぱり、こんな声が。


「プロジェクションマッピング? 流行ってたけど、もうオワコンでしょ」


まるで一発屋芸人のごとく、それは過去のシロモノになってしまうのでしょうか?プロジェクションマッピング業界の未来はいかに。終わるの?廃れるの??? そんなことを思いながら、2016年3月26日、私は東京ビッグサイトに向かったのです。

東京国際プロジェクションマッピングアワード公式写真より抜粋



■私の知る限り過去最大サイズの、学生向けコンペティション

学生向けの公募展は数多あれど、縦28メートル、横96メートルのキャンバスを与えられるコンペティションだなんて……ありますか? 私は知りません。

そんな超どでかい舞台で繰り広げられるのが、この東京国際プロジェクションマッピングアワード。キャンバスとなるのは、東京ビッグサイトの建物。あの大きな逆三角形2つに、予選を勝ち抜いた9チームの学生の作品がドカンドカン!と映し出されるのです。


プロジェクションマッピングは確かに流行っているし、作り手も増えている。でも、その制作費や投影費は高額で、まとまった予算がなければ挑戦することすら難しいもの。つまり、美大生や若手クリエイターがその市場に参入出来る機会なんて、滅多とありませんでした。


そんな状況に「若手が盛り上がらない業界はつまらないでしょう!」と、映像制作会社ピクスとイマジカデジタルスケープが立ち上がり、スポンサーを募り、開催されたのが今回のコンペティション、ということなのです。



主催側の本気度は、この審査員の顔ぶれを見てもビシビシと伝わるでしょう。

東京国際プロジェクションマッピングアワード公式写真より抜粋



写真右から『ALWAYS 三丁目の夕日』などの大ヒット作を生んだ阿部秀司さん、東京都現代美術館の学芸員である森山朋絵さん、現代アーティストそしてMITメディアラボ助教でもあるスプツニ子!さん、そして冒頭で触れた東京駅の「幻のプロジェクションマッピング」の仕掛け人、NHKの森内大輔さん、そして映像作家の橋本大佑さんの5名。プロがずらりとそろい踏み、取材するこちらまで緊張してきます。



■でかいものは、理由抜きにかっこいい

そうこうしている間に日が沈み、どでかい逆三角形にメインビジュアルが映し出されました。ワアッ!と声が上がります。だって、とにかくでかい。でかいものは、理由抜きにかっこいい!

東京国際プロジェクションマッピングアワード公式写真より抜粋



いよいよ、学生チームの作品が上映される時間です。多くの通行人が、その大きな音と光を目にして脚を止め、オーディエンスはどんどん増える。みんなが斜め上を見上げている。なんだこれ、超楽しいぞ!

東京国際プロジェクションマッピングアワード公式写真より抜粋



楽しい。

すごく楽しいんだけれども……




実際、なかなか難しい。このでかすぎるキャンバスを使いこなせるチームがなかなか、どうして、出てこない。

条件も厳しいのだと思います。だって制作や練習時はそれぞれのパソコン画面なのに、1回限りの本番でいきなりそれが何百倍の大きさになるのだから。学生クリエイターにとって、プロジェクションマッピングのコンペというもの自体が、あまりにも難易度が高すぎるのか……と思いはじめていた頃に……








ものすごく冴えたプロジェクションマッピングが上映されました。

建物の形を最も上手に使いこなしていた、首都大学東京のチーム「SHIFT」。思わずツイートしたけれども、すぐに沢山RTされて、4000回再生くらいにまで広まっていきます。こういうとき、インターネットは作品の良し悪しにとても正直。

その全編はこちらからどうぞ!



上映後に話を聞くと、チームメンバーの方々はインテリアデザインの専攻。他チームは当然ながらCG専攻が多く、映像表現の細部に注力していたけれども、彼らは建物を三次元で捉えることに注力していました。もし彼らのチームに凄腕のCGクリエイターが加わったら、プロとしても相当、手強い集団になりそうで……!


一方で、完全に平面的ではありつつも、表現やストーリーが面白いチームも。こちらは日本工学院八王子専門学校の、「伝統文化継承映像部」の作品。スプツニ子!さん曰く「キュートな魅力があって、狂ってるね!」とのこと。確かになかなか、クレイジー。




オーディエンスから笑い声が起こったのは、多摩美術大学の「テクノ家」による作品。工事現場の日常かと思いきや突然のSFアニメとなる一作なのです。そのアニメーションクオリティが高いのですが、一切BGMをしないという点もチャレンジング。




「ストーリーに注目するより、グンとお腹でかっこいいと感じてくれれば、一番嬉しいです!」というプレゼンからはじまったのは、クラブカルチャーが大好きだというデジタルハリウッド大学の「VISIONICA」。




東京ビッグサイトで開催されていた「アニメジャパン」から出てきたお客さんたちも、外がクラブ仕様になっててびっくりです。

東京国際プロジェクションマッピングアワード公式写真より抜粋



……などなどなど、小1時間ほどをかけて、全9チームの上映が無事終了。3月末とはいえかなり寒かったので、私は手足が冷えて冷えてツイートもままならない。みんなガチガチです。

東京国際プロジェクションマッピングアワード公式写真より抜粋



審査員の森内さんが移動中に「焚き火とか、焼肉を上映する作品があれば、高得点だったよね……」ともらしていたけれども、確かに仰るとおり。その時、その場所で、その気温の中でしか味わえないのがプロジェクションマッピングだもの。



■満場一致の最優秀賞、議論を呼んだ準優勝

いよいよ審査発表。グランプリに選ばれたのは……首都大学東京のチーム「SHIFT」!

チーム名が読み上げられた瞬間に、女の子の「やっ……たぁ!!!!」という声が会場全体に響いたのです。(作品動画はコチラ

東京国際プロジェクションマッピングアワード公式写真より抜粋




審査員の阿部秀司さんはこうコメントしました。


「ぼくは平面に写す映画を専門にやっていて、プロジェクションマッピングはやったことがありません。立体に映すということそのものに興味があったけど、これまであまり見る機会はなかった。そんなぼくが、あぁ、プロジェクションマッピングってこうやるんだ! と感心してしまいました。素晴らしかったです。最優秀賞、おめでとうございます!」

東京国際プロジェクションマッピングアワード公式写真より抜粋



審査員陣も満場一致で高評価したこのチームですが、みんな、プロジェクションマッピングははじめてです。男性ふたり(富永弘太郎くん・村山雄太くん)がインテリアデザインを専攻する大学院生1年で、女性ふたり(鈴木理紗さん・清水愛恵さん)は学部3年生。リーダーの富永くんはこう話してくれました。

「制作中はずっとパソコンの画面で見ていたから、この大きな場所で上手く上映出来るのか。上手くいってくれ!ずれないでくれ! って、つい祈っちゃいました。でもちゃんと最後まで、やりきれました」

東京国際プロジェクションマッピングアワード公式写真より抜粋



そして、準グランプリの発表。グランプリ作品とは異なって、審査会では非常に意見が分かれたのですが……結果は、多摩美術大学の「テクノ家」が受賞!(作品動画はコチラ

東京国際プロジェクションマッピングアワード公式写真より抜粋



リーダーのでんすけ28号さん。渋み。


彼らの作品はすごく面白かった。面白かったのですが……

審査員の森内さんは受賞コメントに、こう加えました。

「君たちが、プロジェクションマッピングらしい表現をしているのか? 東京ビッグサイトの形を活かしているのか? という点では、審査会でも、議論になりました。でも、ストーリーに意外性があって、見飽きなかったんです。個人的な思いとしては、エンタメやクリエイティブというものは、人と異なることをやること。お客さんの予想と異なるものを見せて、そのギャップで、喜んでもらうことが一番です。工事現場から宇宙に飛躍する、という君たちのストーリーには大きなギャップがあって、それが響いたんだと思います。おめでとう!」

多摩美の4年生2人きりの、チーム「テクノ家」。約3ヶ月の制作記間で、卒業制作も単位の取得も並行しながら、みっちりと細部までCGアニメーションを仕上げてきた仕事量も評価に繋がりました。

東京国際プロジェクションマッピングアワード公式写真より抜粋



でんすけ28号くんと、持田寛太くん。

「本気出さないとヤバいんじゃないかと思って、本気出しました」「従来のプロジェクションマッピングとはずらしていきたいと話していて。BGMも、音楽に流されてしまうことが多いと感じたから、環境音とかを自分たちで録音していきました」

…とのこと。そんな実験精神の塊のような二人はこの春、多摩美を卒業してフリーランスのアーティストに。CGや映像、広告はもちろん、インタラクティブアートの世界で活動していきたいとのこと。彼らの今後に期待です!!

スプツニ子!さんは、彼らの作品をこう評価していました。

「テクノ家の作品は『今見たのは何だったんだ?』と思わされましたよ。良い意味で期待を裏切られましたし、私は、好きですね(笑)」

東京国際プロジェクションマッピングアワード公式写真より抜粋



「学生さんには、優等生になるよりももっと、『こんな失敗作見たことない!』って言われるくらいの作品にチャレンジして欲しいです。だって、仕事として納品する訳じゃないんだし、失敗ができる年齢で、立場じゃないですか。いや私も、『すごい傑作できたな〜』と思ったときほど『とんだ失敗作だ!』って色んな人に言われたりする。そんな時は『よし良く出来た!』って思うんですよ(笑)」

そんなインタビューの全編はこちらの映像でご覧いただけます。待ったなしのインタビュー戦は、何よりも私の脳みそが疲れたのですが、それぞれの審査員陣からの愛あるコメントが面白い!


▼審査員編はコチラ



▼受賞者編はコチラ






■果たして、プロジェクションマッピングはオワコンなのか?

すっかり長くなったところで、最初の議題に戻るとしましょう。

プロジェクションマッピングは、本当にオワコンなのか? という問いについて。学芸員の森山さんはこう語ってくれました。

東京国際プロジェクションマッピングアワード公式写真より抜粋



「大衆のものだと言われていた浮世絵だって、芸術になった瞬間があるわけですよね。VRも、3Dも、ARも、そしてプロジェクションマッピングも。真に人々のものになる(=大衆化する)というのは、今日のような試みを通じてだと思うんです。

日本には写し絵という、世界でも例のない伝統文化があります。江戸では風呂と呼ばれていて上方では錦影絵と呼ばれていました。今日参加された学生さんは、写し絵の伝統を新しい技術で表現して、さらに継承していく機会を手にしているんです」

東京国際プロジェクションマッピングアワード公式写真より抜粋



カラフルな光の動きと、音楽やナレーションを伴ったエンターテインメントは、すでに江戸時代から始まっていたのです。俯瞰して見つめると、それが時代の変化に伴って巨大化したものの1つが、プロジェクションマッピングである……とも言えるかもしれません。


そう考えると、まだまだ、全然やり尽くされていない!


やれ終わった、やれ始まった、と論じることすら恥ずかしく思えてきてしまいました。無声映画が流行った1920年頃に「映画は大衆化してもうオワコンだ!」なんて言っていれば、それこそ、今の映画産業をどう捉えるのでしょう。



プロジェクションマッピングという手法で表現しうる物語も、伝えうるメッセージも何百万の可能性を秘めているし、なんなら、上映形式そのものを進化させていくことだって出来るんです。オワコンだなんてうがった見方をしてないで、大きな大きな可能性に挑戦して、「とんだ失敗作だ!」と酷評されるほうがずっと、ずっと意味のあることです。


あなたなら、縦28メートル、横96メートルのキャンバスに何を描くでしょう?


Text by 塩谷舞(@ciotan


・次回の東京国際プロジェクションマッピングアワードの募集開始はこちらのFacebookページからお知らせします。

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OTONA WRITER

塩谷 舞 / ciotan

フリーランスのPRプランナー、Web編集者です。大学時代に関西の美大生をつなぐネットワーク「SHAKE ART!」を立ち上げ、イベント企画、フリーペーパー発行、何でもやっていました。アートギャラリーDMO ARTSでの販売員も。株式会社CINRAでのWebディレクター・PRを経て、フリーランスに。THE BAKE MAGAZINE編集長もやってます。インターネットが大好き。