本文へ入る前に、「芸大」という言葉の定義をおさらいしときましょ。
■【4つの芸大】神戸芸術工科大学SD研修をやってきた2
私は「東京藝術大学」の略称として「藝大」を使い、美大や音大含めた芸術系大学全般のことは「芸術系大学」を使うようにしてます。紛らわしいので「芸大」はできるだけ使わないようにしてまして。
Aさん「おれ高3で、絵の勉強してないけど今から芸大受かるかな?」
Bさん「アホか。受かるわけないだろ!」
Aさん「??」
Bさん「???」
と、無駄なやり取りがいまだにネット上で行われてますが、Aさんはおそらく「地方の私立芸術系大学=芸大」、Bさんは「日本唯一の国立芸術大学で最高峰の東京藝術大学=藝大」を語ってる違いによるものです。「子どもが芸大に行きたいと言い出した」という質問もよく見かけますが、それが藝大なのか、芸術系大学なのか(音楽かもしれない)、美大なのか、はっきりしないんですね。世の中で「芸大」「美大」という言葉があまり使われていない、使い慣れてない証拠でもあるのだけど。
さて、では本文に。
1月中旬、こういう話題でネットは盛り上がってたんです。
■芸大・美大生が卒業後に本業として絵を描かなくなる6つの理由
■芸大・美大生の芸術系の学生の卒業後は厳しいみたい - ユーリオニッキ
■子どもが芸大・美大に行きたいと言ったら止めてはいけない - MIKINOTE
■【芸術系出身者の挫折】承認要求を満たしたいだけで、好きと誤解 - スネップ仙人が毒吐くよ
■美大に行けなかった話 - セルフカウンセリング的独白
■アートで食っていくのが大変なのは日本の文化にアートが根付いていないからでしょ - isLog [イズログ]
これらの「芸大」はもちろん「芸術系大学」のことです。
また時期は違うけど、PARTNERでも
■ドイツの美大が教えること、日本の美大で教えないこと
で、ドイツと日本の美大の違いが書かれてましたね。
どれも美大OBとして共感できる部分が多いんだけど、どれも大事な部分がスコンと抜けてる印象があって。
「その話、手羽の大好物です!!」と早く絡みたかったけど、1月中旬は卒展シリーズの真っ最中だったり、少しためらいがあったり、願書募集中に書いたら「受験生集めに必死だなww」と言われそうで、このタイミングになってしまった、と。
皆さんの議論で抜けてる部分は何かというと、
「それ、15年前以上の藝大・美大の体験やイメージじゃないっすか?」
ということ。
「藝大の倍率は30倍とか40倍とかで合格するには4浪、5浪当たり前」
「入試に必要なデッサンテクニックを美術予備校で教わる。あんなの意味がない」
「作家になることを最優先。就職は一切すすめないし就職できない」
「教員は何も指導しない」
「石膏デッサンばかりやらせる」
などなど、特に20年前ぐらいの藝大のイメージで「今の美大」を語ってるケースが多く。
えーと、私の学生時代は・・・まだその匂いが全然ありました(笑)
ファインアート系だと少しその風潮も残ってるかもしれません。
でも、そういう時代でもないし、むしろ今の日本の美大って実はグルっと回って、1周遅れのトップランナーかもしれないよ?というのがこれから数回に分けて書きたいと思ってることです。
あ、藝大・ムサタマがベースになってることをご了承ください。地方の美大だとまた状況は違うかと思います。
今日は導入編ということで、「15年前とは全然状況が違ってる。もうそういう時代でもないんすよ」というのをわかってもらうための話を。昔とは違う美大の活動や就職指導など具体例も出せますが、そんなことは大学の公式サイトを見てもらえばよく、手羽らしいアプローチで。
私立美大がWEBに出してる「志願者数」は、他学科やセンター試験等の併願・併用者も含めた「延べ人数」なので、「何人が出願したのか?」のいわゆる「実人数」ではありません。センター試験を導入するだけで「見た目志願者数」があがることはよくあるし、一般入試の定員を推薦などに振り返ることで去年より倍率も高く見せることもできます。でも、その実人数はどの大学も公表してません(あるデータを加工すればある程度わかるけど)
また、ムサビとタマビは併願してる人も多いけど、「タマグラが第1希望だけどタマグラ落ちてムサビのデ情に受かった場合、浪人するかデ情に行くか?」などの「歩留まり」も関係してくるんで、この記事で
■東京4美大2016年度入試の志願者数確定しました
「参考程度に」と書いてたのはそういうことです。私たちも参考にはするけど、この数字だけで美大状況分析をしたりはしません。
でも、東京藝術大学は他学科併願がないから、「志願者数=実人数」という解釈ができます。なおかつブランド力があり、歩留まり率が日本で一番高い(東大・京大より)のも東京藝大。
「美術系」って大学受験業界から見るとすんごい小さなマーケットなので、業者さんもちゃんとしたデータを取ってなく、多くは「芸術系」で括られたり、場合によっては「スポーツ・芸術・その他」だったりするんですよ。ひどい時は「芸術系は除く」ですが(涙)
だから、芸大美術学部志願者数は「日本の美大志願者指数」として使えるありがたいデータなんですね。
というわけで、「東京藝術大学美術学部の志願者数推移」を作ってみました。
2001年から2015年度、過去15年間の推移です。
えーと、手羽が15年間メモった数字を使ってるんで、実は根拠資料は過去5年分ぐらいしか手元にありません。間違ってたらズバっと指摘してください・・・。
わかりやすくするために、同じデータを使って2001年を100とした場合の推移も使ってみました。
そうなんです。15年で芸大さんの志願者が40%になってるんです。
「40%減った」じゃないっすよ。「40%になった」です。
この事実を知らない人が多く。美大関係者でも知らない人がいるぐらいで。
いや、知ったとしても、どうしても「自分の頃の藝大フィルター」「天下の藝大フィルター」がかかってしまい、「倍率50倍」「4浪、5浪当たり前」なんてことがもっともらしくいまだに語られているのが現状なんですね。
去年の藝大さんの数字見てくださいよ。
■東京藝術大学平成27年度 学部一般入試 ・ 別科志願者状況(平成27年2月13日確定)
「え?え?いつからこんな数字になってたの?!」と腰が抜けますよ。
この数字からいろいろ語れますが、さっき「藝大美術学部志願者数は日本の美大志願者指数」と書きましたよね。
ムサビもタマビも、そして他の多くの美大さんもこの下降曲線に当てはまるはず。
「受験で点数の高い人を上から取って、大学のクオリティを確保する」というやり方は受験生がいっぱいいた時代には成立してたんですが、これだけ減ると倍率によるクオリティコントロールがもう効かない時代に入ります。18歳人口のラインより志願者が減ってる芸術系大学は特に。
だから、「昔の教育のままではやばいよね」となるのは当然のことで、様々な改革を藝大さんもやってるし、それはムサタマも同様。15年前とは置かれてる状況が違うんだから、そりゃ変わりますよ、と。
普通に考えたら、変わらないと変でしょ?と。
今の学生さんからすればまだまだだろうし、企業のようにサクっと変わることも大学ではあまりないのだけど。
今年の東京4美大志願者数を見ると、全体的にファイン系の志願者はデザイン系よりも下降傾向が強くなってます。特に日本画が顕著に表れてますね。
原因は「ファイン離れ」というのも考えられるけど、日本画だと恐らく藝大第1希望の子が多く、「1浪したんで一応保険で私立も受けとくか」という流れだったのが、「今の藝大志願者数だと1浪すれば入れる」という発想から、1浪ぐらいじゃ私立美大を受けなくなってきたんじゃないか・・・という分析もありまして。
例年2月12日頃に藝大志願者数確定版が発表されるんで、その数字がどうなっているのか、これは注目しといた方がいいです。
次回は「美大の学びとはなにか?」という話を。
以上、この数字を見ると、手羽がずっと訴えてる「中長期的に見ると、こんなに減ってるのに他美大の受験生をいかに横取りするかとか、ムサだタマだとやってる場合じゃなく、美大が協力しあわないと本気でヤバイっすよ」てのがわかってもらえるんじゃないかと思ってる手羽がお送りいたしました。
【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。