コラムニストの憂鬱その6「栗ちゃんと僕〜イチ〜」

西部劇でよく見る早打ちの決闘シーン。二人の男が向かい合い、生死をかけた勝負。これに近いことが今の日本でわりと行われている。 駅の自動改札機。多くは入場者用、退出者用と区分されているが、時折IC専用で入退場どちらも可能な改札機がある。そこに、入場者と退場者が同じタイミングで出会わせたら決闘開始。どちらが早くポケットからPASMOを出しタッチするかの早打ち勝負。 今回、書くコラムの内容には全く関係ない。西部劇みたいな早打ち勝負に似たことが現在日本でもあるということを、どーしても伝えたかったのである。

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基本的にヒマである。ヒマ人は自由人かと考えるだろう。

それは違う。

ヒマ人こそ真の意味で忙しい。
ヒマを潰すことに多忙を極めるからだ。
多くの余りに余った時間をいかに楽しめるかを競うのである。
誰と競うか、自分自身だ! JUST DO IT.

金曜日の夜、友人と高田馬場で飲む約束をしていた。
時間よりも少し早めについてしまったので、
ロータリーでタバコを吸っていた。
ココは、正に早稲田生による地獄絵図。
大げさな表現ではなく、本当に大学生が大量に転がっている。
それも男女関係なしに。
泥酔状態でないヤツの方が圧倒的マイノリティ。
皆、酔って大はしゃぎしている。
公共の場所にあるクラブみたい。正にスーパーフリー。
「で、彼らは一体ナニをしているか?」
毎度、通りがかるたびに気になっていた。
ヒマ潰しに聞いてみた。

グルグルと回遊魚のように、
ロータリーを回る。
案外、オラついてるヤツが多く話を聞く事はできない。
弱そうなヤツがいないか必死で探すがなかなか見当たらない。
弱そうなヤツを諦め、
良いヤツそーな人を探す。

いた!

僕「もしもし」
早稲田「はい」
僕「君たちは一体ナニしているの?」
早稲田「いや、ナニもしてないです」
僕「じゃ、他の奴らはナニしてるの?」
早稲田「いや、ただいるだけだと思いますよ」
彼も結局はヒマを潰していることが分かった。

話しかけた早稲田の社会学部に通うY君も広告研究会の一員として、
ココでナニもしていないらしい。

僕「中島信也さんって知ってます」
Y「知ってますよ。広告業界の超有名人じゃないですか」
僕「オレ知り合いだよ」
一応、自慢をしておいた。
Y君と少し話し別れた。

丁度、友人がついたので一緒に回遊することにした。
その頃には、夜も深まっていたので各グループもお開きといったタイミング。
各所で「紺碧の空」が聞こえてくる。
早稲田生は会を締めるときに一本締めでも三本締めでもなく、
応援歌「紺碧の空」を歌うのだ。
その時、一緒にいた友人も早稲田出身だったので一緒に歌っていた。
そういった文化は、門外漢の僕にとっては気持ち悪い。

愛校精神MAX。

終電も終わり、ロータリーも閑散とするとスケボーの時間となる。
スケボーびゅんびゅんと通る中、
空気を読まずロータリーの中心で座組みしている軍団がいた。
そいつらは神妙な面持ちで何かを話していた。
男たちが集まり、真剣に話すなんて限られている。
そう、性についてだ。
その中でも人気ジャンル『童貞』について、しゃべり場していた。
この手の話には無類の強さを見せる僕と友人は、
しれっとその座組みに混じった。
大学生相手に無駄に熱く語った。
気分も良くなった僕は調子に乗り
「よし、おごってやるから、飲み行こうぜ」
と連中を誘った。

鳥貴族って、貴族は行かない。
鳥貴族でワイワイと二時間ぐらい飲み、
その頃になると、結構大所帯だった軍団もポツポツと減り、
僕と友人と二人の早稲田生が残った。
まだ飲みたそうだったので友人宅に移動、
友人の家で飲みなおすことになった。

飲み直し、ワイワイとやりつつ朝を迎えた。
始発も動いているので解散の運びとなる。
けど、大きな喧騒のあとに一人で事務所に戻るのが寂しい。
僕は、一人の早稲田生に「ヒマならうち来る?」と誘った。
彼は「ハイ」と即答。

西武線で高田馬場から鷺宮へ。

駅に到着する頃には、
酔いも覚めてきて段々と通常状態に戻りつつあった。
徒歩で事務所に帰った頃に完全にシラフ状態。
自分で誘っておきながら、
ほぼ見ず知らずの男が事務所にいる状況を不思議に感じた。
「なんで、君いるの?」と聞いた。
彼は、「ヨシムラさんが呼んだんですよ」と
当たりまえの回答をした。

彼の名前は栗林、通称・栗ちゃん。
この男との奇妙な交流はここから始まった。

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OTONA WRITER

ヨシムラヒロム / Hiromu Yoshimura

中野区観光大使やっています。最近、29歳になりました!趣味は読書です。