美大受験生の疑問にお答えする恒例の「#美大受験」シリーズをお送りしてます。
#美大受験では、ムサビまたは関東美大の一般選抜を具体例で使ってますが、基本的にはどの美大受験にも参考になるはずです。
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■東京五美大2023入試カレンダーからわかるたった1つのアドバイス
■ムサビの実技試験で絶対に忘れちゃいけないものを1つ断言します
*間違った情報を書いている可能性もあるので、募集要項等大学公式情報で必ずご確認ください。
今日からムサビ入試、明日からタマビ入試と、いよいよ東京の美大入試も本格化していきます。
今日は美大入試の最大の特徴である「実技試験」についていよいよ書いていきましょ。
「鉛筆は削って持っていけ」「〇〇がある方がいい」とかは他の方に任せて、手羽からの今からでも全然間に合う直前アドバイスはたったひとつだけです。
問題文をちゃんと読もう。
はい、終了!おつかれさまー。ここにあるロータスビスケット食べてもいい?
・・え?「それって学科試験のアドバイスじゃないの?!」ですって?
とんでもない。これほど実技試験で超実用的で、即効力があり、簡単に得点を稼げる方法は他にないんですよ。
これには2つの意味があります。
一つ目はそのまま、「『条件』も含めて問題文」という意味。
例えば例年、タマビのグラフィックデザインやムサビ視覚伝達デザイン学科等の試験問題は「条件」「設定」が多く書かれてます。これをよく読んでないと痛い目を見ることがあるんですよ。
去年の視覚伝達デザイン学科「デザイン」を例にしましょう。
去年の出題は「記憶の中でもっとも印象深い音の体験を、与えられたモチーフ『SOUND』を使って色彩構成」「プラス20字以内で、どのような音・感覚・情景等を表現したかを記入」でした。
・・しかし、これを構想・下書き含め3時間でやらなくちゃいけないってすごいですよね。実技力だけじゃなく出題者の意図を読み取る読解力も必要な、さすが視デというか、美大の実技入試ってすごいなあとつくづく思います。
で、去年は条件の中に「答案用紙は縦横自由」とありますが、年によって「答案用紙は横長で使用すること」だったりするんです。一昨年はそうで、これを読み飛ばして縦位置で描くと・・というわけ。
これが「問題文をちゃんと読もう」のひとつめの意味です。
また、ムサビ視デは条件に書いてあるとおり、塗っていない余白は「白色」扱いされますが、タマビグラフィックや工デ「デザイン」は余白を白く塗らないと「未完成」とみなされれます。同じような試験なのに微妙に「白」の扱いが違うので、これも「ちゃんと試験問題を読まないとダメ」のいい例ですね(「去年の入試は」です。今年はどうなるかもちろんわかりません)
ちなみにムサビ実技試験でよくあるのが問題文の条件に「画面の裏面に上を示す矢印を描きなさい」と書いてあるケースで、
上記視デ「デザイン」の条件にも入ってます。
いわゆる「天地矢印」ってやつですが、備考ではなく「出題条件」にある以上、矢印を書いてなかったら減点対象の「課題違反」になる可能性があります。
「条件」に書かれてる以上、問題文の一つなんです。
「問題文の『条件』をよく読む」とはそういうことでもあり、実力で点が低いのはあきらめがつくけど、こんなことで減点されるのってもったいないし、悔しいですよね。
「問題文をちゃんと読もう」の意味の2つ目を説明する前に、まずこの単語を解説しないといけません。
「モチーフ」という言葉です。
美大受験用語としての「モチーフ」は主に2つの意味があります。
1つ目は「絵や彫刻で再現される観察される対象」。皆さんがイメージする「モチーフ」はこれじゃないかしら。これを仮に「モチーフA」とします。
2つ目が「題材や動機」という意味で、違う単語だと「テーマ」「きっかけ」。あくまでもそこに存在するのは「きっかけ」であり、そこからどう発想を展開させたかを見るもの。これを仮に「モチーフB」としましょう。
で、去年の工芸工業デザイン学科「デッサン」をご覧ください。
「目の前にあるものをじっくり観察して、どれくらい忠実に描けるか」を問うオーソドックスな問題で、多くの方になじみのある、すぐに想像できる美大入試らしい「モチーフ」といえます。
つまりこれは「モチーフA」パターン。
次に去年の油絵専攻の油絵試験をご覧ください。
問題文はたった1行「モチーフを自由に描きなさい」。
でも、この「自由に」がクセモノで。
目の前に静物が組まれてるからつい 「見たまま」を描いてしまいそうですが、「自由に」から「目の前のものは『きっかけ』でしかなく、その空間やそこで起きてる現象や印象を自分なりに整理し解釈し発展させ、それを自分なりに再構成して自由に表現しろってことだな」と読み取らないといけないんです。つまり「モチーフB」パターン。
出題意図にも「基本的な観察力や表現力に加え(中略)自己の感覚を土台にしてどのように表現を組み立てようとしたか」と書いてあり、この「自由に」を読み飛ばしてしまうと、たったそれだけなのに出題意図から離れてしまい、点数が下がる、と。
参考作品を見ればこの意味がわかるはずで、よくもまあ、同じモチーフであれだけのアイデアが思いつくもんで、つくづく「自分にはこの才能はないあなあ」とがっかりしちゃいます・・。
というわけで、「問題文をちゃんと読もう」の2つめの意味は「問題文に隠されたヒントを探し、そこから自分なりに発想を広げよう。」。
「問題文をちゃんと読もう」を言い換えると、一つ目は「趣旨から離れないため」であり、二つ目は「どこまで離れられるかを探るため」です。
ちなみに逆にどうにでも取れる問題文はどう解釈してもいいと言われてます。
去年の空間演出デザイン学科「デザイン」の出題はこうだったんですが、
出題者は拡大鏡の特徴をほんとに自由に解釈して描いてほしかったんじゃないかと個人的には思ったりしてます。
「配布したモチーフを加工するな」と書いてなければ、折ろうが曲げようが自由で、むしろ出題者の想定を超える作品を作ってほしい、という意図があるはずだから、そういう時はふりきっておもいっきりやっちゃってください。・・責任は取りませんが(ぼそっ)
美大の実技入試はこう考えた方がいいです。
「最初の課題」
「教員からのメッセージ」
実技入試は「この出題をあなたはどう解釈し、表現しますか? → 私たちはそれを理解できる(超える)、それを表現できる人材が欲しいんです → そういう人のためのカリキュラムを用意してます」なメッセージが込められていて、そのまま3つのポリシー(アドミッション・カリキュラム・ディプロマ)になってるんですね。
相談会で「タマグラとムサビ視デの違いは?」とよく聞かれるけど、実は学科の理念の違いが一番手っ取り早くわかるのが実技試験なのです。
よく美大受験漫画で「実技試験を楽しもうゼ!俺たちの旅はこれからだ!」と言ってるシーンがありますが、教員からの最初の(答えのない)クイズに答えるつもりで楽しんだ方がいい、と手羽も思っています。
その(答えのない)クイズをちゃんと答えるためには、問題文をちゃんと読まないとダメだよね?ということ。
ちなみにムサビでは学科試験は「解答用紙」、実技試験は「回答用紙」と言葉を使い分けています。
美大入試のポイントがわかって、これを知るだけで面白くなるでしょ?
【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。