「人生は直線ではなくて曲線よ」写真から彫刻に寄り道した大学時代
父がフォトグラファーということもあり、気づけば私は9歳頃からカメラを持って毎日生活を送ってた。週末に父とサンティアゴ市内に出かける時もカメラを首からぶらさげて。
毎日の生活の中で写真を撮ることはとても自然なことだったの。
父の背中を追ってフォトグラファーになるために、夢と情熱を持ってチリ大学の写真学部に進学した。だけど大学に入学してしばらくした頃、それまで写真のことしか考えてこなかった自分がいることに気づいたの。そして「今は写真だけを学ぶべきでない」って一度立ち止まった。なぜだかわからないけど、「今は違う。今は写真じゃない」って当時の自分が言ったの。心の赴くままに写真から身を離すことは、私にとって大きな決断だったわ。
そこで、他のジャンルを学ぼうと、今まで触れたことがなかった「彫刻」の勉強を始めた。
写真の授業で今まで優等生だった私が、彫刻の授業では劣等生!写真はズボンを履くように何も考えずに自然体に撮ってこれたけれど、彫刻はそうもいかずに表現することがとても難しかった。
けれど、その世界に踏み込んだからこそ得られた面白い経験ができた。彫刻を通して、写真とは違う構図を考えたりする“ものを見る目”が養えたと思うの。
いつか母に言われたことがあったけれど「人生は直線ではなくて曲線よ」って。
人生には障害物がいつもあって、それを乗り越えるたびに人は成長する。だから人生って面白いの。
食べていけなくなったとき、2日間夢中で撮ったパタゴニアの写真
チリにはフォトグラファーの需要が小さくて、大学で写真を学んだ学生を含めても、フォトグラファーの道に進めたのは私1人くらいだった。はじめは航空会社やメーカーから依頼された仕事をしていたけれど、正直食べていけないんじゃないか…っていうくらい生計が厳しかった時もあった。
2012年、道を切り開いてくれたのはパタゴニアに住んでいる友人の一言だった。
「パタゴニアに写真を撮りに来ないか」って。
私の生活が本当に厳しいことを知っていたから、航空券まで用意してくれて…。それは千載一遇のチャンスだった。私はすぐにパタゴニアに向かって、2日間の滞在だったけれど夢中で写真を撮った。
このパタゴニアの写真がのちに数々のギャラリーに認められて、自分の代表作になったの。
「本当に人生何があるかわからない。今までやってきたことに意味のないことはない」って身をもって感じたわ。
“感じたこと”は“考えたこと”よりも「本物」
私は写真を通して、見ている人と「会話」ができると思うの。言語が違ったとしても電話で話をするように気持ちのやり取りができる。それが写真。
被写体となるものは世界に何万と数えられないほど沢山あるけれど、それを見るのは私ただ一人。その時の私の魂がどう感じたか、そして私が感じた偽ることができない「真実」を写真は人に伝える。
私は “感じたこと”は“考えたこと”よりも「本物」だと思っているわ。理論を超えたものが写真にはある。
写真は心の内側の思いを外に引き出すことを助けることができると思う。フォトグラファーとしてまだまだ道の途中だけれど、これからも自分の感じたことに正直に挑戦していきたい。
María Paz Mellado
マリア・パス・メジャード
1959年チリ生まれ。チリ大学で写真と彫刻を学び、同大学で教鞭をとる。国内で多くの賞を受賞し、今までに開催した展示会は数え切れない。
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執筆:ebichileco
撮影・インタビュー協力:natsumiueno
ebichileco(えびちりこ) 一般社団法人TEKITO DESIGN Lab 代表理事/クリエイティブデザイナー 立教大学社会学部を卒業後、商社系IT企業勤務。2015年チリに移住し、デザイナー活動を開始。「社会課題をデザインの力で創造的に解決させる」を軸に、 行政・企業・個人など様々なパートナーと組みながら、事業を展開している。